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第11話※ レンジャーのアールト3(アールト視点)
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ドアノッカーが控えめに鳴らされる。
「お、お邪魔しま~す…」
野ネズミだ。地味な野ネズミが、のこのこと現れた。
町外れにある古ぼけた一軒家。見る者が見れば、厳重な結界と高度な認識阻害が掛けられていることが分かる。見目が良く常に欲望に晒されるエルフ族は、宿に宿泊すると、余程の高級宿であっても、良からぬ者が夜這いを掛けて来たり、誘拐の憂き目に遭う。ゆえに、商業ギルドを通じて、よくこうした物件を保有する。
一見何の変哲もない家屋のようで、許可した者しか侵入出来ない魔導要塞。少なくともこの100年、ここに足を踏み入れたのは、商業ギルドから派遣された管理人と、私。そして今日招いた彼、コンラートだけだ。歴代のパーティーメンバー、無論ディルクやバルドゥルであっても、一度たりとも招いたことはない。
物珍し気に、きょろきょろと辺りを見回すつぶらな瞳。小さな手から捧げられる、手土産のナッツクッキー。まるで野ネズミがどんぐりでも運んできたようだ。悪くない。
「さあ、座って。まず、スライム素材の話だったね」
彼からは、細工師工房で新商品を開発するため、魔道具に使う素材について教えて欲しい、と言われていた。しかし具体的に詳しく問い詰めると、どうもスライムについて聞きたいらしい。なるほど、成人したての若者が関心を持ちそうなことだ。スライムといえば、十中八九、色事でしかない。
コンラートは、言葉や態度の端々に私への思慕を隠さない。時にそれは、崇拝にも似た不気味さも含むのだが、結局彼も我々エルフ族の持つ存在美に魅了されているということだ。淫魔や小人族の邪な魅了スキルとは違う、生まれながらにして備わった、隠しようもない優美と洗練。これを解しないのは、偏屈で醜いドワーフ族くらいのものだが、そのドワーフの中にあって、この抗いようのない魅力に惹かれてしまう者が現れても、それは仕方ないと言えよう。
しかしこのコンラートに限っては、異質だ。エルフの私に対して友好的であることは勿論、私の知り得ない知識をボソリと漏らす。
「ふぅん。やっぱアミノ酸とかですかね」
「アミ…何だって?」
「あっ、いやっ、えっと」
彼は「アミ、いやあの、オキアミ?」などと苦しい言い訳をしていたが、何故スライムの発生条件に、果ての地の海洋生物が登場するのか。そもそも、火山帯にある自国と一部の友好国以外、一箇所に定住して滅多と移動しないドワーフ族。その若者が、極めてローカルな水棲生物について、知る由などないはずだ。
更に、100年ほど前に衰退し、今では古文書の中にしか存在しない錬金術についても、
「ですよね。金とか作れるわけないですもんね」
と言い切った。
「…君は何故そう思うの?」
「いや、何ていうか、…勘?」
勘では済まされない。この野ネズミは、何かを知っている。今日はそれを洗いざらい吐かせる為に、この拠点に招いたのだ。
フラスコの中のスライムゼリーに魔石粉を混ぜる、子供騙しのようなデモンストレーションを経て、いよいよ本題に入る。
「ふふ。じゃあ、ここからはお茶にしようか」
この日のために丹精込めてブレンドした薬草茶だ。別名、自白剤とも言う。
先日ディルクに渡した媚薬を、彼は一瓶全て飲まされたらしい。あれは一滴で十分、ほんの一匙で馬ですら酩酊する強力なものだ。さすがはドワーフ、内臓も頑丈に出来ている。ならば自白剤とて問題なかろう。他種族なら一口で廃人コースの、特濃の特製品だ。さあ、たんと飲むといい。
「君の持って来たそれ、新しいタリスマンだね。鑑定しても?」
「はい、是非!」
そう。クッキーなんぞはどうでもいい。私が見たかったのは、そのタリスマンだ。
150年前、東の小国で手に入れた奇妙なチャーム。彼はそれらの正体と、正しいアクティベーションキーを知っていた。それどころか彼は後日、私のコレクションにないものをも生み出した。モンジュボサツと呼ばれるそれは、INT上昇と精神異常無効のとんでもない効果を持っていて、彼に鑑定結果を告げると、拳を突き上げて喜んでいた。いや、拳を突き上げて喜ぶようなものではない。それは国宝どころか伝説級のアーティファクトだ。
今回は新作を、ざっと見ただけで20ほど携えて来た。眩暈がする。私は一つ一つ鑑定を施したが、いずれ劣らぬ業物ばかりだ。一体このドワーフは、何を目指しているのだろう。
その中でも特に目を引いたのが、これ。
「おや…防毒・麻痺、状態異常回復。これは凄いね」
「あ、それは薬師如来と言って、医師の師と呼ばれる神仏で…」
