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第三章 現代編
第50話 ─ 禁じられた火遊び ─…ある男の独白
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そもそもは、環境テロリストの奴等が手を染めていた、悪魔の召喚が発端だった。
奴等はこの街全てを巻き込んだ大規模な魔法陣を描き、魔物を召喚したのだ。
街に居る全ての人を生贄にして。
彼等の誤算は、召喚師たる自身までもが生贄になってしまったこと。
かろうじて防御結界を張れた俺の目の前で、「我等の意思にこの大いなる神の使徒が応えた、我等の意思に歯向かう自然の敵は皆殺し」などと、陶酔しながら叫んでいた奴等。
自分達の身体が崩れ始めて、生贄の対象に自分達も入ってしまっていると気付いた瞬間の奴等の顔は、悪夢のような喜劇だった。
俺は結界が破れない事を願いながら、ひたすら召喚時の魔素の奔流が通り過ぎるのを待ち続ける。
その間に後ろをチラリと見た。俺の後ろで気絶しているヤツが少し羨ましくなる。
眼鏡をかけた、小太りの中年女性。
保険か何かの調査員とか名乗っていたけど、十中八九どこかの諜報員だろう。
下手をするとCIAとかかもしれない。
そして嵐が去った時、周囲は静けさに支配されていた。
俺は中年女の顔に平手打ちをし、相手が反応するのを見ると、目を覚すのを待たずにテロリストの本拠地から外へ出る。
外へ出た俺の目に飛び込んできたのは、生き物の気配の無い街並みと、街の中心部に居座る……マッコウクジラ?
そういえばコイツらの同類の、何とかシェパードだったかは反捕鯨活動に熱心だったっけ。
まぁコイツらは自分達に相応しい相手を呼び出せた、という事か。
四足歩行っぽく地響きを立てながら、街中を闊歩する存在をクジラと呼んで良いのならば、だが。
しかしデカいな。全長百メートルぐらいはありそうだ。
テレビやスマホの動画でしか見た事が無かったが、クジラとはこんなにも大きな生物だったのか。
俺の後ろに目を覚ました中年女がやって来て、呆然と呟く。
「何あれ……クジラ? それにしては、あまりにも大き過ぎる……」
前言撤回。
クジラと考えるには、あまりにも大き過ぎるので、やはり魔物だという事なのだろう。
……しょうがねえだろ、俺は元の世界では、海なんか見たこと無かったんだから。
その時、妙な声が聞こえた。
何人もの、何十人もの人間が声を合わせて合唱しているような……。
『自然を破壊して作り上げた人間の街など、存在に値しない。消滅せよ』
それが魔物の発する声だと理解した時には、すでに魔物の口の中がパリパリと発光していた。
そしてすぐに光線のような吐息が吐かれ、魔物の視線の先の住宅地が破壊される。
あれも雷系の攻撃か?
身体の大きな魔物は雷を使う決まりでもあるのだろうか。
そう考えたのが、思わず口に出ていたようだ。
すぐにアイツからツッコミが入る。
“そのような決まり事など、ある訳がなかろう。それよりも、貴殿はどうするのだ?”
