私と離婚してください。

koyumi

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 空港から実家までの道のりも、糸目をつけずにタクシーに乗った。
 一刻を争うのなら、一円だって惜しまない。たった1人の父親。母親よりも、私は父親似だった。子供の頃、よく言われた。

 途中、何度か電話してが、やっぱり誰も出てくれない。
 最初の電話で指定された病院に着き、受付で名前を言うと、病室を案内された。病室にいるということは、意識が戻ったのだろう。迂闊にはいえないが、希望は抱いた。

「依子ちゃん、俺は行かない方がいいだろう。談話スペースか待合にでもいるから、気にせず行って。」

 純君はそう言って、私から離れた。
 だけど、私はそれがすごく寂しく感じ、「いや、一緒に」と言ったけれど、

「ごめん、依子ちゃん。もしかしたら、まだ風邪が治りきっていないかもしれない。病室には入らない方がお父さんのためでもあるんだ。」

と、正論を言われ、引き下がった。病院の受付でマスクを着用するように言われ、装着しているが、万が一の可能性がある。そう考えたら、依子自身、完治したかどうかはわからないが、今はそれどころではなかった。

 受付で聞いた番号の病室の前に行くと、急にドアが開き、中から出てきた人とぶつかりそうになった。

「ぅわっ!」
「きゃっ!」

「あ、姉ちゃん!来たんだ!」

 目の前にいたのは弟で、開いたドアの間から母親の姿が確認できた。

「大丈夫なの!?お父さん!」

 私は弟を押しのけ、中に入った。
 そこには、ばつが悪そうに笑う父親の姿があり、項垂れる母親がそばにいた。

「依子、すまんな、遠いのに。俺は大丈夫だ。」
「ごめんね、依子。私が動転しすぎちゃって。意識がないなんて悠介に電話したもんだから大ごとになっちゃって。」

 どうやら意識不明というのは一瞬のことで、一過性の低血圧による立ちくらみでめまいがし、倒れてしまった父親を見て慌てた母親が、救急車を呼んですぐに弟に連絡したらしい。
 電話をしている間に父親は目を開けたのだが、倒れるときに腰を強く打って起き上がれなかったらしく、今回入院しているのも、腰の打撲によるものだそうだ。

「でも、無事でよかったわ。本当よかった。」

 何はともあれ意識不明でないならいい、と、私は母の背中をさすった。
 一番驚き、最悪の事態を考えたのは母に間違いないから。

「それにしても依子、早かったわね。」

「うん。1人だと慌ててどうしたらいいか頭が回らなかったけど、ぁっ。」

「1人じゃなかったのね。あぁそうか、会社にいたのね?」

「うんうん。そうなの。会社にいてーー」

「あんたスッピンで会社に行くの?」

「へ?スッピン?……うわっ、本当だ!」

「誰かと一緒に来たの?もしかして、諭くんなの?」

「違うわよ。諭じゃないわ。」

「ほらやっぱり。会社の人が一緒にここまで来てくれるわけがないでしょ。今どこにいるの?その彼は。」

 母さん、結構侮れない。
 その勘の鋭さは、一連の私の動きを見ていたのかと思うほどだ。
 父さんは、眉を歪ませているが、娘が男の人といたことへの不服ではなさそうだ。

「多分、談話室か待合に……。」

「ほら、やっぱり。連れて来なさい。挨拶したいわ。」

「それが、病み上がりなのよ。だから、病室は遠慮しとくって。」

「まあ、そんな体でこんな遠いところまで来てくれたの?依子のために?なんて懐が大きな人なんでしょう。ますますご挨拶しなきゃ。ね、私が行くから紹介しなさいよ。」

 母さんはそう言いながら、病室のドアを開けた。
 仕方なしに、私は父親の方を見て、
「父さん、本当によかった。でも、気をつけてね。また来るから。」
と、告げた。

「あぁ。大丈夫だ。まぁ、落ち着いたら俺にも会わせてくれよ。気長に待ってるから。」

「うん。気長に待ってて。」

 あんなに会いたかった父さんとは、それだけしか言葉を交わせず、私は病室を出ていった。
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