ヤクシニョライ。そうか、さっきから薬草茶をガブガブ飲みながら、一向に効き目を見せないのはコイツのせいか。凄まじい加護だ。私は、更に詳細に鑑定を加えているフリをして、その小さな彫像を取り上げた。
「ふふ。ようやく効いて来たかな」
間もなくコンラートは船を漕ぎ出した。見た目より重い身体を抱き上げ、隣の寝室に運び込む。平民らしい古着を一枚一枚剥がして行けば、なるほど程よい筋肉を纏った肢体。筋肉ダルマとは程遠いが、腐ってもドワーフということか。サイズ的には人間族の子供と等しいが、体つきは思春期の駆け出し冒険者のようだ。
そして特筆すべきは、体毛。ほぼ無毛だ。流石の私も、毛むくじゃらのドワーフを相手にするのは躊躇われる。しかし、辛うじて成人にも関わらず、陰毛すら生え揃わない幼気な裸体。何ともアンバランスで、奇妙な刺激を掻き立てる。
力が入らず為すがままのコンラートは、しきりに目を顰めて状況を把握しようとしているらしい。視界に私の姿を捉えると、「てぇてぇ」などと呟いている。
「君は時々、意味の分からないことを言うね」
文脈から類推するに、「尊い」と表現しているようなのだが、彼独特の珍妙な言い回しに興味が尽きない。いや、本題はここからだ。自白剤は十分過ぎるほど盛った。さあ、尋問を始めよう。
「ところでさっき、金は作れるわけがないと言い切ったよね。それはどうして?」
まず今日最初に引っかかったところ。100年ほど前の文献を紐解けば、錬金術の存在と衰退の理由を知ることが出来るが、何故年若いドワーフがそれを知っているのか。
「え、だって…金は安定した物質で…水銀から作るとかそういうんじゃ…」
彼の答えは想定外だった。まるで金を作るには、錬金術的な発想とアプローチでは最初から望めないことを知っていたような。続けて、「水兵リーベ、僕の船」などと呟き始めたが、余計に意味が分からない。リーベ、とはドワーフの古語で愛を示していたはずだが。
「水夫が船を愛好することと、一体どういう関係が?」
「だからぁ、デンシとヨウシとチュウセイシがこう…くるくるって…。クォーク?」
お前は一体何を言っているんだ。まさかまだ、自白剤の効力が万全ではないのか。
「…なるほど。ならば、もっと話しやすくしようか」
私は彼の小ぶりなペニスに、ローションを塗り付ける。自白剤は、ざっくり言うと思考を撹乱し、判断力を大きく削ぐための薬品だ。それは身体的な刺激、特に性感と相性がいい。ぬるぬると刺激してやると、彼は頬を染めて控えめに喘いだ。
我々エルフは、その清廉な美貌ゆえ、性に疎いと誤解されがちだ。実際は、皆里を出る時に、しっかりと房中術を叩き込まれる。何故なら我々は、常に他種族からの性的な脅威に晒されているからだ。いざという時、相手をあしらい、返り討ちにすることで身を守る、護身術としての側面が大きい。
エルフ族に脈々と受け継がれて来た伝統の秘技。私も若かりし頃は、これで何度も身を救われた。流石に、種族的に相容れないドワーフ族に使ったことはないが、オスの善いところなどどの種族でも同じだ。そうら、私に全て打ち明けたくなってきただろう。
「さっきのアミノサンって、あれは何?」
「…俺も良く知らない…ユウキ、カゴウブツ、としか」
しかしコンラートは、私の質問に従順に回答するが、一体何を言っているのかさっぱり分からない。
「ユウキカゴウブツとは?」
「…たしか、タンソが入ったナンか…ああもう、俺、ブンケイで…カガクなんて、受験ぶりで…」
彼の持つ情報を引き出し、謎を解こうにも、更なる謎ワードが後から後から湧いて出る。中には概念だけ知っていて、内容を詳しく理解していない事象もあるようだが。さて、一体どこから切り込むべきか。
「いいだろう。じゃあ、今日ここに来た目的は?」
「え…あ…スライムで、オナホ…」
彼は、自慰をサポートする筒状の淫具を作りたいようだ。着眼点としては悪くない。それにしても、彼も所詮人間族たちと同じ。スライムのことを尋ねて来るということは、私に対して邪な劣情を抱いていたということだろう。
しかしところが、彼は奇妙なポーズを取ったかと思うと、意気揚々と宣言した。
「イエス、美エルフ、ノータッチ」
「…は?」
「イエス、美エルフ、ノータッチ」
自白剤で朦朧としつつ、しかし彼の眼差しは真剣だ。
「…何となく察したよ。君は私に対して、邪な気持ちはないと言いたいのかな」
「イエス、美エルフ、ノータッチ」
まあいいだろう。彼がどんなつもりだろうと、身体は従順なようだ。どんなに言い繕っても、本当はこれに興味があったんだろう?媚薬入りのローション。さあ、もっとくれてやろう。
「あっ…あっ…」
コンラートは、へこへこと腰を揺らし、呆気なく射精した。まだまだ知りたいことはたくさんある。先へ進むとしよう。
「本当だ。君、凄く名器なんだね」
「あえ?えへぇ…」
くちっ、くちっ。
