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第2章
バツ
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震えながら衣服を着込んでいく三条さんを背中で感じながら、俺はどうしたものかと悩んだ。
依子と自分の関係を言ってしまえばいい。《離婚した》相手なんだと。
だが、それを言ってどうなるのか?言わなければいけない時が来る可能性もないんだ。
俺は誰とも再婚しない。
結婚自体、向いていないんだ。
俺ほどわかりやすい男はいないだろう。
数知れぬ浮気。妻以外の相手との子供。
それを知ってなお俺に連れ添う女などいやしない。
一晩限りの相手ならまだしも、三条さんは職場の上司だ。何かのきっかけで噂になっても困る。新天地で心新たにやっていくつもりなんだ。
全ての衣服を着終えた三条さんは、帰るかと思ったが、そのまま出ていかずにベッドの端にストンと座った。
「……諦められないな……だめだな私……似てるってわかってるのに。」
意味深な呟き。
似てる?誰が誰に?
三条さんの言葉に、つい眉をひそめてしまった。
「私ね……バツ2なの。」
「バツ、2?2回も離婚してると?」
それは驚いた。
俺も、戸籍上はバツ1だが、いずみとのことを考えると、バツ2だと言ってもおかしくない。
だが、”この”三条さんが?!なぜ?
「知りたい?顔がそう言ってる。」
さっきまで泣いて震えていた割に、口調がはっきりしている。
幾度となく、同じような機会があったのだろう。『バツ2』と告白した後の反応を。
「俺は、別に話したくなければ話さなくていいと思うし、別に聞きたくはない。」
本音は知りたいが、それだと自分のことも話してしまいそうだ。まして、きっと元ダンナと俺が“似ている“んだろうし。
「全部ね、私が悪いの。」
「全部?」
「時間からして……ほら、ホテルの仕事って不規則でしょ?だから、だいたいいつも相手が私の時間に合わせてくれていたの。私も当時はそれが当たり前だと思っていたわ。好きなら仕方ないことだって。」
「ん?なんか……傲慢?ですね。」
失礼を承知で言ってしまった。
片方だけが四苦八苦するなどあり得ない……。俺のセリフじゃないが。
「そうね。傲慢だわ。彼は土日休みだったから、平日の私の休みに、わざわざ月に一度、有給を使ってくれたり……」
似てないよ。何にも似てない。
俺は依子のために、自分の時間を削ることなんて皆無だったから。
「私のことを本当に愛してくれているんだと思ってた。そうでなきゃできない気配りばかりだったから。
でも、ある日ね、見ちゃったのよ。彼が女の尻を触りながらホテルに入るところを。それで一気に関係が千切れてしまって……結局浮気していることを白状させた」
そこは同じ穴のムジナかもしれない。
「そしたらね、次から次へと嘘が見つかって。もう、呆れて声も出なくなったわ……1人目はそれで別れたの。」
次から次に……激似だな。
原因にも、少しだが心当たりがある。
三条さんを愛していたのは間違いなさそうだが、どこかで歯車を“無理やり”ズラしてしまったのだろう。わずか1ミリのずれが、重なって重なって大きくなって、最後は修復不可能なガタ崩れの状態になってしまったのだろう。
「2人目の旦那は、1人目の旦那の浮気を知って、私がヤケクソで一夜を明かした年下の男。」
はっ?なんだ、仕返ししてたのか。
「私は絶対再婚なんかしないって、彼からの猛アプローチを蹴り飛ばしてたわ。それなのに、1人目の旦那が再婚したと聞いて……当てつけのように私も婚姻届に記名押印したの……。」
「当てつけ……」
「そう、当てつけの為だけの入籍。そんなもの、長続きするはずなくて。ドラマや小説のように、交際0日婚なんてうまくいくわけがない。体の繋がりだけだった相手に、感情や環境が加われば加わるほど違和感を感じずにはいられなかったわ。
私は結婚というものをただの恋愛の一過程と捉えていたけれど、世間は違っていた。
彼の家族は特に、ね。」
恋愛の一過程、か……、俺もそんな感じだったのかもしれない。
結婚なんてただの通過点だと思っていたのかもしれない。ポイントが大量に追加されることなど気付かずに。
「……結婚は簡単にできたけど、離婚は体力も精神力も半端なく必要だわ。
だから私は……次こそは自分を磨いて、一生懸命好きになれる相手と幸せになりたいと思っているわ。それなのに……」
「あなたのことが頭から離れない。あなたを好きになってしまった。そしたらあなたは……元ダンナにも、そして私にも似ているってことに気づいたのよ。」
つまり……
俺に何らかの危険信号を感じているくせに、俺を好きになってしまったと。
「冨樫さん……、バツ、ついてるわよね?」
依子と自分の関係を言ってしまえばいい。《離婚した》相手なんだと。
だが、それを言ってどうなるのか?言わなければいけない時が来る可能性もないんだ。
俺は誰とも再婚しない。
結婚自体、向いていないんだ。
俺ほどわかりやすい男はいないだろう。
数知れぬ浮気。妻以外の相手との子供。
それを知ってなお俺に連れ添う女などいやしない。
一晩限りの相手ならまだしも、三条さんは職場の上司だ。何かのきっかけで噂になっても困る。新天地で心新たにやっていくつもりなんだ。
全ての衣服を着終えた三条さんは、帰るかと思ったが、そのまま出ていかずにベッドの端にストンと座った。
「……諦められないな……だめだな私……似てるってわかってるのに。」
意味深な呟き。
似てる?誰が誰に?
三条さんの言葉に、つい眉をひそめてしまった。
「私ね……バツ2なの。」
「バツ、2?2回も離婚してると?」
それは驚いた。
俺も、戸籍上はバツ1だが、いずみとのことを考えると、バツ2だと言ってもおかしくない。
だが、”この”三条さんが?!なぜ?
「知りたい?顔がそう言ってる。」
さっきまで泣いて震えていた割に、口調がはっきりしている。
幾度となく、同じような機会があったのだろう。『バツ2』と告白した後の反応を。
「俺は、別に話したくなければ話さなくていいと思うし、別に聞きたくはない。」
本音は知りたいが、それだと自分のことも話してしまいそうだ。まして、きっと元ダンナと俺が“似ている“んだろうし。
「全部ね、私が悪いの。」
「全部?」
「時間からして……ほら、ホテルの仕事って不規則でしょ?だから、だいたいいつも相手が私の時間に合わせてくれていたの。私も当時はそれが当たり前だと思っていたわ。好きなら仕方ないことだって。」
「ん?なんか……傲慢?ですね。」
失礼を承知で言ってしまった。
片方だけが四苦八苦するなどあり得ない……。俺のセリフじゃないが。
「そうね。傲慢だわ。彼は土日休みだったから、平日の私の休みに、わざわざ月に一度、有給を使ってくれたり……」
似てないよ。何にも似てない。
俺は依子のために、自分の時間を削ることなんて皆無だったから。
「私のことを本当に愛してくれているんだと思ってた。そうでなきゃできない気配りばかりだったから。
でも、ある日ね、見ちゃったのよ。彼が女の尻を触りながらホテルに入るところを。それで一気に関係が千切れてしまって……結局浮気していることを白状させた」
そこは同じ穴のムジナかもしれない。
「そしたらね、次から次へと嘘が見つかって。もう、呆れて声も出なくなったわ……1人目はそれで別れたの。」
次から次に……激似だな。
原因にも、少しだが心当たりがある。
三条さんを愛していたのは間違いなさそうだが、どこかで歯車を“無理やり”ズラしてしまったのだろう。わずか1ミリのずれが、重なって重なって大きくなって、最後は修復不可能なガタ崩れの状態になってしまったのだろう。
「2人目の旦那は、1人目の旦那の浮気を知って、私がヤケクソで一夜を明かした年下の男。」
はっ?なんだ、仕返ししてたのか。
「私は絶対再婚なんかしないって、彼からの猛アプローチを蹴り飛ばしてたわ。それなのに、1人目の旦那が再婚したと聞いて……当てつけのように私も婚姻届に記名押印したの……。」
「当てつけ……」
「そう、当てつけの為だけの入籍。そんなもの、長続きするはずなくて。ドラマや小説のように、交際0日婚なんてうまくいくわけがない。体の繋がりだけだった相手に、感情や環境が加われば加わるほど違和感を感じずにはいられなかったわ。
私は結婚というものをただの恋愛の一過程と捉えていたけれど、世間は違っていた。
彼の家族は特に、ね。」
恋愛の一過程、か……、俺もそんな感じだったのかもしれない。
結婚なんてただの通過点だと思っていたのかもしれない。ポイントが大量に追加されることなど気付かずに。
「……結婚は簡単にできたけど、離婚は体力も精神力も半端なく必要だわ。
だから私は……次こそは自分を磨いて、一生懸命好きになれる相手と幸せになりたいと思っているわ。それなのに……」
「あなたのことが頭から離れない。あなたを好きになってしまった。そしたらあなたは……元ダンナにも、そして私にも似ているってことに気づいたのよ。」
つまり……
俺に何らかの危険信号を感じているくせに、俺を好きになってしまったと。
「冨樫さん……、バツ、ついてるわよね?」
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