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諭の思い
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*諭側の視点です。
「あぁ、北見さん、よかった、まだいらっしゃったんですね。」
マスターに頼まれた封筒を差し出す。
やけに北見さんが後ろを気にしている。
「や、やぁ、諭くん。あぁ、マスターからだね。ありがとう助かったよ。じゃ、確かに受け取ったから私はこれで…」
「あ、はい。すみません。お食事中に。」
一応お辞儀をして、店に戻ろうとした。
が、頭を上げて見えた顔に、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
ーーあいつは……!?
「北見さん、柴坂さんがお見えになってると聞こえた…もの、ですから……え?」
「あわわわわっ、純君っ、ま、まさか依子ちゃんは……は?しまった!!!いや、その……あぁ、なんてことだ、私としたことがっ。」
やっぱり。あの時、依子の肩を抱いた男だ。
確か今日は息子の友人が恋人を紹介してくれると、北見さんは楽しみにしていた。ということは、つまり、ここでこの男の恋人を紹介されたわけで、今耳にした“依子ちゃん”がその恋人なわけで……。
「北見さん、こちらは?」
そうか、この男がいるから依子は俺と離婚したかったのか?
俺と別れてこいつと……!
「俺は依子の夫だ。依子は俺の妻だ。」
「あ、あなたが?でも、どうしてここに……。」
「どうして?さあ、それはこっちのセリフだよ。依子は俺と結婚してるんだ。俺以外のやつの恋人になどなるわけがない!俺の妻に手を出すんじゃねえ!」
俺はそう言うと、店内に入り、依子を探した。
ー嘘であってほしい。
ー依子違いであればいい。
そんな虚しい希望を抱きながら、依子が居なければいいと見渡した。
だが、見つけてしまった。
その瞬間、一気に頭に血が上った。ここがどこかなんてどうでも良かった。依子が知らない人のように思えて怖くなった。だから、必死に取り戻したくて、なりふり構わずに攫った。
北見さんの声が聞こえたが、内容はどうでもよかった。
震えていた。寒かった。
「諭……。どうして、怒っているの?」
愚問だ。
わからないのか?
胃の中まで気分が悪くなってきた。
あいつと付き合ってるかどうかわからないとまで言う。
あいつは恋人として北見さんに紹介したんだ、それなりに自信があるからだろ?
「……諭なら無理なことを高原さんならやってくれるわ。諭とは無理なことを高原さんとならできる。」
って、それは聞き捨てならない。
俺には無理だがあいつにはできることがあるって。
酷い言葉を吐いた。
だが、依子の全てを知っているのは俺だ。
幼い頃から見てきたんだ。
そばにいたんだ。
俺以外の男を、依子が好きになったとしても、諦めなかった。
狡いことや情けないこと、人間として最低なレベルのことをやってきた。
依子に責められるのは当たり前だ。
俺は、そうして依子が俺を思っていてくれることが癖になっていた。
他の女に手を出した。
依子が怒るとわかっていながら。
妙な自信があった。
周りはみんな俺の味方だったから。
依子が離れていくわけがないと思っていた。
親も兄弟も知っているんだ。
俺が、ずっと依子を好きなことを。
隠さなかった。必ず結婚すると決めていた。
だが、そんな俺の思いはただの執着で、依子を不幸にしているとマスターこと、柴坂さんに言われた。
彼は、奥さんを早くに亡くしていたから。いつも元気そうにしていたが、その時は瞬く間に訪れ、目の前が一瞬で暗闇になったという。
詳しくは聞かないが、「時すでに遅しとは、僕のことだよ。」と、小さく呟いた言葉は耳に残った。
もし、このまま別居の状態で、依子がこの世にいなくなったとしたら……と考えたら恐ろしい。
共白髪……とはよくいったもの。
依子をマンションに送る。
夜道が極度に苦手なことを知っているし、あの事件の日に荒れた自分がいる。守れなかった悔しさに。
依子の部屋に行きたい。
無理な願いだろうか?
依子の肌を感じたい。
無駄な欲望だろうか?
