私と離婚してください。

koyumi

文字の大きさ
上 下
64 / 89

残るもの

しおりを挟む
「依子ちゃん、どうかした?」

 週末の夜、久しぶりに純君と外食をしていた。予約しないと入れないイタリアンレストランで、お値段もなかなか。
 色鮮やかなメニューを堪能し、白ワインを口に含んだ後に大きなため息をついてしまった。
「お腹いっぱいになったからよ。」
 尤もらしい理由をつけて返事をする。

 だけどきっと、この人にはその理由が嘘だということくらい見抜かれているだろう。

「そっか。パスタって、後からお腹の中で膨らむらしいからね。」
 
 優しく微笑みながらウンチクを披露してくれるけれど、後でまた追求されるんだろうな。

 諭と病院で会ってから5日。仕事をしてる時は考えないのに、夕食の時間になると、ふと思い出してしまう。
 あんな顔色悪い諭を見たことがない。
 どちらかというと、いつも調子づいて血色のいいイメージだったから、知らない人を見ているみたいだった。
 
 うまくいっていないのだろう。

 心配というより、残念な感覚だった。
 別れた旦那の幸せを願う程、懐が広くはないし、そんな夢見がちな女じゃない。どちらかというと、元旦那というより、幼馴染として気にかかるといった方が正しい。
 
 純君に言ったら軽蔑されるだろうか。
 言いたくないけど、口にしてしまいそうだ。
 変なところで私は嘘をつけない。
 もっと器用に生きたい。
「はぁーー」
 無意識にまた、ため息をついていた。


「今日は帰るよ。依子ちゃん、気分が乗ってないみたいだし。」

「純君……ごめんなさい。でも、一緒にいたいの。ダメ?」

 こんな私を見て気を遣ったのか、部屋に来ずに帰ろうとする純君に、胸がチクっとした。私は自分が思っている以上に純君を必要としているようだ。

「甘えてくれるんだ。ちょっとビックリしてるけど、めちゃくちゃ嬉しい。」

 純君はそう言いながら目尻にグッとシワを寄せて笑うと、私の手をとり、指を絡めて手を繋いだ。

 離したくない。
 この温もりは、もう2度と離さない。

 諭に対する情は、何かしら残ってはいるけれど、私は少しずつ離していける。
 
 だからもう、気に留めないことにした。
 病院で会った、様変わりした諭のワケも、修也君の行く末も。いずみさんのことも。

 こんな私は、薄情な人間なのだろうか。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

公爵様は無垢な令嬢を溺愛する。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:546pt お気に入り:5,726

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:18,099pt お気に入り:7,951

聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:33,009pt お気に入り:11,554

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:603pt お気に入り:3,085

子供を産めない妻はいらないようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,770pt お気に入り:269

悪役令嬢は双子の淫魔と攻略対象者に溺愛される

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,607pt お気に入り:3,024

最推しの義兄を愛でるため、長生きします!

BL / 連載中 24h.ポイント:32,199pt お気に入り:12,896

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:3,802

フェロ紋なんてクソくらえ

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:387

旦那様、離婚しましょう

恋愛 / 完結 24h.ポイント:262pt お気に入り:2,826

処理中です...