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離婚しました
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「っ、依子ちゃん!!よく来たわねぇ……あぁほんと、辛かったでしょう。」
届出をした後、一応挨拶はしておくべきだと諭の実家に行った。
行く前に電話をかけて在宅かどうかを確認してもらった。だが、その時じゃなくていいのに「離婚したから」と告げた諭のおかげで、玄関ドアを開けるなり、お義母さんに手を握られ、泣かれてしまった。
「あの、お義母さん……。すみません。ほんとに。」
なんだか申し訳なくなり、頭が上がらない。もっと丁寧に、今までのお礼を言いたかったのに、大した礼儀ができなかった。
「やめろよ、母さん。今だけのことだから、な?依子。」
「ったく、何わけのわからないこと言ってるのよっ。あんたが馬鹿なことするからでしょ?いい?依子ちゃん、復縁しようなんて考えちゃだめよ。こういう浮気癖ってのはなかなか治らないんだから。」
どうやら離婚しても、お義母さんは私の味方だ。まあ、本音はわからないけれど。お義母さんのいる空間は、やっぱり素直に居心地がいいなと思える。
「ちぇっ、なんだよっ。俺は依子を諦めねえからな。」
「まだ言ってる。ったくせいぜい頑張んな。でも、依子ちゃんの気持ちが1番なんだからね、傷つけたのはあんたなんだから、わかってるね?」
諭はお義母さんからそんな話ばかりされ、居心地が悪くなったようで、すぐに帰るべく外に出た。もちろん私を忘れずに。
いつの間にか日も暮れはじめ、空が夕焼けに包まれていく。
帰宅するとばかり思っていたが、諭が向かった場所はあの喫茶店だった。
「今日もバイトなんだ。仕事は有給とったんだけど、ここだけは行かなきゃいけない気がして。」
諭はそう言いながらお店のドアを開けた。
「やあ、いらっしゃい。あ、諭くんか……あれ?あぁ、依子ちゃん、久しぶりだね。」
ほんとに久しぶり。諭がバイトで入るようになってから、私は一度もここに来ていないから。
マスター、変わらないな。今日は常連客さんはまだ来ていないみたい。
「マスター、俺達、今日離婚しました。いろいろと、アドバイスいただいてありがとうございました。」
突然諭は姿勢を正し、マスターに離婚の報告をした。
やだ、急すぎ。
突っ立ってるままの私が恥ずかしい。
「そうか、ついに……。だけど2人を見ていると、とても離婚したふうには見えないな。特に諭くんは。」
事情はわかってますとばかりに、微笑みながら相槌を打つマスター。
「もちろんですよ。これから再婚に向けて攻めていくつもりですから。」
得意気に私の頭を撫でながら決意表明する諭。
は?いやいや、やめて。
こんなとこにまで諭バリアを張らないで。元々は、私にとっての癒しの場なのに。
「じゃあ、俺は今から店あるから。依子は座って待ってて。」
憮然とした私を残し、諭は店の奥に入って行った。
「はぁ……。」
思わずため息を漏らす私に、「くっくっくっ」とマスターは笑う。
だめだ。ここはもう、諭のテリトリーなのだ。
困惑し続ける私に気付いたのか、笑い終えたマスターが身をかがめ、小さな声で囁いた。諭がいないうちに、ということだろう。
きっと、高原さんのことだ。
「彼は思ったより時間がかかりそうだ。」
やっぱり。
高原さんはあのディナーの後、マンションを出てから北見さんとここに来たのだ。
「彼は仕事はできるがこっちはトンと苦手らしくてね。どうも不器用なようだ。」
小指を立てる仕草に、若干年代を感じる。
「諭くんはやる気満々だが、依子ちゃんは依子ちゃんのペースを守るんだよ。まぁ、誰を選んでも選ばなくても、君の気持ちは君のものだ。まずは自分を大切にな。」
「わかりました。」
ごくごく小さな声で話すそれはまるで密談だ。
でも、実際そうなんだ。
諭の勢いに、思わず身を任せそうになるけれど、まだ今は早い。
とにかく今日から私は独身なのだ。
5年間、悩み苦しんだ。よく頑張ったと褒めてあげたい。
私の人生はこれからなんだ。
「マスター、“原点”下さい。」