あっさりと俺の馬鹿な冗談を流された。
ちょっと落ち込みそう。
しかし、面倒な事態になった可能性がかなり高いな。
先ほどの魔物の声を聞いて推測する限り、テロリスト共の意識が魔物を支配しているようだ。
俺はヤツに話す。
「三日分だ。お前の攻撃が通用するなら、それで致命傷を与えられるだろう。攻撃が通じるかどうかの威力偵察も兼ねる」
俺の様子を見て訝しげに中年女が訊ねる。
「貴方、一体誰と話しているのかしら?」
「御婦人、その詮索は今は後回しだ。まずは目の前の怪獣……魔物を何とかするのが最優先だろう」
「それもそうね。ああ、あと私の名前はエライジャ・クレイグよ。いつまでもマダムは止めてちょうだい」
「それは失礼した。ええと……ミス……ミセス……?」
「そういう分からない時はミズ・クレイグで良いのよ、別世界からの異邦人さん」
「やはりただの調査員ではなかったか」
「ふふっそうね、でもその詮索も後回しよ。何か手はあるの?」
「まずは、俺の現在出来る最大限の攻撃力をぶつけてみる。それで片が付けば良し、でなければそこから得られた情報を元に、次の手を考えるさ」
そう言って俺は退魔剣を背中に背負って、テロリストの奴らのオフロードバイクに跨がり、クジラに向けて走り出した。
クジラに近づくと、その大きさに改めて圧倒される。
アイツも大きいと思ったが、それ以上のヤツに出くわすとは思わなかった。
“お前が倒したという邪龍よりも大きいのだろうな、此奴は”
「ああそうか、コイツ程じゃないが、あのドラゴンもお前よりも大きかったな」
“どの世界でも己よりも強大な存在が居る。なればこそ挑み続ける価値がある”
「お前らしいな、ロングモーン」
“無駄話はここまでだ。あとはタイミングは貴殿に任せる”
クジラの進行を先読みして先回り。
アパートメントに入って三階まで昇り、適当な部屋に押し入る。
部屋の鍵は剣でぶった斬って壊した。
窓を開けて魔物クジラを確認する。
クジラの進行方向が予想とズレてないかを目視で確認。
そして俺が身体を通り抜けられるように、窓を破壊する。
そして──。
魔物クジラは四足歩行どころか、二足歩行をして闊歩していた。
その姿は、見た目は全く違うが日本の有名な怪獣映画の怪獣王を連想させた。
口から吐息吐くのもそれっぽい。
名前は……怪獣王ゴジ……なんとか。
もう怪獣王クジラでいいや。
その怪獣王クジラが、俺の潜む部屋の前を通り過ぎる瞬間。
俺は窓から飛び出してジャンプ。
そしてヤツの、真っ黒いツルンとした弾力の強そうな表皮に、体重を乗せて剣を突き立てた。
想像以上の弾力に、剣が弾かれたかと思ったが、なんとか突き立つ程度には刺さった。
俺は剣をそのままに、表皮を蹴ると飛び出したアパートメントに戻る。
そしてアパートメントの二階ぐらいの壁に足をつけて勢いを殺すと地面に降り立ち、回転して五点受け身。
起き上がった俺はすかさず叫んだ。
「ロングモーン!!」
瞬間、クジラの周囲の地面から巨大な雷柱が立ち昇った。
牛頭の魔物ロングモーンが、再充電し直すのに三日はかかる量の雷撃だ。
殆どの敵なら、欠片も残らず焼き尽くせる程の威力の攻撃。
上手くいけば、突き立てた剣を避雷針代わりに、クジラの内部からダメージを与えられるだろう。
しかし、そんな俺の微かな希望は、欠片も通じる事は無かった。
雷は魔物の表皮を滑るように流れ、受け流されて天に昇った。
退魔剣も雷に焼き尽くされて、消滅した。
そして魔物の内部に、ダメージが通った様子は見られない。
畜生! 攻撃が通じないかもとは思ったが、ここまで通用しないとは思わなかった!
俺はそれらを確認した瞬間に、飛び出したアパートメントとは反対側のマンションに逃げ込んだ。
それと同時にアパートメントに体当たりを仕掛け、あっという間に破壊する怪獣王。
俺は、そのマンション室内の窓際に潜んで息を殺している。
その窓の外に、巨大な……牛頭のアイツとは比べ物にならない程の大きさの、巨大な眼が覗き込む。
──くそっ、見つからないとは思うが、早く向こうに行ってくれ!
そして地響きと共に離れていく巨眼。
充分に離れたと判断した瞬間に、俺はベイゼルに連絡を入れた。
「おい緊急だ! 大至急、誰か応援を寄越せ! 『裏』だろうが『表』だろうが誰でもいい! アレはもう俺一人で対処出来る域を超えてる!!」
俺は窓の外を、廃墟となった街を、街を廃墟に変えた原因となった、巨大過ぎる魔物の後ろ姿を呆然と見ていた。
そしてベイゼルに、思い出したように連絡を付け加える。
「ああベイゼル、エヴァンは来るよな!? だったら奴に、俺の部屋の私物を洗いざらい持ってきてくれと伝えてくれ。特にクローゼットの奥の奴を!」
奴等はこの街全てを巻き込んだ大規模な魔法陣を描き、魔物を召喚したのだ。
街に居る全ての人を生贄にして。
彼等の誤算は、召喚師たる自身までもが生贄になってしまったこと。
かろうじて防御結界を張れた俺の目の前で、「我等の意思にこの大いなる神の使徒が応えた、我等の意思に歯向かう自然の敵は皆殺し」などと、陶酔しながら叫んでいた奴等。
自分達の身体が崩れ始めて、生贄の対象に自分達も入ってしまっていると気付いた瞬間の奴等の顔は、悪夢のような喜劇だった。
俺は結界が破れない事を願いながら、ひたすら召喚時の魔素の奔流が通り過ぎるのを待ち続ける。
その間に後ろをチラリと見た。俺の後ろで気絶しているヤツが少し羨ましくなる。
眼鏡をかけた、小太りの中年女性。
保険か何かの調査員とか名乗っていたけど、十中八九どこかの諜報員だろう。
下手をするとCIAとかかもしれない。
そして嵐が去った時、周囲は静けさに支配されていた。
俺は中年女の顔に平手打ちをし、相手が反応するのを見ると、目を覚すのを待たずにテロリストの本拠地から外へ出る。
外へ出た俺の目に飛び込んできたのは、生き物の気配の無い街並みと、街の中心部に居座る……マッコウクジラ?
そういえばコイツらの同類の、何とかシェパードだったかは反捕鯨活動に熱心だったっけ。
まぁコイツらは自分達に相応しい相手を呼び出せた、という事か。
四足歩行っぽく地響きを立てながら、街中を闊歩する存在をクジラと呼んで良いのならば、だが。
しかしデカいな。全長百メートルぐらいはありそうだ。
テレビやスマホの動画でしか見た事が無かったが、クジラとはこんなにも大きな生物だったのか。
俺の後ろに目を覚ました中年女がやって来て、呆然と呟く。
「何あれ……クジラ? それにしては、あまりにも大き過ぎる……」
前言撤回。
クジラと考えるには、あまりにも大き過ぎるので、やはり魔物だという事なのだろう。
……しょうがねえだろ、俺は元の世界では、海なんか見たこと無かったんだから。
その時、妙な声が聞こえた。
何人もの、何十人もの人間が声を合わせて合唱しているような……。
『自然を破壊して作り上げた人間の街など、存在に値しない。消滅せよ』
それが魔物の発する声だと理解した時には、すでに魔物の口の中がパリパリと発光していた。
そしてすぐに光線のような吐息が吐かれ、魔物の視線の先の住宅地が破壊される。
あれも雷系の攻撃か?
身体の大きな魔物は雷を使う決まりでもあるのだろうか。
そう考えたのが、思わず口に出ていたようだ。
すぐにアイツからツッコミが入る。
“そのような決まり事など、ある訳がなかろう。それよりも、貴殿はどうするのだ?”