慎ましい性器の裏には、ちんまりとした菊門が佇んでいた。故郷の里で、稀に幼児が誕生した際には、繦の世話や、沐浴を手伝ってやったことを思い出す。
「痛くないだろう?弛緩剤入りのジェル。これでディルクのも入ったって言うんだから…ああ、ここかな」
「ひうっ」
あの性豪ディルクを虜にしたという、そこ。確かに、彼のそこは身体全体に比例して、作りからして小さい。それでいて、あの巨根を飲み込み、満足させたという柔軟性。しかも感度も良好だ。中を探ってやると、素直に快楽を拾っている。ここは私もご相伴に与らねばなるまい。
「さあ、そろそろいいかな。君にはもっと従順になってもらわないと、ね?」
案の定、子供のようなナリをして、興味津々だ。私のペニスに目が釘づけになっている。何故だか合掌して崇拝の意を表しているが、未だ根強く残る男根信仰だろうか。いいだろう、ならばお前が望むものをくれてやる。
「ふァッ…」
陽根を押し当て、慎重に押し進める。入り口がきついのはどの種族の男も同じだ。だが、中が全然違う。元々の腸管が狭いのだ。しっとりと吸い付くように纏わりつき、まるで陰圧が掛けられているかのよう。
「あっ、あっ、あっ、」
「はは、凄いな。本当に名器だ。ディルクが執着するのも分かるよ」
彼はうわごとのように「へぁッ、あっ、しゅごっ、きもちっ」などと喘いでいるが、正直彼の性能は、期待値を遥かに上回る。これは楽しめそうだ。いや、楽しんでいる場合ではない。
「気持ちいいね、コンラート。さあ、君の秘密、正直に教えてくれるかな」
「い、言いま、しゅ、何でも、あヒッ」
良い心掛けだ。私は、物欲しそうに勃ち上がったピンクの乳首を、指先で転がしてやった。
「君の持つ神仏の知識、ボンジやシンゴン。それは誰から教わった?」
「あっ、しょれっ、ゲ、ゲー、ムッ、ゲームれ…」
私が一番知りたかったことだ。彼は呆気なく吐くが、相変わらず答えが意味不明で埒が明かない。
「遊戯?冗談は良くないな」
「あヒァ!」
しかしもはや、それは問題ではなくなっていた。
とぼけた童顔、まるで色気のない子供のような身体。それでいて、その小さな尻に私のものをぐっぽりと咥え込み、シーツを掴んで激しく乱れる。焦点の合わない目尻からは快楽の涙をこぼし、口からは舌足らずの喘ぎと唾液を垂れ流しながら、汗とザーメンまみれの肌を紅潮させて、全身でアクメを繰り返す。その妖艶さとのギャップに、倒錯的な興奮が止まらない。
そして何より、感心するほどの感度。乳首を捏ねる度に腰を跳ね上げ、腹圧と共にペニスが締め付けられる。入り口だけでなく、中まで全て。何だこれは。脱力すると吸い上げ、感じると収縮する。私の指の動きに合わせて、胎内で私をぐにぐにと淫らに扱いて喰む。
———こんな穴は知らない。
自慢ではないが、私はエルフの中でも特に性体験が豊富だと思う。里を出たばかりの頃、それこそ若さに任せて、数えきれないほどの肉体関係を結んで来た。ありとあらゆる種族の男と女。時には受け入れる側になって。最終的には魔大陸まで渡り、淫魔とも交わった。そして、世のセックスと呼ばれる行為、快楽という快楽は、全て知り尽くしたつもりだった。
しかしコンラートは、それらの全てを上回った。
「あッ、あんッ、らってッ、ゲー、ゲッ☆、あいィッ☆」
私は夢中になって、抽送を繰り返しながら乳首を抓る。一際強くしてやると、一瞬で深くメスイキしたコンラートのアナルが牙を剥く。
「くッ…!何というッ…!」
私は本来の目的を忘れて、思わず腰を振りたくった。こんなこと、性を知ったばかりの幼子のすることだ。だが、
「イ”あああ!!!」
一段とアクメを極めたコンラートが、全て吸い上げて行く。呆気なく敗北した私は、しばし言葉もなかった。
「…とんでもないな、このメス穴…」
「へへ…エロフの子作り汁、てぇてぇ…」
しかしコンラートは、この後に及んで私に合掌する余力がある。房事には絶対の自信のあった私のプライドを打ち砕き、挑発まで。そうか、お前がその気なら…
「素直になるまで、身体に訊くだけだ」
私は彼の矮躯を裏返し、改めて背後から侵入した。
「はヒッ☆」
ここからは、久々に本気で楽しませてもらおう。
ぬこっ、ぬこっ、ぬこっ、ぬこっ。
「で、タンソとは何だい?」
「ら、らからッ、『僕の船』のッ、『ク』れッ、『ク』れぇッ」
コンラートは快楽にもつれる舌で、懸命に意味不明なことを口走っている。恐らく彼としては、私の質問に対して忠実に回答しているのだろう。だがそんなことは最早どうでもいい。
「『ク』とは何だ、『ク』とは。もっと分かりやすく説明しなさい」
ぬこぬこぬこぬこ。
「らっ、ライヤ!ライヤモんッ、あッい”ッ…!!」
私が抽送を速めると、彼の声は切羽詰まった悲鳴に変わり、凶悪なアナルは私のペニスを容赦なく絞りにかかる。
「ええい、この淫乱ネズミめ。アクメだけは一丁前だ、なッ…!」
どくん!
