【R18BL】転生したらドワーフでした【後日談更新中】

明和来青

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第16話 脱出大作戦

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 知らない天井だ。一度言ってみたかった。いや、ディルクに最初に掘られた時もそう思ったんだ。しかしあの時は、混乱でそれどころじゃなかった。正直今も混乱しているが、二度目だ。俺は今、立派な天蓋の付いた広いベッドの真ん中で、意識を取り戻した。

 日差しからして、陽はとうに高く昇っているようだ。清潔なシーツに包まれた俺は、すっぽんぽん。昨夜エッラいことになったはずなのに、ベッドも身体も綺麗さっぱりなのが、逆に居たたまれない。メイドさんとかがアレしたんだろうか。もうお婿に行けない。最近こればっか言ってる気がする。

 ギシギシ軋む身体を、何とか起こす。酷い目に遭った。初回はまだ、変な薬を飲まされて、序盤はスローペースで犯られてたんだ。今回はいきなりフルスロットルだ。殺す気か。

 しかし俺を正妻にとか、アイツ正気か?ディルクの提示した条件は、正直悪くないと思う。俺は好きなように物作りさせてもらえて、世界中どこにでも連れて行ってもらえて、何不自由なく面倒見てもらえると。うん、紛うことなきプロポーズだ。だけど何で俺?俺、ドワーフで、しかもオスなんですけど?理由が思い当たらない。やたら名器名器っつってたけど、まさか尻の具合で決めたとか。バカなのか?それとも遊び相手全員に言ってる?いやそれこそバカなのか?

 とりとめのない考えを巡らせていると、腹がグウと鳴った。どうしよ。こういう時、どうすればいいんだ。ふと周囲を見回すと、サイドテーブルにバスローブと呼び鈴、そしてアールトのブローチがあった。良かった。これだけは絶対、アールトに返さなければならない。

 恐る恐る呼び鈴を鳴らすと、音もなくしずしずとメイドさんがやって来た。ベテランって感じだ。良かった、若い娘さんじゃなくて。ちょっと期待したけど。

 俺はローブに袖を通し、果実水に口を付けた後、メイドさんに促されるまま、隣の浴室に足を運んだ。既に温かい湯が張られていて、ゆったり気持ちいい。やっぱ日本人は風呂だ。最近羽振りが良くなって来たので、風呂付きの家に引っ越したい。

 部屋に戻ると、果物の盛り合わせとサンドイッチが用意してあった。もうお昼が近いから、これくらいにしとけってことらしい。昼はダイニングで会食があるらしいんだが、このヘロヘロの身体で出席しないといけないんだろうか。俺が「うえっ」って顔をすると、メイドさんは「お辛そうなら、お休みだとお伝えします」だって。気の利くメイドさんだ。有り難い。



 一人にしてもらって、改めて考える。

 ディルクが提示する、何不自由ない生活。正直、魅力的ではある。三顧の礼じゃないが、街中で噂になるにも関わらず、毎日花束を運んできたヤツだ。迷惑この上なかったが、俺のことが満更でもないのは、多分間違いないんだろう。

 だけどさ。毎日この調子で抱き潰されてたら、日常生活ままならなくね?好きなモン作るとか、旅行以前の問題な気がする。しかも俺は一生童貞のまま。死んでも死に切れん。いや、前世は童貞で死んだんだけどさ。

 やっぱヤだ。ディルクはナシ。だけど、平民の俺が、貴族の言うことを拒否出来るとか、ある?どうにかして本国まで逃げ帰れば、匿ってもらえるかも知れない。いや逆に、友好国の有力貴族に貢ぎ物として差し出…

 あかん。バッドエンドしか見えん。

 しかしとりあえず、目先の問題として、どうにかしてここから脱出しなければならない。だってこのまま行けば、俺はまた今夜、あの地獄を見るだろう。いっそディルクが粗チンのノーテクなら良かった。多少掘られたところで、男なんだから孕みもしないし、貴族に犯られたって言うんなら言い訳も立つ。だけどあのマウンテンが、冗談じゃなく死ぬほど気持ちいい。それが問題だ。もう抵抗するとか我慢するとかそういうレベルじゃなくて、普通にイき死ぬ。

