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とんぼ返り
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結局、父親は大丈夫そうだし、純君の仕事もあるしということで、夜の遅い便で帰宅した。
「依子ちゃん、仕事休みなら実家でのんびりしていいのに。」
と、言われたけど、私は純君のそばを離れたくなかった。
以前、悠介の結婚式の後に乗った飛行機では、帰宅してからの現実の世界に幻滅しないようにと目を閉じていたけれど、今回は疲労感が半端なく、ぐったりと眠ってしまった。
それに、目を開けても、隣には純君がいてくれる。
それが一番心強かった。
純君は一度自宅に戻り、すぐにオフィスに向かった。
彼のハードワークぶりには頭が上がらない。
私はシャワーを浴びてから、再びベッドで眠りについた。
とにかくよかった。
2度と会えないかもしれない父親の姿が脳裏に浮かんでは暗闇を呼んでいた。
いつか、本当に幸せになる時を、一緒に迎えられたらいいなと思う。
生きているだけで、感謝する。
親の存在について、こんなに考えたことはなかった。
************
「入院?ですか?」
「そうだね。まあ、検査入院みたいなものだよ。修也君は、お母さんにお願いできないのかい?」
「いや、まぁ、少しなら大丈夫だと思いますが。でも、俺、そんなに悪いんですか?」
「そうだね。通院で大丈夫かと思っていたけど……。無理しているんだろう?休めないんだろう?まぁ、頑張っている自分にご褒美のつもりで、うちに泊まりにきなさいや。」
「は、はぁ、泊まり、ですか。」
諭は入院が決まった。
確かにここのところ、以前より食が細くなり、栄養など考えずにすぐに胃が満たされたらなんでもいいような食生活をおくっていた。
それに、年末の仕事の忙しさに加え、動き出した修也は可愛くもあるが危なっかしさもあり、目を離せなかった。
1週間とは言われたが、今まで入院などしたことがない諭は、大変なことが起こるのではと落ち着かない。
修也が生まれてからは酒も飲まず、タバコも吸わずの生活をしてきたが、ストレスは知らず知らず体を蝕んでいたようだ。
年明けて1月10日から17日までの入院期間。
母親は「しっかり治してもらいなさい」と背中を押してくれたが、職場に迷惑かけるのは申し訳ない。
冬空が肌を固くさせるように、心までも身動きがとれない状態の自分にあきれる。
修也の無垢な笑顔に救われてはいるが、この先、不甲斐ない父親を知り、情けなく思うだろう。がっかりするだろう。
年明けの仕事始めの日、会社に事情を話した。渋い顔で話を聞いてくれたが、給与が減る可能性も示唆された。
雇ってもらえるだけありがたいか。
10日、入院の手続きをし、修也と別れた。何もわからないようで、やはり血は繋がっているのか、その夜はなかなか寝てくれなかったらしい。ただ、泣いてはいなかったという。「あー」だ、「うー」だ言って、天井に向かってしゃべっていたみたいだ。
ここは個人病院だが、3階から6階は入院患者の病棟になっていて、割と新しい医療機器が揃っている。4人部屋で、カーテンに仕切られただけなので、夜は同室患者のいびきや、咳払い、唸り声など聞こえてきて、初めの2日は寝つけなかった。
入院している間は、誰も面会には来ない。子供は入室禁止だから、必然的に修也につきっきりの母親は来られない。
まあ、ただの検査入院だ。それに、休憩も兼ねている。自分のことは自分でできる。
看護師に、自分より少し若い女の子がいた。どちらかというと苦手なタイプだ。軽そうじゃないから。
俺の担当で、採血や、体温を測る為に何度もカーテンを開く。
俺は血を見るのが苦手なので、彼女が来ても、大体顔は窓の方を向けていた。その為、まともに名前を覚えなかったし、目を合わせることもなかった。
あっちはこちらを見ていたらしいが。
「依子ちゃん、仕事休みなら実家でのんびりしていいのに。」
と、言われたけど、私は純君のそばを離れたくなかった。
以前、悠介の結婚式の後に乗った飛行機では、帰宅してからの現実の世界に幻滅しないようにと目を閉じていたけれど、今回は疲労感が半端なく、ぐったりと眠ってしまった。
それに、目を開けても、隣には純君がいてくれる。
それが一番心強かった。
純君は一度自宅に戻り、すぐにオフィスに向かった。
彼のハードワークぶりには頭が上がらない。
私はシャワーを浴びてから、再びベッドで眠りについた。
とにかくよかった。
2度と会えないかもしれない父親の姿が脳裏に浮かんでは暗闇を呼んでいた。
いつか、本当に幸せになる時を、一緒に迎えられたらいいなと思う。
生きているだけで、感謝する。
親の存在について、こんなに考えたことはなかった。
************
「入院?ですか?」
「そうだね。まあ、検査入院みたいなものだよ。修也君は、お母さんにお願いできないのかい?」
「いや、まぁ、少しなら大丈夫だと思いますが。でも、俺、そんなに悪いんですか?」
「そうだね。通院で大丈夫かと思っていたけど……。無理しているんだろう?休めないんだろう?まぁ、頑張っている自分にご褒美のつもりで、うちに泊まりにきなさいや。」
「は、はぁ、泊まり、ですか。」
諭は入院が決まった。
確かにここのところ、以前より食が細くなり、栄養など考えずにすぐに胃が満たされたらなんでもいいような食生活をおくっていた。
それに、年末の仕事の忙しさに加え、動き出した修也は可愛くもあるが危なっかしさもあり、目を離せなかった。
1週間とは言われたが、今まで入院などしたことがない諭は、大変なことが起こるのではと落ち着かない。
修也が生まれてからは酒も飲まず、タバコも吸わずの生活をしてきたが、ストレスは知らず知らず体を蝕んでいたようだ。
年明けて1月10日から17日までの入院期間。
母親は「しっかり治してもらいなさい」と背中を押してくれたが、職場に迷惑かけるのは申し訳ない。
冬空が肌を固くさせるように、心までも身動きがとれない状態の自分にあきれる。
修也の無垢な笑顔に救われてはいるが、この先、不甲斐ない父親を知り、情けなく思うだろう。がっかりするだろう。
年明けの仕事始めの日、会社に事情を話した。渋い顔で話を聞いてくれたが、給与が減る可能性も示唆された。
雇ってもらえるだけありがたいか。
10日、入院の手続きをし、修也と別れた。何もわからないようで、やはり血は繋がっているのか、その夜はなかなか寝てくれなかったらしい。ただ、泣いてはいなかったという。「あー」だ、「うー」だ言って、天井に向かってしゃべっていたみたいだ。
ここは個人病院だが、3階から6階は入院患者の病棟になっていて、割と新しい医療機器が揃っている。4人部屋で、カーテンに仕切られただけなので、夜は同室患者のいびきや、咳払い、唸り声など聞こえてきて、初めの2日は寝つけなかった。
入院している間は、誰も面会には来ない。子供は入室禁止だから、必然的に修也につきっきりの母親は来られない。
まあ、ただの検査入院だ。それに、休憩も兼ねている。自分のことは自分でできる。
看護師に、自分より少し若い女の子がいた。どちらかというと苦手なタイプだ。軽そうじゃないから。
俺の担当で、採血や、体温を測る為に何度もカーテンを開く。
俺は血を見るのが苦手なので、彼女が来ても、大体顔は窓の方を向けていた。その為、まともに名前を覚えなかったし、目を合わせることもなかった。
あっちはこちらを見ていたらしいが。
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