新しい人生をアルコールではじめるつもりはない。
私は私らしくいよう。
この店のオリジナルブレンド。メニューNo.1原点を注文した。
届出をした後、一応挨拶はしておくべきだと諭の実家に行った。
行く前に電話をかけて在宅かどうかを確認してもらった。だが、その時じゃなくていいのに「離婚したから」と告げた諭のおかげで、玄関ドアを開けるなり、お義母さんに手を握られ、泣かれてしまった。
「あの、お義母さん……。すみません。ほんとに。」
なんだか申し訳なくなり、頭が上がらない。もっと丁寧に、今までのお礼を言いたかったのに、大した礼儀ができなかった。
「やめろよ、母さん。今だけのことだから、な?依子。」
「ったく、何わけのわからないこと言ってるのよっ。あんたが馬鹿なことするからでしょ?いい?依子ちゃん、復縁しようなんて考えちゃだめよ。こういう浮気癖ってのはなかなか治らないんだから。」
どうやら離婚しても、お義母さんは私の味方だ。まあ、本音はわからないけれど。お義母さんのいる空間は、やっぱり素直に居心地がいいなと思える。
「ちぇっ、なんだよっ。俺は依子を諦めねえからな。」
「まだ言ってる。ったくせいぜい頑張んな。でも、依子ちゃんの気持ちが1番なんだからね、傷つけたのはあんたなんだから、わかってるね?」
諭はお義母さんからそんな話ばかりされ、居心地が悪くなったようで、すぐに帰るべく外に出た。もちろん私を忘れずに。
いつの間にか日も暮れはじめ、空が夕焼けに包まれていく。
帰宅するとばかり思っていたが、諭が向かった場所はあの喫茶店だった。
「今日もバイトなんだ。仕事は有給とったんだけど、ここだけは行かなきゃいけない気がして。」
諭はそう言いながらお店のドアを開けた。
「やあ、いらっしゃい。あ、諭くんか……あれ?あぁ、依子ちゃん、久しぶりだね。」
ほんとに久しぶり。諭がバイトで入るようになってから、私は一度もここに来ていないから。
マスター、変わらないな。今日は常連客さんはまだ来ていないみたい。
「マスター、俺達、今日離婚しました。いろいろと、アドバイスいただいてありがとうございました。」
突然諭は姿勢を正し、マスターに離婚の報告をした。
やだ、急すぎ。
突っ立ってるままの私が恥ずかしい。
「そうか、ついに……。だけど2人を見ていると、とても離婚したふうには見えないな。特に諭くんは。」
事情はわかってますとばかりに、微笑みながら相槌を打つマスター。
「もちろんですよ。これから再婚に向けて攻めていくつもりですから。」
得意気に私の頭を撫でながら決意表明する諭。
は?いやいや、やめて。
こんなとこにまで諭バリアを張らないで。元々は、私にとっての癒しの場なのに。
「じゃあ、俺は今から店あるから。依子は座って待ってて。」
憮然とした私を残し、諭は店の奥に入って行った。
「はぁ……。」
思わずため息を漏らす私に、「くっくっくっ」とマスターは笑う。
だめだ。ここはもう、諭のテリトリーなのだ。
困惑し続ける私に気付いたのか、笑い終えたマスターが身をかがめ、小さな声で囁いた。諭がいないうちに、ということだろう。
きっと、高原さんのことだ。
「彼は思ったより時間がかかりそうだ。」
やっぱり。
高原さんはあのディナーの後、マンションを出てから北見さんとここに来たのだ。
「彼は仕事はできるがこっちはトンと苦手らしくてね。どうも不器用なようだ。」
小指を立てる仕草に、若干年代を感じる。
「諭くんはやる気満々だが、依子ちゃんは依子ちゃんのペースを守るんだよ。まぁ、誰を選んでも選ばなくても、君の気持ちは君のものだ。まずは自分を大切にな。」
「わかりました。」
ごくごく小さな声で話すそれはまるで密談だ。
でも、実際そうなんだ。
諭の勢いに、思わず身を任せそうになるけれど、まだ今は早い。
とにかく今日から私は独身なのだ。
5年間、悩み苦しんだ。よく頑張ったと褒めてあげたい。
私の人生はこれからなんだ。
「マスター、“原点”下さい。」
新しい人生をアルコールではじめるつもりはない。
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