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第一部
第25話 ゴールデンウィーク ~不運な部屋割り~ 3
しおりを挟む――午後。丞達は、ここへ泊まる度に訪れていた、地域のイベントに足を向けてみることにした。近くにツツジの広い群生地があり、満開のこの時期、盛大にツツジ祭りが開催されているのだ。夏祭り並みに露店も出ている為とても賑やかで、幼い五人も祭り情緒を味わうのを毎回楽しみにしていたものだった。
焼きイカ、綿あめ、焼きもろこし。久々の雰囲気についつい財布の紐が緩む。食事系だけで無く遊戯系の露店もあちこちと巡り、漸くペンションへの帰途についたのは、もう日が傾き始めた頃だった。
「あー、楽しかったぁ♪ 久し振りだったけど、祭りってなんか特別な感じがしていいよなぁ」
手に持った綿あめをちびちびと食べながら永が言う。丞も微笑を浮かべて頷いた。
「同感。小せぇ頃に戻ったみてぇに、夢中になって遊んじまったな」
のんびりと歩く五人の手には、それぞれ小さなビニール袋が下がっている。遊戯系の露店で獲得した賞品が入っているのだ。それを持ち上げて、覓がククッと笑う。
「けど、やっぱ射的が一番おもしろかったぜ。自分が勝ったからってのもあるけど、あんな結果になるとは全然思ってなかったからな」
スーパーボール掬いやモグラ叩きなどで勝負した五人。中でも特に白熱したのが射的だ。なんと恵と覓が同点一位だった。逆に最下位だったのは――意外や龍利。子供の頃の最高記録は十発中九発命中という見事な腕前だった彼が、まさかの全ハズレで撃沈してしまったのである。
覓の言葉でガックリと肩を落とす龍利の背中を、丞がポンポンと叩く。
「まぁまぁ。今日は本調子じゃなかったし、仕方ねぇだろ。な? 龍」
丞に慰められて溜息をつく龍利。その横で、覓は恵に擦り寄っていた。
「凄かったな、恵。俺と同じで二発しか外さねぇなんてさ」
「あれはまぐれだよ。狙いが付けられなくて、オタオタしながら引き金引いたら偶然当たったんだ。僕の実力じゃないよ」
なおも身を寄せ、手指を絡めて恋人繋ぎをしてこようとする覓の腕を、恵は上手く解いてするりと抜ける。二、三歩タタッと前へ出て、後ろの四人を振り返った。
「ほら、もう日が暮れちゃうよ? 早く戻って、夕食の配膳くらい手伝おうよ」
長兄の呼び掛けに、一同は「うん」と返して駆け出した。
前日よりも少し量を控えめにして貰った夕食を取り、伯父夫婦と暫く雑談(悠もいて、ちょっかいを出してきたがガン無視)した後、五人はそれぞれのコテージへと向かう。恵達の棟の前で、丞は覓に念を押した。
「覓。恵のこと、しっかり護ってくれよ?」
「おう、任せとけ!」
鼻息も荒く答える覓。悠については彼だけで充分対抗出来るが、覓自身については、他に有効な精神的ストッパーが必要だ。丞は万が一を考え、部屋に入り掛けていた永にも声を掛けた。
「永。お前も、覓と一緒に見張ってくんねぇか?」
「え? ああ、うん。別にいいぜ」
永のことだから多少は駄々を捏ねるかと思いきや、意外にもすんなりと了承する。どうやら、夕食後に昨日のパウンドケーキを三切れも食べた彼は、相当上機嫌らしい。げに甘い物の力は(永に対しては)絶大である。
「じゃ、頼むな」と言い置いて、丞と龍利は歩き出す。自分達の棟に着き、もと来た方を見遣ると、賑やかに笑い合う三人の声が微かに聞こえてきた。
「あの調子なら大丈夫そうだな」
ホッとして玄関を開ける。丞に続いてドアを潜る龍利の瞳は、前を行く彼の後ろ髪を真剣に見詰めていた。
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