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Curse

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3話

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そこは薄暗い洞窟で、あちこちに発光する不思議な苔が群生していた。

その洞窟の中を私と兄さんは何度かわからないクモ型モンスターとの戦闘を終了させていた所だった。

「さっむ……」

リザルト画面を閉じ、必要なさそうなアイテムを全売却させると思わず体をふるわせる。

陽の光が届かないのと、私の格好がそもそも保温性が皆無な恰好なためこの空間は少々肌寒い。

戦闘になったらそれほど気にはならないのだが、やはり寒い。

「仕方ねぇな。これやるから装備しておけ」

「どうもー」

私の様子に見かねたのか、兄さんが素早くインベントリから何かを取り出すと私に投げ渡してきた。

そのアイテムをキャッチして見てみると、ほのかに赤みのある指輪だった。


【蛍火の指輪】

レア度:4

効果:火と寒冷の耐性を少し上げる。

とある女の思いが込められた遺品の指輪。
その思いが愛情なのか、殺意なのかは分からない。だが、その温もりが装備者を冷たさか守ってくれるだろう。


フレーバーテキストがなんだか物騒だけれどありがたく貰っておこう。

「それにしても兄さん。その格好寒くないの?」

指輪をはめ、肌寒さが消えたのを確認しつつ兄さんの格好を見る。

まず見えるのは所々に走った紫のハイハイト。各部分を守るように装甲。体のラインがよく見えるライダースーツのような誰得なSFチックな近未来的防具だった。

「いいやまったく。というかそんじょそこいらの装備じゃ月とすっぽんくらいの性能だぜ」

トントンと自分の胸を叩き、自慢げに兄さんは笑う。

「そういや響。レベルどんだけ上がった?」

「6上がっての今のレベルは7だよー」

「そうか。んでお前はどんな構成でビルドを組むんだ?」

「びるど?」

「………スピード特化とか、物理特化とかだな」

「じゃあコレにしよ」

「あ、オイ──」

ステータス画面から技量と速度の項目を選択して、最初からある10ポイントとレベルアップにつき3つ、計18の合計28ある成長ポイントでレベルが上がった分を技量に速度に7つずつと筋力についでに4ポイント振り分けておく。あと正気って言うのにも気になるので2振り分けておく。

「お前なぁ……ステ振りは考えてやった方がいいぞ?」

「別にいーんですよー」

「はぁ……まぁいいわ。んで何に振ったんだ?」

「レベルで手に入れた分の全部を技量と速度に7つずつ振って筋力に4つだよ」

「TSUか……悪くない選択だな」

「なにそれ」

技量Technic速度SpeedウザイUzaiだからTSUだ。手数と速さが売りのステ構成だな。対人戦とか集団戦で結構やりずらい相手だ」

「最後も英語で統一しろよ………」

「言うな。大体の人が思ってるから……な!」

「ギィ……」

いつの間にか天井部分に張り付き、私へと飛びかかろうとしていた蜘蛛を兄さんが槍を投げ、その腹部に突き刺さり天井と縫い合わさられ蜘蛛は少しの間痙攣するとHPを全損して光となって砕け散った。

パーティーを組んでる私にも経験値は入るけれど、今のは戦闘に参加していなかったので雀の涙ほどの経験値とお金だけが手に入った。

「それにしてもここ数多いね。どれだけ倒したかもう覚えていないや」

「雑魚だが数だけは多いからな。けど油断するなよ?さっきみたいに気配を殺して天井に張り付いて攻撃してくるからな」

「了解」

兄さんの忠告を素直に受け止め、腰のさやから2つあるうちの片方の曲刀を抜いておく。

「にしても……今日は妙に数が多いな。いつもはこんなんじゃないんだが」

『キャァァァァ………』

それってどういう……、兄さんの気になる一言を聞きおえないうちに洞窟のかなり奥からかなり幼い女の子の悲鳴が反響して聞こえてきた。

「オイオイ……ビンゴかよ」 

「プレイヤー……なわけないよね?」

『クエスト少女リリシアの発見からリリシアの救出に変更されました』

そんなアナウンスが聞こえ、私たちの視界の隅にタイムリミットとミニマップにその女の子がいるであろうマーキングが施された。

「チッ、やっぱりか。助けるぞ響」
 
「はいはい」

こうなった兄は止めるだけ無駄だと言うのがわかっているので、私個人としては面倒だけど手伝うことにした。

「『チャリオット』!」

何かを叫ぶと、兄さんの前に白銀の装甲で体を覆った上半身が人間で、下半身が4本足の生き物ともロボットとも判断のつかないのが現れた。

「これがDA?」

「ああ、俺の頼もしい相棒だ。チャリオット、お前は先行して妹を保護をしろ。それと俺らが辿り着くまで女の子を守れ。わかったな?」

『了解』

軽く電子音の交じっているけれど、綺麗な女性の声がチャリオットから聞こえたかと思うと、彼女の手に大型のランスが出現してその柄を掴み、奥へとその4本足を高速で動かしてかなりの速さで行ってしまった。

