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足並
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高原さんの手にレジ袋が握られたまま、私はようやくマンションの前まで来た。
一歩一歩、ゆっくりとペースダウンして歩いたけれど、やっぱりその距離は短く感じた。
「……じゃ、またね。」
差し出された袋を手に取る。
「……ありがとう。また。」
そっとお礼を言う。
高原さんは柔らかく微笑んで、今来た道を帰る。
その背中を見ていたら、すごく切なくなってきて、寂しさが押し寄せてくる。
『待って』って言えたら、どんなに楽だろう。でも、言った後は、どんな顔をすればいいのだろう。
私は、高原さんとどうなりたいのだろう。
ハッとして、俯いた。
私は、既にお別れをしている恋に、ただ縋っていたいだけなのかもしれない。
急に寒くなったから、人恋しくなっているだけ。きっと、そう……。
「……依子ちゃん。」
長い脚の動きが止まり、つま先がこちらを向く。
「そんなに見られてたら、何か期待してしまうよ。」
高原は首を少し傾げて、手を上着のポケットに突っ込んだ。振り向いて見えた依子の姿が、あまりにも儚く、油断すれば抱いてしまいそうだったから。
「……ごめん、なさい。」
「……怒ってるわけじゃない……いや、やっぱり、怒ってるか……。」
「あの……!」
「いいんだ。僕が、勝手に怒っているだけだから。依子ちゃんはそんなつもりないってわかってる。ただ、あまりにも最近はよく会うから……ちょっと、運命の悪戯加減に怒りたくなる……。」
それは……私も同じことを思ってた。
「……明日、早いんだ。だから、今日は帰るよ。だけど……もし、また会えたら、コーヒーくらいは一緒に飲んでくれない?」
「は、はい……。喜んで。」
「あー、よかった。ここは、断られると辛い所だからね。偶然の出会いまで避けられるのはダメージが大きすぎるから。じゃ、これで。」
高原さんはそう言うと、今度は、走って行ってしまった。
残された私は、胸の高鳴りを抑えられず、足早に帰宅した。
レジ袋をドサっと置くと、中から先程買ったカップ麺が飛び出した。
「味噌か……今はそんな気分じゃないのに……!」
胸の重みに胃が圧迫され、食欲など消え失せていた。
まるで、 初めての恋患いのような自分の姿に笑える。
諭より前に好きになった人もいた。そんな時、こういう感じにもなったことがある。
諭に恋したことってあっただろうか?
今思えば、いつも仕切るのは諭だったし、周りの人間だった。そこに私の本当の気持ちってあったかな?
諭が浮気を繰り返したのも無理はないのかもしれない。
妻を裏切る行為は社会的にも許されることではないが、そうさせたのは、私にも一理あるのだろう。
諭に「愛してる」なんて、言ったことあっただろうか?
「はぁーーー。」
いつまで私はこんなこと、考えなきゃいけないんだろう。
一歩一歩、ゆっくりとペースダウンして歩いたけれど、やっぱりその距離は短く感じた。
「……じゃ、またね。」
差し出された袋を手に取る。
「……ありがとう。また。」
そっとお礼を言う。
高原さんは柔らかく微笑んで、今来た道を帰る。
その背中を見ていたら、すごく切なくなってきて、寂しさが押し寄せてくる。
『待って』って言えたら、どんなに楽だろう。でも、言った後は、どんな顔をすればいいのだろう。
私は、高原さんとどうなりたいのだろう。
ハッとして、俯いた。
私は、既にお別れをしている恋に、ただ縋っていたいだけなのかもしれない。
急に寒くなったから、人恋しくなっているだけ。きっと、そう……。
「……依子ちゃん。」
長い脚の動きが止まり、つま先がこちらを向く。
「そんなに見られてたら、何か期待してしまうよ。」
高原は首を少し傾げて、手を上着のポケットに突っ込んだ。振り向いて見えた依子の姿が、あまりにも儚く、油断すれば抱いてしまいそうだったから。
「……ごめん、なさい。」
「……怒ってるわけじゃない……いや、やっぱり、怒ってるか……。」
「あの……!」
「いいんだ。僕が、勝手に怒っているだけだから。依子ちゃんはそんなつもりないってわかってる。ただ、あまりにも最近はよく会うから……ちょっと、運命の悪戯加減に怒りたくなる……。」
それは……私も同じことを思ってた。
「……明日、早いんだ。だから、今日は帰るよ。だけど……もし、また会えたら、コーヒーくらいは一緒に飲んでくれない?」
「は、はい……。喜んで。」
「あー、よかった。ここは、断られると辛い所だからね。偶然の出会いまで避けられるのはダメージが大きすぎるから。じゃ、これで。」
高原さんはそう言うと、今度は、走って行ってしまった。
残された私は、胸の高鳴りを抑えられず、足早に帰宅した。
レジ袋をドサっと置くと、中から先程買ったカップ麺が飛び出した。
「味噌か……今はそんな気分じゃないのに……!」
胸の重みに胃が圧迫され、食欲など消え失せていた。
まるで、 初めての恋患いのような自分の姿に笑える。
諭より前に好きになった人もいた。そんな時、こういう感じにもなったことがある。
諭に恋したことってあっただろうか?
今思えば、いつも仕切るのは諭だったし、周りの人間だった。そこに私の本当の気持ちってあったかな?
諭が浮気を繰り返したのも無理はないのかもしれない。
妻を裏切る行為は社会的にも許されることではないが、そうさせたのは、私にも一理あるのだろう。
諭に「愛してる」なんて、言ったことあっただろうか?
「はぁーーー。」
いつまで私はこんなこと、考えなきゃいけないんだろう。
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