「イぎぁ…ッ!!!」
さっきからずっとこの調子だ。腹の奥まで突き上げ、止めを刺したつもりが、精を吐いたそばからアクメマンコに揉まれ、また勃ち上がる。これは最早拷問だ。気持ち良すぎて、頭がバカになってしまう。
「はぁっ、は、ははっ。そうか。まだ教える気にならないか。仕方ないな…」
私はベッドサイドに用意していた精力剤を呷る。もしドワーフ相手に勃たなければと用意していたものだが、勃たないどころではない。これはプライドを賭けた戦いだ。
「も、もう、ゆるじでクレメンス」
私を振り返り、えぐえぐと嗚咽を漏らしながらコンラートが懇願する。だがしかし、お前が私を煽ったのだ。しかもまだ意味不明な事を口走る余力があるようだな。責任は取ってもらおう。
「クレメンス?それはクレメンス侯爵領のことか?それともクレメンス朝…?」
「あっ違っ、そういう事じゃ、」
「言え」
ぬこぬこぬこぬこ。
「あ”ッ待っ、イぐ、イッぐ…!!!」
ははは。この私に房事で挑んだこと、後悔させてやろう。
「コンラート。起きなさい」
「ふぇ…」
書き物を止め、私はコンラートを揺すり起こした。窓からはもう、夕陽が射している。
あの後、動かなくなったコンラートに我に返った私は、改めて惨状を確認した。ベッドはあらゆる体液でぐしゃぐしゃ。コンラートも同様だ。シャワーでも浴びたかのようにしっとりしている。ペニスを引き抜いて裏返すと、白目を剥いて痙攣していた。それが何とも言えずエロティックで、私は意識のない彼を何度か堪能した。気を失ってまで全身でビクビクと媚びる若いドワーフの肢体に、思わず感嘆のため息を漏らしてしまった。これまでドワーフだけには食指が動かなかったが、食わず嫌いだっただろうか。いや、あの毛むくじゃらは頼まれても無理だ。コンラートは貴重な特殊個体だと言える。
私は清浄を使い、ベッドと衣服、二人の身体を清めた。そして彼に服を着せてソファに横たえると、早速デスクに向かった。
今回コンラートから聞き出した情報は、正直殆ど役に立たなかった。彼の独特の言い回しのせいなのか、それとも私の与り知らぬ未知の情報なのか。しかし彼はセックスに溺れ、とても理路整然と説明をする状態ではなかった。これは私も同じだ。想像を遥かに上回る快楽に、我を忘れてひたすら耽った。これはこれで有意義だった。
自白剤を盛り過ぎ、思考を削り過ぎたか。それとも身体の相性が良過ぎたか。ともかく、これらは彼の思考の働く時間に、それとなく聞き出す方が良さそうだ。私は情事の間に聞き出した耳慣れぬワードを、漏らさず書き留めた。
「よく眠っていたね」
「?!お、俺ッ…」
「ふふ。よほど疲れていたんだろう。君はいつも頑張っているからね」
朦朧としていたコンラートは、ソファの上で飛び起き、キョロキョロと辺りを見回している。その様子は、紛うことなき野ネズミだ。
疲れたのはお互い様だ。私も久しぶりに精力剤を頼ったが、あれは体力の前借りだ。後で酷い反動が来る。あの後、スタミナ回復薬も併用したが、明日明後日は使い物にならないだろう。一方、コンラートは額を押さえながら「ヤバイヤバイヤバイ」などと呟いている。私が「日頃の疲れが取れたのなら良かったよ」などと微笑んでやると、顔を真っ赤にして明らかに狼狽えた。昏睡中に私が暗示した通り、先程の情事を淫夢だと思い込んでいるらしい。
「あっあのっ、どうお詫びしたらいいのか…」
「お詫びなんていいよ。それより、また君が作ったもの、見せてくれるかい?」
彼がこれから作ろうとしている「オナホ」なるもの。しかし彼は、自身の雌穴が、恐らくそれを遥かに凌ぐ淫具だとは認識していないだろう。私はそちらの方に大変興味がある。次回も是非、堪能させてもらおう。エルフ秘伝の特製薬草茶を用意してな。
「じゃあ、また」
彼は、しきりに恐縮して早口で謝辞を述べながら、逃げるように辞去して行った。何と、今日持ち込んだ伝説級アーティファクトを、全て進呈すると告げて。事もあろうか「また作れるから」と。1つで城どころか小国が買えるかも知れない逸品。それが20。
見送りを固辞し、小道を走り去る野ネズミ。私はその後ろ姿を、小さなアーティファクトを抱えたまま、呆然と見送った。
———さて。
私は正直、コンラートから未知の知識さえ得られれば、後はどうでも良かった。ディルクが彼に懸想して、それが実ろうと実のるまいと、彼をきっかけに知遇を得て、さっさと情報を引き出して研究としてまとめ、いずれ私の成果物として世界樹の大図書館に背表紙を並べる。それが私の目標だったはずだ。
だが、一度あの肉体を知ってしまっては、目的を変更せざるを得ない。
なるほどディルクが惚れ込む訳だ。久しぶりに我を忘れて、散々可愛がってやったのに、傷一つ付かずに最後までいやらしく咥え込む、丈夫なメス穴。一挙手一投足に敏感に感じ、悶え、アクメして泣き叫ぶ無様なイキ顔。まるでペニスを受け入れるために生まれて来たような男だ。その上、私に崇敬の念まで抱き、頬を染め、懐っこい笑顔でまとわりついて来る。