「俺らも行くぞ!」

「りょうかーい……ってはや!?」

先程のチャリオット並の速度で走っていってしまった兄さんを私は追いかけるために自分の出せる全力で走り出した。

「それにしても……私のDAってどんな形してるんだろ」

軽く胸元を握るけど、分かるのは心臓が規則正しく鼓動を刻む音だけだ。

私は意識を切りかえて雑念を払い、さらに走るスピードをあげる。


〇×□△


やっと兄さんの背後にたどり着くと、目の前の光景に思わず変な笑いが出てきてしまった。

比較的広めの空間に、所狭しといった様子でモブたちがひしめいていた。


【ロックスパイダー】


【ラーミナリザードマン】


明らかに私が相手ができるような相手じゃないだろコレ……

チャリオットと兄さんが敵の攻撃をさばきつつ、一体一体減らしていくけれど数が多いためにジリジリと押されていっている。

そしてなにより、チャリオットのすぐ側に女の子が腰を抜かしているために彼女は戦いにくそうだった。

「チッ……数が多いな。響、俺達が抑えるから女の子を連れ出せ!」

『頼みます』

「りょうかい!」

「キャア!?」

チャリオットの背後にいた女の子を抱えあげると、可愛らしい悲鳴がその口から盛れるのが聞こえるけどそれに構わず走り出した。

「あ、どうせならこれ使っておこう」

左腰にぶら下げていた球体の物体『ショックボツ』を取り出し、思い切りモブ達の集団のど真ん中に投げ入れる。

すると、たいへん鼓膜に悪い音と衝撃波が撒き散らされ、短い時間だけど敵の行動が強制的に止まった。

「ナイスだ響!

「そりゃどーも!」

短く答え、私は今度こそ走り出した。

今の私ははっきりいって足でまといだ。軽くモヤモヤとした気持ちになるけれど、今は女の子を安全なところへ運ぶのが先決だ。

「ねぇ君。セリアさんの妹でしょ?」

「お姉ちゃんを知ってるの?」

「君を探していたよ。私の連れが君を探すのを手伝うことになってね。ここに来た理由は?」

女の子を脇に抱え、傍から見たら女の子を運ぶ運び方じゃないだろ突っ込まれそうな感じで薄暗い洞窟を走っていたけれど、さすがに静かすぎるのは好きじゃないので気になっていた事を聞いてみた。

そうすると、女の子はまだ怯えた様子だけどポツリポツリ話し始めた。

「ここの奥に……病気を治す薬の材料になる苔があるから。お姉ちゃんの病気を治したかったの………」

「はぁ……なら私みたいなプレイヤーに依頼すれば良かったんじゃないの?」

子供というのは短絡的に考えてみて即行動するから苦手だ。

………いや、小さい頃から激しく動けなかった私は同年代の子供たちがそういうことが出来たからただの妬みだな。

軽い自己嫌悪に顔を顰めながらも、この女の子は自分の姉を大切に思う心は本物だ。あまりキャラじゃないけど送り届けよう。

その思いがフラグとなったのかどうかは知らないけれど……出口まであとすこしというところで、背後から途轍もない圧が感じられた。

「!?」

思わず足を止め、振り返るとそこにはバケモノが佇んでいた。


【ダークナイト】

危険度:不明  推奨レベル:不明


漆黒の鎧を纏い、顔はこめかみ部分に羽のような装飾のついたフルフェイスの兜で隠され、その覗き孔からはゆらゆらと赤い光が灯り、腰からは黒くくすんだ両手剣が吊り下げられていた。

