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第三章 現代編
第73話 ─ 番外編「物語のフラグって、結構面倒だ」 ─…ある男の独白
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「アハッピーニューイヤー!」
「明けましておめでとうございます」
早朝の薄暗い時間、駐車場に止めた自動車から降りた俺達は、改めてそう挨拶をした。
元旦だからか、こんな時間でもかなり人間が溢れているな。
「うーん、しかしなんだ。異世界とはいえ、やはり所変われば風習も変わるんだなあ」
「そうねえ私もこっちの世界は、ここ日本の関西しか今のところ知らないんだけど」
そして俺は改めてフェットを見つめる。
フェットも少し含羞んだ表情で見つめてくれる。
「似合ってるよ、フェット。直接見るのは初めてだけど、綺麗な服だよなぁ。えっと……ゲイシャスーツっていうんだっけ?」
「キモノっていうのよ。日本の民族衣装らしいわ」
「民族衣装……民族固有の衣装の他に、世界共通のフォーマルな服装が大まかには定まってるってのがスゲエよな、この世界」
「どこかが世界征服して押し付けた文化って訳じゃないのにね」
「んじゃそろそろ行こうか。おいで紅乙女」
俺の後ろから、小さな子供姿の紅乙女が現れる。今日は女の子の形をとったようだ。フェットのたっての願いで。
そしてバッチリ女の子向けのキモノを着込んでおめかししている。
「あら、貴女もよく似合っているわよ、紅乙女ちゃん」
「有り難うございます、フェットチーネ様。奥方様も綺麗な黒髪をされているから、良くお映えになっていますよ」
「なんだか固いわねえ。せっかく親子のつもりで来たんだから、もうちょっと気楽にしなさいな」
「はい、わかりましたお母さん!」
ズキュウウーーン!
「あふっ!」
紅乙女のセリフを聞いた途端、胸を押さえて蹲るフェット。
え? なに? フェットって何か持病持ってたっけ!?
「だ、大丈夫かフェット!?」
「だ、大丈夫大丈夫。そ、それより紅乙女ちゃん、もう一度今のセリフ言ってみて」
「え? お……お母さん……?」
ズッキュウウウウーーーーン!!
「はふんっ!!」
あ、もしかして紅乙女の「お母さん」に反応してんのか。
さすがは元“神”の一部! 俺にできない事を平然とやってのける! そこに痺れる憧れるゥ!
「はぁはぁはぁ、な、なんて素敵な響きなのかしら。恐るべし子供の可愛さ」
「そ、そうだな」
「あなた! ……マロニー!」
ガシッ。俺の腕をすごい力でガッチリとホールドするフェット。
な、なんか獲物を捕食するみたいな笑顔だなぁ。
「私、前回の忘年会での約束、覚えてるから!」
「え? あ、は……はい、もちろんデス。頑張りますです。トラウマも頑張って克服して、子育てにしっかりと関わらさせて頂きます、ハイ」
「子育て? 何を言ってるのかしら。私は貴方の名前をマロニーって呼ぶ約束の事を言ってたんだけど?」
「へ? え? あ~いや、それはその、あれだ、何というか……」
「クスッ、冗談よ。あれだけ子供欲しいって貴方に迫ったの、私だもの。忘れる訳ないじゃない」
「……なんか今の、キャンティさんに似てたぜ、フェット」
「ふふふ。将来の夢は、男を手玉に取る悪女ですのよん♪」
「「絶対に無理」」
その時、俺のツッコミとハモるように、後ろの建物の物陰から声が聞こえた。
出たな、出歯亀ストーカーめ。
「やっぱり尾行してたか、クラムチャウダー。とっとと出てこい」
「ありゃ~勘付いてましたか。旦那も人が悪いでゲスなぁ」
「人じゃなくてエルフだよ、俺は。それより何だよ、その言葉使いは?」
「いや何となく」
「相変わらずノリだけで生きてるヤツだ」
「人生楽しく生きないと損でゲスよ、旦那。ゲスススス!」
なんかツッコむ気力が無くなってきた。
コイツの口調はスルーだスルー。
「まぁいいや。折角だから、記念に三人で写ってる写真撮ってくれ。ほら、これ俺のスマホ」
「いや、何を言ってるんですかマロニーさん。この番外編が終わったら、綺麗サッパリココでの事は忘れて本編に戻らないと駄目じゃないですか。当然写真も無しですよ。本編での時系列ガン無視で集まってるんだから、矛盾が発生するでしょ」
「!? そ、そうかしまった! うおおお! アイラじゃないけど本編に戻りたくなくなってきたあああああ!!」
思わず地面にガックリと崩れ落ちて、四つ這いになる俺。
その俺の頭を、フェットと紅乙女の二人が「よしよし」と言いながらポンポンと優しく撫でてくれる。シクシク。
「あらら、そこまで落ち込まなくても。仕方ないですねえ、インスタの24時間で消えるヤツに上げときますよ」
「そ、そうか、その手があったか!」
「あ、クラムさん私にも後でインスタのID教えてください」
「了解りょーかい。はいそれじゃみんなこっち向いてくださいね~。はいチーズ!」
パシャ!
