嘘つきは私かもしれない

koyumi

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第5話

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 まず、先程の先頭きって話しかけてくれた人が、執事の土方さん。
 そして運転手の陣内さん。
 私の教育係の毛利悦子さん、身の回りを担当する近重さん、武田さん、
 この5人は絶対に別館から離れないからお見知り置きを、と言われた。

 名前を覚えるのは苦じゃないけど、なんだか歴史上の人物の名前を覚えるみたいで、どうしても背景にそのイメージがついてしまう。

(まぁ、いっか。早く覚えられるなら。)

 近重さんはよくわからないが、なんとなく京都を背景にイメージして覚えた。

 まず、玄関を抜けて正面に階段があり、左手にリビング、ダイニング、キッチン、右手に従者控え室、トイレ、浴室がある。どこもピカピカで、玄関開けてすぐ高い天井にぶら下がるシャンデリアの豪華さに金持ちを思い知らされる。
 リビングにあるソファは中世的で、テーブルも飾り棚も絵画も西洋化してすぐの時代のようだ。
 ダイニングテーブルは広く、まるで社長ばかりの会議でも行われそうな雰囲気である。キッチンにある冷蔵庫は明らかに業務用で、温度管理が厳しいらしい。
(こんな場所で暮らすなんて……) 
 トホホ…って感じだ。

 すでにいっぱいいっぱいなのに、次は2階に行かなくてはならない。
 こうなると、きっとベッドなんかも天蓋付きのお姫様仕様なんだろう。

 そういうば、今の今まで土足だった。誰も注意しないし、よく見れば皆靴を履き替えていない。
 欧米だな。

「こちらが坊っちゃまご夫婦のお部屋でございます。」

 いかにも重厚なドアが開くと、そこは意外にもリゾート感溢れていた。
 観葉植物が大きく育ち、光に満たされた部屋は、キャメル色の革製ソファがL字型で配置され、薄型のどデカイテレビが壁面と一体化されている。
 ローライフのような雰囲気は、バーチカルブラインドから覗く遠く自然溢れる景色とマッチングしている。

「素敵……」

「それはようございました。坊っちゃまがコーディネートされましたので、若奥様がお気に入りになったことはご報告させていただきます。」

「はぁ、そうですか……坊っちゃまが…。」 

 アイランドキッチンも備えてあり、1階のキッチンとは違い、オール白で揃えてある家電は、ニューモデルのオシャレ感ばっちりのものだ。

「こちらのキッチンは、坊っちゃまきってのご所望品で、若奥様の御手料理にご期待されているようです。」

「手料理!?わ、忘れてた……」

「はい?」

「い、いえ、こちらの事情でございます。」

 手料理!!
 そっか、結婚したんだから、私がご飯係なんだ。仕事も辞めたし、専業主婦だもんね。
 やばいなぁ。私が料理……かぁ。

 入籍した日、私は仕事を退職した。
 とはいえ、派遣社員として7年いろんな会社を転々としていた私は、今の会社は早めに切り上げたいと思っていた。
 理由は年齢だ。
 私の上司にあたる女性は年下。凛としていて、当たりがキツい。そのくせ男性の前ではブリブリで、見ていて気分が悪くなる女だった。
 明らかにこちらをバカにしている態度に、早く去りたいと願っていた。



「そしてこちらにはもちろんトイレ、浴室がついております。あと、あちらの扉をお開けになってください。あちらは私どもは立ち入り禁止と言われております故……」

「はあ、こちらですよね?えーと、引き戸、よね。」

 そーっと。

「…………」

 なんだ?いわゆるただの和室じゃないか。でも、にー、しー、ろー、8!8畳もある。
 ただ、本当に畳だけしかない。

 気になって、押入れと思われる襖を開けてみた。
 中はお布団でいっぱいだ。下が敷布団。上が掛布団といったとこか。
 高い位置に長い窓があり、両サイドだけ開く構造だ。
 それにしても……

