16 / 89
喫茶店
しおりを挟む
諭と別居してからも、私は足繁くあの喫茶店に通っていた。
もう1ヶ月も諭に会っていない。
スッキリするかと思ったが、意外とそうでもない。
原因は分かっている。
渋沢部長のせいだ。
あれからも度々私の前に現れ、何かと誘い文句を言ってくる。
私以外の部下にも声をかけてはいるけれど、『家族ごっこ』を口にした時の顔を思い出すと、やっぱり気味が悪くて仕方ない。
部署替えをお願いすべく、女性部長がいる広報部に異動願いを出してはいる。
だが、そんなにうまくいきっこないだろう。
今日は定時より1時間以上遅く仕事が終わった為、喫茶店に寄る時間も遅くなってしまった。
今日は私の好きなパスタメニューがあるからと昨日言われて、楽しみにしていたが、もう売り切れてしまっただろうか?
「こんばんわー」
と、疲れた声で割と重い扉を開ける。
「おかえりー」
と、優しいマスターの声がした……はずだったが、いや、違う……若い?
「おかえり依子ちゃん。今日は遅かったね。」
最初の『おかえり』の声の主を見る前に、後ろからいつものマスターの声がして振り返った。
その顔はやけにニヤついてて、その理由は私を通り越して見える人にあるとわかる。
「まあまあ、座ってよ。ほら、いつもの席空いてるよ。」
と、カウンターの端っこまで誘導される。
顔、上げれない。
できれば、帰りたい。
何で?
何で?
どうして?
「依子、久しぶり。」
二度と聞きたくない声だった。
それなのに、何故か安心してしまう自分に腹が立つ。
「……いつものコーヒーだけ下さい。」
声を絞り出して言った。
「えええ!!依子ちゃん、今日のメニュー楽しみにしてたじゃん。ほら、すぐ出来るから、ね。」
マスターにしては張りのある声に、ちょっとイラっとしてしまう。
私は穏やかなあの声に、癒されていたのに。
「あれ?依子ちゃん、今日は遅かったんだねえ。どう?新居の住み心地は。」
ずっと俯いていたら、いつの間にかあの部屋を紹介してくれた北見さんが隣にいた。
北見さんを見た時、右頬に強い視線を感じた。
「ありがとうございます。とっても快適ですよ。ほんとに、感謝してます。」
「そうかそうか、それなら安心したよ。あそこならセキュリティもいいしね。」
「はい。それは一番大事ですね。一人暮らしなんで、有難いですよ。」
《カチャン》
急に食器の音がして、思わずその方を見てしまった。
やっぱり……諭が、いる。
北見さんは、諭を知っているのかどうかわからないが、私の部屋について、前の住人がどうだとか場所はあの店が近いから便利だとか、どう考えても、諭にヒントを与えているとしか思えない話をする。
その間強い視線を感じたが、諭もやる事があるのか手元をいろいろ動かしたりしていたようだ。
「はい。依子ちゃん、おまちどおさま。」
席について15分程してから、マスターがパスタを盛ったお皿を私の前に置いた。
それを機に、北見さんは「じゃ、またね。」と言って店を出たが、私は益々居心地が悪くなった。
だって、このパスタは、どう見ても諭が作ったものだったから。
もう1ヶ月も諭に会っていない。
スッキリするかと思ったが、意外とそうでもない。
原因は分かっている。
渋沢部長のせいだ。
あれからも度々私の前に現れ、何かと誘い文句を言ってくる。
私以外の部下にも声をかけてはいるけれど、『家族ごっこ』を口にした時の顔を思い出すと、やっぱり気味が悪くて仕方ない。
部署替えをお願いすべく、女性部長がいる広報部に異動願いを出してはいる。
だが、そんなにうまくいきっこないだろう。
今日は定時より1時間以上遅く仕事が終わった為、喫茶店に寄る時間も遅くなってしまった。
今日は私の好きなパスタメニューがあるからと昨日言われて、楽しみにしていたが、もう売り切れてしまっただろうか?
「こんばんわー」
と、疲れた声で割と重い扉を開ける。
「おかえりー」
と、優しいマスターの声がした……はずだったが、いや、違う……若い?
「おかえり依子ちゃん。今日は遅かったね。」
最初の『おかえり』の声の主を見る前に、後ろからいつものマスターの声がして振り返った。
その顔はやけにニヤついてて、その理由は私を通り越して見える人にあるとわかる。
「まあまあ、座ってよ。ほら、いつもの席空いてるよ。」
と、カウンターの端っこまで誘導される。
顔、上げれない。
できれば、帰りたい。
何で?
何で?
どうして?
「依子、久しぶり。」
二度と聞きたくない声だった。
それなのに、何故か安心してしまう自分に腹が立つ。
「……いつものコーヒーだけ下さい。」
声を絞り出して言った。
「えええ!!依子ちゃん、今日のメニュー楽しみにしてたじゃん。ほら、すぐ出来るから、ね。」
マスターにしては張りのある声に、ちょっとイラっとしてしまう。
私は穏やかなあの声に、癒されていたのに。
「あれ?依子ちゃん、今日は遅かったんだねえ。どう?新居の住み心地は。」
ずっと俯いていたら、いつの間にかあの部屋を紹介してくれた北見さんが隣にいた。
北見さんを見た時、右頬に強い視線を感じた。
「ありがとうございます。とっても快適ですよ。ほんとに、感謝してます。」
「そうかそうか、それなら安心したよ。あそこならセキュリティもいいしね。」
「はい。それは一番大事ですね。一人暮らしなんで、有難いですよ。」
《カチャン》
急に食器の音がして、思わずその方を見てしまった。
やっぱり……諭が、いる。
北見さんは、諭を知っているのかどうかわからないが、私の部屋について、前の住人がどうだとか場所はあの店が近いから便利だとか、どう考えても、諭にヒントを与えているとしか思えない話をする。
その間強い視線を感じたが、諭もやる事があるのか手元をいろいろ動かしたりしていたようだ。
「はい。依子ちゃん、おまちどおさま。」
席について15分程してから、マスターがパスタを盛ったお皿を私の前に置いた。
それを機に、北見さんは「じゃ、またね。」と言って店を出たが、私は益々居心地が悪くなった。
だって、このパスタは、どう見ても諭が作ったものだったから。
2
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる