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第三章 現代編
第57話 ─ やさしい気持ちで ─ …ある男の独白
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「何って、耳はエルフの外見上の一番の特徴だろう? それを目立たなくするのは、この世界で生きていくためには必要じゃないか」
「もしかして……アンタとそこの髭もエルフ、なのか?」
「私らの耳に注意を集中してみな」
本当だ。彼等がエルフだと、何故気が付かなかったのだろう。
「人の深層心理に作用する魔法さ。魔力の消費もかなり少なくて済む。耳から意識が逸れる、上手くいけば気にもならなくなる」
「さっきの手下共もエルフなのか?」
髭バローロが答える。
「数人混じっているが、大半はただの人間だ。俺はママとは組織が厳密には違う」
「ヤクザなんか何時でも辞めて、こっち戻ってきたって良いんだよ」
バローロは黙って肩を竦めた。
何だか本当に母親と息子みたいなやり取りだな。
その傍らに、エヴァンが俺に尋ねる。
「リーダー、大丈夫か?」
「まぁ……さっきよりかはな」
それを聞いたバローロが、俺達二人に向き直った。
「ようやく話が出来る状態に戻ったか。耳の件は後回しだ。さっきの話を続けよう」
そして腕組みをして、再び威圧的な態度を強めて話す。
「お前が退魔刀を入手す「退魔刀が打てる刀鍛冶、紹介しても良いよ」
「ママ!」
話の途中で割り込まれ、腰を折られたバローロが抗議するが、ビッグママには通じない。
「当然、それには条件がいくつかある」
「だろうな。飲めるかどうかは別だが」
「まずは“騎士団”内部の情報を定期的によこしな。それが一番のメインだ。それとお前さんが転移した時に身に付けた能力も詳しく教えて貰おうか。ちょいと変わった手順で雷を操るそうじゃないか」
「断ったら?」
「バローロに完全に後を任せて、さっきの続きだ。今度は誰も止めないよ」
そして彼女はタリスにも釘を刺す。
「アンタも、不意打ちじゃなければもう邪魔は難しいだろう?」
タリスは剣呑な眼をしながら頷いた。
あの表情だとどちらかと言うと、邪魔は出来るが、今は様子を見てビッグママの顔を立てる、といった感じか。
「この条件を飲むなら、そしてその上でタリス……と言ったかね、アンタが私の傘下に入るなら、そこのエヴァンとやらも無事に帰してやろうじゃないか」
「なぜ私が話に出てくる」
「アンタはそのエヴァンという男について行きたいんだろう? だが、アンタが私の傘下に入ってくれないと、バローロのメンツが立たなくなるんでね」
タリスがバローロを睨む。
バローロも彼女を睨み返した。
「さっきのアンタがやった事を忘れたのかい? バローロ本人だけならともかく、組織としては頭を押さえられたのを放置は出来ないんだ」
そんな下らない事がどうしたといった顔のタリス。
そんな彼女を見て、やれやれといった様子でため息をついてビッグママは続ける。
「こっちの裏社会は、メンツで組織を動かさないといけないんだよ。頭のメンツが潰れたら……一応、コイツの上部組織であるウチがアンタを取り込むか──消すしかない」
タリスとビッグママの間に緊張が走る。
それを崩す為にも、思わず俺は叫んだ。
「分かった、条件を飲もう!」
「リーダー!?」
「ただし、こちらからもひとつ条件だ。そちらが掴んでいる“騎士団”の情報も、こちらへ寄越せ。ならば排水口の蓋は開けてやる」
「リーダー!!」
「エヴァン、俺達みたいな根無し草が生き延びるには、手段を選んではいられない。そもそも選べる余裕なんて無い」
これも何かの機会だ。
こっちだって利用されてやるんだ、利用出来るものは利用してやろう。
「どうせ汚れた裏の『仕事』をしていたんだ。『毒を食らわば皿まで』さ」
「……おい」
ゴツっ!
