僕と生きてください

koyumi

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ep.26

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 ある夜のお風呂上がり、貴和子の忘れ去りたい卒業アルバムがダイニングテーブルに置かれていた。
 貴和子はこの部屋に持って来た記憶はない。実家にあるはずだ。とすれば、間違いなく桂木の仕業だろう。しかしどうやって?
 ある疑念が膨らむ中、上機嫌でお風呂からでてきた桂木に尋ねた。
「これは何ですか?どうして私の卒業アルバムがあるんですか?」
 いささか強めに言ったが、桂木は、よくぞ聞いてくれたとでも言わんばかりにニカッと笑った。そして、
「貴和子ちゃんのお母さんに連絡したら、すぐに届けてくれたよ。」と、軽快な口ぶりで答えた。
「どうして知ってるんですか?!実家に行ったことないのに!」
 貴和子の驚きは当然で、桂木について実家にはまだ話してさえいない。
 厳密に言えばプロポーズにYESと言ったのだから、婚約者として紹介するべきだとは思っていたが、躊躇してしまう。その理由は、正に“迷い”であることに間違いない。
 桂木は貴和子にベタ惚れだが、貴和子はまだそこまでのレベルではない。厳密に言えば、貴和子から桂木を求めるまでには至っていないのだ。
「どうしてって、貴和子ちゃんの携帯電話から連絡先を知って、僕がかけたからだよ。貴和子さんの婚約者ですってね。」
「ーーっな!」
 携帯電話を盗み見るなど、貴和子にしてみれば犯罪ものである。恋人であったり、夫婦であったりしても、それはするべきではないと思う。だが、
「当然だよ。貴和子ちゃんはいつになっても紹介してくれないし、ひょっとしてご両親に反対されているのかもしれないと思ってさ。」
 桂木の言い分はこうである。
 貴和子は桂木のことをすでに両親に伝えたが、反対された。説得できたら桂木を紹介するつもりだった。だから、それまでは両親の話は敢えてしなかった。という流れがあったからだと。 
 貴和子は、初めて開いた口が塞がらない経験をした。
(桂木さん……わからない……。)
 貴和子が呆然としているにも関わらず、桂木は話を続けた。
「それで、ご両親に連絡したら大層喜んでくださって、2日後くらいにこのアルバムが届いたんだ。貴和子ちゃんが中学生の頃に生徒会長をやったと聞いて、信じられなくて、そしたら証拠を見せるから楽しみに待っててと言われてね。」
(お母さん……、一番知られたくない過去をなぜこの人に……。)
 貴和子にとって、中学生の頃に生徒会長を務めたことは何の栄華もなく、1つの恥でもあった。
 というのも、たいしてやりたかったわけじゃないのに、貴和子の兄が会長をしていたことがあるから貴和子も向いているのではないかと勝手に職員室の間で話題になり、持ち上げられただけだったからだ。当時、他に立候補する人はおらず、いわば無投票での決定というのも、恥ずかしさを倍増させる要因であった。
「それにしても、本当に生徒会長だったんだね、貴和子ちゃん。真面目そうな顔してたし、先生に頼られてたのもわかるよ。」
「あっ!?」
 真面目そうな顔と言われて思い出した。当時の貴和子は、今より10キロ程太っていたのだ。今でさえ、普通サイズのお店で服を買えるようになったが、中学生の頃はサイズ選びに苦戦したし、デザインがよければメンズのものを着ていたくらいだった。
 そんな貴和子の姿を桂木は見てしまったのだ。
(恥ずかしすぎ……!お母さん、なんでよりによって中学生のアルバムなんて送るのよっ!)
 貴和子はもし今魔法が使えたら、このアルバムを高校の時のものに変えたのにと悔やんだ。あり得ない話だが、どうせ見られるならまだ高校の頃の姿の方がマシだ。幾分か体重も減っていたし、アルバム制作をする写真屋さんに友人と共に直訴して、剃りすぎた眉毛を濃くしてもらったり、顔色を少し白く調整してもらっていたからだ。
(プチ整形ものだけど、中学生の頃の生身の姿に比べれば圧倒的にマシだわ。)
 
「でも、だからこそ彼氏はいなかったんだろうし、僕としては有難いことだよ。中学生からモテモテで彼氏なんかいたら、僕の立場ないからね。君の初めてはーー」
「なんてこと言うんですか!!信じられない!桂木さんなんて、大っ嫌い!」

 桂木の言い分に、さすがに貴和子も腹が立った。
「太っていたのは認めるわっ!今更カッコつけたって仕方ないもの。でも、だからってあまりにもデリカシーが無さすぎるわ。いい?言っていいことと悪いことがあるのよ?特に過去の体型のことは御法度だわ。少なくとも、私の感覚からしたらあり得ない言い方よ。いつもあの体型が嫌で仕方なかったんだから。
 何も知らないくせに、本当の私のことなんて、何も知らないくせに!!」

 頭に血が上った貴和子は、鬼の形相で捲したてると、ベッドに潜り込んだ。
 
 
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