悪いな、ディルク。残念だが、コンラートは貴様のような下等生物にくれてやるわけにはいかん。ああ、安心しろ。私が丁重に飼育してやる。心配するな。
ソファに身を横たえながら、窓から差し込む月光の中、私はコンラートの次の休日に思いを馳せた。
「お、お邪魔しま~す…」
野ネズミだ。地味な野ネズミが、のこのこと現れた。
町外れにある古ぼけた一軒家。見る者が見れば、厳重な結界と高度な認識阻害が掛けられていることが分かる。見目が良く常に欲望に晒されるエルフ族は、宿に宿泊すると、余程の高級宿であっても、良からぬ者が夜這いを掛けて来たり、誘拐の憂き目に遭う。ゆえに、商業ギルドを通じて、よくこうした物件を保有する。
一見何の変哲もない家屋のようで、許可した者しか侵入出来ない魔導要塞。少なくともこの100年、ここに足を踏み入れたのは、商業ギルドから派遣された管理人と、私。そして今日招いた彼、コンラートだけだ。歴代のパーティーメンバー、無論ディルクやバルドゥルであっても、一度たりとも招いたことはない。
物珍し気に、きょろきょろと辺りを見回すつぶらな瞳。小さな手から捧げられる、手土産のナッツクッキー。まるで野ネズミがどんぐりでも運んできたようだ。悪くない。
「さあ、座って。まず、スライム素材の話だったね」
彼からは、細工師工房で新商品を開発するため、魔道具に使う素材について教えて欲しい、と言われていた。しかし具体的に詳しく問い詰めると、どうもスライムについて聞きたいらしい。なるほど、成人したての若者が関心を持ちそうなことだ。スライムといえば、十中八九、色事でしかない。
コンラートは、言葉や態度の端々に私への思慕を隠さない。時にそれは、崇拝にも似た不気味さも含むのだが、結局彼も我々エルフ族の持つ存在美に魅了されているということだ。淫魔や小人族の邪な魅了スキルとは違う、生まれながらにして備わった、隠しようもない優美と洗練。これを解しないのは、偏屈で醜いドワーフ族くらいのものだが、そのドワーフの中にあって、この抗いようのない魅力に惹かれてしまう者が現れても、それは仕方ないと言えよう。
しかしこのコンラートに限っては、異質だ。エルフの私に対して友好的であることは勿論、私の知り得ない知識をボソリと漏らす。
「ふぅん。やっぱアミノ酸とかですかね」
「アミ…何だって?」
「あっ、いやっ、えっと」
彼は「アミ、いやあの、オキアミ?」などと苦しい言い訳をしていたが、何故スライムの発生条件に、果ての地の海洋生物が登場するのか。そもそも、火山帯にある自国と一部の友好国以外、一箇所に定住して滅多と移動しないドワーフ族。その若者が、極めてローカルな水棲生物について、知る由などないはずだ。
更に、100年ほど前に衰退し、今では古文書の中にしか存在しない錬金術についても、
「ですよね。金とか作れるわけないですもんね」
と言い切った。
「…君は何故そう思うの?」
「いや、何ていうか、…勘?」
勘では済まされない。この野ネズミは、何かを知っている。今日はそれを洗いざらい吐かせる為に、この拠点に招いたのだ。
フラスコの中のスライムゼリーに魔石粉を混ぜる、子供騙しのようなデモンストレーションを経て、いよいよ本題に入る。
「ふふ。じゃあ、ここからはお茶にしようか」
この日のために丹精込めてブレンドした薬草茶だ。別名、自白剤とも言う。
先日ディルクに渡した媚薬を、彼は一瓶全て飲まされたらしい。あれは一滴で十分、ほんの一匙で馬ですら酩酊する強力なものだ。さすがはドワーフ、内臓も頑丈に出来ている。ならば自白剤とて問題なかろう。他種族なら一口で廃人コースの、特濃の特製品だ。さあ、たんと飲むといい。
「君の持って来たそれ、新しいタリスマンだね。鑑定しても?」
「はい、是非!」
そう。クッキーなんぞはどうでもいい。私が見たかったのは、そのタリスマンだ。
150年前、東の小国で手に入れた奇妙なチャーム。彼はそれらの正体と、正しいアクティベーションキーを知っていた。それどころか彼は後日、私のコレクションにないものをも生み出した。モンジュボサツと呼ばれるそれは、INT上昇と精神異常無効のとんでもない効果を持っていて、彼に鑑定結果を告げると、拳を突き上げて喜んでいた。いや、拳を突き上げて喜ぶようなものではない。それは国宝どころか伝説級のアーティファクトだ。
今回は新作を、ざっと見ただけで20ほど携えて来た。眩暈がする。私は一つ一つ鑑定を施したが、いずれ劣らぬ業物ばかりだ。一体このドワーフは、何を目指しているのだろう。
その中でも特に目を引いたのが、これ。
「おや…防毒・麻痺、状態異常回復。これは凄いね」
「あ、それは薬師如来と言って、医師の師と呼ばれる神仏で…」
ヤクシニョライ。そうか、さっきから薬草茶をガブガブ飲みながら、一向に効き目を見せないのはコイツのせいか。凄まじい加護だ。私は、更に詳細に鑑定を加えているフリをして、その小さな彫像を取り上げた。
「ふふ。ようやく効いて来たかな」
間もなくコンラートは船を漕ぎ出した。見た目より重い身体を抱き上げ、隣の寝室に運び込む。平民らしい古着を一枚一枚剥がして行けば、なるほど程よい筋肉を纏った肢体。筋肉ダルマとは程遠いが、腐ってもドワーフということか。サイズ的には人間族の子供と等しいが、体つきは思春期の駆け出し冒険者のようだ。
そして特筆すべきは、体毛。ほぼ無毛だ。流石の私も、毛むくじゃらのドワーフを相手にするのは躊躇われる。しかし、辛うじて成人にも関わらず、陰毛すら生え揃わない幼気な裸体。何ともアンバランスで、奇妙な刺激を掻き立てる。
力が入らず為すがままのコンラートは、しきりに目を顰めて状況を把握しようとしているらしい。視界に私の姿を捉えると、「てぇてぇ」などと呟いている。
「君は時々、意味の分からないことを言うね」
文脈から類推するに、「尊い」と表現しているようなのだが、彼独特の珍妙な言い回しに興味が尽きない。いや、本題はここからだ。自白剤は十分過ぎるほど盛った。さあ、尋問を始めよう。
「ところでさっき、金は作れるわけがないと言い切ったよね。それはどうして?」
まず今日最初に引っかかったところ。100年ほど前の文献を紐解けば、錬金術の存在と衰退の理由を知ることが出来るが、何故年若いドワーフがそれを知っているのか。
「え、だって…金は安定した物質で…水銀から作るとかそういうんじゃ…」
彼の答えは想定外だった。まるで金を作るには、錬金術的な発想とアプローチでは最初から望めないことを知っていたような。続けて、「水兵リーベ、僕の船」などと呟き始めたが、余計に意味が分からない。リーベ、とはドワーフの古語で愛を示していたはずだが。
「水夫が船を愛好することと、一体どういう関係が?」
「だからぁ、デンシとヨウシとチュウセイシがこう…くるくるって…。クォーク?」
お前は一体何を言っているんだ。まさかまだ、自白剤の効力が万全ではないのか。
「…なるほど。ならば、もっと話しやすくしようか」
私は彼の小ぶりなペニスに、ローションを塗り付ける。自白剤は、ざっくり言うと思考を撹乱し、判断力を大きく削ぐための薬品だ。それは身体的な刺激、特に性感と相性がいい。ぬるぬると刺激してやると、彼は頬を染めて控えめに喘いだ。
我々エルフは、その清廉な美貌ゆえ、性に疎いと誤解されがちだ。実際は、皆里を出る時に、しっかりと房中術を叩き込まれる。何故なら我々は、常に他種族からの性的な脅威に晒されているからだ。いざという時、相手をあしらい、返り討ちにすることで身を守る、護身術としての側面が大きい。
エルフ族に脈々と受け継がれて来た伝統の秘技。私も若かりし頃は、これで何度も身を救われた。流石に、種族的に相容れないドワーフ族に使ったことはないが、オスの善いところなどどの種族でも同じだ。そうら、私に全て打ち明けたくなってきただろう。
「さっきのアミノサンって、あれは何?」
「…俺も良く知らない…ユウキ、カゴウブツ、としか」
しかしコンラートは、私の質問に従順に回答するが、一体何を言っているのかさっぱり分からない。
「ユウキカゴウブツとは?」
「…たしか、タンソが入ったナンか…ああもう、俺、ブンケイで…カガクなんて、受験ぶりで…」
彼の持つ情報を引き出し、謎を解こうにも、更なる謎ワードが後から後から湧いて出る。中には概念だけ知っていて、内容を詳しく理解していない事象もあるようだが。さて、一体どこから切り込むべきか。
「いいだろう。じゃあ、今日ここに来た目的は?」
「え…あ…スライムで、オナホ…」
彼は、自慰をサポートする筒状の淫具を作りたいようだ。着眼点としては悪くない。それにしても、彼も所詮人間族たちと同じ。スライムのことを尋ねて来るということは、私に対して邪な劣情を抱いていたということだろう。
しかしところが、彼は奇妙なポーズを取ったかと思うと、意気揚々と宣言した。
「イエス、美エルフ、ノータッチ」
「…は?」
「イエス、美エルフ、ノータッチ」
自白剤で朦朧としつつ、しかし彼の眼差しは真剣だ。
「…何となく察したよ。君は私に対して、邪な気持ちはないと言いたいのかな」
「イエス、美エルフ、ノータッチ」
まあいいだろう。彼がどんなつもりだろうと、身体は従順なようだ。どんなに言い繕っても、本当はこれに興味があったんだろう?媚薬入りのローション。さあ、もっとくれてやろう。
「あっ…あっ…」
コンラートは、へこへこと腰を揺らし、呆気なく射精した。まだまだ知りたいことはたくさんある。先へ進むとしよう。
「本当だ。君、凄く名器なんだね」
「あえ?えへぇ…」
くちっ、くちっ。
