ダーティーホワイトエルブズ ~魔物退治してた現代転移の苦労人エルフ、“主人公”への復讐を決意する~

きさまる

文字の大きさ
37 / 128
第三章 現代編

第36話 「人間なんてラララ♪」…えんじょい☆ざ『異世界日本』

しおりを挟む
※第28話の続きになります。


*****


「おっはようございま~~~す!」

「おはようございます」

「今日もいい天気ですね! ご飯が美味しかったです!」

「今日の天気は雨ですよー。私としては、羊羹やお煎餅のほうが好きなんやけど、降ってくれませんね」

 今日もだいたい同じ出勤時間の私達は、アパートの部屋から出た時に顔を会わせる。
 そしていつものように、いつもの挨拶。

「むむむ。なかなか返しが手強くなってきましたね、フェットチーネさ……笛藤ふえとうさん!」

「ギャグがウケんかったら、関西では人権が無いなんて言われたんで、必死です」

「おっと、関西じゃ関西弁を話さないと白い目で見られるんだった……。ほなら笛藤さん、ウチは仕事行ってきまっさー!」

「いや、そこまでコテコテにすると逆に不自然ちゃいますかね。ギャグにこだわるだけに」

「ぬおおお! なかなか厳しいツッコミ。でもそのダジャレはイマイチですな!」

「うぐ……。お笑いの道は厳しい……。もっとM-1や落語を見て研究せえへんと……」

「おっと、そろそろ本当に行かないと。んじゃまた!」

「はい、気ぃつけて行ってくださいね。私もそろそろ仕事行きますわ」

 うーん、ギャグはともかく言葉使いは向こうのほうが馴染んでらっしゃる……。
 私が先輩面していられるのは何時までだろ……。いやいや、あまりそれは考えないでおこう。


 はい皆様おはようございます、倉持 亜梨子ことクラムチャウダー・シラタマゼンザイ・アーリオオーリオです。

 ようやく……です。ようやくビッグママさんが言っていた鍼灸整骨院を開院する事が出来ました!
 長かった……。専門学校でひたすら勉強勉強勉強……。解剖学も生理学も運動学も東洋医学論も、もうしばらく教科書見たく無いー!
 そう思わずこぼしたら、ビッグママさんバローロさんバルバレスコさんにシバきまわされました。

 私の身分証明や戸籍なんかの偽造にとんでもない苦労と金がかかったらしいです。
 ううう……。専門学校の授業料や備品代なんかも出して貰っていたから、何も言えない……。
 今なら分かるけど、かなり高いですよ、資格取るための専門学校って。

 でも戸籍の偽造かあ……。やっぱり地下組織なんですねぇ、この組織って。


 治療所のシャッターを開けて中に入り、電気をつける。
 スクラブ白衣に着替えて掃除機をかける。
 その間にひとりふたり、気の早い患者さんが入り口でたむろして待っているのに気がつく。

 人間のお年寄りに見えるけど……そのつもりで見ると、すぐに分かります。エルフとドワーフさんです。

 そう、ここの治療所を開けた当初からずっと、ここは人間以外の方々が患者のメインになってます。
 まだまだ来てくれる人数は少ないけど、完全に独力で開設した人に比べたら、遥かに患者さんが来てくれているほうなんだそうです。
 たぶんビッグママさん達が非人間デミヒューマンの人達に、口コミで宣伝してくれているんでしょうね。アリガタヤ。

 まあそれでもまだ他人を雇う余裕など無い訳で。
 いまだ受付掃除ベッドメイキング低周波治療器の取り付けなど全てを一人でこなしています。大変やわぁ。

「おはようございます、先生。今日もよろしゅう頼んます」

「えっへへへへ。先生、腰がキッツイですねん。こっちのベッドに寝転んだらよろしいでっか?」

……うん、ファンタジー種族のイメージが崩れそうなのは分かる。でもしょーがないやん? 私ら関西に長いこと住んでんねんから。


*****


 はい、ここからが前回の私の話の直接の続きになります。いきなり時間が飛んで混乱した人はゴメンね。(倉持 亜梨子 談)


「まずは先に言っておきます。ここは私達が居た世界とは全く違う世界です。異世界です。文化も違うし、魔法が無いのが当たり前の社会が成立しているんです」

「なるほど」

(この会話は異世界語で話されていますが、都合により日本語吹き替え版で放映しております。ご了承ください。警備S京都テレビ)

「ちなみにさっきお聞きしたお名前なんですが、えっと……なんて言ってましたっけ」

「フェットチーネです。フェットチーネ・ペンネリガーテ」

「そうそれ。えっと、ちょっと調べ物させてくださいね……」

 そう言いながら私はスマホでフェットチーネとペンネリガーテを調べてみる。

 やっぱりあった!