あっさりと俺の馬鹿な冗談を流された。
ちょっと落ち込みそう。
しかし、面倒な事態になった可能性がかなり高いな。
先ほどの魔物の声を聞いて推測する限り、テロリスト共の意識が魔物を支配しているようだ。
俺はヤツに話す。
「三日分だ。お前の攻撃が通用するなら、それで致命傷を与えられるだろう。攻撃が通じるかどうかの威力偵察も兼ねる」
俺の様子を見て訝しげに中年女が訊ねる。
「貴方、一体誰と話しているのかしら?」
「御婦人、その詮索は今は後回しだ。まずは目の前の怪獣……魔物を何とかするのが最優先だろう」
「それもそうね。ああ、あと私の名前はエライジャ・クレイグよ。いつまでもマダムは止めてちょうだい」
「それは失礼した。ええと……ミス……ミセス……?」
「そういう分からない時はミズ・クレイグで良いのよ、別世界からの異邦人さん」
「やはりただの調査員ではなかったか」
「ふふっそうね、でもその詮索も後回しよ。何か手はあるの?」
「まずは、俺の現在出来る最大限の攻撃力をぶつけてみる。それで片が付けば良し、でなければそこから得られた情報を元に、次の手を考えるさ」
そう言って俺は退魔剣を背中に背負って、テロリストの奴らのオフロードバイクに跨がり、クジラに向けて走り出した。
クジラに近づくと、その大きさに改めて圧倒される。
アイツも大きいと思ったが、それ以上のヤツに出くわすとは思わなかった。
“お前が倒したという邪龍よりも大きいのだろうな、此奴は”
「ああそうか、コイツ程じゃないが、あのドラゴンもお前よりも大きかったな」
“どの世界でも己よりも強大な存在が居る。なればこそ挑み続ける価値がある”
「お前らしいな、ロングモーン」
“無駄話はここまでだ。あとはタイミングは貴殿に任せる”
クジラの進行を先読みして先回り。
アパートメントに入って三階まで昇り、適当な部屋に押し入る。
部屋の鍵は剣でぶった斬って壊した。
窓を開けて魔物クジラを確認する。
クジラの進行方向が予想とズレてないかを目視で確認。
そして俺が身体を通り抜けられるように、窓を破壊する。
そして──。
魔物クジラは四足歩行どころか、二足歩行をして闊歩していた。
その姿は、見た目は全く違うが日本の有名な怪獣映画の怪獣王を連想させた。
口から吐息吐くのもそれっぽい。
名前は……怪獣王ゴジ……なんとか。
もう怪獣王クジラでいいや。
その怪獣王クジラが、俺の潜む部屋の前を通り過ぎる瞬間。
俺は窓から飛び出してジャンプ。
そしてヤツの、真っ黒いツルンとした弾力の強そうな表皮に、体重を乗せて剣を突き立てた。
想像以上の弾力に、剣が弾かれたかと思ったが、なんとか突き立つ程度には刺さった。
俺は剣をそのままに、表皮を蹴ると飛び出したアパートメントに戻る。
そしてアパートメントの二階ぐらいの壁に足をつけて勢いを殺すと地面に降り立ち、回転して五点受け身。
起き上がった俺はすかさず叫んだ。
「ロングモーン!!」
瞬間、クジラの周囲の地面から巨大な雷柱が立ち昇った。
牛頭の魔物ロングモーンが、再充電し直すのに三日はかかる量の雷撃だ。
殆どの敵なら、欠片も残らず焼き尽くせる程の威力の攻撃。
上手くいけば、突き立てた剣を避雷針代わりに、クジラの内部からダメージを与えられるだろう。
しかし、そんな俺の微かな希望は、欠片も通じる事は無かった。
雷は魔物の表皮を滑るように流れ、受け流されて天に昇った。
退魔剣も雷に焼き尽くされて、消滅した。
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畜生! 攻撃が通じないかもとは思ったが、ここまで通用しないとは思わなかった!
俺はそれらを確認した瞬間に、飛び出したアパートメントとは反対側のマンションに逃げ込んだ。
それと同時にアパートメントに体当たりを仕掛け、あっという間に破壊する怪獣王。
俺は、そのマンション室内の窓際に潜んで息を殺している。
その窓の外に、巨大な……牛頭のアイツとは比べ物にならない程の大きさの、巨大な眼が覗き込む。
──くそっ、見つからないとは思うが、早く向こうに行ってくれ!
そして地響きと共に離れていく巨眼。
充分に離れたと判断した瞬間に、俺はベイゼルに連絡を入れた。
「おい緊急だ! 大至急、誰か応援を寄越せ! 『裏』だろうが『表』だろうが誰でもいい! アレはもう俺一人で対処出来る域を超えてる!!」
俺は窓の外を、廃墟となった街を、街を廃墟に変えた原因となった、巨大過ぎる魔物の後ろ姿を呆然と見ていた。
そしてベイゼルに、思い出したように連絡を付け加える。
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