 どうしよう。どうやって逃げる。やっべ、急に心細くなってきた。俺は泣きそうになって、咄嗟にアールトのブローチを握りしめた。手垢なんか付けたらダメなヤツなのに。



 その時、客間のドアがカチャリと開いた。メイドさんかと思ったら、今度は文官みたいなオッサンだ。

「コンラート・クリューガー様ですね。時間がありません、どうぞこちらへ」

 え、あ、とあわあわしている俺をさっさと抱えて、オッサンは音もなく廊下を進み出した。俺は腐ってもドワーフだ、見た目よりも筋量が多くて重い。なのにこの音楽室のモーツァルトみたいなオッサンは、パジャマしか着てないとはいえ、俺を軽々と運搬する。何より足の運びに隙がない。裏稼業の人だろうか。

 そのうち俺は、通用口みたいなところから、馬車の荷台に積み込まれた。毛布が敷いてあるが、暗くて狭い。

「決してお声を上げられませんよう」

 モーツァルトは、そう言って去って行った。逃してもらえた?何で?

 そわそわしているうち、間もなく馬車は動き出した。てかこれ、どっかに運ばれちゃう感じ?

 馬車の乗り心地は最悪だった。路面も足回りもガッタガタで、身体を休めるどころじゃない。だが幸い、乗り物酔いするタチじゃないのと、横になれるお陰で、腰や尻が死ぬことはなかった。既に大ダメージは負っていたけれども。

 困ったのが、食べ物と飲み物だ。あの時出された果物と果実水が最後。サンドイッチ、もっと頑張って食べとけば良かった。荷台の奥に、水筒とパンが置いてあったんだけど、これに手を付けていいのか判断が付き兼ねて、しかしどうにも飢えと渇きに耐えられず、後で叱られるのを承知で口を付けた。手洗いについては、空腹なのが幸いし、浄化クリーンのスキルでどうにかなった。本当にここ、異世界で良かった。

 馬車は、野営を挟みながら一昼夜。翌朝には、石畳のような路面に変わり、いくつか大きな門を潜るのを、ほろの中からそっと確認した。俺、いつまでここに隠れてればいいんだろう。

 しかし間もなく馬車が停車して、前の方から順番に荷下ろしが始まった。毛布に包まってそわそわしていると、いよいよこの荷車の幌が開けられ、

「お前が連絡のあったドワーフか。こちらへ」

 いかつい騎士が、有無を言わさぬ感じで、俺に手を伸ばした。

 靴も履いていない俺は、また運搬される。今度は大きな一軒家。中ではメイドさんのような人たちが洗濯物の籠を抱え、忙しなく働いている。

「ああ、アンタが今日入る子かね。任せな」

 年嵩としかさのメイドさんらしき女の人が出て来て、俺は小部屋に通された。休む間もなく、身体や足を採寸され、俺のサイズに合ったこざっぱりした衣装が用意される。まるで良いとこの商会のお坊ちゃんみたいだ。丈の合わない部分は、メイドさんが手際良く待ち針を打って、見る間にリサイズされて行く。凄い職人技だな…なんてぼんやり眺めていたが、緊張の糸が切れたのか。俺の記憶は、そこでふっつりと途絶えた。



 知らない天井だ。パートⅡ。

「もう、具合が悪いならそうお言いよ」

 年嵩のメイドさんが、俺を咎めるような、心配するような口調で、雑穀粥を運んで来る。未だに状況が掴めない。

「あのー、お忙しいところ申し訳ないんですが…」

 俺は恐る恐る、ここがどこなのか、俺は一体どういう理由で連れて来られたのかを訊いた。

「おやまあ、どういう事だい」

 メイドさんは驚いて、彼女の知っていることを教えてくれた。何でも、魔道具師の見習いの子供が奉公に来ることになったから、面倒を見てやってくれと指示を受けたらしい。

「あんたも子供なのに、こんなとこに急に奉公に出されるなんて、訳ありなんだろ?」

 彼女は「みなまで言うな、分かってる」みたいな感じで、俺に同情的な視線を向ける。いや、俺、子供じゃなくて、これでも成人なんですけど。

「なんと、ドワーフかね!こんな毛の生えてないちんちくりん、初めて見るねぇ」

 やめておばちゃん。ここで無駄にダメージを負うとは思わなかった。



 しかし俺が本当にダメージを負ったのは、そこじゃない。

「は?———後宮?」

 俺が運ばれた場所。それは、王都にある王城の中、後宮だった。
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