エヴァンが拘束された両手で、俺の顔を殴ってきた。
「まーた昔みたいにヤケになってんじゃねーぞリーダー。フェットチーネさんの事がショックだったのは分かるけどな」
「……すまん」
「良いって事よ」
そうしてエヴァンは、周りを見渡しながら言った。
「リーダーが決めたんなら仕方がねえ。おとなしくステイツに戻ってやるから、“騎士団”に着くまでは俺ッチに手ェ出すなよ」
特にバローロを睨んで、精一杯の脅しを声に込めて続けて言った。
「もし俺ッチに何かあれば……特に命に関わるような事があれば、リーダーが地の果てまで追い詰めて殺しに行くぜ」
「ふふん……。まぁ良いだろう」
当然ながらバローロはさほど恐れた様子も無く、余裕のある態度で頷いた。
俺は嗜め半分、エヴァンに言った。
「おいおい、あんまり俺に責任を負わせてくれるなよ。……気をつけてな」
「分かってるよ」
「アイラには心配するなと伝えてくれ。お前たち二人が待ってるなら、必ず戻るから」
「了解、じゃあ来日記念にシュリケンでも買ってきてくれ」
*****
「それで、俺達の組織がキナ臭いとはどういう事なんだ」
エヴァンが退出してから開口一番に、俺は髭面バローロに訊ねた。
向こうは一方的に尋問・拷問するだけのつもりだったためか、俺の質問に憮然とした態度で答えた。
「ステイツのいくつかの町や村が壊滅されている。USアーミーがテロリストの拠点を攻撃した事になっているが」
「“なっている”? ……つまり実際は軍隊ではなく、“騎士団”がやったとアンタは言うのか?」
「そうだ」
「聞いてない」
俺はこの場に居る全員を見渡して、更に言った。
「そもそもそんな大規模な動き、隠していたって分かるはずだ。だが俺は知らない……」
俺は、無性にベイゼルと連絡をしたくなってきた。
ベイゼルが例え何かを隠していたって、言葉の端々から何かを嗅ぎ取れる筈だ。
「なぁ、俺の組織に連絡を入れて確認を取ったりなんて事は……?」
「させる訳ないだろう、バカだねボウヤ。何のためにバローロがお前さんともう一人を拉致ったと思ってるんだい」
「まあ確かにそうだな、マダム。愚かな質問だった、流してくれ」
バローロが再び訊ねてくる。
「少し前にそちらの国の北の国境近くの街が壊滅したが、それも本当に何も知らないというのか?」
コリーヴレッカンが暴れた件か。
誤解されたり捻くれて受け取られたりしそうだな……とぼけて隠すか。
いや。
「その街が壊滅したのはテロリスト共のせいだ。奴等が魔物を召喚するのに街中の人間全てを生贄にしやがったのさ。
ただそれだと、本当の事でも嘘臭いから情報封鎖されてるはずだ」
なるべく嘘や隠し事を無くして、彼等との信頼関係を築いた方が良い。
こちらの世界に来てから学んだ事だ。“騎士団”内部を動くだけでも実感した事だ。
人間関係はなるべく多い方が、いざという時の保険になる。
特にこのビッグママという女とは、信頼を構築しておいた方が良さそうだ。
今までの経験からくる勘が、俺にそう告げていた。
「……俺は、そのテロリスト共と呼び出された魔物を、後始末で殺しただけだ」
「やはりオマエが──」
言いかけたバローロをママが制した。
「お前さんが街を潰したって訳じゃないんだね?」
「無論だ」
「それを信じろと?」
「信じられなきゃ裏を取れば良い。もうすぐ世間のほとぼりが冷めるだろうから、情報封鎖も解けるだろう」
俺はバローロを睨んで続ける。
「元々そうするつもりだったと、さっきアンタが言ってたじゃないか」
「何だと──」
「いちいちこのボウヤの挑発に引っかかるんじゃないよ。まだまだそういう所はガキのまんまだね」
「ちっ……」
俺は彼等の親子喧嘩──というより母親の説教だな──を遮るように言った。
「それはそうと、出来たらその壊滅した町村の名前を教えてくれないか? そこから何か分かるかもしれん」
「まあ仕方ないね。少しでも情報が欲しいなら、その理屈は道理だ」
「頼む」
「もしかして……アンタとそこの髭もエルフ、なのか?」
「私らの耳に注意を集中してみな」
本当だ。彼等がエルフだと、何故気が付かなかったのだろう。
「人の深層心理に作用する魔法さ。魔力の消費もかなり少なくて済む。耳から意識が逸れる、上手くいけば気にもならなくなる」
「さっきの手下共もエルフなのか?」
髭バローロが答える。
「数人混じっているが、大半はただの人間だ。俺はママとは組織が厳密には違う」
「ヤクザなんか何時でも辞めて、こっち戻ってきたって良いんだよ」
バローロは黙って肩を竦めた。
何だか本当に母親と息子みたいなやり取りだな。
その傍らに、エヴァンが俺に尋ねる。
「リーダー、大丈夫か?」
「まぁ……さっきよりかはな」
それを聞いたバローロが、俺達二人に向き直った。
「ようやく話が出来る状態に戻ったか。耳の件は後回しだ。さっきの話を続けよう」
そして腕組みをして、再び威圧的な態度を強めて話す。
「お前が退魔刀を入手す「退魔刀が打てる刀鍛冶、紹介しても良いよ」
「ママ!」
話の途中で割り込まれ、腰を折られたバローロが抗議するが、ビッグママには通じない。
「当然、それには条件がいくつかある」
「だろうな。飲めるかどうかは別だが」
「まずは“騎士団”内部の情報を定期的によこしな。それが一番のメインだ。それとお前さんが転移した時に身に付けた能力も詳しく教えて貰おうか。ちょいと変わった手順で雷を操るそうじゃないか」
「断ったら?」
「バローロに完全に後を任せて、さっきの続きだ。今度は誰も止めないよ」
そして彼女はタリスにも釘を刺す。
「アンタも、不意打ちじゃなければもう邪魔は難しいだろう?」
タリスは剣呑な眼をしながら頷いた。
あの表情だとどちらかと言うと、邪魔は出来るが、今は様子を見てビッグママの顔を立てる、といった感じか。
「この条件を飲むなら、そしてその上でタリス……と言ったかね、アンタが私の傘下に入るなら、そこのエヴァンとやらも無事に帰してやろうじゃないか」
「なぜ私が話に出てくる」
「アンタはそのエヴァンという男について行きたいんだろう? だが、アンタが私の傘下に入ってくれないと、バローロのメンツが立たなくなるんでね」
タリスがバローロを睨む。
バローロも彼女を睨み返した。
「さっきのアンタがやった事を忘れたのかい? バローロ本人だけならともかく、組織としては頭を押さえられたのを放置は出来ないんだ」
そんな下らない事がどうしたといった顔のタリス。
そんな彼女を見て、やれやれといった様子でため息をついてビッグママは続ける。
「こっちの裏社会は、メンツで組織を動かさないといけないんだよ。頭のメンツが潰れたら……一応、コイツの上部組織であるウチがアンタを取り込むか──消すしかない」
タリスとビッグママの間に緊張が走る。
それを崩す為にも、思わず俺は叫んだ。
「分かった、条件を飲もう!」
「リーダー!?」
「ただし、こちらからもひとつ条件だ。そちらが掴んでいる“騎士団”の情報も、こちらへ寄越せ。ならば排水口の蓋は開けてやる」
「リーダー!!」
「エヴァン、俺達みたいな根無し草が生き延びるには、手段を選んではいられない。そもそも選べる余裕なんて無い」
これも何かの機会だ。
こっちだって利用されてやるんだ、利用出来るものは利用してやろう。
「どうせ汚れた裏の『仕事』をしていたんだ。『毒を食らわば皿まで』さ」
「……おい」
ゴツっ!
エヴァンが拘束された両手で、俺の顔を殴ってきた。
「まーた昔みたいにヤケになってんじゃねーぞリーダー。フェットチーネさんの事がショックだったのは分かるけどな」
「……すまん」
「良いって事よ」
そうしてエヴァンは、周りを見渡しながら言った。
「リーダーが決めたんなら仕方がねえ。おとなしくステイツに戻ってやるから、“騎士団”に着くまでは俺ッチに手ェ出すなよ」
特にバローロを睨んで、精一杯の脅しを声に込めて続けて言った。
「もし俺ッチに何かあれば……特に命に関わるような事があれば、リーダーが地の果てまで追い詰めて殺しに行くぜ」
「ふふん……。まぁ良いだろう」
当然ながらバローロはさほど恐れた様子も無く、余裕のある態度で頷いた。
俺は嗜め半分、エヴァンに言った。
「おいおい、あんまり俺に責任を負わせてくれるなよ。……気をつけてな」
「分かってるよ」
「アイラには心配するなと伝えてくれ。お前たち二人が待ってるなら、必ず戻るから」
「了解、じゃあ来日記念にシュリケンでも買ってきてくれ」
*****
「それで、俺達の組織がキナ臭いとはどういう事なんだ」
エヴァンが退出してから開口一番に、俺は髭面バローロに訊ねた。
向こうは一方的に尋問・拷問するだけのつもりだったためか、俺の質問に憮然とした態度で答えた。
「ステイツのいくつかの町や村が壊滅されている。USアーミーがテロリストの拠点を攻撃した事になっているが」
「“なっている”? ……つまり実際は軍隊ではなく、“騎士団”がやったとアンタは言うのか?」
「そうだ」
「聞いてない」
俺はこの場に居る全員を見渡して、更に言った。
「そもそもそんな大規模な動き、隠していたって分かるはずだ。だが俺は知らない……」
俺は、無性にベイゼルと連絡をしたくなってきた。
ベイゼルが例え何かを隠していたって、言葉の端々から何かを嗅ぎ取れる筈だ。
「なぁ、俺の組織に連絡を入れて確認を取ったりなんて事は……?」
「させる訳ないだろう、バカだねボウヤ。何のためにバローロがお前さんともう一人を拉致ったと思ってるんだい」
「まあ確かにそうだな、マダム。愚かな質問だった、流してくれ」
バローロが再び訊ねてくる。
「少し前にそちらの国の北の国境近くの街が壊滅したが、それも本当に何も知らないというのか?」
コリーヴレッカンが暴れた件か。
誤解されたり捻くれて受け取られたりしそうだな……とぼけて隠すか。
いや。
「その街が壊滅したのはテロリスト共のせいだ。奴等が魔物を召喚するのに街中の人間全てを生贄にしやがったのさ。
ただそれだと、本当の事でも嘘臭いから情報封鎖されてるはずだ」
なるべく嘘や隠し事を無くして、彼等との信頼関係を築いた方が良い。
こちらの世界に来てから学んだ事だ。“騎士団”内部を動くだけでも実感した事だ。
人間関係はなるべく多い方が、いざという時の保険になる。
特にこのビッグママという女とは、信頼を構築しておいた方が良さそうだ。
今までの経験からくる勘が、俺にそう告げていた。
「……俺は、そのテロリスト共と呼び出された魔物を、後始末で殺しただけだ」
「やはりオマエが──」
言いかけたバローロをママが制した。
「お前さんが街を潰したって訳じゃないんだね?」
「無論だ」
「それを信じろと?」
「信じられなきゃ裏を取れば良い。もうすぐ世間のほとぼりが冷めるだろうから、情報封鎖も解けるだろう」
俺はバローロを睨んで続ける。
「元々そうするつもりだったと、さっきアンタが言ってたじゃないか」
「何だと──」
「いちいちこのボウヤの挑発に引っかかるんじゃないよ。まだまだそういう所はガキのまんまだね」
「ちっ……」
俺は彼等の親子喧嘩──というより母親の説教だな──を遮るように言った。
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