36 / 89
出張
しおりを挟む
諭が出張に行くと聞いたのは、私が引っ越さないと電話をした時だった。
何か、慌てているような雰囲気があったのは確かで、このタイミングでの出張に少しだけ違和感はあった。
「依子さん、大事件ですよ。」
何故か私は今、ランチタイムに会社外にいて、おしゃれなパスタを食べている。目の前にいるのは鴨井さん。
際どいラインの服装は相変わらずで、第一印象騙されたなぁって思う。
朝、出勤してすぐに、会社に電話をかけてきて強引に呼び出す術も、変わらないなぁとつくづく思う。でも私は意外と鴨井さんのことが嫌いじゃない。だからこうしてわざわざ時間をさいたのだ。
「事件って、もしかして渋沢さんがまたセクハラしたとか?」
「渋沢?あぁ、あのマヌケな男?知らないわよ、どこで何してるかなんて。それより、事件ってのは、諭くんのことよ。」
「諭のこと?……」
フォークでパスタを絡める手を止めた。
「さっきも聞いたけど、離婚届、出したのよね?」
グッと身を乗り出して私に確認をとる鴨井さん。
「……はい。もう、同じ質問3回目ですよ。」
私を見るなりすぐに訊いてきた。「離婚したって本当?」って。肯定すると、次はパスタが運ばれてきて、食べようとする前に「離婚したのよね?」って。そして今度は、パスタを3口程食べた後に。
「わかったわ。間違いないならいいの。依子さん、正解よ。大正解!彼はね……父親になるのよ。」
「…………はい?」
「だから、女を妊娠させてるのよ。もうすぐ産まれるのよ。」
は?何?何が起きてるの?
妊娠?妊娠ってあのお腹に子供がって……。
しかも、もうすぐ生まれるって……!!
「ビックリでしょう。ショックだわよね。幾らなんでも酷いわ。それに、相手の女も産むだなんて。」
鴨井さんが相手の女の文句をたらたら言っていたようだが、私の耳には半分も届かなかった。
どこで聞いたかわからないが、私と諭の離婚を彼女は知り、諭に連絡をしたのだという。そして、何の因果か、偶然にも、その女性と諭の再会場所に鴨井さんが居合わせて盗み聞きしたのだという。
時期的にも、出張と言っていた時と重なるし、離婚届も受理された後だし、諭が彼女と居たことは歴然としている。
「諭くん、何度も何度も確認してたわ。彼女、怒っちゃって、生まれたらすぐにDNA検査でもなんでもしたらいいわ的なこと言ってたし。最後はあきらめて、産んでくださいって言ってたわ。」
もうすぐ産まれるってことは、諭がまだ浮気盛りの頃デキたんだろうし、いつかはこういうことがあるだろうって思ってた。かくいう、目の前で熱論を繰り広げる鴨井さんは、偽の妊娠を盾に私に離婚をせまった過去がある。
次は他人の妊娠を語らなくてはならないこの人の運命を、可哀想だと思ってしまうのは見当違いだろうか?
何か、慌てているような雰囲気があったのは確かで、このタイミングでの出張に少しだけ違和感はあった。
「依子さん、大事件ですよ。」
何故か私は今、ランチタイムに会社外にいて、おしゃれなパスタを食べている。目の前にいるのは鴨井さん。
際どいラインの服装は相変わらずで、第一印象騙されたなぁって思う。
朝、出勤してすぐに、会社に電話をかけてきて強引に呼び出す術も、変わらないなぁとつくづく思う。でも私は意外と鴨井さんのことが嫌いじゃない。だからこうしてわざわざ時間をさいたのだ。
「事件って、もしかして渋沢さんがまたセクハラしたとか?」
「渋沢?あぁ、あのマヌケな男?知らないわよ、どこで何してるかなんて。それより、事件ってのは、諭くんのことよ。」
「諭のこと?……」
フォークでパスタを絡める手を止めた。
「さっきも聞いたけど、離婚届、出したのよね?」
グッと身を乗り出して私に確認をとる鴨井さん。
「……はい。もう、同じ質問3回目ですよ。」
私を見るなりすぐに訊いてきた。「離婚したって本当?」って。肯定すると、次はパスタが運ばれてきて、食べようとする前に「離婚したのよね?」って。そして今度は、パスタを3口程食べた後に。
「わかったわ。間違いないならいいの。依子さん、正解よ。大正解!彼はね……父親になるのよ。」
「…………はい?」
「だから、女を妊娠させてるのよ。もうすぐ産まれるのよ。」
は?何?何が起きてるの?
妊娠?妊娠ってあのお腹に子供がって……。
しかも、もうすぐ生まれるって……!!
「ビックリでしょう。ショックだわよね。幾らなんでも酷いわ。それに、相手の女も産むだなんて。」
鴨井さんが相手の女の文句をたらたら言っていたようだが、私の耳には半分も届かなかった。
どこで聞いたかわからないが、私と諭の離婚を彼女は知り、諭に連絡をしたのだという。そして、何の因果か、偶然にも、その女性と諭の再会場所に鴨井さんが居合わせて盗み聞きしたのだという。
時期的にも、出張と言っていた時と重なるし、離婚届も受理された後だし、諭が彼女と居たことは歴然としている。
「諭くん、何度も何度も確認してたわ。彼女、怒っちゃって、生まれたらすぐにDNA検査でもなんでもしたらいいわ的なこと言ってたし。最後はあきらめて、産んでくださいって言ってたわ。」
もうすぐ産まれるってことは、諭がまだ浮気盛りの頃デキたんだろうし、いつかはこういうことがあるだろうって思ってた。かくいう、目の前で熱論を繰り広げる鴨井さんは、偽の妊娠を盾に私に離婚をせまった過去がある。
次は他人の妊娠を語らなくてはならないこの人の運命を、可哀想だと思ってしまうのは見当違いだろうか?
1
あなたにおすすめの小説
私のことはお気になさらず
みおな
恋愛
侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。
そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。
私のことはお気になさらず。
貴方なんて大嫌い
ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と
いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている
それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる