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楼蘭妃の憂鬱
お茶会に出席しました
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お茶会当日。幸いなことに、夫との営みは、早朝で切り上げることができた。疲れ果てた身体に、優しいキスの雨が降る。しかしここで油断してはならない。うっかり後戯に反応しようものなら、またレナードの性欲が再燃してしまう。
一応夫も学んでいるのだ。昼まで盛って午後からの講義の約束を反故にし、私は何度も激怒した。もちろん講義の後の「仕置き」や「労い」と称した、拷問のようなセックスもだ。そういえば出産後のアレもアレだった。ああ、思い返せば腸が煮えくり返る。夫は何度も雷を落とされては、その度に「もうしません」と反省のポーズだけ取って、また同じことを繰り返す。あの小さくて賢い翼蛇のレナードが、龍神に進化した途端、何故こんなに馬鹿になってしまったのか。しかしそれでも、その頻度はやや落ち着いてきた、と思う。
何度かに一度、私の怒りが頂点に達した時には、私は夫を拒絶して、卵と共に自分の寝室に籠もる。その後には彼は、気持ち悪いくらいに私の機嫌を取り、山のように贈り物を用意しては、まるで別人のように私を優しく抱く。
贈り物など要らない。ただ肌を寄せ合って、お互いの気持ちを確かめ合って、穏やかな夜を過ごしたかった。やっと分かってくれた。ずっとこうならいい。
と、毎度思うのだ。数日後には、反動で濃厚で執拗なセックス。そして産卵後には、苛烈な種付けが待っている。私もいい加減学習した。夫の教育、いや夫との戦いは、長期戦を覚悟せねばなるまい。
さすがに夫も、今日の茶会を妨害してはマズいと思ったのだろう。多少渋々といった様子ではあったが、茶会を楽しむようにと一言告げ、今日も颯爽と飛び立って行った。
茶会への出席の準備は、万事滞りなく行われた。しばらく仮眠を取った後、女官の手によって入念な湯浴み、肌や髪の手入れ、そして薄化粧。私は女性ではないので、自身の外見についてそうこだわりを持たないのだが、
「何をおっしゃいます楼蘭妃☆ 透き通るような白皙の肌、艶やかな射干玉のお髪、全ての夜空の星の輝きを集めた黒曜石の瞳。紅を差したかのような薔薇色の唇、しなやかで伸びやかな極上の御身にむぐっ」
口を開けば止まらない、例の新入りの女官。腕は確かなのだが、雄弁さが玉に瑕。女官のうち誰かが彼女の口を塞ぐのが、この宮の日常と化してきた。
「ぷはぁ☆ だって先輩、玲那皇子が繰り返し仰るんですもの。新入りの私でもうっかり誦じてしまいます☆ 故国では黒の貴公子との呼び声も高かったとか☆」
レナード。お前、そんなこと言いふらしていたのか。
知らない間に用意されていたのは、大袈裟な口上ばかりではない。毎日着替えても袖を通し切れないほどの、贅を尽くした衣装。今日の茶会に合わせた手土産。遠く大陸を超えて、珍しく趣味の良い小物が溢れている。毎度執務のついでに買い集めたものらしい。本来は私への贈り物だったらしいが、書籍や文房具以外に興味を示さないため、お蔵入りになっていたそうだ。
女官が選んだのは、シンプルながら凝った刺繍に、さりげなく織り込まれた銀糸の龍袍。私の好みを知り尽くしている。夫に立てられた過剰な前評判には辟易したが、こうして彼の思いを見せつけられると、文句どころか胸が切なく締め付けられてしまう。レナードめ。
私は宮の前に留められた天翔ける翼馬の曳く馬車に乗って、別の高台の上にある宮へと渡った。
「まぁローレンス!会いたかったわ!」
第六皇子妃の宮殿で私を出迎えたのは、金髪碧眼の少女だった。初めましてのはずなのに、異様にフレンドリーな彼女の熱烈なハグに戸惑っていると、なんと彼女は私の高祖伯母、つまり祖母の祖母の姉、ということだそうだ。ついでにレナードの母上でもある。
私の緊張とは裏腹に、お茶会は滑らかに滑り出した。
一応夫も学んでいるのだ。昼まで盛って午後からの講義の約束を反故にし、私は何度も激怒した。もちろん講義の後の「仕置き」や「労い」と称した、拷問のようなセックスもだ。そういえば出産後のアレもアレだった。ああ、思い返せば腸が煮えくり返る。夫は何度も雷を落とされては、その度に「もうしません」と反省のポーズだけ取って、また同じことを繰り返す。あの小さくて賢い翼蛇のレナードが、龍神に進化した途端、何故こんなに馬鹿になってしまったのか。しかしそれでも、その頻度はやや落ち着いてきた、と思う。
何度かに一度、私の怒りが頂点に達した時には、私は夫を拒絶して、卵と共に自分の寝室に籠もる。その後には彼は、気持ち悪いくらいに私の機嫌を取り、山のように贈り物を用意しては、まるで別人のように私を優しく抱く。
贈り物など要らない。ただ肌を寄せ合って、お互いの気持ちを確かめ合って、穏やかな夜を過ごしたかった。やっと分かってくれた。ずっとこうならいい。
と、毎度思うのだ。数日後には、反動で濃厚で執拗なセックス。そして産卵後には、苛烈な種付けが待っている。私もいい加減学習した。夫の教育、いや夫との戦いは、長期戦を覚悟せねばなるまい。
さすがに夫も、今日の茶会を妨害してはマズいと思ったのだろう。多少渋々といった様子ではあったが、茶会を楽しむようにと一言告げ、今日も颯爽と飛び立って行った。
茶会への出席の準備は、万事滞りなく行われた。しばらく仮眠を取った後、女官の手によって入念な湯浴み、肌や髪の手入れ、そして薄化粧。私は女性ではないので、自身の外見についてそうこだわりを持たないのだが、
「何をおっしゃいます楼蘭妃☆ 透き通るような白皙の肌、艶やかな射干玉のお髪、全ての夜空の星の輝きを集めた黒曜石の瞳。紅を差したかのような薔薇色の唇、しなやかで伸びやかな極上の御身にむぐっ」
口を開けば止まらない、例の新入りの女官。腕は確かなのだが、雄弁さが玉に瑕。女官のうち誰かが彼女の口を塞ぐのが、この宮の日常と化してきた。
「ぷはぁ☆ だって先輩、玲那皇子が繰り返し仰るんですもの。新入りの私でもうっかり誦じてしまいます☆ 故国では黒の貴公子との呼び声も高かったとか☆」
レナード。お前、そんなこと言いふらしていたのか。
知らない間に用意されていたのは、大袈裟な口上ばかりではない。毎日着替えても袖を通し切れないほどの、贅を尽くした衣装。今日の茶会に合わせた手土産。遠く大陸を超えて、珍しく趣味の良い小物が溢れている。毎度執務のついでに買い集めたものらしい。本来は私への贈り物だったらしいが、書籍や文房具以外に興味を示さないため、お蔵入りになっていたそうだ。
女官が選んだのは、シンプルながら凝った刺繍に、さりげなく織り込まれた銀糸の龍袍。私の好みを知り尽くしている。夫に立てられた過剰な前評判には辟易したが、こうして彼の思いを見せつけられると、文句どころか胸が切なく締め付けられてしまう。レナードめ。
私は宮の前に留められた天翔ける翼馬の曳く馬車に乗って、別の高台の上にある宮へと渡った。
「まぁローレンス!会いたかったわ!」
第六皇子妃の宮殿で私を出迎えたのは、金髪碧眼の少女だった。初めましてのはずなのに、異様にフレンドリーな彼女の熱烈なハグに戸惑っていると、なんと彼女は私の高祖伯母、つまり祖母の祖母の姉、ということだそうだ。ついでにレナードの母上でもある。
私の緊張とは裏腹に、お茶会は滑らかに滑り出した。
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