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第13話
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《ピピピピポ、ピピピピポ》
朝5時。
知ってますよ、起きてますよ、枕が変わるとこうも早起きなのか?
いえいえ、こんなスケスケで寝たのが初めてで、朝方寒過ぎて4時半には目覚めてしまったのですよ。
だってこのスケスケって、朝起きたらダーリンの胸の中ってのが前提でしょ?
私、1人なんだけど。
1人でこの格好って寒いに決まってるでしょ。
あれから備え付けのクローゼットを覗いて、どうにか着て眠れるものを探したけれど、どれも皆シワくちゃになりそうなもので。伸びる素材の物がない。お高そうだし。
だから、仕方なくスケスケで寝たのだ。
顔を洗ってローションで整えていると、《コンコン》とノックの音がして、
「若奥様、今日のお召し物をお選びいたしましょう。入室してもよろしいでしょうか?」
と、毛利さんの声がした。
「え?いや、あの、大丈夫です。自分で選びますからっ。」
とてもじゃないがいくら女性とはいえ、昨日会ったばかりの人にこの姿は見せられない。
「左様でございますか?しかし、若奥様のコーディネートは私の仕事でございます故、何着かお選びさせて頂いて、その中から若奥様が選んでいただけたらと思います。ですので……」
「ああ、もう!わかりました!では、ご入室ください!」
もうどう言ったって入ってくるんでしょ!
もういいわっ、もういいわっ、
見てもらおうじゃないの!
と思いながらも、私はシーツにくるまった状態で従者達の洋服選びを眺めていた。
そう、毛利さんだけじゃなかった。
近重さん、武田さんも入室してきたのだ。
「こちらと、こちらが今日のコーディネートでございます。サイズは大丈夫だと思いますので、着用されましたらお声かけ下さい。」
「はい……。では、着替えます……」
御三方が退室したのを見届けてから、私はシーツを脱ぎ、用意された服を着た。ご丁寧に下着も用意されていた。
「もう、何もかもバレてるのね。」
下着のサイズを見ながら、ため息と共に呟いた。
御三方のコーディネートは、なかなか素敵なものだった。
今日はシフォン素材のブラウスをインにしたサーモンピンクの膝丈のスカートでベルト部分が結んでリボンになっている。
用意された靴はアンクルストラップの5センチヒールでなかなか履きやすい。
襟元もかがんでも谷間が見えない仕様で上品なお嬢様という感じだ。
「着替えました。毛利さん。」
全身が映る三面鏡の前で一回りして、チェックすると、ドアの外に向かって約束通り声をかけた。
「失礼致します……よくお似合いでいらっしゃいます。流石でございます。それでは、こちらでメイクいたしますのでお座り下さい。」
「メイクも毎日して頂けるんですか?」
「左様でございます。ただ、若奥様が私共から見ても素晴らしい技術をお持ちになりましたらご自身でなされてもよろしいかと思いますが……」
「いえ、よろしくお願いします。」
「かしこまりました。」
本気のお金持ちってこういうことなんだな。
なんだか不思議……いや、不思議で当然か……。
こうして従者の御三方によって、私は磨き上げられた。
☆☆
メイクが終わり、部屋を出るとすでに時刻は6時半。
「お食事のご用意はできております。1階のダイニングにて、今朝は坊っちゃまもいらっしゃいます。」
「今朝はというと、いない日もあるんですか?」
また空気が変わる。
うん、掘り下げてはいけない質問ってことね。
「坊っちゃまは夜遅くまで会食なさることがあります。そうなると、朝食は召し上がりません。昨夜はそういったことはありませんでしたので……」
「お忙しいでしょうからね。」
「はい。ですので、今朝は料理長も力を入れてメニューを組んでいるようです。今日から講義も始まりますし、しっかりお召し上がりください。」
うわぁ、楽しみ。
昨夜もとても美味しかったからね。
和食かな?洋食かな?
「あ、坊っちゃまはもうご着席ですね。」
ちょっと浮かれ気分でリビングから入ったら、武田さんが夫の存在を知らせた。
ダイニングに通じる扉が開いていて、そこからちょうど姿が見えた。
「失礼いたします。若奥様がいらっしゃいました。」
毛利さんがまず中に向かって声をかけ、それに呼応するように扉が全開となった。
「おはようございます、土方さん。」
まず一番近くにいた土方さんに挨拶をした。
だが、それもまたマズかったようだ。
「チッ」
と、誰かが舌打ちする音が聞こえ、土方さんが恐縮しながら礼をしてきた。
「お前は夫である俺より先に従者である土方に挨拶をするんだな。本当に俺に対する礼儀がなってない。」
そしてその誰かは、すぐに皮肉を言い始めた。
「それは申し訳ありませんでした。至らない嫁でごめんなさいね。」
「っな!こいつっ!」
「さあ、冷める前にいただきましょう。作った人に感謝して。料理長さん、いただきます。」
『ご飯を食べられることに感謝しなさい。』
『作った人に感謝しなさい』
幼い頃から口酸っぱく言われてきたことだ。
また空気が変わった。
でも、今回は少しだけ暖かい風が吹いた気がする。
朝5時。
知ってますよ、起きてますよ、枕が変わるとこうも早起きなのか?
