34 / 38
ep.34
しおりを挟む
貴和子が鼻息を荒くさせている頃、桂木は安田家で足をもつれさせていた。
桂木も、割とアルコールには強いほうだが、やはり日本酒を武器にした酒豪、安田貴之には敵わなかった。
誰かと好きな酒を共にできるのが嬉しいのか、貴和子の実父・貴之は未来の婿の盃が空くことを許さなかった。
飲めば注がれ、飲まねば勧められ、桂木は酩酊状態となった。
「まあまあ、あなた、やめてくださいよ。貴和子に何て言われるやら。いくら嬉しくても飲みすぎですからねっ。さあさあ、もうお開きにして、えーと、嘉人君は貴和子の部屋でいいわね。」
先に入浴して出てきた貴和子の母・和子の目に映ったのは、今にも崩れそうな桂木と、ヘラヘラ笑いながらも徳利を傾けている夫の姿だった。
桂木の限界に気づいた和子は、口は緩んでいるが眉を顰めた夫を無視して、桂木を貴和子の部屋まで案内した。
「ヒェック、ええ?い、いいんっすか?……貴和子ちゃんの部屋?」
「もちろんよ。貴和子なら文句なんて言やぁしないわよ。まあ吐くんならトイレに行ってね。さすがにベッドだと怒られちゃうわ。」
「べ、ベッド~?き、貴和子ちゃんのベッド、よろ、よろしいんでしょうかぁ?」
「プッ、嘉人君、酔っ払うと可笑しいわね。大丈夫だってぇ、ね、服は父さんので着てないのを用意したから着替えて。あとはごゆっくり。」
「……あああ、すみません!ありがとうございます!おやすみなひゃい!」
2階にある貴和子の部屋に向かうまで、3分もかかった桂木。一段一段が慎重である。なんせ視界がボヤけているのだから。
階段を上がってすぐ左手に見えるドアの向こうに、貴和子の世界が広がるらしい。あれこれもてなしてくれた貴和子の母に、最敬礼をして、桂木は早速ドアを開け、部屋の中を見渡した。
といっても、本当にフラフラ状態で、何度瞬きしても視界はクリーンに戻らない。終いには、ベッドに足をつまづかせ、そのままダイブして深い眠りについてしまった桂木は、翌朝、酷い喉の渇きと頭痛に苛まれ、目覚めるのであった。
そんな桂木の様子を、貴和子は母からのメールで知っていた。
ちょうど、健太と別れて、マンションの集合玄関の鍵を開けた時だ。
(……はぁーー、桂木さん、明日から残業続きなのに……私がいらないことを吹き込んだのが後の祭りだわ。)
婚約が決まってからの桂木のスキンシップは、並のものではなかった。貴和子と交際するまでのスキンシップが可愛くて仕方ないと思えるほど、それは職場では過激だった。
ランチは必ず一緒にしたがり、貴和子から口に運ばれるのを待つ。貴和子の仕事リストには男との接触がないか入念なチェックが入る。エレベーター内や階段で会うと、人目も弁えずにキスをする。腰に手を回して執拗に触る……などなど、職場にあってはならない景観を作っていた。
それに嫌気をさした本部長。このままでは、職場の空気が悪くなるし、貴和子の仕事にも難である。
だから、しばらくの間、桂木にはプロジェクトを作らせようということになったのだ。
それは貴和子の耳にも入り、本部長直々に『少しは自分を労わりなさい』と言われたのである。
健太のことを、相談したいのに、明日もまともに会えない。
いや、逆に相談などするべきではないのだろう。
貴和子は一瞬ぶるっと震えた。
(そうなのだ。桂木の逆鱗に触れるのは間違いない。絶対に秘密だ。)
桂木も、割とアルコールには強いほうだが、やはり日本酒を武器にした酒豪、安田貴之には敵わなかった。
誰かと好きな酒を共にできるのが嬉しいのか、貴和子の実父・貴之は未来の婿の盃が空くことを許さなかった。
飲めば注がれ、飲まねば勧められ、桂木は酩酊状態となった。
「まあまあ、あなた、やめてくださいよ。貴和子に何て言われるやら。いくら嬉しくても飲みすぎですからねっ。さあさあ、もうお開きにして、えーと、嘉人君は貴和子の部屋でいいわね。」
先に入浴して出てきた貴和子の母・和子の目に映ったのは、今にも崩れそうな桂木と、ヘラヘラ笑いながらも徳利を傾けている夫の姿だった。
桂木の限界に気づいた和子は、口は緩んでいるが眉を顰めた夫を無視して、桂木を貴和子の部屋まで案内した。
「ヒェック、ええ?い、いいんっすか?……貴和子ちゃんの部屋?」
「もちろんよ。貴和子なら文句なんて言やぁしないわよ。まあ吐くんならトイレに行ってね。さすがにベッドだと怒られちゃうわ。」
「べ、ベッド~?き、貴和子ちゃんのベッド、よろ、よろしいんでしょうかぁ?」
「プッ、嘉人君、酔っ払うと可笑しいわね。大丈夫だってぇ、ね、服は父さんので着てないのを用意したから着替えて。あとはごゆっくり。」
「……あああ、すみません!ありがとうございます!おやすみなひゃい!」
2階にある貴和子の部屋に向かうまで、3分もかかった桂木。一段一段が慎重である。なんせ視界がボヤけているのだから。
階段を上がってすぐ左手に見えるドアの向こうに、貴和子の世界が広がるらしい。あれこれもてなしてくれた貴和子の母に、最敬礼をして、桂木は早速ドアを開け、部屋の中を見渡した。
といっても、本当にフラフラ状態で、何度瞬きしても視界はクリーンに戻らない。終いには、ベッドに足をつまづかせ、そのままダイブして深い眠りについてしまった桂木は、翌朝、酷い喉の渇きと頭痛に苛まれ、目覚めるのであった。
そんな桂木の様子を、貴和子は母からのメールで知っていた。
ちょうど、健太と別れて、マンションの集合玄関の鍵を開けた時だ。
(……はぁーー、桂木さん、明日から残業続きなのに……私がいらないことを吹き込んだのが後の祭りだわ。)
婚約が決まってからの桂木のスキンシップは、並のものではなかった。貴和子と交際するまでのスキンシップが可愛くて仕方ないと思えるほど、それは職場では過激だった。
ランチは必ず一緒にしたがり、貴和子から口に運ばれるのを待つ。貴和子の仕事リストには男との接触がないか入念なチェックが入る。エレベーター内や階段で会うと、人目も弁えずにキスをする。腰に手を回して執拗に触る……などなど、職場にあってはならない景観を作っていた。
それに嫌気をさした本部長。このままでは、職場の空気が悪くなるし、貴和子の仕事にも難である。
だから、しばらくの間、桂木にはプロジェクトを作らせようということになったのだ。
それは貴和子の耳にも入り、本部長直々に『少しは自分を労わりなさい』と言われたのである。
健太のことを、相談したいのに、明日もまともに会えない。
いや、逆に相談などするべきではないのだろう。
貴和子は一瞬ぶるっと震えた。
(そうなのだ。桂木の逆鱗に触れるのは間違いない。絶対に秘密だ。)
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる