59 / 89
親
しおりを挟む
空港から実家までの道のりも、糸目をつけずにタクシーに乗った。
一刻を争うのなら、一円だって惜しまない。たった1人の父親。母親よりも、私は父親似だった。子供の頃、よく言われた。
途中、何度か電話してが、やっぱり誰も出てくれない。
最初の電話で指定された病院に着き、受付で名前を言うと、病室を案内された。病室にいるということは、意識が戻ったのだろう。迂闊にはいえないが、希望は抱いた。
「依子ちゃん、俺は行かない方がいいだろう。談話スペースか待合にでもいるから、気にせず行って。」
純君はそう言って、私から離れた。
だけど、私はそれがすごく寂しく感じ、「いや、一緒に」と言ったけれど、
「ごめん、依子ちゃん。もしかしたら、まだ風邪が治りきっていないかもしれない。病室には入らない方がお父さんのためでもあるんだ。」
と、正論を言われ、引き下がった。病院の受付でマスクを着用するように言われ、装着しているが、万が一の可能性がある。そう考えたら、依子自身、完治したかどうかはわからないが、今はそれどころではなかった。
受付で聞いた番号の病室の前に行くと、急にドアが開き、中から出てきた人とぶつかりそうになった。
「ぅわっ!」
「きゃっ!」
「あ、姉ちゃん!来たんだ!」
目の前にいたのは弟で、開いたドアの間から母親の姿が確認できた。
「大丈夫なの!?お父さん!」
私は弟を押しのけ、中に入った。
そこには、ばつが悪そうに笑う父親の姿があり、項垂れる母親がそばにいた。
「依子、すまんな、遠いのに。俺は大丈夫だ。」
「ごめんね、依子。私が動転しすぎちゃって。意識がないなんて悠介に電話したもんだから大ごとになっちゃって。」
どうやら意識不明というのは一瞬のことで、一過性の低血圧による立ちくらみでめまいがし、倒れてしまった父親を見て慌てた母親が、救急車を呼んですぐに弟に連絡したらしい。
電話をしている間に父親は目を開けたのだが、倒れるときに腰を強く打って起き上がれなかったらしく、今回入院しているのも、腰の打撲によるものだそうだ。
「でも、無事でよかったわ。本当よかった。」
何はともあれ意識不明でないならいい、と、私は母の背中をさすった。
一番驚き、最悪の事態を考えたのは母に間違いないから。
「それにしても依子、早かったわね。」
「うん。1人だと慌ててどうしたらいいか頭が回らなかったけど、ぁっ。」
「1人じゃなかったのね。あぁそうか、会社にいたのね?」
「うんうん。そうなの。会社にいてーー」
「あんたスッピンで会社に行くの?」
「へ?スッピン?……うわっ、本当だ!」
「誰かと一緒に来たの?もしかして、諭くんなの?」
「違うわよ。諭じゃないわ。」
「ほらやっぱり。会社の人が一緒にここまで来てくれるわけがないでしょ。今どこにいるの?その彼は。」
母さん、結構侮れない。
その勘の鋭さは、一連の私の動きを見ていたのかと思うほどだ。
父さんは、眉を歪ませているが、娘が男の人といたことへの不服ではなさそうだ。
「多分、談話室か待合に……。」
「ほら、やっぱり。連れて来なさい。挨拶したいわ。」
「それが、病み上がりなのよ。だから、病室は遠慮しとくって。」
「まあ、そんな体でこんな遠いところまで来てくれたの?依子のために?なんて懐が大きな人なんでしょう。ますますご挨拶しなきゃ。ね、私が行くから紹介しなさいよ。」
母さんはそう言いながら、病室のドアを開けた。
仕方なしに、私は父親の方を見て、
「父さん、本当によかった。でも、気をつけてね。また来るから。」
と、告げた。
「あぁ。大丈夫だ。まぁ、落ち着いたら俺にも会わせてくれよ。気長に待ってるから。」
「うん。気長に待ってて。」
あんなに会いたかった父さんとは、それだけしか言葉を交わせず、私は病室を出ていった。
一刻を争うのなら、一円だって惜しまない。たった1人の父親。母親よりも、私は父親似だった。子供の頃、よく言われた。
途中、何度か電話してが、やっぱり誰も出てくれない。
