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しおりを挟むーーカナタと勇者達が召喚されてから2年の月日が流れた。王都では王家が1年前に魔族の脅威から人々を救済する為、神が5人の勇者を遣わしたという触れが出た。勇者達は存在が発表されると瞬く間にその強さを国民に知らしめた。王都南西部に出現した鋼竜の撃退である。最低でも危険度がAランクを超える竜種の撃退は人々に魔王討伐の希望を抱かせるには十分だった。勇者達は一年の間、国の指示に従い様々な魔族を討伐してきた。一方その頃カナタは……。
ーーここは王都の南部に位置する草原地帯。スライムやウルフ系の魔物が多数生息するが足場が安定していて見晴らしがいいこと、魔物のレベルが低いこと、群れの数が少ないことなどから王都での新兵訓練や、冒険者になったばかりの者たちが狩場に選ぶ比較的危険度の低い土地である。
その比較的危険度の低い土地に冒険者になったばかりのパーティーが1組やって来ていた。まだみんな10代であろう。男2人、女1人のパーティーで男2人は一方は大剣を、一方は槍と盾を装備していた。女の方は杖をもつことから魔導士だろう。直前に戦闘があったのか、周りにはいくつかのレッサーウルフが倒れている。
大剣の血を拭いながら、男はどこか得意げだ。
「やっぱり俺たちは強い! この辺の魔物にはもう負けないな」
「ああ、そろそろ東の森に狩場を移してもいいかもな」
大剣の男と槍の男が談笑する中、魔導士である女は浮かない顔をしていた。
(もう、二人とも調子に乗りすぎよ……。二人とも前衛なのに攻撃に集中しすぎて私の方に魔物が来てたし……。こんなんで大丈夫なのかな)
冒険者がパーティーを組むときは戦闘時の役割を分担するのが当たり前だ。魔導士はパーティーへの補助魔法や回復魔法などの支援、果ては広範囲への魔法攻撃など魔物との戦闘では比類無き力を発揮するが、弱点も多々存在する。
魔法は万能だが、必ずMPを消費する。そして強力な魔法ほどMPの消費は大きく、未熟な魔導士では中級魔法5、6発でMPが空になる。そしてMPが完全に切れるとマインドダウン状態になりまともに動けなくなったりまたは気絶したりしてしまうのだ。
そして魔法には詠唱が必要である。世界の法則を書き換えるのが魔法であり、どう書き換えるかを制御するのが詠唱となる(古式魔法には魔法陣や舞踊などを詠唱の代わりに用いるものもある)。
また、魔法の出力の最大値は魔力で決まる。
自動車に例えればMPがガソリン、魔力がエンジン、詠唱がハンドルやアクセル等の操作機器に相当する。
魔導士は強力な戦力だが詠唱時間、MPの問題から実戦では必ず魔導士を守る前衛の存在が必要不可欠である(魔法を使う剣士や無詠唱魔法使いなど例外はある)。
この3人はいわゆる幼馴染でつい最近冒険者になったばかりであった。冒険者として一獲千金を夢見る若者は少なくない。彼らもそのパターンであった。
「ちょっと待って。後衛の私に魔物が何匹か来たじゃない。前衛が魔物を引き受けてくれないと魔法が使えないでしょ!」
「分かってるよ。でもここらへんの魔物くらいなら前衛だけでも余裕だし、魔導士だって自分の身くらい自分で守れないと、なぁ?」
「そうだな、後衛でも自衛手段は持ち合わせておくべきだろう、この程度の場所ならいい練習になるんじゃないか?」
(~~だーかーらっ! あんた達が言うこの程度の場所で戦闘に支障がある負傷をするからこっちが回復してるんでしょうが! ここであたしの詠唱を守りきれなくてどこでやっていけるって言うのよ?!)
幼馴染だからなのか、戦闘や探索にいくらか遊び気分が混じっていると言わざるを得ない。まだこの平原なら余程のことがない限り大ケガくらいですむが、ここ以外ではごっこ遊びの対価は命である。少女は強気だが慎重な性格ゆえ、このパーティーに不安を覚えずにはいられなかった。
なおも前衛2人は得意げに話す。
「この分じゃ俺たちが勇者ってやつらと並ぶのも時間の問題だな!」
「鋼竜……メタルドラゴンだったか?勇者達は撃退で終わったらしいからな。いつか俺たちで完璧に討伐してやろうじゃないか」
目標が高いのは悪いことではないが、今の少女には何も響かなかった。
(まったく、このアホどもは……。あーあ、勇者様みたいな人がパーティーだったらよかったのに)
魔導士の女の子は偶然勇者の一人と言葉を交わしたことがあった。
(強くて自信に溢れてて、それなのに私に優しくしてくれて、あーあ、そんな人他にいないかなぁ……)
魔導士の女の子が夢見がちなことを思っている時、ソレはやって来た。一番早く気付いたのは槍使いの男だった。
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