慎ましい性器の裏には、ちんまりとした菊門が佇んでいた。故郷の里で、稀に幼児が誕生した際には、繦の世話や、沐浴を手伝ってやったことを思い出す。
「痛くないだろう?弛緩剤入りのジェル。これでディルクのも入ったって言うんだから…ああ、ここかな」
「ひうっ」
あの性豪ディルクを虜にしたという、そこ。確かに、彼のそこは身体全体に比例して、作りからして小さい。それでいて、あの巨根を飲み込み、満足させたという柔軟性。しかも感度も良好だ。中を探ってやると、素直に快楽を拾っている。ここは私もご相伴に与らねばなるまい。
「さあ、そろそろいいかな。君にはもっと従順になってもらわないと、ね?」
案の定、子供のようなナリをして、興味津々だ。私のペニスに目が釘づけになっている。何故だか合掌して崇拝の意を表しているが、未だ根強く残る男根信仰だろうか。いいだろう、ならばお前が望むものをくれてやる。
「ふァッ…」
陽根を押し当て、慎重に押し進める。入り口がきついのはどの種族の男も同じだ。だが、中が全然違う。元々の腸管が狭いのだ。しっとりと吸い付くように纏わりつき、まるで陰圧が掛けられているかのよう。
「あっ、あっ、あっ、」
「はは、凄いな。本当に名器だ。ディルクが執着するのも分かるよ」
彼はうわごとのように「へぁッ、あっ、しゅごっ、きもちっ」などと喘いでいるが、正直彼の性能は、期待値を遥かに上回る。これは楽しめそうだ。いや、楽しんでいる場合ではない。
「気持ちいいね、コンラート。さあ、君の秘密、正直に教えてくれるかな」
「い、言いま、しゅ、何でも、あヒッ」
良い心掛けだ。私は、物欲しそうに勃ち上がったピンクの乳首を、指先で転がしてやった。
「君の持つ神仏の知識、ボンジやシンゴン。それは誰から教わった?」
「あっ、しょれっ、ゲ、ゲー、ムッ、ゲームれ…」
私が一番知りたかったことだ。彼は呆気なく吐くが、相変わらず答えが意味不明で埒が明かない。
「遊戯?冗談は良くないな」
「あヒァ!」
しかしもはや、それは問題ではなくなっていた。
とぼけた童顔、まるで色気のない子供のような身体。それでいて、その小さな尻に私のものをぐっぽりと咥え込み、シーツを掴んで激しく乱れる。焦点の合わない目尻からは快楽の涙をこぼし、口からは舌足らずの喘ぎと唾液を垂れ流しながら、汗とザーメンまみれの肌を紅潮させて、全身でアクメを繰り返す。その妖艶さとのギャップに、倒錯的な興奮が止まらない。
そして何より、感心するほどの感度。乳首を捏ねる度に腰を跳ね上げ、腹圧と共にペニスが締め付けられる。入り口だけでなく、中まで全て。何だこれは。脱力すると吸い上げ、感じると収縮する。私の指の動きに合わせて、胎内で私をぐにぐにと淫らに扱いて喰む。
———こんな穴は知らない。
自慢ではないが、私はエルフの中でも特に性体験が豊富だと思う。里を出たばかりの頃、それこそ若さに任せて、数えきれないほどの肉体関係を結んで来た。ありとあらゆる種族の男と女。時には受け入れる側になって。最終的には魔大陸まで渡り、淫魔とも交わった。そして、世のセックスと呼ばれる行為、快楽という快楽は、全て知り尽くしたつもりだった。
しかしコンラートは、それらの全てを上回った。
「あッ、あんッ、らってッ、ゲー、ゲッ☆、あいィッ☆」
私は夢中になって、抽送を繰り返しながら乳首を抓る。一際強くしてやると、一瞬で深くメスイキしたコンラートのアナルが牙を剥く。
「くッ…!何というッ…!」
私は本来の目的を忘れて、思わず腰を振りたくった。こんなこと、性を知ったばかりの幼子のすることだ。だが、
「イ”あああ!!!」
一段とアクメを極めたコンラートが、全て吸い上げて行く。呆気なく敗北した私は、しばし言葉もなかった。
「…とんでもないな、このメス穴…」
「へへ…エロフの子作り汁、てぇてぇ…」
しかしコンラートは、この後に及んで私に合掌する余力がある。房事には絶対の自信のあった私のプライドを打ち砕き、挑発まで。そうか、お前がその気なら…
「素直になるまで、身体に訊くだけだ」
私は彼の矮躯を裏返し、改めて背後から侵入した。
「はヒッ☆」
ここからは、久々に本気で楽しませてもらおう。
ぬこっ、ぬこっ、ぬこっ、ぬこっ。
「で、タンソとは何だい?」
「ら、らからッ、『僕の船』のッ、『ク』れッ、『ク』れぇッ」
コンラートは快楽にもつれる舌で、懸命に意味不明なことを口走っている。恐らく彼としては、私の質問に対して忠実に回答しているのだろう。だがそんなことは最早どうでもいい。
「『ク』とは何だ、『ク』とは。もっと分かりやすく説明しなさい」
ぬこぬこぬこぬこ。
「らっ、ライヤ!ライヤモんッ、あッい”ッ…!!」
私が抽送を速めると、彼の声は切羽詰まった悲鳴に変わり、凶悪なアナルは私のペニスを容赦なく絞りにかかる。
「ええい、この淫乱ネズミめ。アクメだけは一丁前だ、なッ…!」
どくん!
