嘘つきは私かもしれない

koyumi

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第34話

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 高層ビル街の中でも、一際モダンなシャープさを醸し出すビルの地下駐車場に入り、車から降ろされると、すぐさま手を引かれ、いや、腰を抱かれ、夫専用といえるエレベーターに乗りこまされた。

 というのも、車内で延々と夫のソファ代わりにされていた私は、慣れないことから肩甲骨あたりが妙な感じになり、真っ直ぐ立てなくなってしまった。

「全く手がかかる。」

 地下駐車場には土方さんが既に待機していて、私の不具合に気づいてすぐに手を出そうとしたが、夫がそれを跳ね除けた。
「詩豆に触れていいのは俺だけだ」
と、目の前がクラクラするような落とし文句をサラッと言い、夫は1人で私を支えながらエレベーターに乗ったのだ。

 目が丸くなった土方さんの視線を遮るように『閉める』ボタンを連打する姿は、まるで男子高校生のように幼いと思った。

「……あれは本気の言葉なの?」

 とは、もちろんさっきの土方さんへの言葉。本気なわけはなく、何か私にさせようと魂胆があると思いながらも、一応確認しておいた。

「受け取る人間の気持ち次第だ」

 なんだそりゃ?
 答えになるのかならないのかわからないコメントに、私の中では大筆で、『否』という漢字が運ばれた。

 やはり、本気じゃないのだ。
 この先、何かがある。
 きっと夫にとって、月150万などなんてことない金額なのだ。
 私は遊ばれている。
 藪坂さんとの話が纏まるまでのオモチャでしかないのだろう。

「オモチャだって……楽しく遊んでもらえるように、作った人のがこもっているんだから。」

「?」

 自分でもよくわからないけど、こんな言葉が出てきて、夫は少しだけ困惑していたようだ。


 夫のオフィスに入ると、そこには綺麗な女性が5、6人いて、一斉に私へ視線を向けた。

「彼女達は俺の秘書だ。そしてお前の部下でもある。」
「は?私の部下?意味が…」
「俺専属の世話係のお前より俺のことを理解できる人間はここにはいない、ということだ。わかれ。」
「わかれって言われても」
「っ、ちっ」

 また舌打ち。
 それだけはやめてと言いたいが、まあ最後の日に贈り文句として残しておこう。

「社長、先方はあと10分でこちらに着くそうです。」
「ああ、わかった。本宮さん、会議の間、詩豆に医者をよこす。女医で口の硬い人物を頼む。」
「かしこまりました。」

 
 秘書さんの中でもとりわけ美人の人がまず口を開いた。スラッとしたパンツスーツでショートカットのヘアスタイルは男女問わず好感度があるだろう。
 夫はなぜかこの人に、私に医者を手配させた。
 きっとこの肩甲骨をどうにかしろと言うつもりなんだろうけど、その前に大事なことがあるのではないか?

「あの、す、すみません!遠藤詩豆です!よろしくお願い致します!あ、今の所、まだ遠藤…」
「余計なことは言わないでいい。気にせず仕事を続けてくれ。詩豆はこっちだ。」

 大事なこと。
 ご挨拶。

 いくら社長が腰を抱いて現れた女だからって、 高飛車に思われたくはないし、人対人って、まずは挨拶が大事でしょう?何にもなしにシラーっといるなんて、私の信念に反することだ。

 それなのに、夫は私の話を遮り、無理やりグッと腰を引き寄せ社長室に連れ込んだ。

 そして、黒い革製のソファにドカっと私とともに座り込んだかと思えば、ゆっくりと押し倒してきた。

「やっ、ちょ、ちょっとちょっと、バカなんじゃない??」

 もう、大慌ての私を前に、余裕の顔を近づけてくる夫。

 これはーーーーまさかの展開!?


「バカはお前だ。こんなガタガタの体を抱くわけがない。マグ○はお断りだ。とりあえず医者が来るまで横になってろ。」

 マグ○!?
 冗談じゃない!
 なんて下世話なやつ!

「あ、あんた、口悪すぎよ!!意外と、私はマグ○なんかじゃないんだから!」

 はっ!!
 つい買い言葉を出してしまった。

 ん?

 んん?


「ば、バカタレが!!」

 よく見ると、じっと見ると、夫はどんどん顔を真っ赤にし始め、目の瞬きを早めていた。
 そして苦し紛れにそう言い、パサッと私の下半身に自分の上着をかけてそのまま社長室を出て行ってしまった。

 
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