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ep.34
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貴和子が鼻息を荒くさせている頃、桂木は安田家で足をもつれさせていた。
桂木も、割とアルコールには強いほうだが、やはり日本酒を武器にした酒豪、安田貴之には敵わなかった。
誰かと好きな酒を共にできるのが嬉しいのか、貴和子の実父・貴之は未来の婿の盃が空くことを許さなかった。
飲めば注がれ、飲まねば勧められ、桂木は酩酊状態となった。
「まあまあ、あなた、やめてくださいよ。貴和子に何て言われるやら。いくら嬉しくても飲みすぎですからねっ。さあさあ、もうお開きにして、えーと、嘉人君は貴和子の部屋でいいわね。」
先に入浴して出てきた貴和子の母・和子の目に映ったのは、今にも崩れそうな桂木と、ヘラヘラ笑いながらも徳利を傾けている夫の姿だった。
桂木の限界に気づいた和子は、口は緩んでいるが眉を顰めた夫を無視して、桂木を貴和子の部屋まで案内した。
「ヒェック、ええ?い、いいんっすか?……貴和子ちゃんの部屋?」
「もちろんよ。貴和子なら文句なんて言やぁしないわよ。まあ吐くんならトイレに行ってね。さすがにベッドだと怒られちゃうわ。」
「べ、ベッド~?き、貴和子ちゃんのベッド、よろ、よろしいんでしょうかぁ?」
「プッ、嘉人君、酔っ払うと可笑しいわね。大丈夫だってぇ、ね、服は父さんので着てないのを用意したから着替えて。あとはごゆっくり。」
「……あああ、すみません!ありがとうございます!おやすみなひゃい!」
2階にある貴和子の部屋に向かうまで、3分もかかった桂木。一段一段が慎重である。なんせ視界がボヤけているのだから。
階段を上がってすぐ左手に見えるドアの向こうに、貴和子の世界が広がるらしい。あれこれもてなしてくれた貴和子の母に、最敬礼をして、桂木は早速ドアを開け、部屋の中を見渡した。
といっても、本当にフラフラ状態で、何度瞬きしても視界はクリーンに戻らない。終いには、ベッドに足をつまづかせ、そのままダイブして深い眠りについてしまった桂木は、翌朝、酷い喉の渇きと頭痛に苛まれ、目覚めるのであった。
そんな桂木の様子を、貴和子は母からのメールで知っていた。
ちょうど、健太と別れて、マンションの集合玄関の鍵を開けた時だ。
(……はぁーー、桂木さん、明日から残業続きなのに……私がいらないことを吹き込んだのが後の祭りだわ。)
婚約が決まってからの桂木のスキンシップは、並のものではなかった。貴和子と交際するまでのスキンシップが可愛くて仕方ないと思えるほど、それは職場では過激だった。
ランチは必ず一緒にしたがり、貴和子から口に運ばれるのを待つ。貴和子の仕事リストには男との接触がないか入念なチェックが入る。エレベーター内や階段で会うと、人目も弁えずにキスをする。腰に手を回して執拗に触る……などなど、職場にあってはならない景観を作っていた。
それに嫌気をさした本部長。このままでは、職場の空気が悪くなるし、貴和子の仕事にも難である。
だから、しばらくの間、桂木にはプロジェクトを作らせようということになったのだ。
それは貴和子の耳にも入り、本部長直々に『少しは自分を労わりなさい』と言われたのである。
健太のことを、相談したいのに、明日もまともに会えない。
いや、逆に相談などするべきではないのだろう。
貴和子は一瞬ぶるっと震えた。
(そうなのだ。桂木の逆鱗に触れるのは間違いない。絶対に秘密だ。)
桂木も、割とアルコールには強いほうだが、やはり日本酒を武器にした酒豪、安田貴之には敵わなかった。
誰かと好きな酒を共にできるのが嬉しいのか、貴和子の実父・貴之は未来の婿の盃が空くことを許さなかった。
飲めば注がれ、飲まねば勧められ、桂木は酩酊状態となった。
「まあまあ、あなた、やめてくださいよ。貴和子に何て言われるやら。いくら嬉しくても飲みすぎですからねっ。さあさあ、もうお開きにして、えーと、嘉人君は貴和子の部屋でいいわね。」
先に入浴して出てきた貴和子の母・和子の目に映ったのは、今にも崩れそうな桂木と、ヘラヘラ笑いながらも徳利を傾けている夫の姿だった。
桂木の限界に気づいた和子は、口は緩んでいるが眉を顰めた夫を無視して、桂木を貴和子の部屋まで案内した。
「ヒェック、ええ?い、いいんっすか?……貴和子ちゃんの部屋?」
「もちろんよ。貴和子なら文句なんて言やぁしないわよ。まあ吐くんならトイレに行ってね。さすがにベッドだと怒られちゃうわ。」
「べ、ベッド~?き、貴和子ちゃんのベッド、よろ、よろしいんでしょうかぁ?」
「プッ、嘉人君、酔っ払うと可笑しいわね。大丈夫だってぇ、ね、服は父さんので着てないのを用意したから着替えて。あとはごゆっくり。」
「……あああ、すみません!ありがとうございます!おやすみなひゃい!」
2階にある貴和子の部屋に向かうまで、3分もかかった桂木。一段一段が慎重である。なんせ視界がボヤけているのだから。
階段を上がってすぐ左手に見えるドアの向こうに、貴和子の世界が広がるらしい。あれこれもてなしてくれた貴和子の母に、最敬礼をして、桂木は早速ドアを開け、部屋の中を見渡した。
といっても、本当にフラフラ状態で、何度瞬きしても視界はクリーンに戻らない。終いには、ベッドに足をつまづかせ、そのままダイブして深い眠りについてしまった桂木は、翌朝、酷い喉の渇きと頭痛に苛まれ、目覚めるのであった。
そんな桂木の様子を、貴和子は母からのメールで知っていた。
ちょうど、健太と別れて、マンションの集合玄関の鍵を開けた時だ。
(……はぁーー、桂木さん、明日から残業続きなのに……私がいらないことを吹き込んだのが後の祭りだわ。)
婚約が決まってからの桂木のスキンシップは、並のものではなかった。貴和子と交際するまでのスキンシップが可愛くて仕方ないと思えるほど、それは職場では過激だった。
ランチは必ず一緒にしたがり、貴和子から口に運ばれるのを待つ。貴和子の仕事リストには男との接触がないか入念なチェックが入る。エレベーター内や階段で会うと、人目も弁えずにキスをする。腰に手を回して執拗に触る……などなど、職場にあってはならない景観を作っていた。
それに嫌気をさした本部長。このままでは、職場の空気が悪くなるし、貴和子の仕事にも難である。
だから、しばらくの間、桂木にはプロジェクトを作らせようということになったのだ。
それは貴和子の耳にも入り、本部長直々に『少しは自分を労わりなさい』と言われたのである。
健太のことを、相談したいのに、明日もまともに会えない。
いや、逆に相談などするべきではないのだろう。
貴和子は一瞬ぶるっと震えた。
(そうなのだ。桂木の逆鱗に触れるのは間違いない。絶対に秘密だ。)
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