「うーん、なんだか安心する。落ち着くなぁ、畳の香り。」

 ゴロゴロしたい気持ちを抑え、私はこの部屋をあとにした。

「お次は若奥様のお部屋でございます。」

「私の!?」

「はい。若奥様のインテリアは、こちらに控える毛利が若奥様のご両親と一緒にコーディネートさせていただきました。もし、お気に召さなければ速攻で替えさせていただきますので、なんなりとお申し付けください。」

 土方さんがそう言うと、斜め後ろにいる髪の毛をキュッと上にあげているスレンダー美人の毛利さんが頭を下げた。
 なので、私も慌てて頭を下げた。

 その時、そこにいる従者の方達が皆、ハッとしたことに気づき、
(もしかして、礼の仕方がおかしかったのかしら。毛利さんみたいに綺麗にできないし)
と、申し訳なく思った。

 壁の色とさほど変わらない白木だが厚みのあるドアが開かれると、そこには予想どおり、天蓋付きのベッドがあった。
 ただ、ピンクでフリフリしたものじゃなく、やはり、どこぞのリゾートかを連想させるアジアンテイストに溢れていた。

「若奥様は、南国がお好きだと聞きました故、このようなインテリアにさせていただきましたが如何でしょうか。」

 ラタン素材で骨組みされたソファにテーブル、鏡台、そして至る所にある観葉植物がいつか行った南の島を思い出させる。
 ウォルナットよりも少し薄めの床材は、冬はキリムなんかも似合いそうでテンションがあがる。

「こちらのカバー類は全てリネン素材を使用し、ナチュラルな雰囲気にしております。」

「うん、うん、すごいです!素敵です!わぁーっ!エバーフレッシュ、私、枯らしちゃったんですよ。だから、今回は元気な姿を維持できるように頑張らなきゃ。」

 あまりにも私の好みにぴったりハマっていたため、私はテンションが上がり、いろんな引き出しを開けたり、ベッドに座ってみたり、年柄にもなくはしゃいでしまった。

「こんなに喜んでいただけると、嬉しゅうございます。が、かえって恐縮してしまいます。あちらには若奥様専用のトイレ、バスがございますので、ご自由にご使用ください。では、一旦下がりますので、ごゆっくりお過ごしくださいませ。」

 土方さんは恭しくそう言うと、従者達を引き連れて部屋を出て行った。

「えっ……あ、はい。わかりました。」

 なんだか責められた?
 よくわからないけれど、笑ってたからまあいっか。

 皆さんが出て行くと、急に周りが静かになった。
 しーん、とした室内がやけに空しい。
 この部屋、何畳あるんだろ?16畳くらいかな?いや、18畳?20畳?もうわからないや。

 それにしても、この屋敷で死ぬまで過ごすのかと思うと窮屈感極まりない。
 いや、広いよ。とてつもなく広いよ。
 でも、自由ってものが、ありそうでないような気がする。

 しばしベッドに座り、ぼーっとしていると、私はいつの間にか眠っていたようだ。


「おい、起きろっ!ヘンテコ野郎!」

「いったっ!」

 いきなりほっぺに痛みを感じ、感じ悪い男の声がして目を開いた。

 ぼんやりと見える姿に、あの時の怖ツラの人達が私を捕らえに来たのかと思い、

「ギャアアアアアアッ!!!」

と、叫んでしまった。

「っな、バ、バカ野郎!静かにしろっ!」

 私は男に口を押さえられ、「モグモグ」といった声しか出せなくなった。
 そして、えいっ!と、隙をついてその男の手を噛んだ瞬間、

「どうなさいましたっ!坊っちゃま!若奥様!」

と、ドアの向こうから土方さんの声がし、私はあっけに取られた。

「ぐっ!お、お前~~~!」

 私の歯型がついた手を押さえ、悶絶する男。
 紺のスーツを纏った長身の体を折り曲げ、キッとこちらを睨みつけた男。

「旦那に噛み付くとはいい度胸だなっ!若奥さんよっ」

 吸い込まれそうなほど、超絶イケメンの男は、私の旦那であった。


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