あいつがマンションから出てきた。
俺は瞬時に悟った。
そして、思うより先に口にしていた。
「離婚しよう」って。
依子の心が離れていくなど、耐えられない。
「あぁ、北見さん、よかった、まだいらっしゃったんですね。」
マスターに頼まれた封筒を差し出す。
やけに北見さんが後ろを気にしている。
「や、やぁ、諭くん。あぁ、マスターからだね。ありがとう助かったよ。じゃ、確かに受け取ったから私はこれで…」
「あ、はい。すみません。お食事中に。」
一応お辞儀をして、店に戻ろうとした。
が、頭を上げて見えた顔に、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
ーーあいつは……!?
「北見さん、柴坂さんがお見えになってると聞こえた…もの、ですから……え?」
「あわわわわっ、純君っ、ま、まさか依子ちゃんは……は?しまった!!!いや、その……あぁ、なんてことだ、私としたことがっ。」
やっぱり。あの時、依子の肩を抱いた男だ。
確か今日は息子の友人が恋人を紹介してくれると、北見さんは楽しみにしていた。ということは、つまり、ここでこの男の恋人を紹介されたわけで、今耳にした“依子ちゃん”がその恋人なわけで……。
「北見さん、こちらは?」
そうか、この男がいるから依子は俺と離婚したかったのか?
俺と別れてこいつと……!
「俺は依子の夫だ。依子は俺の妻だ。」
「あ、あなたが?でも、どうしてここに……。」
「どうして?さあ、それはこっちのセリフだよ。依子は俺と結婚してるんだ。俺以外のやつの恋人になどなるわけがない!俺の妻に手を出すんじゃねえ!」
俺はそう言うと、店内に入り、依子を探した。
ー嘘であってほしい。
ー依子違いであればいい。
そんな虚しい希望を抱きながら、依子が居なければいいと見渡した。
だが、見つけてしまった。
その瞬間、一気に頭に血が上った。ここがどこかなんてどうでも良かった。依子が知らない人のように思えて怖くなった。だから、必死に取り戻したくて、なりふり構わずに攫った。
北見さんの声が聞こえたが、内容はどうでもよかった。
震えていた。寒かった。
「諭……。どうして、怒っているの?」
愚問だ。
わからないのか?
胃の中まで気分が悪くなってきた。
あいつと付き合ってるかどうかわからないとまで言う。
あいつは恋人として北見さんに紹介したんだ、それなりに自信があるからだろ?
「……諭なら無理なことを高原さんならやってくれるわ。諭とは無理なことを高原さんとならできる。」
って、それは聞き捨てならない。
俺には無理だがあいつにはできることがあるって。
酷い言葉を吐いた。
だが、依子の全てを知っているのは俺だ。
幼い頃から見てきたんだ。
そばにいたんだ。
俺以外の男を、依子が好きになったとしても、諦めなかった。
狡いことや情けないこと、人間として最低なレベルのことをやってきた。
依子に責められるのは当たり前だ。
俺は、そうして依子が俺を思っていてくれることが癖になっていた。
他の女に手を出した。
依子が怒るとわかっていながら。
妙な自信があった。
周りはみんな俺の味方だったから。
依子が離れていくわけがないと思っていた。
親も兄弟も知っているんだ。
俺が、ずっと依子を好きなことを。
隠さなかった。必ず結婚すると決めていた。
だが、そんな俺の思いはただの執着で、依子を不幸にしているとマスターこと、柴坂さんに言われた。
彼は、奥さんを早くに亡くしていたから。いつも元気そうにしていたが、その時は瞬く間に訪れ、目の前が一瞬で暗闇になったという。
詳しくは聞かないが、「時すでに遅しとは、僕のことだよ。」と、小さく呟いた言葉は耳に残った。
もし、このまま別居の状態で、依子がこの世にいなくなったとしたら……と考えたら恐ろしい。
共白髪……とはよくいったもの。
依子をマンションに送る。
夜道が極度に苦手なことを知っているし、あの事件の日に荒れた自分がいる。守れなかった悔しさに。
依子の部屋に行きたい。
無理な願いだろうか?
依子の肌を感じたい。
無駄な欲望だろうか?
あいつがマンションから出てきた。
俺は瞬時に悟った。
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依子の心が離れていくなど、耐えられない。
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