ダーティーホワイトエルブズ ~魔物退治してた現代転移の苦労人エルフ、“主人公”への復讐を決意する~

きさまる

文字の大きさ
57 / 128
第三章 現代編

第56話 ─ 君を、君の仕草を、思い返して涙集め声枯らす ─ …ある男の独白

しおりを挟む
「この力! 気配を殺す身のこなし! 貴様もしかして、狂王の試練場のニンジャか!」

「そういうオマエはロード……しかも属性アライメントが悪に変わった者だな」

 忍者だと!?
 この露出狂のような格好の女が!?

 俺は、髭面の背中におぶさるように取り付くタリスを見た。
 忍者装束も着てないし、刀も持ってないのに、これで忍者なのか!?

「私の能力値は全てが十八。アーマークラスも、無手でLOを超えている。……オマエなら意味は分かるな?」

「ぐっ……」

「では改めてカウントを始めよう。三つ数える間に手下を下がらせろ。──ひとつ」

 髭面は三つ数えるまでもなく、手下を下がらせた。
 残るは髭面と、その背中のタリスと……おや? 赤いドレスを着た、デップリ太った女が残っている。
 確かに髭面の手下では無さそうだが……。

「誰だオマエは? なぜ残っている?」

 タリスが俺の疑問を代弁するかのように、その女に尋ねた。

「そりゃ私がバローロ……その髭の手下じゃないからさ。私は皆からビッグママと呼ばれてるよ」

 その女の続く言葉に俺は我が耳を疑った。

「この世界に流れ着いたエルフを……いや、異世界から来た連中を保護して助け合おうってぇ組織のまとめ役をやらせて貰ってる」

 俺は思わずこの女に話かけようとした。
 だが髭の言葉が邪魔で聞けなかった。

「お前は『気まぐれ』タリスだな? そろそろ俺を解放してくれると有難いのだが」

 「バローロ」と赤ドレスに言われた髭面が、そうタリスに訴える。
 ん? 『気まぐれ』タリス?

 タリスはバローロの背中から降りて、ビッグママを自称した女に向き直る。
 だが、女に向き直ってはいるがバローロから注意は外していない。
 バローロはガシャンと鎧を鳴らしながら、肩をすくめた。

「それで……オマエはそこの汚れ仕事人とはどういう関係だ」

 髭面バローロがタリスに問う。
 タリスは俺達の方を指差しながら答える。

「私が、この世界に飛ばされた直後に関わりを持った。少々コイツらが気に入ったから、殺されると何となくムカつく」

 そう言ってタリスはこちらに近づき……エヴァンの拘束を手刀で断ち切った。
 そしてエヴァンの顔を愛しげに撫でる。

「特に、この男は私の好みにピッと来た。コイツを殺すのも傷つけるのも許さない」

 …………え? ……あれ?
 彼女がこの世界に来た直後に、クジラのコリーヴレッカンから助けた俺じゃないの?

 ええええええええええええ!?

 いや、別に良いんだけどさ。
 今のところフェット以外の女と付き合うつもりは無いからいいけど。
 けど何だろう、この告白した訳でもないのに胸を吹き抜ける悲しみは。
 彼女が近寄った時にドキドキしてしまった、俺の純粋な下心を返せ。

「貴様……さっきの俺の脅しの時よりも絶望したつらをしやがって……ふざけるな」

 うるせェよ。

「リーダー……何でこの女が……ここにいるんだ……?」

「知らねェよ」

「何よ、その顔。エヴァンと言ったかしら、この男の乗り物を操る姿が素敵だったわ。
 ……私が誰に惚れようが勝手でしょ?」

 タリスの口調が砕けた感じに変わった。
 こっちが彼女の“素”か。

「いや……それはまぁ確かにその通りなんだが……お前、何でそんなに流暢に話せるんだよ? 片言しか話せないはずだろ」

「この世界に来たばかりで言葉が分からない私が、まともに話せた訳ないでしょ、バカじゃないの!? それに──」

「この場には、自動翻訳魔法がかかっているから、お互いの意思疎通が出来てるのさ」

 タリスのセリフをさえぎるように、ビッグママと名乗った赤いドレスの太った女がそう言った。

「何だと? この世界で魔法だと!? バカな!!」

「やっぱりね。この髭とその手下の言葉が、急に理解出来るようになったから、予想はしてたけど」

「この世界の魔素は確かに薄いけど、全くの“無”って訳じゃないのさ。貯め込むのは大変なんだよ」

 だが俺はそんな事はお構いなしに、彼女に尋ねた。

「……ビッグママといったか。お前に聞きたいことがある」

「答えられる範囲内なら構わないよ」

「フェットチーネ、という女はそっちに保護されていないか!? 黒髪の魔法師だ。人間の!」

「私の耳には何も入ってきて無いねェ。そんなパスタみたいな名前なら忘れる訳ないし」

「そうか」

 もしかしたら、と期待したがやはり駄目だったか。
 もたげた希望は、失望のスパイスとなって俺に降り注ぎ、俺を打ちのめした。
 不意に涙が溢れてくる。
 目を強く閉じたが、零れる涙は止まらなかった。

