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挨拶
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純君は談話室にも待合にもいなかった。
電話スペースで連絡をとろうと入ったら、しっかり仕事中の純君がいた。
「依子ちゃん。どうだった?お父さん。」
すぐに私に気づき、パソコンを閉じた。
「うん、大丈夫だったの。倒れた時に腰を打ったみたいで、意識はあるし、顔色もよかったの。それで、ちょっときゅうなんだけどね……。」
「まぁ、貴方が?依子がお世話になっているみたいで、この度はすみません。」
電話スペースに行った私が誰かと話していることに気づき、入ってきた母さんは、すかさず前に出た。
「こちらこそ、ご挨拶が遅れてすみません。高原といいます。こんなところで恐縮ですが、依子さんとは、いいお付き合いをさせていただいています。」
純君も純君で、完璧な挨拶をする。
「素敵な方ねー、依子。お父さんにも会っていただきたいけど、そうそう体調が優れないのに、わざわざ遠路付き添っていただいたみたいで、大丈夫かしら?」
「すみません。もう症状は治まっているのですが、やはり病院なので、あまり出しゃばるべきではないと思いまして。またゆっくり、ご挨拶に伺いますので、その時はよろしくお願いいたします。」
なんだかなぁ、めちゃくちゃ完璧なんじゃない?純君って。
もしかしたら、私もいつか純君の親にこういった挨拶をしなければいけないのかな。諭の時は、幼馴染だったのもあって、特に節目みたいなことはしなかったから。
ゆっくりと関係を深めていきたいと思っているのに、先のことを思い浮かべてしまい、思わず1人苦笑した。
「姉ちゃん、誰?彼氏?」
ふと気づくと、悠介が後ろにいて、純君をしっかりと見ていた。
「あ、う、ん。そうよ。高原さんっていうのよ。」
「へぇ……。なんか、都会って感じだな。なんでここにいんの?」
ぶっきら棒な話し方をする悠介。
弟って、こんな感じなんだろうか。
全く失礼なやつ!
「ちょっと、もう少しどうにかならないの?その話し方。あんたよりずっと年上なのよ。」
「いや、大丈夫だよ。初めまして。高原です。弟さん?だよね。」
「はい。弟の悠介って言います。姉貴が随分お世話になってるみたいで。」
「そうだな。僕の方が助けられてることが多いけど、この先もお姉さんのそばにいられたらと思っているから、よろしくね。」
純君、結構強い。
悠介の何枚も上手をいっている。
「結婚すんの?」
「こらっ、不躾に何いうのよ!」
結局知りたいのはそこだろう。
母さんも、しっかり聞き耳立ててるのがわかる。
「どうかな?そうなれば嬉しいけど、実は、ようやく振り向いてもらえたばかりだから、僕もあんまり切羽詰まった感じを見せないように努力してるんだ。」
「な、高原さん……。」
「ほらね、まだ下の名前も呼び慣れていないんだ。依子ちゃんは。だから一歩ずつ寄り添えたらいいなって。」
感じる……体内で火がついたのが。
今、めちゃくちゃ私、顔赤いでしょ。
耳も、手も、ついでに違う意味で目も充血しているよね。
恥ずかしいのに、キュンとして泣きそうなんて、今までこんな思いをしたことがないから戸惑う。
「依子、どこでこんな素敵な人に出会ったのよ?だめよ、離したら。絶対に逃したらいけないわよ。」
母さんはもう、純君の虜だ。
きっと、他の人と縁があったとしても、純君じゃなきゃいけないくらい、惹かれている。
「……まぁ、どうなんのかはわからないけどさ、今はちょっとバタついてるし、落ち着いたらのんびり旅行気分で来たら?少しは飲めるんだろ?」
「だから、なんでそんな上からな物言いなの!?ったく、ごめんね、純君。」
「大丈夫。僕も弟だからわかるよ。ついでに姉がいるんだ。だから、めちゃくちゃわかる。」
固まってしまった。
私、純君のことあまり知らない。
えーと、弟で、お姉さんがいるんだ。そっか、そうなんだ。
「まあまあ立ち話もなんだから、また改めて席を設けましよ。楽しみだわ。」
「またな。純さん。」
「じゅ、純さん!?あんた変わり身早っ!」
へへんと、少年のような顔で笑いながら、ようやく母と弟は父の病室に戻っていった。
ちょっと、私だけ取り残されたような気がする。だけど、嬉しい気持ちに嘘はつけない。
家族のみんなが、純君を受け入れてくれそうでよかった。
