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第三章 現代編
第55話 ─ ぼくたちの失敗 ─…ある男の独白
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「はははは! 見ろよエヴァンすげェぞ、何種類の味の飴があるんだ!?」
「おいおい、はしゃぐなよリーダー恥ずかしい。ったく兄貴役ってのはこんなにも面倒なモンなんだな」
「何だコレこの飴、あずき味? あずきって何だ!? お、パイナップルの飴だってよ、芸が細かいな。ちゃんと輪切りパインみたいに穴空いて模様が刻んであるぜ!」
「あーもう完っっ全にガキに戻ってやがる。おいリーダー、いい加減にしとかないと金がいきなり無くなるぜ! 日本に来た早々に何やってるんだよ!?」
日本に来て早々に何をやってるかって?
飴を物色してるんだよ! 飴、飴!!
ヒャッホウ!
「あ~何だコレ? 平仮名と片仮名はなんとか読めるけど、漢字っていう象形文字はさすがに読めねェな。イラストで何となく分かるけど。日本のパッケージって親切だな!」
「リーダーが無茶しないように、半分お目付役のつもりで付いて来たんだけど。まさかこんな事で手綱を握らないといけなくなるとは思わんかった……」
「さっきの、ソバを『ハシ』で食うのは失敗して負けたけど、飴なら関係ねェぜ! あぁどこかで試しに味見させてくんねェかなぁ」
「食事に勝ち負けもねーだろ。まぁ俺もチョップスティック使おうとして手が攣ったけれども」
初めて来た国。初めて見る風景。そして自分の好物が目の前にずらりと並ぶ、夢のような光景。
そんなこんなで、すっかり舞い上がっていたんだろうな、俺は。
エヴァンもその俺の手綱握るのに必死で、周囲への注意が幾分散漫になっていたんだろう。
「そこのステイツから来た“騎士団”のお二人の御仁。飴がお好きなら、こちらで飴の試しの味見をしてみませんか?」
あからさまに裏社会の雰囲気を漂わせた怪しい男。
なぜ初対面のコイツが、俺達が“騎士団”の人間である事を知っているのか。
しかし、舞い上がっていたこの時の俺は、こいつの耳が横に飛び出たエルフだったとしても、気がつかなかっただろう。
こんなあからさまな怪しい誘いに引っかかるとは、何たる不覚。
「お? 日本にゃそんな良いシステムがあるのか! 行こうぜエヴァン!!」
「あ、おい待てよリーダー!」
来日早々の空港で、俺達はいきなりのポカをした事に気付いたのは、この後、手遅れになってからだった。
後悔先に立たず。
*****
目が覚めたのは、いきなり水をぶっ掛けられたからだ。
目の前には、裏の世界のヤバい雰囲気をプンプン漂わせた黒ずくめの男達。
俺はどこかの薄暗くだだっ広い倉庫の中で、椅子に座らされて両手足を椅子に括り付けられている。
そして俺のすぐ横でも、水がぶっ掛けられる音が聞こえた。
俺はそちらに顔を向ける。
と、そこには我等が偉大なお目付役、エヴァン・ウィリアムスその人が、俺と同じように椅子に縛りつけられ呻いていた。
「ようこそ、我が日本へ。“騎士団”の汚れ仕事の引き受け人が一人、ダーティーホワイトエルフボーイくん?」
声を発するのは、髭面の全身鎧を着込んだ壮年の男。
その姿は、俺達など及びもつかないほど「騎士」をしている。
さすがに剣は入手しにくいのか、剣の代わりに木刀を手にしていた。
「ダーティー……何だって?」
「俺達が付けてる貴様の仇名だ」
「知らねえよ」
男は俺の返答には無反応だった。
髭面の男はその木刀を床に突き立て、両手を柄の上に揃えて置くと、質問を口にした。
「“騎士団”のニンゲンがこの日本に何をしに来た。素直に話せば、痛い思いをさせずに殺してやる」
人の上に君臨する君主のような風格を漂わせる壮年の男は、苛烈な言葉を事も無げにあっさりと俺達に話す。
鎧姿が似合った男だが、強烈にこの場の雰囲気に似合っていない。
俺は仕方無しに、表向きの目的を話した。
「バカンスだよ。“騎士団”の仕事を干されたから、やる事もないし、サムライハラキリでも見ようかと思ってね」