そして、その上には1本のHPバーがあるけれど、その1本にどれだけの数が押し込まれているか分からない。

私の理性が告げる。早く逃げろ!その子供を捨てて早く!!……と

「アハハ………冗談!リリシア、コイツは私が足止めをするから君は早く逃げて!」

「で、でも……」

「いいから!そして外にいる誰でもいいプレイヤーに保護してもらうんだ。いいね?」

「お姉ちゃんを放っておけないよ!」

「早く行け!!」

リリシアを怒鳴りつけると、その肩を震わせ目の端に涙が浮かぶけど彼女はその小さな足で走り出した。

「いい判断だよ……リリシア」

片方の曲刀を抜き放ち、ダークナイトの視線を遮るように前に立つ。

「お前の相手は私だよ」

『──』 

ニヤリ、とダークナイトが笑ったようなきがした。

そして、ダークナイトは黒革の鞘から刀身まで黒くくすんだ剣を抜き放つと、ゆったりとした動作でそれを構えた。

いくらでも攻撃ができたはずなのに何故かできなかった。いや、したら簡単に殺されるというのが理性がわかっていたからだ。

だが、ダークナイトはそんなの知ったこっちゃねぇと言った感じで、勢いよく地面を踏み込みかなりの速さで飛び込んできた。

「クッ!?」

速い……けれど目で追い切れないほどじゃない。

地面と平行に切りかかってきた剣戟を少し後ろへ下がることで避けるけど、ダークナイトは空いた手で素早く左ジャブを放つ。

けどそのジャブを最小の動きで躱すけど微かに頬を撫で、HPが数ミリ削れる。

だけど私も代わりに茨の短剣をマントから抜き、左腕の肘の関節部に突っ込む。

肉を貫くような感覚が柄越しに分かり、返しのついた刃は奥深くまで潜り込みダークナイトの左腕の動きを阻害させる。

「ラッ!!」

曲刀で鎧の隙間を縫うように切りつけ、ダークナイトのHPを削っていく。けれど、HPの総量が多いのか、私の攻撃力がカスイのか、ほんの数ミリしか削れることが出来なかった。

『──』

強引にダークナイトは茨の短剣が突き刺ささった左腕を曲げ、その刀身を半ばからへし折り阻害を無理やり直すと、ロングソードを両手で握ると、かなりの威力を込められた剣戟を放ってきた。

(右、左……からの足技……に見せかけての右ジャブ!!)

当たれば絶対に死ぬような攻撃を紙一重でかわすか、曲刀の峰で逸らし極小の隙が出来た場合は少しずつダメージを与えていく。

続けて、刈り上げるように足を蹴り上げ、ダークナイトの態勢を崩そうとするけど岩を蹴ったような硬さで、思わず動きを止めてしまいそうになるけど、なんとか耐性を崩すことに成功する。

「ラッ!」

もう片方の曲刀を抜き放ち、ラッシュを放つ。

曲刀を交差させ、バッテンを描くように切りつけ、曲刀を続けて逆手持ちに変化させ横方向へ切り、持ち方を元に戻すとダークナイトの鎧の首元へ曲刀を突き刺し、斜めに切り下ろす。

この急所の攻撃により、ダークナイトのHPが一気にイエローゾーンまで削ることに成功し思わず私の口から笑みが漏れる。

すると、ダークナイトが肩を震わせたかと思ったら、兜越しに渋い男の声が聞こえてきた。

『クックック……この動き。貴様『ドミナント』だな?』

そして、ダークナイトの気配が切り替わったような感じがした。

「喋った……」

『なんだ、言葉を解するのがそんなに不思議か?』

「そりゃあね……」

ジリジリと距離を測り、ダークナイトの隙を伺う。

「ところで『ドミナント』ってどういう意味さ」

『語る必要は無い。今やるべきことは殺し合うことであろう?』

「こっっの!」

ダークナイトの姿が掻き消え、いつのまにか私のすぐ目の前に漆黒の刃が迫ってきていた。

だけど剣との間にギリギリ曲刀の峰部分を滑り込ませ、その曲面を利用してそらすことになんとか成功する。けど、代わりに刀身にヒビがはいってしまった。

「つぅ~……」

それにダークナイトの馬鹿力のせいで耐えられるスタン値が超えてしまい、短い間だけど体の自由が失われる。

『フッ!』

瞬間腹部に凄まじい衝撃と、内臓がミキサーにかかったようなひどい不快感に視界が明滅する。

どうやら腹を蹴られたらしい。アバターの体がくの字に折れ曲がり、勢いよく洞窟の壁に叩きつけられ、持っていた曲刀が手から零れ落ちる。

視界の隅にある私のHPバーが安全圏から一気にイエローゾーンからレッドゾーンにごっそり減っていき、目の前のダークナイトの眼の赤い光が揺らめくと、振り下ろされたロングソードが私に迫るのが妙にスローモーションに感じられた。