最初の電話で指定された病院に着き、受付で名前を言うと、病室を案内された。病室にいるということは、意識が戻ったのだろう。迂闊にはいえないが、希望は抱いた。
「依子ちゃん、俺は行かない方がいいだろう。談話スペースか待合にでもいるから、気にせず行って。」
純君はそう言って、私から離れた。
だけど、私はそれがすごく寂しく感じ、「いや、一緒に」と言ったけれど、
「ごめん、依子ちゃん。もしかしたら、まだ風邪が治りきっていないかもしれない。病室には入らない方がお父さんのためでもあるんだ。」
と、正論を言われ、引き下がった。病院の受付でマスクを着用するように言われ、装着しているが、万が一の可能性がある。そう考えたら、依子自身、完治したかどうかはわからないが、今はそれどころではなかった。
受付で聞いた番号の病室の前に行くと、急にドアが開き、中から出てきた人とぶつかりそうになった。
「ぅわっ!」
「きゃっ!」
「あ、姉ちゃん!来たんだ!」
目の前にいたのは弟で、開いたドアの間から母親の姿が確認できた。
「大丈夫なの!?お父さん!」
私は弟を押しのけ、中に入った。
そこには、ばつが悪そうに笑う父親の姿があり、項垂れる母親がそばにいた。
「依子、すまんな、遠いのに。俺は大丈夫だ。」
「ごめんね、依子。私が動転しすぎちゃって。意識がないなんて悠介に電話したもんだから大ごとになっちゃって。」
どうやら意識不明というのは一瞬のことで、一過性の低血圧による立ちくらみでめまいがし、倒れてしまった父親を見て慌てた母親が、救急車を呼んですぐに弟に連絡したらしい。
電話をしている間に父親は目を開けたのだが、倒れるときに腰を強く打って起き上がれなかったらしく、今回入院しているのも、腰の打撲によるものだそうだ。
「でも、無事でよかったわ。本当よかった。」
何はともあれ意識不明でないならいい、と、私は母の背中をさすった。
一番驚き、最悪の事態を考えたのは母に間違いないから。
「それにしても依子、早かったわね。」
「うん。1人だと慌ててどうしたらいいか頭が回らなかったけど、ぁっ。」
「1人じゃなかったのね。あぁそうか、会社にいたのね?」
「うんうん。そうなの。会社にいてーー」
「あんたスッピンで会社に行くの?」
「へ?スッピン?……うわっ、本当だ!」
「誰かと一緒に来たの?もしかして、諭くんなの?」
「違うわよ。諭じゃないわ。」
「ほらやっぱり。会社の人が一緒にここまで来てくれるわけがないでしょ。今どこにいるの?その彼は。」
母さん、結構侮れない。
その勘の鋭さは、一連の私の動きを見ていたのかと思うほどだ。
父さんは、眉を歪ませているが、娘が男の人といたことへの不服ではなさそうだ。
「多分、談話室か待合に……。」
「ほら、やっぱり。連れて来なさい。挨拶したいわ。」
「それが、病み上がりなのよ。だから、病室は遠慮しとくって。」
「まあ、そんな体でこんな遠いところまで来てくれたの?依子のために?なんて懐が大きな人なんでしょう。ますますご挨拶しなきゃ。ね、私が行くから紹介しなさいよ。」
母さんはそう言いながら、病室のドアを開けた。
仕方なしに、私は父親の方を見て、
「父さん、本当によかった。でも、気をつけてね。また来るから。」
と、告げた。
「あぁ。大丈夫だ。まぁ、落ち着いたら俺にも会わせてくれよ。気長に待ってるから。」
「うん。気長に待ってて。」
あんなに会いたかった父さんとは、それだけしか言葉を交わせず、私は病室を出ていった。
1
あなたにおすすめの小説
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
離した手の温もり
橘 凛子
恋愛
3年前、未来を誓った君を置いて、私は夢を追いかけた。キャリアを優先した私に、君と会う資格なんてないのかもしれない。それでも、あの日の選択をずっと後悔している。そして今、私はあの場所へ帰ってきた。もう一度、君に会いたい。ただ、ごめんなさいと伝えたい。それだけでいい。それ以上の願いは、もう抱けないから。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる