嘘つきは私かもしれない

koyumi

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第36話

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 会議から戻ってきた夫のために、お世話係として何かすることはあるだろうかと周りを見渡す。
 けれど、ピカピカのデスクに一寸の隙もない本棚。カタカタとキーボードを打ち続ける夫に、言葉をかけるタイミングもない。

 昨夜は結局あれから眠れず、初めてのについて考えて過ごしたこともあり、また、整体によってほぐれた体に心地よいソファが仇となり……。


「…………ッフ」

 微かに夫の笑い声が聞こえた気もするが、それに反応できず、私はまたしても居眠りをしてしまったのである。







「……詩豆、おい、起きろっ、詩豆っ」

「……んー、まだ……まだだめぇ…」

「何がダメなんだ?おい、起きろ!」

「……あン、も、無理ぃ……だめだめぇ…」

「…………なんて奴だ……」


 後々聞かされた

 社長室で居眠りした挙句、夢の中でとはどういうことだ、と愚痴愚痴叱られている最中だ。


「夢の中とはいえ、あんな声を夫である俺は言わしたこともないというのにっ。一体誰とヤッてたんだ!?」

「ひっ、そんなこと言われましても……相手のお顔はわかりません……」

 夢だもん。はっきりと覚えてなんかない。

「……直近の刺激的な出来事といえば、やはり多賀のことか!?」

「はい?多賀って、あの女医さんでしょ?ナイナイ、絶対ナイ!男性のはずよ」

「おぃ、ということはだな、お前、夢の中とはいえ最後まで……」

 誰か、誰かこの男をどうにかして下さい。
 私は夢の話でどれだけ責められればよいのでしょうか。
 わからないものはわからないんです。

「お前、今まで付き合ってた奴いるのか?」

「今その質問!?……まあ、それなりに、何人かいたけど……」

「何人かだと?複数いるのか?なんて奴だ」

 複数といえば複数だけど。
 合計交際日数は1年に満たない……とは、絶対に言わないでおこう。

「何言ってんのよ、あんたの方が選り取り見取りハーレムでしょうが。とにかく、もう夢の話でいちいち問い詰めないで下さい。」

「おい、あんたって言うな。お前、俺は雇い主でもあるんだぞ。」

「あ……す、すみません、でした……」

「まあ、お前だから許してやる。それにしても何人いたんだ?俺はまだ」

「雇い主さん、セクハラはおやめ下さいませ。」

「セクハラ!?俺はお前の夫だぞ?知る権利はある。お前の何もかもを」

「ーーえっ」

 夫はそう言うや否や、いきなり私を抱きしめた。

「ちきしょう、なんだって俺はこんな茶番劇を……」

「あ、あの、この行為の意味がさっぱりわかりませんがっ」

「いいか?この先お前を抱くのは俺だけだ。他の奴に抱かれたら即刻はクビだ。触れていいのも俺だけだ。わかったな!」

 な、なんて横暴なっ。
 暴君そのもの……
 ん?
 いや、なんか、違う……
 これって、ひょっとすると、ひょっとしない?

「……あ、の……もしかして、もしかしたらの話ですけど……」

「なんだ?」

「あ、あの、け、慶大さんって……もしかして……」

 うわっ、初めてかな?名前呼んだの。
 こっぱずかしいけど、”あんた”って言ったらいけないし。

「ん?なんだ?」

 や、なんか、声色が優しい。

「私のこと……嫌い、じゃ、ないですよ、ね?」

 これが精一杯……

「は?嫌いじゃないかって?なんだそれは?」

 はぁー、やっぱり聞くんじゃなかった……

「い、いえ……お忘れください……思い違いですから」

 穴があったら入りたい。ないから掘るか、そうだ、夢中で掘ってれば恥を忘れられるだろう。

「……俺は詩豆が好きだ。愛してる。」

「…………」

 ん……
 んんん?????

「今なんと??」

「馬鹿め。2度と言うか。」

「ぅええええ!!!だって、待って、待って待って!!はぁ?なんで?意味がわかんないんだけど?はぁ?なんで?はぁ?」

「同じフレーズばかり言い過ぎだ。とにかく飯食いに行くぞ。朝飯がアレだったから昼は美味いもの食いたいんだ。」

 

 フリーズしてる私をよそに、夫は土方さんに電話してランチの為のレストランを予約させていた。

 一体何が起きたのか……

 私を、だなんて……

 酷く裏切られた感があるのは、当然だよね?
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