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第26話
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藪坂さんが手を振る方向を振り返る。
そこには、何日かぶりに見る夫の姿があった。
ただ、この場にふさわしいとは思えないデニムに白シャツというラフな格好だ。
「ずっと待っていたのよ。きっと来ると思ってた。やっぱり慶大は変わらないわ。」
嬉しそうに満面の笑みで夫をみつめる藪坂さん。
やっぱりってことは、やはり2人は以前からの知り合い。しかも、こうやって公の場に2人で来るような間柄。
そっか、私はただの親同士が決めた許婚であるだけで、夫の愛を受けているわけじゃないし。しかも、実家の借金を肩代わりしてもらっている金目当ての嫁……。
「……詩豆?」
なぜかしら、私の名前を呼ぶ声が優しい夫。
だけど今知りたいのは、あなたの優しさではなくここにいる理由。
「今ね、偶然会ったのよ。私もびっくりしちゃって」
「大丈夫か?」
藪坂さんの言葉に被さるように私に声をかけてきた夫。
「だ、大丈夫、ですけど。」
「そうか、間に合ったな。警備が知らせてくれて何よりだ」
「警備?」
言われて気づいた。
私は今一部の方々の間では渦中の人間で、コンビニすら行くことができないというのに。
「気づかなかったのか?まあ、無理もないか。制服など着ていないからな。」
(あっ、もしかして……)
お義母様がいろんな方に礼をされていたのは、知り合いだからではないのか。
あれは、警備の方々が綺麗な格好をして観客に混ざっていただけで、ただのアイコンタクトみたいな、そんな感じだったのか!?
「ねえ、それより早く席につきましょう。始まってしまうわ。今日は慶大の好きな曲も演奏されるらしいわ。」
藪坂さんは私に構うことなく、夫の腕を取ろうとした。
だが、
「お待ちなさい。美奈子さん、約束と違いますよ。今すぐ慶大から離れなさい。」
と、まさかのお義母様が登場した。
(美奈子さん……、ってことは、知ってるのね……)
「あら、奥様、お久しぶりですわ。今日もとてもお綺麗でいらっしゃいますね。」
藪坂さんは、咎められているというのに気にせず、また夫の腕をとって絡めようとした。
だが、今度は夫自らそれを跳ね除けた。
「ーー慶大っ?」
「俺の名前を呼び捨てにしていいのは詩豆だけだ。それに、俺は君に会いに来たわけじゃない。詩豆を守りにきただけだ。」
「な、に?それ……?」
私も同じ言葉を胸の中で呟いていた。
私を守るとか、意味がわからない。何から守るのか?何が起きたのか?さっぱり……
「美奈子さん、あなたには本当に辛い思いをさせてしまったわね。わざとではないにしろ。ですが、いい加減、慶大に付き纏うことはおやめなさい。貴方が恥をかくだけですよ。」
付き纏う?ストーカー?
っていうか、藪坂さんは夫を好きなわけね。それも、執着する程。
「さっき、久々に別館に戻ったら、土方から聞いて飛んできた。藪坂美奈子と詩豆が接触しそうだとね。だから、俺は詩豆を連れて帰る為だけに来た。悪いが君に会う為じゃない。」
すごく冷たい声だった。
だからか……私が仕事をさせてもらえなかったのは。
きっと彼女は気づいていたんだ。
私が遠藤慶大の許婚だということに。
そこには、何日かぶりに見る夫の姿があった。
ただ、この場にふさわしいとは思えないデニムに白シャツというラフな格好だ。
「ずっと待っていたのよ。きっと来ると思ってた。やっぱり慶大は変わらないわ。」
嬉しそうに満面の笑みで夫をみつめる藪坂さん。
やっぱりってことは、やはり2人は以前からの知り合い。しかも、こうやって公の場に2人で来るような間柄。
そっか、私はただの親同士が決めた許婚であるだけで、夫の愛を受けているわけじゃないし。しかも、実家の借金を肩代わりしてもらっている金目当ての嫁……。
「……詩豆?」
なぜかしら、私の名前を呼ぶ声が優しい夫。
だけど今知りたいのは、あなたの優しさではなくここにいる理由。
「今ね、偶然会ったのよ。私もびっくりしちゃって」
「大丈夫か?」
藪坂さんの言葉に被さるように私に声をかけてきた夫。
「だ、大丈夫、ですけど。」
「そうか、間に合ったな。警備が知らせてくれて何よりだ」
「警備?」
言われて気づいた。
私は今一部の方々の間では渦中の人間で、コンビニすら行くことができないというのに。
「気づかなかったのか?まあ、無理もないか。制服など着ていないからな。」
(あっ、もしかして……)
お義母様がいろんな方に礼をされていたのは、知り合いだからではないのか。
あれは、警備の方々が綺麗な格好をして観客に混ざっていただけで、ただのアイコンタクトみたいな、そんな感じだったのか!?
「ねえ、それより早く席につきましょう。始まってしまうわ。今日は慶大の好きな曲も演奏されるらしいわ。」
藪坂さんは私に構うことなく、夫の腕を取ろうとした。
だが、
「お待ちなさい。美奈子さん、約束と違いますよ。今すぐ慶大から離れなさい。」
と、まさかのお義母様が登場した。
(美奈子さん……、ってことは、知ってるのね……)
「あら、奥様、お久しぶりですわ。今日もとてもお綺麗でいらっしゃいますね。」
藪坂さんは、咎められているというのに気にせず、また夫の腕をとって絡めようとした。
だが、今度は夫自らそれを跳ね除けた。
「ーー慶大っ?」
「俺の名前を呼び捨てにしていいのは詩豆だけだ。それに、俺は君に会いに来たわけじゃない。詩豆を守りにきただけだ。」
「な、に?それ……?」
私も同じ言葉を胸の中で呟いていた。
私を守るとか、意味がわからない。何から守るのか?何が起きたのか?さっぱり……
「美奈子さん、あなたには本当に辛い思いをさせてしまったわね。わざとではないにしろ。ですが、いい加減、慶大に付き纏うことはおやめなさい。貴方が恥をかくだけですよ。」
付き纏う?ストーカー?
っていうか、藪坂さんは夫を好きなわけね。それも、執着する程。
「さっき、久々に別館に戻ったら、土方から聞いて飛んできた。藪坂美奈子と詩豆が接触しそうだとね。だから、俺は詩豆を連れて帰る為だけに来た。悪いが君に会う為じゃない。」
すごく冷たい声だった。
だからか……私が仕事をさせてもらえなかったのは。
きっと彼女は気づいていたんだ。
私が遠藤慶大の許婚だということに。
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