嘘つきは私かもしれない

koyumi

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第33話

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 とりあえず、毛利さんがいない間は私はキッチンへの立ち入りを禁じられた。
 しかし、夫が仕事をしている間、私が食べる時はどうすればいいのだろうか?

 そんな事を気にしながら洗濯機を回し、掃除機に手を伸ばした。

(この掃除機って、あのCMでお馴染みの高級なやつよね?って、意外に重っ!でも、吸引力はすごーい!)

 なるほど、最新式の家電は使うことが楽しくなるほど素晴らしい。
 家事は苦手だが、意外と楽しむことで得意になるかもしれないと、気分が上がってきた。



「おい、何やってる?早く出る準備をしろ」


「はい?」



 リビングの掃除機使用が終わる頃だった。
 スッキリとした身なりで質のいいスーツを着こなした夫が目の前に現れ、私に出かける準備をしろと言う。

「言っただろ?お前は俺の世話係だと。つまり、四六時中付いて回るということだ。」

「四六時中?ってことは、まさかオフィスにまで?」

「当たり前だ。いつ何時もだ。わかったら自室に戻って早く着替えろ。20分後に車を出す。いいな。」

 20分後?!
 私の今の格好見てるはずでしょ?
 ノーメイクにホームウエアにエプロンだよ?

 しかも、四六時中って……。
 オフィスにもって、私がいたらかえって邪魔のような気が……。

 戸惑っている間も無情にも時間は進み続けるもの。

「と、とりあえず、顔作り!」

 私は手にしていた掃除機をソファにもたれさせ、慌てて自室に戻り浴室に駆け込んだ。



☆☆☆



「セーフッ!!」

「ぅわっ、危ねっ」

 あれから超特急で顔を洗い、スキンケアはいつもの3分の1でメイクを施し、クローゼットの中で一番地味なスーツに袖を通して、どうにか形を作った。

 駆け足で階段を降り、車寄せに既に到着済みの夫の姿を見つけ、まるで野球のベースを狙うかのように突っ込んだ。

「どう?遅刻じゃないよね?」

「おまっ、遅刻じゃねえけど……プッ、なんだその格好、リクルーターかよ。」

 私の姿を下から上まで眺めて吹き出した夫。

「仕方ないでしょ?これが一番地味だったんだから。後はどれも高貴なミセスって感じだし。」

 世話係なのだからそれ相応の格好であるべきで、でも、私のクローゼットの中といえば、どれもが色とりどりのセレブ感満載なものばかりだった。
 その中で、1着だけ今着ている至ってシンプルなグレーのスーツがあり、迷わずこれに決めたわけだ。
 それを笑うだなんて。

「まあいい。早く乗れ。」
「えっ、ちょっと」

 不意に腕を取られ、夫は自分より先に私を後部座席に押し込み、その隣にドッシリと座った。

「なんだ?」

「なんだ?って、なんでお世話係が後部座席なわけ?」

「決まってるだろ。」

「何が?」

「ほら、肩を貸せ。」

「えっ?」

 夫は私の肩に頭をもたれかけ、目を閉じてしまった。

「は、はい?ちょ、ちょっと、重いし、近いし」

「だまって俺のソファ代わりになれ。今から大事な会議がある。少し頭の中を整理するからしゃべるな。」

「は?ソファ?」

「だからしゃべるな。このまま動くなよ。」

「ちょ、動くなって言われても」

「よくしゃべる奴だな。いい加減にしろ」

「んっ!!」

 肩が一瞬軽くなったと思ったら、夫の顔が目の前にあって、そのまま唇を塞がれた。
 塞がれていた。

 は?

 何やってんの?

 は?

「んんん~!!!ん、ん!!」

「っ、はぁ、ったく、お前はキスの間もしゃべるのか!?本当に手がかかるなっ、想像以上だ。」

 唖然としている私を前に、夫はあくまで自分の行為を肯定している。

 なんでキス?
 なんでキス?
 うるさい口はキスで塞ぐ主義なわけ?

 私は夫のペースに全く付いていける気がせず、もはやパニックに陥っていた。
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