バキッと隣で音がして、続けて呻き声。
慌てて隣を見ると、エヴァンが黒ずくめの男の一人にぶん殴られていた。
俺は髭面を睨みつける。
「てめェ……」
「俺が調べた限りのお前の性格では、己が自身を痛めつけられるよりも、親しい身近な人間を傷つけられた方がより苦しむ」
相変わらず感情のこもらない声でそう答えると、再び先程の質問を繰り返した。
「“騎士団”のニンゲンがこの日本に何をしに来た。素直に話せば、痛い思いをさせずに殺してやる」
「クソ野郎が。そんだけ流暢に英語を話せるなら、もっとマトモな仕事をしやがれ!」
再び隣で殴られる音とエヴァンの呻き声。
「考えて話さないと、まずはこの男が苦しんで死ぬことになる。もう一度言うぞ。
“騎士団”のニンゲンがこの日本に何をしに来た。素直に話せば、痛い思いをさせずに殺してやる」
「……まずはエヴァンを放せ。そして無事に帰国させろ。話はそれからだ」
またもエヴァンが殴られる。今度は音が止まらない。
「待て! 話す! だから止めろ! カタナだ! 退魔の日本刀を手に入れる為に来日したんだ!!」
とりあえずは音が止まった。
隣を見るが、エヴァンは呻き声をあげるだけで、グッタリしている。
「なぜ退魔刀を求める。“騎士団”特製の退魔剣が大量にあるだろう」
「さっきも言っただろう! 干されてるんだ! 俺達のところには退魔剣の再聖別も聖別弾も一切回ってこないんだ! だから独自に退魔刀を入手したかった!!」
「最近は“騎士団”がキナ臭過ぎる。退魔刀を持って帰って、自分のところの剣の性能でも引き上げるつもりか?」
「守旧派と改革派で内部分裂しかかってるんだ! キナ臭いのはそのせいだ! カタナは俺個人が欲してるだけだ!」
髭面は何一つ表情を動かさない。
そのまま無表情に俺に返す。
「あれは内部分裂などでは無い。何か強力な武力を手に入れた動きだ。さぁ、上っ面だけの言い訳はいいから、本当の事を話せ。
『裏』の貴様ならそこら辺、事情をご存知のはずだろう?」
「強力な武力だって? どういう事だ」
エヴァンがもう一発殴られた。くそっ。
「質問をしているのは、こちらだ。いま貴様が何も言わずともいずれ分かる。これは余計な手間を省くための尋問だ」
「拷問の間違いだろ」
「知らん。どう取ろうが今の状況は何も変わらん。三つ数える間に話せ。──ひとつ」
「もう洗いざらい話した! 俺は主流派じゃないからさっきの情報が全てだ!」
「他に情報は無いか、よく思い出せ。無いなら貴様達は死ぬだけだ。──ふたつ」
俺は髭面を睨みながら頭の中で思考を反芻していたが、結局知らないものは話せない。
くそッ、本当にこれ以上は何も知らないってのに!
どうすれば良い!? どうしたら、せめてエヴァンだけでも助けられる!?
「ふん……。情報をウタっていたなら、その間だけは生きていられたのにな」
その言葉を最後に、髭面が何の感情もなく最後のカウントを口にする。
俺は思わず目を瞑る。
「──みっ……ぐっ、お前どこから……!」
どこか慌てたような髭面の声で、俺は恐る恐る片目を開けた。
髭面の首元に何者かの手が回って、喉元を締めている。
その手を見た時に、初めて俺は奴の肩の辺りに、何かが覆いかぶさっているのに気がついた。
「三つ数える間に、貴様の手下を下がらせろ。でなければ貴様は死ぬ事になる」
聞き覚えのある声。だが聞き慣れない声。
いや、そもそもこんなに流暢に話す事など、アイツは出来なかった筈だ。
そう思いながらも、信じられない思いで髭面に覆い被さる影を、俺は見て叫んだ。
「タリス!?」
あの、いつの間にか姿を消していた女が、何故この場に居るのか──。
「おいおい、はしゃぐなよリーダー恥ずかしい。ったく兄貴役ってのはこんなにも面倒なモンなんだな」
「何だコレこの飴、あずき味? あずきって何だ!? お、パイナップルの飴だってよ、芸が細かいな。ちゃんと輪切りパインみたいに穴空いて模様が刻んであるぜ!」
「あーもう完っっ全にガキに戻ってやがる。おいリーダー、いい加減にしとかないと金がいきなり無くなるぜ! 日本に来た早々に何やってるんだよ!?」
日本に来て早々に何をやってるかって?