「そういえば、元旦の決意をするのにこんな色気のない所で良かったんですか? まあ私もココは割としっくり来る場所ですけど」
写メしてくれた後で、クラムチャウダーが俺にそう聞いてきた。
ちなみにココは初日の出が拝める山の上の展望台だ。
俺はそれに軽く頭を掻いて答える。
「アメリカの教会も、日本の神社もお寺も、なんかいまいちピンとこないからなぁ」
そう俺が言うとフェットも同意した。
「あ、それ私もそう思います。……というか、そもそも異世界組の私達にこの世界の神さまがご利益くれるのかしら?」
「それだ」
「いや個人に特定して恵みを与えるなんて、器用な事は出来ませんよ。少なくとも私達は」
俺とフェットのやり取りに、そう割り込む紅乙女。
「そうか、お前も一部を切り取った存在とはいえ、元神様だもんな」
「「え? そうなの!?」」
「あれ、言って無かったか?」
「奈良県吉野の山々に宿し存在で、昔は人々に神様として祀られていました。今は紅乙女と名付けて頂き、御主人様にお使えする光栄に浴させて頂いております」
改めて二人にお辞儀をする紅乙女。
二人は呆けたように紅乙女を眺める。
お、なんかこの二人のこんな姿を見るのは珍しいな。
なんかしてやったりな嬉しさがあるぜ。
そして昇ってくる朝日。
俺とフェットは太陽に向かって祈る。
俺は右手と左手を胸の前で組んで。
フェットは右手と左手の掌を胸の前で合わせて。
こういう所に、お互いに飛ばされた先の風習の違いが出てるな、面白いモンだ。
俺とフェットは太陽に向かってこれからの目標を口に出し合う。
お願いではない、これは誓いだ。
「どうかシ──マロニーが、この人が無事に戻って来れますように。それまで私は生活基盤を安定させます」
「誓おう。必ずミトラを討ち果たし、必ず君の元へ、フェットの元へ帰ってくると。そして帰ったなら、改めてこちらの世界で君と結婚式をあげよう、フェット」
そう誓った俺のセリフを聞いて、クラムチャウダーが渋い顔で物申してきた。
「え~? マロニーさんのそのセリフ、ちょっとマズいんじゃないでしょうか。それ、死亡フラグですよ(汗)」
「いや、そりゃ作り話のお約束だろ? 現実にはこうやって具体的に口に出した方が、イメージがはっきりして良いんだぜ?」
「……マロニーさんが相手にしているミトラさんは、その“作り話の主人公のような”敵なんじゃないんですか?」
いつになく真面目な顔で、そう俺に告げるクラムチャウダー。
俺は思わずハッとなった。
「そうか、そうだな。こういう所から万難を排していくべきだな。すまない、ありがとうクラムチャウダー」
そして改めて俺は太陽に向かい叫んだ。
「そうだな、考えるのは全て終わってからだ。ミトラ、俺は決してお前などに負けない! 必ず勝つ!!」
「私も、本編に描写されてない陰の時間で貴方の勝利を祈ってます。頑張ってね!」
「ああ!」
「はい、それじゃ皆さん息抜きはここまでです。年末年始の番外編の事は、綺麗サッパリ記憶から消してまた頑張ってください! 本編に戻るまでが番外編ですよ!」
「学校の遠足かよ、クラムチャウダー。バナナはおやつに入るのか?」
「私の独断で入れません! もちろんウイスキーなんて持っての他です!!」
