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偶然
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触れそうで触れない。そんな距離を保ちながら、私と高原さんはいつか歩いた道を行く。
私が住むマンションは、一等地に建っているから、大抵の用事は徒歩圏内で済む。無駄な交通費がかからないから有難い。
「高原さん、いつ帰ってきたの?」
ずっと気になっていたことを聞く。
「それがさ、ピッタリ3ヶ月で帰ってこれたんだ……笑えるよね、いつ帰れるかわからないから焦って告白したのに。」
告白とかストレートに言われると、また言葉が続かなくなる。
「まあ、またいつ呼ばれるかわからないし、所詮サラリーマンだからね。地方勤務だってあるし。」
「……そっか。」
たいした会話も出来ず、マンションの前まで来てしまった。
「早いな。もう着いちゃったか。」
「うん……。」
「じゃ、僕も帰るよ。またね、依子ちゃん。」
「えっ?あ、そ、そうだね。また、またね、高原さん。」
また……なんて、あるのかな?次に会えることなんて、あるのかな?
切なくなってくる……。
結局、高原さんに触れたのはあのラブソファで座った時だけで、微妙な距離を保ったまま別れた。
偶然ではあるけれど、2人を引き合わせた運命の理由を知りたい。
左半身はまだ少しジンジンしていてベッドの中で彼と過ごしたことが蘇ってくる。
久しぶりに体が疼く。
誰かに触れて欲しくて、抱いて欲しくて、だけど誰もいない現実に虚しさがこみ上げてきた。
「……忘れなきゃ。」
依子は起き上がり、ストックしてあるワインを開け、意識がなくなるまで飲んだ。
九州から戻って、この部屋にはお酒の瓶がやたらと増えた。
毎晩少しずつ飲んだ。
酔っ払って記憶がなくなるほどあおるわけじゃないが、依子は以前に比べて随分お酒に強くなった。
「バツイチで酒に強い……鉄壁の女じゃん。」
こうやって、1人で自分の人生にツッコミを入れたりする。
もちろん、笑うのも自分だけ。
情けない、情けないと思いながらも、飲み続け、いつしか眠りについた。
一雨毎に寒くなるとは、この時期言われたもので、その日の雨は、随分冷たかった。
朝から降り続いた雨は、依子が帰宅する頃もまだパラついていた。
夕飯の買い出しに行きたかったが、こうも寒いと早く部屋に帰って布団にくるまっていたくなる。
だが、冷蔵庫の中に、身体を温めてくれるような食べ物は入っていない。
週末、二日酔いで一日中ダラダラと寝ていたことが悔やまれる。
仕方なく、会社から1番近くにあるコンビニでカップ麺を買うことに決め、お店に入った。
お目当の品を購入し、コンビニを出る時には雨は止んでいた。レジが終わってすぐ、たまたま、実家の母から野菜を送ったと電話があり、私は傘をお店に忘れてしまった。
電話を切って、周りの人が傘を持っている姿を見て、初めて気づいた。
「こんな日になんてこと…!」
ボソッと呟いたつもりが、結構な声量だったらしく前を歩いていたカップルが振り向いた。
「あ、すみません」と軽く頭を下げ、今来た道を引き返した。
そして、コンビニが見えてきた時、思わず目を見張った。
ーーどうして……?
私の傘を手にしてこちらに向かってくるのは、明らかに高原さんだ。
「あ、依子ちゃんっ!よかったよかった。この傘、依子ちゃんのだよね?」
間違えるはずがない。水色のラバーの持ち手は、私が後付けしたものだ。
でも、どうして…。
「僕さ、すぐそこのマンションに住んでいるからここのコンビニはよく行くんだ。」
「そ、そうだったんだ。でも、よくわかったね。私の傘。」
「まあ、一時期はよくいた玄関にあるものだからね……。」
「……そう、だね。確かに。」
こんなラバーを付けている人は案外まだ少数派だ。
それに、一時期共に過ごしたんだよね。ほんとに僅かな時間。
「まぁ、これだけ偶然が続くと、面白くなってくるね。」
また高原さんはあの目尻にシワを寄せる笑顔を見せる。
私はこの笑顔に弱いのに。
「……依子ちゃん?」
「あ、ごめんなさい。ほ、本当、何かあるのかな…?すごい偶然だよね。」
私がそう言うと、高原さんは少し切ない顔をした、ように見えた。
「偶然……なのかな。」
「えっ?何?」
とても小さな声でボソッと呟いた高原さんの声は、私には届かなかった。
「いや、なんでもないよ。また、また偶然会えるといいね。」
高原さんはそう言い、片手を上げて私とは反対方向へと歩いて行ってしまった。
返事が出来ずに呆然としていた私も、次々に来るお客さんに気づき、今度こそ帰宅するためにまた来た道を振り返った。
そして2、3歩進んだ時、ガシっと肩を掴まれた。
「ごめん、送って行くよ。」
咄嗟のことに怯えたように振り向いた私は、買い物袋を落としてしまった。
「あ、驚かせちゃったな……ほんと、ごめん。だけど、よく考えたらもう遅い時間なのに、依子ちゃんを1人にするなんて馬鹿だなと思って、焦ってしまって。」
高原さんはそう言いながら、買い物袋からこぼれ落ちたカップ麺をもとに戻す。
「フッ、流石に……カップ麺の好みまでは一緒じゃないな。」
と、ニヤッと笑いながら。
私が住むマンションは、一等地に建っているから、大抵の用事は徒歩圏内で済む。無駄な交通費がかからないから有難い。
「高原さん、いつ帰ってきたの?」
ずっと気になっていたことを聞く。
「それがさ、ピッタリ3ヶ月で帰ってこれたんだ……笑えるよね、いつ帰れるかわからないから焦って告白したのに。」
告白とかストレートに言われると、また言葉が続かなくなる。
「まあ、またいつ呼ばれるかわからないし、所詮サラリーマンだからね。地方勤務だってあるし。」
「……そっか。」
たいした会話も出来ず、マンションの前まで来てしまった。
「早いな。もう着いちゃったか。」
「うん……。」
「じゃ、僕も帰るよ。またね、依子ちゃん。」
「えっ?あ、そ、そうだね。また、またね、高原さん。」
また……なんて、あるのかな?次に会えることなんて、あるのかな?