 両方ともパスタの麺の名前だわ。
 なんで私達の世界のヒトの名前って、こんなに料理の名前にヒットするんだろう……(汗)

「うん、やっぱりそうだ。フェットチーネさんは、名前を正直に名乗らないほうが良いですね」

 フェットチーネ麺を使ったパスタ、美味しそうだったなぁ。

「えっと、それはどういう……。何か禁忌に触れる言葉だったりするのでしょうか?」

 ああああああああ! やめて私の黒歴史に触れるのは!

「本来、口に出してはいけないような神聖な言葉、あるいは呪われた言葉とか?」

 あああああああ! 勘弁してえええええ!

「何か良くない存在を呼び出すための言葉だとか……。ってクラムさん、さっきから床をゴロゴロ転がってどうしたんですか?」

 も……もう許して。過去の恥ずかしい思い出に触れられると、こんなに凄いダメージ食らうものなのか……。ガクッ。

 でもやっぱりみんな同じこと考えるよね、ね!?
 良かった、私だけじゃ無かった!
 こんなにも嬉しい事は無い。分かってくれるよね。らららぁ~♪

「ひぃ……。はぁ……。死ぬかと思ったぜ」

「えっと……大丈夫……ですか?」

「大丈夫! ちょっと昔の心の傷がえぐられただけだから!」

「それは大丈夫とは言わないんじゃ……」

「ちなみに、今フェットチーネさんが言った事は全部外れです。フェットチーネもペンネリガーテも、この世界の食べ物の名前です!」

「食べ物……」

 フェットチーネさんが右手を額に置いて、俯きながら、絞り出すように言った。
 大丈夫、フェットチーネ麺のカルボナーラもペンネリガーテのアラビアータも美味しそうだったから!

もちろん料理として!!

「とにかく! これからフェットチーネさんは、この世界では『きしめん・うどん』と名乗りましょう!」

「キシメン・ウドン……ですね」

「もちろん冗談です!」

「怒っていいですか?」

「ごめんなさい」


*****


「ふふふ……どうです、このボリューム。本としてはもちろん、鈍器として使っても最高ですよ!」

「本みたいな貴重な物を、そんな風に扱ったりしませんよ」

 私がドヤ顔で貸し出した辞書や百科事典を、大切そうに手に取りながらフェットチーネさんは答える。
 あ、フェットチーネさんはまだ大量生産社会の感覚が分かってないのね。仕方ないけど。

「いや、物を大切にするのは当然なんですが、この世界では本って貴重品でも何でもないですよ、フェットチーネさん」

 あ、凄い。フェットチーネさんが、あの有名な少女漫画の、何とかの仮面のあの“恐ろしい子!”みたいな顔してる。

「まあ参考書はまだまだありますから、遠慮なく言ってくださいね。大変だし苦労すると思いますけど頑張りましょう!」

「そうですね、全く未知の言語を習得するのですから。むしろ参考にできる書物や資料が、こんなにたくさん溢れてるなんて、とても恵まれていると思います」

ぬおあ! 今度は私のほうが“恐ろしい子!”の顔をしてしまった。

 私が泣きながら取得した、日本語の地獄の勉強法が……この環境が恵まれている……だと!
 そ……そういえば彼女は確か魔法師だって言ってましたっけ。ならば本を読み込むのは得意中の得意……という事かっ!

「うぬぬぬぬ……私があんなに泣きながら勉強したこの環境が、恵まれていると言い切れるとは……」

「クラムチャウダー……さん?」

「オッパイですか? オッパイの差ですか!? なんたる胸囲の理解力格差社会!!」

「関係ないと思いますけど」 

「うぬれ、専門学校の勉強もこのオッパイパワーでバッチリ理解……」

 そう言いながら、両手をワキワキしながら私はフェットチーネさんの乳房を鷲掴み……。

 ズビシッ!

「落ち着いてください」

 思いっきりフェットチーネさんに顔面チョップをくらって、目を回して倒れた私こと、クラムチャウダー・シラタマゼンザイ・アーリオオーリオなのでした。

 いややわぁ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...