きっとみんなの中にはまだ、諭と私という記憶が染みついているだろうから。
電話スペースで連絡をとろうと入ったら、しっかり仕事中の純君がいた。
「依子ちゃん。どうだった?お父さん。」
すぐに私に気づき、パソコンを閉じた。
「うん、大丈夫だったの。倒れた時に腰を打ったみたいで、意識はあるし、顔色もよかったの。それで、ちょっときゅうなんだけどね……。」
「まぁ、貴方が?依子がお世話になっているみたいで、この度はすみません。」
電話スペースに行った私が誰かと話していることに気づき、入ってきた母さんは、すかさず前に出た。
「こちらこそ、ご挨拶が遅れてすみません。高原といいます。こんなところで恐縮ですが、依子さんとは、いいお付き合いをさせていただいています。」
純君も純君で、完璧な挨拶をする。
「素敵な方ねー、依子。お父さんにも会っていただきたいけど、そうそう体調が優れないのに、わざわざ遠路付き添っていただいたみたいで、大丈夫かしら?」
「すみません。もう症状は治まっているのですが、やはり病院なので、あまり出しゃばるべきではないと思いまして。またゆっくり、ご挨拶に伺いますので、その時はよろしくお願いいたします。」
なんだかなぁ、めちゃくちゃ完璧なんじゃない?純君って。
もしかしたら、私もいつか純君の親にこういった挨拶をしなければいけないのかな。諭の時は、幼馴染だったのもあって、特に節目みたいなことはしなかったから。
ゆっくりと関係を深めていきたいと思っているのに、先のことを思い浮かべてしまい、思わず1人苦笑した。
「姉ちゃん、誰?彼氏?」
ふと気づくと、悠介が後ろにいて、純君をしっかりと見ていた。
「あ、う、ん。そうよ。高原さんっていうのよ。」
「へぇ……。なんか、都会って感じだな。なんでここにいんの?」
ぶっきら棒な話し方をする悠介。
弟って、こんな感じなんだろうか。
全く失礼なやつ!
「ちょっと、もう少しどうにかならないの?その話し方。あんたよりずっと年上なのよ。」
「いや、大丈夫だよ。初めまして。高原です。弟さん?だよね。」
「はい。弟の悠介って言います。姉貴が随分お世話になってるみたいで。」
「そうだな。僕の方が助けられてることが多いけど、この先もお姉さんのそばにいられたらと思っているから、よろしくね。」
純君、結構強い。
悠介の何枚も上手をいっている。
「結婚すんの?」
「こらっ、不躾に何いうのよ!」
結局知りたいのはそこだろう。
母さんも、しっかり聞き耳立ててるのがわかる。
「どうかな?そうなれば嬉しいけど、実は、ようやく振り向いてもらえたばかりだから、僕もあんまり切羽詰まった感じを見せないように努力してるんだ。」
「な、高原さん……。」
「ほらね、まだ下の名前も呼び慣れていないんだ。依子ちゃんは。だから一歩ずつ寄り添えたらいいなって。」
感じる……体内で火がついたのが。
今、めちゃくちゃ私、顔赤いでしょ。
耳も、手も、ついでに違う意味で目も充血しているよね。
恥ずかしいのに、キュンとして泣きそうなんて、今までこんな思いをしたことがないから戸惑う。
「依子、どこでこんな素敵な人に出会ったのよ?だめよ、離したら。絶対に逃したらいけないわよ。」
母さんはもう、純君の虜だ。
きっと、他の人と縁があったとしても、純君じゃなきゃいけないくらい、惹かれている。
「……まぁ、どうなんのかはわからないけどさ、今はちょっとバタついてるし、落ち着いたらのんびり旅行気分で来たら?少しは飲めるんだろ?」
「だから、なんでそんな上からな物言いなの!?ったく、ごめんね、純君。」
「大丈夫。僕も弟だからわかるよ。ついでに姉がいるんだ。だから、めちゃくちゃわかる。」
固まってしまった。
私、純君のことあまり知らない。
えーと、弟で、お姉さんがいるんだ。そっか、そうなんだ。
「まあまあ立ち話もなんだから、また改めて席を設けましよ。楽しみだわ。」
「またな。純さん。」
「じゅ、純さん!?あんた変わり身早っ!」
へへんと、少年のような顔で笑いながら、ようやく母と弟は父の病室に戻っていった。
ちょっと、私だけ取り残されたような気がする。だけど、嬉しい気持ちに嘘はつけない。
家族のみんなが、純君を受け入れてくれそうでよかった。
きっとみんなの中にはまだ、諭と私という記憶が染みついているだろうから。
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