切なくなってくる……。
結局、高原さんに触れたのはあのラブソファで座った時だけで、微妙な距離を保ったまま別れた。
偶然ではあるけれど、2人を引き合わせた運命の理由を知りたい。
左半身はまだ少しジンジンしていてベッドの中で彼と過ごしたことが蘇ってくる。
久しぶりに体が疼く。
誰かに触れて欲しくて、抱いて欲しくて、だけど誰もいない現実に虚しさがこみ上げてきた。
「……忘れなきゃ。」
依子は起き上がり、ストックしてあるワインを開け、意識がなくなるまで飲んだ。
九州から戻って、この部屋にはお酒の瓶がやたらと増えた。
毎晩少しずつ飲んだ。
酔っ払って記憶がなくなるほどあおるわけじゃないが、依子は以前に比べて随分お酒に強くなった。
「バツイチで酒に強い……鉄壁の女じゃん。」
こうやって、1人で自分の人生にツッコミを入れたりする。
もちろん、笑うのも自分だけ。
情けない、情けないと思いながらも、飲み続け、いつしか眠りについた。
一雨毎に寒くなるとは、この時期言われたもので、その日の雨は、随分冷たかった。
朝から降り続いた雨は、依子が帰宅する頃もまだパラついていた。
夕飯の買い出しに行きたかったが、こうも寒いと早く部屋に帰って布団にくるまっていたくなる。
だが、冷蔵庫の中に、身体を温めてくれるような食べ物は入っていない。
週末、二日酔いで一日中ダラダラと寝ていたことが悔やまれる。
仕方なく、会社から1番近くにあるコンビニでカップ麺を買うことに決め、お店に入った。
お目当の品を購入し、コンビニを出る時には雨は止んでいた。レジが終わってすぐ、たまたま、実家の母から野菜を送ったと電話があり、私は傘をお店に忘れてしまった。
電話を切って、周りの人が傘を持っている姿を見て、初めて気づいた。
「こんな日になんてこと…!」
ボソッと呟いたつもりが、結構な声量だったらしく前を歩いていたカップルが振り向いた。
「あ、すみません」と軽く頭を下げ、今来た道を引き返した。
そして、コンビニが見えてきた時、思わず目を見張った。
ーーどうして……?
私の傘を手にしてこちらに向かってくるのは、明らかに高原さんだ。
「あ、依子ちゃんっ!よかったよかった。この傘、依子ちゃんのだよね?」
間違えるはずがない。水色のラバーの持ち手は、私が後付けしたものだ。
でも、どうして…。
「僕さ、すぐそこのマンションに住んでいるからここのコンビニはよく行くんだ。」
「そ、そうだったんだ。でも、よくわかったね。私の傘。」
「まあ、一時期はよくいた玄関にあるものだからね……。」
「……そう、だね。確かに。」
こんなラバーを付けている人は案外まだ少数派だ。
それに、一時期共に過ごしたんだよね。ほんとに僅かな時間。
「まぁ、これだけ偶然が続くと、面白くなってくるね。」
また高原さんはあの目尻にシワを寄せる笑顔を見せる。
私はこの笑顔に弱いのに。
「……依子ちゃん?」
「あ、ごめんなさい。ほ、本当、何かあるのかな…?すごい偶然だよね。」
私がそう言うと、高原さんは少し切ない顔をした、ように見えた。
「偶然……なのかな。」
「えっ?何?」
とても小さな声でボソッと呟いた高原さんの声は、私には届かなかった。
「いや、なんでもないよ。また、また偶然会えるといいね。」
高原さんはそう言い、片手を上げて私とは反対方向へと歩いて行ってしまった。
返事が出来ずに呆然としていた私も、次々に来るお客さんに気づき、今度こそ帰宅するためにまた来た道を振り返った。
そして2、3歩進んだ時、ガシっと肩を掴まれた。
「ごめん、送って行くよ。」
咄嗟のことに怯えたように振り向いた私は、買い物袋を落としてしまった。
「あ、驚かせちゃったな……ほんと、ごめん。だけど、よく考えたらもう遅い時間なのに、依子ちゃんを1人にするなんて馬鹿だなと思って、焦ってしまって。」
高原さんはそう言いながら、買い物袋からこぼれ落ちたカップ麺をもとに戻す。
「フッ、流石に……カップ麺の好みまでは一緒じゃないな。」
と、ニヤッと笑いながら。
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