「イぎぁ…ッ!!!」
さっきからずっとこの調子だ。腹の奥まで突き上げ、止めを刺したつもりが、精を吐いたそばからアクメマンコに揉まれ、また勃ち上がる。これは最早拷問だ。気持ち良すぎて、頭がバカになってしまう。
「はぁっ、は、ははっ。そうか。まだ教える気にならないか。仕方ないな…」
私はベッドサイドに用意していた精力剤を呷る。もしドワーフ相手に勃たなければと用意していたものだが、勃たないどころではない。これはプライドを賭けた戦いだ。
「も、もう、ゆるじでクレメンス」
私を振り返り、えぐえぐと嗚咽を漏らしながらコンラートが懇願する。だがしかし、お前が私を煽ったのだ。しかもまだ意味不明な事を口走る余力があるようだな。責任は取ってもらおう。
「クレメンス?それはクレメンス侯爵領のことか?それともクレメンス朝…?」
「あっ違っ、そういう事じゃ、」
「言え」
ぬこぬこぬこぬこ。
「あ”ッ待っ、イぐ、イッぐ…!!!」
ははは。この私に房事で挑んだこと、後悔させてやろう。
「コンラート。起きなさい」
「ふぇ…」
書き物を止め、私はコンラートを揺すり起こした。窓からはもう、夕陽が射している。
あの後、動かなくなったコンラートに我に返った私は、改めて惨状を確認した。ベッドはあらゆる体液でぐしゃぐしゃ。コンラートも同様だ。シャワーでも浴びたかのようにしっとりしている。ペニスを引き抜いて裏返すと、白目を剥いて痙攣していた。それが何とも言えずエロティックで、私は意識のない彼を何度か堪能した。気を失ってまで全身でビクビクと媚びる若いドワーフの肢体に、思わず感嘆のため息を漏らしてしまった。これまでドワーフだけには食指が動かなかったが、食わず嫌いだっただろうか。いや、あの毛むくじゃらは頼まれても無理だ。コンラートは貴重な特殊個体だと言える。
私は清浄を使い、ベッドと衣服、二人の身体を清めた。そして彼に服を着せてソファに横たえると、早速デスクに向かった。
今回コンラートから聞き出した情報は、正直殆ど役に立たなかった。彼の独特の言い回しのせいなのか、それとも私の与り知らぬ未知の情報なのか。しかし彼はセックスに溺れ、とても理路整然と説明をする状態ではなかった。これは私も同じだ。想像を遥かに上回る快楽に、我を忘れてひたすら耽った。これはこれで有意義だった。
自白剤を盛り過ぎ、思考を削り過ぎたか。それとも身体の相性が良過ぎたか。ともかく、これらは彼の思考の働く時間に、それとなく聞き出す方が良さそうだ。私は情事の間に聞き出した耳慣れぬワードを、漏らさず書き留めた。
「よく眠っていたね」
「?!お、俺ッ…」
「ふふ。よほど疲れていたんだろう。君はいつも頑張っているからね」
朦朧としていたコンラートは、ソファの上で飛び起き、キョロキョロと辺りを見回している。その様子は、紛うことなき野ネズミだ。
疲れたのはお互い様だ。私も久しぶりに精力剤を頼ったが、あれは体力の前借りだ。後で酷い反動が来る。あの後、スタミナ回復薬も併用したが、明日明後日は使い物にならないだろう。一方、コンラートは額を押さえながら「ヤバイヤバイヤバイ」などと呟いている。私が「日頃の疲れが取れたのなら良かったよ」などと微笑んでやると、顔を真っ赤にして明らかに狼狽えた。昏睡中に私が暗示した通り、先程の情事を淫夢だと思い込んでいるらしい。
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見送りを固辞し、小道を走り去る野ネズミ。私はその後ろ姿を、小さなアーティファクトを抱えたまま、呆然と見送った。
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私は正直、コンラートから未知の知識さえ得られれば、後はどうでも良かった。ディルクが彼に懸想して、それが実ろうと実のるまいと、彼をきっかけに知遇を得て、さっさと情報を引き出して研究としてまとめ、いずれ私の成果物として世界樹の大図書館に背表紙を並べる。それが私の目標だったはずだ。
だが、一度あの肉体を知ってしまっては、目的を変更せざるを得ない。
なるほどディルクが惚れ込む訳だ。久しぶりに我を忘れて、散々可愛がってやったのに、傷一つ付かずに最後までいやらしく咥え込む、丈夫なメス穴。一挙手一投足に敏感に感じ、悶え、アクメして泣き叫ぶ無様なイキ顔。まるでペニスを受け入れるために生まれて来たような男だ。その上、私に崇敬の念まで抱き、頬を染め、懐っこい笑顔でまとわりついて来る。
悪いな、ディルク。残念だが、コンラートは貴様のような下等生物にくれてやるわけにはいかん。ああ、安心しろ。私が丁重に飼育してやる。心配するな。
ソファに身を横たえながら、窓から差し込む月光の中、私はコンラートの次の休日に思いを馳せた。
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