飴を物色してるんだよ! 飴、飴!!
ヒャッホウ!
「あ~何だコレ? 平仮名と片仮名はなんとか読めるけど、漢字っていう象形文字はさすがに読めねェな。イラストで何となく分かるけど。日本のパッケージって親切だな!」
「リーダーが無茶しないように、半分お目付役のつもりで付いて来たんだけど。まさかこんな事で手綱を握らないといけなくなるとは思わんかった……」
「さっきの、ソバを『ハシ』で食うのは失敗して負けたけど、飴なら関係ねェぜ! あぁどこかで試しに味見させてくんねェかなぁ」
「食事に勝ち負けもねーだろ。まぁ俺もチョップスティック使おうとして手が攣ったけれども」
初めて来た国。初めて見る風景。そして自分の好物が目の前にずらりと並ぶ、夢のような光景。
そんなこんなで、すっかり舞い上がっていたんだろうな、俺は。
エヴァンもその俺の手綱握るのに必死で、周囲への注意が幾分散漫になっていたんだろう。
「そこのステイツから来た“騎士団”のお二人の御仁。飴がお好きなら、こちらで飴の試しの味見をしてみませんか?」
あからさまに裏社会の雰囲気を漂わせた怪しい男。
なぜ初対面のコイツが、俺達が“騎士団”の人間である事を知っているのか。
しかし、舞い上がっていたこの時の俺は、こいつの耳が横に飛び出たエルフだったとしても、気がつかなかっただろう。
こんなあからさまな怪しい誘いに引っかかるとは、何たる不覚。
「お? 日本にゃそんな良いシステムがあるのか! 行こうぜエヴァン!!」
「あ、おい待てよリーダー!」
来日早々の空港で、俺達はいきなりのポカをした事に気付いたのは、この後、手遅れになってからだった。
後悔先に立たず。
*****
目が覚めたのは、いきなり水をぶっ掛けられたからだ。
目の前には、裏の世界のヤバい雰囲気をプンプン漂わせた黒ずくめの男達。
俺はどこかの薄暗くだだっ広い倉庫の中で、椅子に座らされて両手足を椅子に括り付けられている。
そして俺のすぐ横でも、水がぶっ掛けられる音が聞こえた。
俺はそちらに顔を向ける。
と、そこには我等が偉大なお目付役、エヴァン・ウィリアムスその人が、俺と同じように椅子に縛りつけられ呻いていた。
「ようこそ、我が日本へ。“騎士団”の汚れ仕事の引き受け人が一人、ダーティーホワイトエルフボーイくん?」
声を発するのは、髭面の全身鎧を着込んだ壮年の男。
その姿は、俺達など及びもつかないほど「騎士」をしている。
さすがに剣は入手しにくいのか、剣の代わりに木刀を手にしていた。
「ダーティー……何だって?」
「俺達が付けてる貴様の仇名だ」
「知らねえよ」
男は俺の返答には無反応だった。
髭面の男はその木刀を床に突き立て、両手を柄の上に揃えて置くと、質問を口にした。
「“騎士団”のニンゲンがこの日本に何をしに来た。素直に話せば、痛い思いをさせずに殺してやる」
人の上に君臨する君主のような風格を漂わせる壮年の男は、苛烈な言葉を事も無げにあっさりと俺達に話す。
鎧姿が似合った男だが、強烈にこの場の雰囲気に似合っていない。
俺は仕方無しに、表向きの目的を話した。
「バカンスだよ。“騎士団”の仕事を干されたから、やる事もないし、サムライハラキリでも見ようかと思ってね」
バキッと隣で音がして、続けて呻き声。
慌てて隣を見ると、エヴァンが黒ずくめの男の一人にぶん殴られていた。
俺は髭面を睨みつける。
「てめェ……」
「俺が調べた限りのお前の性格では、己が自身を痛めつけられるよりも、親しい身近な人間を傷つけられた方がより苦しむ」
相変わらず感情のこもらない声でそう答えると、再び先程の質問を繰り返した。
「“騎士団”のニンゲンがこの日本に何をしに来た。素直に話せば、痛い思いをさせずに殺してやる」
「クソ野郎が。そんだけ流暢に英語を話せるなら、もっとマトモな仕事をしやがれ!」
再び隣で殴られる音とエヴァンの呻き声。
「考えて話さないと、まずはこの男が苦しんで死ぬことになる。もう一度言うぞ。
“騎士団”のニンゲンがこの日本に何をしに来た。素直に話せば、痛い思いをさせずに殺してやる」
「……まずはエヴァンを放せ。そして無事に帰国させろ。話はそれからだ」
またもエヴァンが殴られる。今度は音が止まらない。
「待て! 話す! だから止めろ! カタナだ! 退魔の日本刀を手に入れる為に来日したんだ!!」
とりあえずは音が止まった。
隣を見るが、エヴァンは呻き声をあげるだけで、グッタリしている。
「なぜ退魔刀を求める。“騎士団”特製の退魔剣が大量にあるだろう」
「さっきも言っただろう! 干されてるんだ! 俺達のところには退魔剣の再聖別も聖別弾も一切回ってこないんだ! だから独自に退魔刀を入手したかった!!」
「最近は“騎士団”がキナ臭過ぎる。退魔刀を持って帰って、自分のところの剣の性能でも引き上げるつもりか?」
「守旧派と改革派で内部分裂しかかってるんだ! キナ臭いのはそのせいだ! カタナは俺個人が欲してるだけだ!」
髭面は何一つ表情を動かさない。
そのまま無表情に俺に返す。
「あれは内部分裂などでは無い。何か強力な武力を手に入れた動きだ。さぁ、上っ面だけの言い訳はいいから、本当の事を話せ。
『裏』の貴様ならそこら辺、事情をご存知のはずだろう?」
「強力な武力だって? どういう事だ」
エヴァンがもう一発殴られた。くそっ。
「質問をしているのは、こちらだ。いま貴様が何も言わずともいずれ分かる。これは余計な手間を省くための尋問だ」
「拷問の間違いだろ」
「知らん。どう取ろうが今の状況は何も変わらん。三つ数える間に話せ。──ひとつ」
「もう洗いざらい話した! 俺は主流派じゃないからさっきの情報が全てだ!」
「他に情報は無いか、よく思い出せ。無いなら貴様達は死ぬだけだ。──ふたつ」
俺は髭面を睨みながら頭の中で思考を反芻していたが、結局知らないものは話せない。
くそッ、本当にこれ以上は何も知らないってのに!
どうすれば良い!? どうしたら、せめてエヴァンだけでも助けられる!?
「ふん……。情報をウタっていたなら、その間だけは生きていられたのにな」
その言葉を最後に、髭面が何の感情もなく最後のカウントを口にする。
俺は思わず目を瞑る。
「──みっ……ぐっ、お前どこから……!」
どこか慌てたような髭面の声で、俺は恐る恐る片目を開けた。
髭面の首元に何者かの手が回って、喉元を締めている。
その手を見た時に、初めて俺は奴の肩の辺りに、何かが覆いかぶさっているのに気がついた。
「三つ数える間に、貴様の手下を下がらせろ。でなければ貴様は死ぬ事になる」
聞き覚えのある声。だが聞き慣れない声。
いや、そもそもこんなに流暢に話す事など、アイツは出来なかった筈だ。
そう思いながらも、信じられない思いで髭面に覆い被さる影を、俺は見て叫んだ。
「タリス!?」
あの、いつの間にか姿を消していた女が、何故この場に居るのか──。
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追記:2025/09/20
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