私と離婚してください。

koyumi

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鉢合わせ

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 諭が退院して約一週間後、依子は会社に提出する診断書をもらうため、またあのクリニックに来ていた。
 インフルエンザではなかったという証明が、会社独自の判断材料として必要だったからだ。
「インフルエンザじゃないなら要らないんじゃないの?」と、疑問だらけの規約であったが、まあ仕方ない。
 大きなマスクにウィルスを寄せ付けないペンダントみたいなものを下げて、依子はクリニックに入った。 

 診断書がほしいだけだが、一応受診する時と同じような形をとらなければならない。
 患者はやはり季節柄多めだ。
 発熱患者は隔離してくれてはいるが、安心できない。

「富樫さん。」

 不意だった。
 待合の奥に座り、雑誌を読んでいた男性がスクッと立ち上がり、診察室に入った。

ーー諭だ。

 風邪でもひいたのか、何故ここにいるのか?よりも、(変わった。)という感想だった。
 マスクをしているのでわかるのは目元くらいだが、顔色は少しくすみがちだし、目は窪んで眉が浮き出ている。
 何より全体から感じられる雰囲気が、(苦労してんな)って思う。
 依子はドキドキしたが、それは、もし気付がれてしまったらどうしよう、という緊張からくるものだった。

 諭の診察時間は割と長めで、依子はいつ診察室から諭が出て来てもいいように、ずっと目を伏せていた。

「本原さん。」

 それなのに、諭の次が依子の番だったらしく、すれ違いは必須の状況だった。
 
 中待合のベンチに座り、また目を伏せる。でも、ふと、そんなに隠れる必要なんてないと気づいた。別段おかしくないのだ。同じ街で暮らしている元夫婦が、巷で有名なクリニックにいたとしても、なんら不思議はないのだ。
 そう考えを改め、顔を勢いよく上げると、ガラっと目の前のドアが開き、諭が出てきた。

 出たと同時に目が合ってしまった。 
 これじゃあまるで今か今かと、諭が出てきて、自分に気づいてほしいと待ち構えていたみたいじゃないか。

「ーー依子。」
 何でだ?というような目をしているのは一目で。
「久しぶりね。」
 と、発した声は、マスクをしていてよかったと思うくらい緊張を帯びていた。

「本原さーん。」
と、診察室から呼ばれ、2人の会話それで終了せざるを得なかったが、胸にどっしりきた再会の瞬間は、後々忘れられない時間となった。

「じゃ。」
 と、私が言ったのに対し、諭は軽く手を挙げただけだった。もう、声を出せないという風だった。

 離婚した男女が再会する時って、こんな感じなんだろうか。
 未経験だし、周りに経験者もいないから質問なんてできないけど、ただ1つ言える事は、できれば再会場所は病院じゃない方がいいということだ。
 しかも、中待合ですれ違うなど、運命のイタズラとしか思えない。

 諭は病気なんだろうか?
 
 その疑問が、その日は一日中脳内を占めた。
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