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第7話
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毛利さん、近重さん、武田さんの手によって、私の姿が変わっていく。
それはもう見事な手さばきで。
サイズなんて測られた覚えはないのに、クローゼットに並ぶ大量の綺麗な服は、どれも私にピッタリだ。
その中で今夜選ばれたのは、
「ふん、俺とお揃いとは、いい度胸だな。」
そう、夫のタイとお揃いの紺色ベースの水玉模様で構成されたワンピースだ。
「若奥様は、寒色系のお色もよくお似合いでございますね。」
「ほんと、お二人が並ぶと舞台のようですわ。」
褒め言葉かどうかわからないが、笑顔で言われているから良しとしよう。
それにしても、まるでこちらが真似したようで、なんだかこそばゆい。
「行くぞっ。会長がお待ちだ。」
「会長……」
「……俺の父親だ。それくらい想像しておさめてくれ。」
「……ケチ。」
「っ!なっ、なっ、ケチだと?!」
「坊っちゃま!今は抑えてください。会長のお耳に入ります故。」
「…………後で覚えておけよ。」
ふんっ、もうここまでバカにされてるなら開き直るわよ。
別に好かれようなんて思っていないし、私はただ実家が助かればいいだけだし、この結婚に、愛だの情だの求めないんだからっ。
私は夫から受けた尖った視線を、プイッと逸らしてやった。
キリッ
かすかに誰かの歯が鳴る音が聞こえた。
☆☆☆
本館まではぞろぞろと従者の皆さんを引き連れ、歩いて行った。
その間に、道中見える木々や東屋などの説明を毛利さんから受け、まるでどこかの会社の偵察にきたような気分になった。
しかし、広い。
本当に広い。
よくもまあここまで広い土地を得られたものだなと感心する。
どう考えても私には合わない。
分不相応。
「ご夕食を本館で召し上がるのは、何か行事があった時のみでございます。通常は、別館にてお食事いただく事になっております。」
「そうなんですか?家族なのに、同じ敷地内にいても食事は別々なんて、なんだか少し寂しいですね。」
「…………」
何やらまた可笑しなことを口走ってしまったのか?夫を先頭に、従者の方々も皆黙ってしまった。
居心地の悪い中、本館の門が見え、そこに並ぶ人の多さに圧倒されてしまった。
「一体どれだけの人がこの屋敷にいるんですか??」
全くもって素直な感想だ。
それなのに、
「変なことばかり言ってないで、その口を閉じろ。お喋りな女が妻だと思われるのは勘弁してくれ。」
と、また皮肉を言われた。
きいーーーっ!!!!
誰も周りにいなかったら、その頭、ボサボサにして間抜け面にしてやるのに!
☆☆☆
「坊っちゃまご夫婦のご到着でございます。」
本館の前に来ると、土方さんが先方のトップらしき人にそう告げた。
「ようこそ本館へお越しくださいました。どうぞ、今宵はごゆるりとお過ごしくださいませ。」
「お過ごしくださいませ」
出た、シュプレヒコール!!
どこかで練習でもしているんだろうか。一度拝見したいものだ。
しかし、別館は20人くらいの従者の数だが、本館はその倍いそうだ。一体何人雇っているんだろうか。しかも、こんなにいて、何の仕事がここにあるんだろうか?不思議で仕方ない。いろんな求人情報見てきたけれど、『遠藤家従者』などの名目は見たことがない。
もし、ここの誰かがやめたら、やっぱり《ハ○ーワーク》とかで紹介してもらうんだろうか?お給料いくらだろ?