──あ、死んだ。

リリシアはきちんと逃げられただろうか?ログイン初日でさすがにハードすぎたけど、これだけやれれば十分だろう。

『本当に?』

本当だよ。むしろ格上の相手にこれだけ善戦できるってこと自体がすごいよ。

『貴方は狩るものの血筋でしょう?狩られてもいいの?』

…………

『それに、貴方はまだ本能を解放してない。つまらない理性なんか捨てて……私の名前を呼んで。貴方なら分かるはずでしょう?』

甘い吐息が耳元を撫で、思考がクリアになっていく。体の隅々まで自分の意識が入っていき、神経が研ぎ澄まされる。

『私はいつでも貴方の傍にいる。貴方がその力を使いたい時は幾らでも力を貸すわ』

ほぼ目と鼻の先にまであったロングソードの刀身の側面に手を添え、少しだけ押して軌道をそらし顔を横へ動かし、命を刈りとるはずだった攻撃を避ける。

『!』

この行動にダークナイトは驚愕し、距離を話そうとする。けど、

『ヌゥ!?』

茨の短剣を左足の膝関節部へ突き刺し動きを阻害させ、右腕を両手で掴み肘の曲がる部分を天井へ向けした部分へ膝蹴りを放つ。

グシャ、ダークナイトの右腕の肘関節が破壊されブラリと垂れ下がる。

「フッ!」

続けて罅の入った曲刀で傷口にその刃を叩き、乱雑に引きちぎる。傷口から赤い光が迸り、さながら流血のような光景だ。
そして、負荷に耐え切れず刀身の半ばからへし折れてしまう。

『グッ……』

ダークナイトは苦悶の声を漏らすけど、片方の動く足で私へ蹴りを放つ。HPが全損スレスレの私はその攻撃を腕で防ぎ、距離を離しそのついでに半壊した曲刀を投げ捨てる。
懐からHPポーションを4本取り出し、封の蓋を開けるのではなく細いのみ口を指で圧し折り、4本全て一気に飲み干す。

「来て……『ジャッジメント』」

そして、私は胸元へいつの間にかあった黒水晶の宝石に手を当て、静かにその名前を紡ぐ。

『……やっと呼んでくれたねマスター』

私の体の中から紫がかった黒色の光が洩れ、胸の中心から十字架のような剣がせせりでる。
その柄を握り、私は地面へと突き刺す。

閃光が迸り、薄暗い空間を明るく照らしあげそれは目覚める。

『これは……DAの孵化か!』

片腕がないのにダークナイトは愉しそうに叫ぶと、輝く十字架は人の形を形成し、そこには私よりも年の幼い女の子がいた。

私よりも長く、地面スレスレまでの長さを持つ黒水晶と見間違うほどの透き通る漆黒の黒髪。全ての闇を凝縮したような黒の瞳。見れば勝手に視線が固定される蠱惑的な美しい少女。

『フハ……フハハハハ!!それにこの感じは『アルカナシリーズ』か。クックック、まさか新たなアルカナシリーズの生誕をこの目で見届けられるとはなァ!』

その姿を見てダークナイトは狂喜し、左足の膝関節に突き刺さっていた短剣を強引に引き抜き、べったりと赤黒い光がこびりついたソレを投げ捨て漆黒のロングソードを握り直した。

「そんな無粋な名を呼ばないでちょうだい。私は『ジャッジメント』。タロットの20番目の『審判』を司る乙女」

『知っている。知っているぞこの力。ククク、手を抜いていたがここからは本気でいかせてもらおう!!』

途端ダークナイトから気を抜いたら腰が抜けてしまいそうな圧が出された。
けど、ジャッジメントと言う名前の少女は涼しい顔でソレを受け流していた。

「さあマスター。私の手を取って?そして私に形を与えてちょうだい」

そこからの記憶はよく思い出せない。

ただ、目の前の獲物倒す食べるために戦ったことだけだ。

『そうよ。貴方は目の前の獲物を殺すの。さぁ、その刃を突き刺し、抉り、ちぎり、喰らいなさい』

狩人は答える。

「私は命を喰らい、殺すもの。私は命を狩り、糧とするもの。神無月一族の狩りのヒトゴロシの技術を見せてあげる」
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