僕と生きてください

koyumi

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ep.37

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 桂木嘉人は立ち上がれなくなっていた。
 状況を察した本部長は、ようやくその口を開いた。

「……申し遅れました。本部長の丸川です。こちらは部下の桂木です。貴方との契約は、誠に残念ですが白紙に戻します。不服がおありのようですが、文書にして送付致しますので、今日はお引き取りください。」

「なっ、あんたが上司だったのか?女が上司か……ふん、なかなかやるじゃないか。こういう社風は嫌いじゃない。だけど、カチコチ頭と仕事をするのはうちだって御免だ。ったく、急いで来たのに何だっていうんだ。ほんと、冷めざめするわっ。」

 竹中健太はそう言い投げ、会議室を出て行った。
 床にはまだ座り込んだままの桂木がいる。

「……まぁ、こちらの落ち度でもあるわ。あんな性分だとは思わなかったし。まさか、ね……公私は別けるべきだけど、あんな態度だと無理そうね……桂木、あと10分したら別のクリエイター探すから本部長室に来なさいよ。」

 桂木の返事を待たず、本部長は出て行った。

(貴和子、ちゃん……)

 桂木の脳内は悲しみに暮れていた。

 悔しさよりも、貴和子が黙っていたことが悲しくて仕方なかった。


 
 その頃、貴和子も出勤し、郵便局に切手購入に出ていた。
 学校から徒歩5分先にある郵便局で、月に一度切手を購入する。その時間を、貴和子は結構好きだった。
 ずっと事務室に籠っているよりは、たまには外を歩くのも清々しい。この時期の灼熱のアスファルトは、クラクラしそうになるが、それでも街行くOLさんやサラリーマンの姿を見ると、自分も社会の一員なのだと、背筋がシャキッとしてくる。

 用事を済ませ、学校に戻る道中、信号待ちをしていると横断歩道の向こう側に健太を見つけた。

(な、なんであいつが……!)

 貴和子にとって、今一番会いたくない相手だ。

 健太も貴和子に気づいたのか、こちらを見てニヤリと笑った。
 瞬間、背筋がゾッとした貴和子は、信号が青に変わっても動けずにいた。

「やあ、また会ったね。貴和子ちゃん。しかもこんなに早い段階で会えるなんて、ね。」

「ど、どうも……」

 百戦錬磨の恋愛を繰り広げて来た健太と、恋愛初心者の貴和子の対面は、どう考えても健太に分があった。

「……怖がってんの?もしかして。キスした仲なのにさっ。」

「なっ、何言っちゃってんですか!?信じられない!」

「真っ赤な顔しちゃってさ、ほんと可愛いよね。貴和子ちゃんは。婚約者さんが羨ましいよ。」

「やめて下さいっ。が、関わらないで下さいっ!」

「いやいや、俺より貴和子ちゃんの視線がやばいっしょ?めちゃくちゃ俺のこと意識してるし。」

 確かに貴和子は意識している。
 だが、それは健太を否定したいがためのアンテナを張ってる為だ。

「ねえ、今から戻るの?まだ時間あるんじゃない?ちょっとジュースでも飲もうよ。」


 
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