私と離婚してください。

koyumi

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信じる心

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 誰かの腕の中にいる自分は幻なんじゃないか。
 目が覚めた時にうつる高原さんの姿を見て、安心よりも非現実的で狼狽えてしまった。

「クスっ」

 息するように笑う声がして、顔を上げると高原さんがこちらを見ていた。

「おはよう、依子ちゃん。」

「お、おはよう、高原さん……。」

「下の名前知ってる?」

「下の?確か、ジュンくんって…?」

 私は北見さんの声を思い出しだ。

「うん。純平だよ。だから、高原さんって呼ぶのはやめようよ。」

「あ、えーと、うん、じゃ、純平さん?」

「プッハッハッハッ、ごめんごめん、“さん”はいらないよ。だいぶ年上みたいだし。なんか遠いな。」

「そうかな?でも私、高原さんを呼び捨てにできない。」

「じゃ、北見さんに倣ってもいいよ。」

「……純君?」

「ん?いいね。依子ちゃんの声に似合ってる。」

ーー私の声に?
 どこまでも優しい純君は、私に似合うのだろうか?

「依子ちゃん、へそ曲がりや天の邪鬼な君も好きだけど、俺と一緒にいることは、素直に受け入れなきゃダメだよ。もう2度目はごめんだから。あんな辛いのは……。」

ーーそうだよね。
 私、いいよね?誰かと幸せを求めても、いいんだよね?

「ゆっくりでいいんだ。泣きたい時は泣けばいいし、笑いたければ馬鹿笑いだっていい。遠慮したいときは無理しないでいいし。
 君自身が知らない自分と出会えた時に、そばにいられたら嬉しいよ。
 うまく言えないけど、一番近くで、依子ちゃんを見ていたい。」

「私より、断然うまいこと言ってるよ。」

「そう?」

 離したくない。
 もう離したくない。
 ゆっくり、ゆっくり、手を繋いでいこう。信じてみよう。

《ポロンポロン》

「あ、ごめん、お邪魔虫だ。」

「いいよ。どうぞ。」

 ため息を漏らし、純君は電話をとった。純君……これもまた恥ずかしいな。慣れるのかな?
 諭と弟以外の男性を下の名前で呼ぶなんて、初めてかもしれない。
 でも、呼んでいこう。
 それもまた私が今まで知らなかった自分。


《ピピ、ピピ》

 今度は私の携帯電話が鳴った。
 
『あ、姉ちゃん!?大変なんだっ。親父が倒れて意識がないんだ!だから、今すぐこっち来てくれ!』

「えっ?お父さんが!?わ、わかった!すぐ帰るからっ!」

 お父さんが!?
 お父さんが!?
 意識がないなんてっ!!

 慌てて私は荷物を引っ詰め、九州に行く準備をした。

「依子ちゃん!?お父さん、どうしたの?」
「あ、あの、意識がないんだってっ。倒れたって弟がっ……あ、どうしよう、どうしよう。」

 あまりにも突然の知らせに、私はパニックになった。ただ今できることは、一便でも早い飛行機に乗ること。それなのに、足が震えて動悸がおさまらない。

「大丈夫、大丈夫だ。俺も行こう。まずタクシーに電話だ。」

 オロオロする私に反して、冷静な純君は、すぐにタクシーの手配をし、自分の荷物と私の荷物を手に、施錠も確認してマンションを出た。

 私は少しでも状況を知りたくて、お母さんに電話をするが出てくれない。もう一度弟に電話をしても、やはり出ない。
 一刻を争う状況なのだろう。

 祈りながらタクシーに乗り込み、空港に向かう私の肩を、純君はずっと抱いてくれていた。
 その温もりは、冬空を飛び立つ機内でも途切れることはなかった。
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