「……そうか」

 あの時死んだと思った俺がこの世界に飛ばされていたのだ。
 ひょっとしたら彼女も、という一縷いちるの希望がどこかにあった。
 だがそれも今、断たれた。

「フェット……」

 その言葉が無意識に口にのぼると、それが一投石となり俺の心に波紋を起こす。
 その波紋がさざ波となり、やがてすぐに大きなうねりとなって俺の心に溢れかえった。

 知らないうちに嗚咽が漏れる。
 止まらなかった。


 俺は泣いた。声を押し殺して男泣きに。


*****


「落ち着いたかい。まぁまだ可能性は低いままだが、希望は無い訳じゃない。この世界に飛ばされる時に数年ズレるなんてのは、珍しいことじゃないからね」

「そうか」

 ここはビッグママのアジト……らしい。
 あれから拘束を解かれて移動したのだが、今はどうでもいい。
 せめて手の拘束は続けろとバローロが渋って、俺達二人に手錠がかけられたのも、何とも思わない。思えない。

「おい、大丈夫かよリーダー」

「そうか」

「話を聞いてねェ!? おい、さっき見てた飴買おうぜ、ありったけ。だからしっかりしろよリーダー、頼むから!」

「ああ」

「くそッ、抜け殻かよ! どうすりゃ良いんだ……」

「そうか」

 それまで渋面を作ってこちらを睨んでいたバローロが、顔を更にしかめてこちらに近寄って来て、話しかけた。

「全く、これではさっぱり話が進まんな」

 そして俺の胸倉を掴んで、無理矢理立たせる。

「ひとつ特別に教えてやる。そこの『気まぐれ』タリス……タリス・カーと俺は同じ世界の出身だ。それはさっきのやり取りで分かってるな?」

 俺は視線だけをタリスに向けた。彼女はバローロの木刀を適当にもてあそんでいる。
 俺は面倒臭かったが、答えた。

「ああ」

「俺がこの世界に来たのは五年ほど前だ。だが、あの女が俺の元の世界から消えたのは、俺が飛ばされる三年前だ」

 そう言って、タリスを見やるバローロ。
 タリスは片眉を軽く上げて首肯しゅこうする。そして続ける。

「そうね、別に雲隠れしてほっつき歩いてた訳じゃないわ。一人で迷宮に潜ってたら、ザコの巨大悪魔相手に、下手を打ってられたのよ。そう思ったらあの街に居て、アンタと出会ったって訳」

 考える事を放棄しかけていた俺の頭に、二人の話の内容がゆっくりと染み渡る。
 話が理解出来ると、自棄しかけていた気持ちがほんの少しだけマシになった。

 俺はバローロの手を振りほどくと、自分の力で床を踏みしめる。
 そして大きく深くため息をつくと、アジトの椅子に深々と腰をかけた。

「さっきのビッグママの話の生き証人が、お前達二人という訳か」

「そういう事だ。分かったらその腑抜けた面をなんとかしろ」

「でも私はアンタの事を知らないわよ?」

 そう言うタリスに、バローロは心底呆れたようにため息をついてから、彼女に返した。

「知らないも何も、お前は周囲のヒトの事など、殆ど興味を持っていなかったではないか。そもそも、お前の記憶に残っている冒険者が何人いるのか、分かったものではない」

 酷い言われようだ。
 だが彼女の通り名といい、今のバローロの説明といい、彼女の人となりが何となく分かった。

「まぁそれに加えて、俺は魔除を手に入れたらすぐに王に献上して、近衛兵になったからな。それ以来、迷宮には潜ってない」

 ああ、それで甲冑着てんのか。
 タリスがバローロに尋ねる。

「そういやそこのデブ女が、魔素が薄くてどうとか言ってたけど、アンタも僧侶魔法使えないの?」

「その言い方だとお前も転職前の、魔法使い系の魔法が使えないようだな。その通りだ。とっさに傷が塞げないのは今でも戸惑うな」

 そこにビッグママが割り込んで来た。

「それはそうと、“騎士団”のボウヤもニンジャのお嬢ちゃんも、エルフの『耳隠し』の魔法は、かけとかないで良いのかい?」

「何だそれは!?」

 俺は思わず聞き返した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

処理中です...