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第二章 異世界編

第22話 「名前を聞かせて頂戴な」…えんじょい☆ざ『異世界日本』

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※第12話の続きになります。


*****


 もっしゃもっしゃもっしゃ。

「美味しいぃぃぃ~!」

 つるつるつる……もぐもぐ……ゴックン。

「はあ~。この世にこんな美味しい食べ物が有るなんて信じられなーい」

 拝啓、もう戻れぬ元の世界のお母さん。
 私ことクラムチャウダー・シラタマゼンザイ・アーリオオーリオは、この世界に骨をうずめる事を決めました。

「世界が違っても、この世って言うのかなぁ……?」

「しかしアンタ良く食うねえ~」

 ビッグママさんが呆れたように話す。でも知ーらないっと。食べれる時にしっかり食べるのは冒険者の基本!

「ん~? そうですねぇ、色々あってお腹ペコペコだったから、ちょっとだけ多い……かな?」

 そう言って私は、十杯目のお代わりをしたご飯茶碗(どんぶりサイズ)を空にした。

「これが一番美味しいです! お代わり!」

「ママ、もうこの娘お腹空いてるんじゃなくて、単にお米が美味しいだけなんじゃ……」

 あー! ひっどいタリスさん。乙女に向かって食欲の化身みたいに言うこと無いじゃないですか! ……まぁ事実ですけど。

 私はお米を口に入れたまま、ママの隣に立つ女の人に抗議の視線を向ける。私の視線を受けた銀髪サラサラロングヘアーの褐色肌美人お姉さんは、小さく肩をすくめた。


 彼女はタリス・カーさん。私と私を連れてきた男の人とは違う世界から来たエルフさんらしいです。
 そちらの世界ではニンジャをやってらしたとか。……ニンジャってなに? 
 それと、ずーっと気になってる事が。

「えーと、何でタリスさんは、そんな身体に貼り付くようなピッチピチの服を着てるんですか?」

 もうピッチピチ過ぎて、スッポンポンの裸と何が違うのか私には分かんないんですけど。
 もう殆どボディペインティングの世界。
 ボディペインティングの言葉を何で異世界から来た私が知ってるか?
 それは気にしてはいけない。貴方と私の秘密だよ☆

「この服は特製のレオター「只の痴女だから気にするな」

「ちょっとミトラ。能力値が全て十八でアーマークラスがLOになってる私を怒らせるつもりかしら?」

「裸になったほうが全ての能力を最大限に発揮出来るって話の方が訳わかんねーよ」

 ……ああ、それで裸みたいなピッチピチ……。

「ママ、米の備蓄が無くなりました」

「三十キロ全部食べたのかい!?」

「まだいけますよ?」

「いかんでいい!!」

 ビッグママさんが額に手を当ててます。本当にまだいけるのに……。

「米なら、ウチの若い衆に持って来させようか?」

「遠慮しとくよ」

 ビッグママさんに話しかけたダンディーな髭のオジサンは、バローロさん。
 昔はこの組織に居たけど、今は出奔して裏稼業の組織の頭をやってるらしい。
 カッコ良いオジサマなんだけど、フルプレートの全身鎧兜無しを着てマント羽織ってガッシャンガッシャン歩いているのは、ツッコんで良いんだろうか。

「あらあら、残念だったわねぇ、バローロ」

 そう言った紫のパーティードレスを着たショートボブカットの黒髪妖艶おねーさんは、バルバレスコさん。
 バルバレス子さんでも可。
 やっぱり彼女も裏稼業の組織のトップらしいです。Sっ気が強そう。

「お米が無いなら、きつねうどんお代わりお願いします」

「アンタの腹に入った食いモンは何処に行ってるんだい」

「胃袋ですけど?」

 この場に居た全員に溜め息つかれた。何で!?

「ところで、肝心の私を連れてきてくれた、こちらの男の方の名前をお聞きしてないんですが」

 不気味な、唸る黒い剣を持ってる、仏頂面な男の人を指差す。男の人はますます不機嫌な顔になった。
 感じ悪ぅ~い。いややわぁ。

「ミトラだ。さっき教えただろう」

「いやその通称の方じゃなくて、正式名称の方」

「む………………。ミソトンコツラーメン・ヤサイマシマシ・ニクマシマシだ」

「ちょっと時代がかってるけど、カッコいい名前じゃないですか」

「アンタらの世界の感性が一番わからん」


*****


 どーんと分厚い鈍器のような本。それが何冊も目の前の机に乗っかっている。私はそれを、顔を強張らせ口元をヒクつかせて眺めている。

「あのー……。本当にこれを……?」

 この場に居る全員が頷く。
 酷い! なんて血も涙も無い人達なの!?