いえいえ、こんなスケスケで寝たのが初めてで、朝方寒過ぎて4時半には目覚めてしまったのですよ。
だってこのスケスケって、朝起きたらダーリンの胸の中ってのが前提でしょ?
私、1人なんだけど。
1人でこの格好って寒いに決まってるでしょ。
あれから備え付けのクローゼットを覗いて、どうにか着て眠れるものを探したけれど、どれも皆シワくちゃになりそうなもので。伸びる素材の物がない。お高そうだし。
だから、仕方なくスケスケで寝たのだ。
顔を洗ってローションで整えていると、《コンコン》とノックの音がして、
「若奥様、今日のお召し物をお選びいたしましょう。入室してもよろしいでしょうか?」
と、毛利さんの声がした。
「え?いや、あの、大丈夫です。自分で選びますからっ。」
とてもじゃないがいくら女性とはいえ、昨日会ったばかりの人にこの姿は見せられない。
「左様でございますか?しかし、若奥様のコーディネートは私の仕事でございます故、何着かお選びさせて頂いて、その中から若奥様が選んでいただけたらと思います。ですので……」
「ああ、もう!わかりました!では、ご入室ください!」
もうどう言ったって入ってくるんでしょ!
もういいわっ、もういいわっ、
見てもらおうじゃないの!
と思いながらも、私はシーツにくるまった状態で従者達の洋服選びを眺めていた。
そう、毛利さんだけじゃなかった。
近重さん、武田さんも入室してきたのだ。
「こちらと、こちらが今日のコーディネートでございます。サイズは大丈夫だと思いますので、着用されましたらお声かけ下さい。」
「はい……。では、着替えます……」
御三方が退室したのを見届けてから、私はシーツを脱ぎ、用意された服を着た。ご丁寧に下着も用意されていた。
「もう、何もかもバレてるのね。」
下着のサイズを見ながら、ため息と共に呟いた。
御三方のコーディネートは、なかなか素敵なものだった。
今日はシフォン素材のブラウスをインにしたサーモンピンクの膝丈のスカートでベルト部分が結んでリボンになっている。
用意された靴はアンクルストラップの5センチヒールでなかなか履きやすい。
襟元もかがんでも谷間が見えない仕様で上品なお嬢様という感じだ。
「着替えました。毛利さん。」
全身が映る三面鏡の前で一回りして、チェックすると、ドアの外に向かって約束通り声をかけた。
「失礼致します……よくお似合いでいらっしゃいます。流石でございます。それでは、こちらでメイクいたしますのでお座り下さい。」
「メイクも毎日して頂けるんですか?」
「左様でございます。ただ、若奥様が私共から見ても素晴らしい技術をお持ちになりましたらご自身でなされてもよろしいかと思いますが……」
「いえ、よろしくお願いします。」
「かしこまりました。」
本気のお金持ちってこういうことなんだな。
なんだか不思議……いや、不思議で当然か……。
こうして従者の御三方によって、私は磨き上げられた。
☆☆
メイクが終わり、部屋を出るとすでに時刻は6時半。
「お食事のご用意はできております。1階のダイニングにて、今朝は坊っちゃまもいらっしゃいます。」
「今朝はというと、いない日もあるんですか?」
また空気が変わる。
うん、掘り下げてはいけない質問ってことね。
「坊っちゃまは夜遅くまで会食なさることがあります。そうなると、朝食は召し上がりません。昨夜はそういったことはありませんでしたので……」
「お忙しいでしょうからね。」
「はい。ですので、今朝は料理長も力を入れてメニューを組んでいるようです。今日から講義も始まりますし、しっかりお召し上がりください。」
うわぁ、楽しみ。
昨夜もとても美味しかったからね。
和食かな?洋食かな?
「あ、坊っちゃまはもうご着席ですね。」
ちょっと浮かれ気分でリビングから入ったら、武田さんが夫の存在を知らせた。
ダイニングに通じる扉が開いていて、そこからちょうど姿が見えた。
「失礼いたします。若奥様がいらっしゃいました。」
毛利さんがまず中に向かって声をかけ、それに呼応するように扉が全開となった。
「おはようございます、土方さん。」
まず一番近くにいた土方さんに挨拶をした。
だが、それもまたマズかったようだ。
「チッ」
と、誰かが舌打ちする音が聞こえ、土方さんが恐縮しながら礼をしてきた。
「お前は夫である俺より先に従者である土方に挨拶をするんだな。本当に俺に対する礼儀がなってない。」
そしてその誰かは、すぐに皮肉を言い始めた。
「それは申し訳ありませんでした。至らない嫁でごめんなさいね。」
「っな!こいつっ!」
「さあ、冷める前にいただきましょう。作った人に感謝して。料理長さん、いただきます。」
『ご飯を食べられることに感謝しなさい。』
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また空気が変わった。
でも、今回は少しだけ暖かい風が吹いた気がする。
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