「若奥様、いかがされましたか?」
いつの間にか夫は中に入っていて、私は取り残されていた。だが、私が入らないと、従者は1人も入れないらしく、謂わば、渋滞の原因を作っていたようだ。
「あ、す、素晴らしいお屋敷だなぁってウットリしていたんです。特に深い意味はありません。」
咄嗟に出た社交辞令的な言い訳。
しかしそれに、賛同する声がこのあと続いた。
「そうでしょう。本当に素晴らしいのよ。この館は。」
この女性の声は、毛利さんじゃない。近重さんでも武田さんでもない。だけど、どこかで聞いたことのあるような声。しかしこの場でこんな言葉遣いをしていい女性は、たった1人。
「奥様っ!」
「奥様自ら若奥様の側に行かれるとは!」
「さすが奥様!深く暖かい情が溢れる行動です。」
次々に湧き出て来る賛辞の声。
まるでセリのような賑わいに、
「まあまあ、静粛に。私はただ早く嫁に会いたくてたまらなかっただけです。ほら、よーく見せておくれ。可愛い詩豆ちゃんの顔を。」
それはもう見事な手さばきで。
サイズなんて測られた覚えはないのに、クローゼットに並ぶ大量の綺麗な服は、どれも私にピッタリだ。
その中で今夜選ばれたのは、
「ふん、俺とお揃いとは、いい度胸だな。」
そう、夫のタイとお揃いの紺色ベースの水玉模様で構成されたワンピースだ。
「若奥様は、寒色系のお色もよくお似合いでございますね。」
「ほんと、お二人が並ぶと舞台のようですわ。」
褒め言葉かどうかわからないが、笑顔で言われているから良しとしよう。
それにしても、まるでこちらが真似したようで、なんだかこそばゆい。
「行くぞっ。会長がお待ちだ。」
「会長……」
「……俺の父親だ。それくらい想像しておさめてくれ。」
「……ケチ。」
「っ!なっ、なっ、ケチだと?!」
「坊っちゃま!今は抑えてください。会長のお耳に入ります故。」
「…………後で覚えておけよ。」
ふんっ、もうここまでバカにされてるなら開き直るわよ。
別に好かれようなんて思っていないし、私はただ実家が助かればいいだけだし、この結婚に、愛だの情だの求めないんだからっ。
私は夫から受けた尖った視線を、プイッと逸らしてやった。
キリッ
かすかに誰かの歯が鳴る音が聞こえた。
☆☆☆
本館まではぞろぞろと従者の皆さんを引き連れ、歩いて行った。
その間に、道中見える木々や東屋などの説明を毛利さんから受け、まるでどこかの会社の偵察にきたような気分になった。
しかし、広い。
本当に広い。
よくもまあここまで広い土地を得られたものだなと感心する。
どう考えても私には合わない。
分不相応。
「ご夕食を本館で召し上がるのは、何か行事があった時のみでございます。通常は、別館にてお食事いただく事になっております。」
「そうなんですか?家族なのに、同じ敷地内にいても食事は別々なんて、なんだか少し寂しいですね。」
「…………」
何やらまた可笑しなことを口走ってしまったのか?夫を先頭に、従者の方々も皆黙ってしまった。
居心地の悪い中、本館の門が見え、そこに並ぶ人の多さに圧倒されてしまった。
「一体どれだけの人がこの屋敷にいるんですか??」
全くもって素直な感想だ。
それなのに、
「変なことばかり言ってないで、その口を閉じろ。お喋りな女が妻だと思われるのは勘弁してくれ。」
と、また皮肉を言われた。
きいーーーっ!!!!
誰も周りにいなかったら、その頭、ボサボサにして間抜け面にしてやるのに!
☆☆☆
「坊っちゃまご夫婦のご到着でございます。」
本館の前に来ると、土方さんが先方のトップらしき人にそう告げた。
「ようこそ本館へお越しくださいました。どうぞ、今宵はごゆるりとお過ごしくださいませ。」
「お過ごしくださいませ」
出た、シュプレヒコール!!
どこかで練習でもしているんだろうか。一度拝見したいものだ。
しかし、別館は20人くらいの従者の数だが、本館はその倍いそうだ。一体何人雇っているんだろうか。しかも、こんなにいて、何の仕事がここにあるんだろうか?不思議で仕方ない。いろんな求人情報見てきたけれど、『遠藤家従者』などの名目は見たことがない。
もし、ここの誰かがやめたら、やっぱり《ハ○ーワーク》とかで紹介してもらうんだろうか?お給料いくらだろ?
「若奥様、いかがされましたか?」
いつの間にか夫は中に入っていて、私は取り残されていた。だが、私が入らないと、従者は1人も入れないらしく、謂わば、渋滞の原因を作っていたようだ。
「あ、す、素晴らしいお屋敷だなぁってウットリしていたんです。特に深い意味はありません。」
咄嗟に出た社交辞令的な言い訳。
しかしそれに、賛同する声がこのあと続いた。
「そうでしょう。本当に素晴らしいのよ。この館は。」
この女性の声は、毛利さんじゃない。近重さんでも武田さんでもない。だけど、どこかで聞いたことのあるような声。しかしこの場でこんな言葉遣いをしていい女性は、たった1人。
「奥様っ!」
「奥様自ら若奥様の側に行かれるとは!」
「さすが奥様!深く暖かい情が溢れる行動です。」
次々に湧き出て来る賛辞の声。
まるでセリのような賑わいに、
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