「もう元の世界に戻れないって言っただろう。だったらもう現地の言葉を覚えるしかないんだよ」

「ううっ……。あの自動翻訳魔法あるのに……勉強……」

「この世界じゃ魔素が薄いってのも言っただろ? 節約出来るところは節約するんだよ」

 拝啓、もう戻れぬ元の世界のお母さん。
 私ことクラムチャウダー・シラタマゼンザイ・アーリオオーリオは、元の世界に戻りたいです。
 いや本当、猛烈に。

「私、元の世界でも本を読むことがあんまり無かったんですが……」

「死ぬ気で頑張れ」

 暖かいお言葉ありがとうございます、ミトラさん。
 貴方の優しさは、私の心のブラックリストに載せて一生忘れません。

 そんな私の頭を、ママさんが軽くポンポンと叩く。
 私の頭の中に僅かな魔力と共に何かが染み込んできた。
 ……これって?

「ま、私だって鬼じゃない。コイツはサービスさ。頑張んな」

「はい……」

 サービス? サービスって何だっけ。まぁ良いか。

「ところで、先に聞いておきたい事というか確認しておきたい事があるんですが」

「どうしたんだい?」

「さっき私の名前を、本名を言わない方が良いって言ってましたけど、それって何か禁忌に触れる言葉とかですか? それか封印された危険な存在を解放する呪文とか」

「いや、ただの食いモンの名前ってだけだね」

 拝啓、もう戻れぬ元の世界のお母さん。
 私ことクラムチャウダー・シラタマゼンザイ・アーリオオーリオは、密かに期待していたカッコいい妄想が打ち砕かれて絶望です。
 あ、でも私の名前の料理は気になりますねー。それも美味しかったら良いな~。

「そう言えばミトラさんも本名を名乗らないのは同じ理由なんですか?」

「ああ。俺の名前の料理も結構美味いのが、また腹が立つ」

 拝啓、もう戻れぬ元の世界のお母さん。
 男心って複雑です。

「ただ、お前と同じ名前の料理も、俺はまぁ美味く感じたかな」

 拝啓、もう戻れぬ元の世界のお母さん。
 私ことクラムチャウダー・シラタマゼンザイ・アーリオオーリオは、この男の人への好感度が少しだけ上昇しました。
 いややわぁ。


*****


「つまりこの椅子の後ろの水槽が」

「そう、長年溜め込んだこの世界の魔力。こいつで翻訳魔法をかけてるのさ」

 ビッグママさんが私に教えてくれている。
 何度もみんなが教えてくれている通り、この世界では魔素が薄過ぎて、小さな火を灯す魔法を発動させるだけでも何時間も魔素を集めないと出来ないのだそうです。
 そう考えると、あの水槽いっぱいの魔素を集めた時間ってどんなもんなんだろう。
 それを維持する大変さも。

「でも翻訳魔法よりも大事な魔法があるんだ」

「そうなんですか?」

「耳だよ」

 そう言われてやっと私は理解した。
 ミトラさんがエルフなのを直ぐには分からなかった事を思い出す。

「分かったようだね。勘の良い女は好きだよ。
 つまりこの魔法はエルフの長い耳が気にならなくなる。上手いこといけば、気に止めることすら無くなる。意識にすら上らなくなる。これを常にかかっている状態にするんだ」

 この水槽が、この世界に居るエルフの生命線の一つという訳なのか……。
 見た目って大事だもんね。理不尽な気もだいぶするけど。

「この世界では、魔法って呼ばれる技術は大体が科学で置き換わってると考えた方がいい。科学ってのは……そうだねぇ、錬金術が発達したもの……と考えると良いかね」

 そうママさんが言う。
 そうだよねぇ、火をつける魔法が無いと料理だって大変だもん。

「代替されてるのは攻撃手段なんか典型だね。火炎・電撃・麻痺・眠り。大抵の事は代替できてる。しかも魔力の素質とかは関係なく誰でも使える。だから魔法の使い道なんてのは主に幻術や翻訳なんかの生活補助ぐらいなのさ。
 でもソレが無いと、迫害されて私達は滅んじまう」

「それと私がこれからやっていく勉強と何の関係が……」

「結局はね、受け入れてもらうには相手側に理解者が一定数以上居る事が必要なのさ。
 その為には、先ずは私達が言葉を覚えて、文化を覚えて、歴史を覚えて入り込んで馴染んでいかないとね」

 ママさんが少し遠い目をした。

「ユダヤ人が滅亡を辛うじて免れたのも理解者・サイレントマジョリティーの味方が居たからさ。
──あ、ユダヤ人とサイレントマジョリティーは後で一般教養として、しっかり勉強してもらうからね」

 なかなか良い話を聞かせて貰いましたが、やっぱり最後に爆弾が……(泣)
 はぁ~。しかし鍼灸整骨院を開設する、か~。名前だけを聞いてる時点ではどんな仕事か見当もつかないけど、治癒師みたいなものなのかなぁ。

 拝啓、もう戻れぬ以下略。責任重大だわぁ。
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