「ちぇっ。……ああそうだ、本編に戻りたくないってグズってる、二日酔いのアイラを何とか宥めなきゃな。はぁ、気が重いぜ」
「頑張ってね、あなた!」
「うん、ボク頑張っちゃう!」
「御主人様……」
そうジト目で呆れたように見つめる紅乙女を、俺は思いっきりガン無視した。
「明けましておめでとうございます」
早朝の薄暗い時間、駐車場に止めた自動車から降りた俺達は、改めてそう挨拶をした。
元旦だからか、こんな時間でもかなり人間が溢れているな。
「うーん、しかしなんだ。異世界とはいえ、やはり所変われば風習も変わるんだなあ」
「そうねえ私もこっちの世界は、ここ日本の関西しか今のところ知らないんだけど」
そして俺は改めてフェットを見つめる。
フェットも少し含羞んだ表情で見つめてくれる。
「似合ってるよ、フェット。直接見るのは初めてだけど、綺麗な服だよなぁ。えっと……ゲイシャスーツっていうんだっけ?」
「キモノっていうのよ。日本の民族衣装らしいわ」
「民族衣装……民族固有の衣装の他に、世界共通のフォーマルな服装が大まかには定まってるってのがスゲエよな、この世界」
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「んじゃそろそろ行こうか。おいで紅乙女」
俺の後ろから、小さな子供姿の紅乙女が現れる。今日は女の子の形をとったようだ。フェットのたっての願いで。
そしてバッチリ女の子向けのキモノを着込んでおめかししている。
「あら、貴女もよく似合っているわよ、紅乙女ちゃん」
「有り難うございます、フェットチーネ様。奥方様も綺麗な黒髪をされているから、良くお映えになっていますよ」
「なんだか固いわねえ。せっかく親子のつもりで来たんだから、もうちょっと気楽にしなさいな」
「はい、わかりましたお母さん!」
ズキュウウーーン!
「あふっ!」
紅乙女のセリフを聞いた途端、胸を押さえて蹲るフェット。
え? なに? フェットって何か持病持ってたっけ!?
「だ、大丈夫かフェット!?」
「だ、大丈夫大丈夫。そ、それより紅乙女ちゃん、もう一度今のセリフ言ってみて」
「え? お……お母さん……?」
ズッキュウウウウーーーーン!!
「はふんっ!!」
あ、もしかして紅乙女の「お母さん」に反応してんのか。
さすがは元“神”の一部! 俺にできない事を平然とやってのける! そこに痺れる憧れるゥ!
「はぁはぁはぁ、な、なんて素敵な響きなのかしら。恐るべし子供の可愛さ」
「そ、そうだな」
「あなた! ……マロニー!」
ガシッ。俺の腕をすごい力でガッチリとホールドするフェット。
な、なんか獲物を捕食するみたいな笑顔だなぁ。
「私、前回の忘年会での約束、覚えてるから!」
「え? あ、は……はい、もちろんデス。頑張りますです。トラウマも頑張って克服して、子育てにしっかりと関わらさせて頂きます、ハイ」
「子育て? 何を言ってるのかしら。私は貴方の名前をマロニーって呼ぶ約束の事を言ってたんだけど?」
「へ? え? あ~いや、それはその、あれだ、何というか……」
「クスッ、冗談よ。あれだけ子供欲しいって貴方に迫ったの、私だもの。忘れる訳ないじゃない」
「……なんか今の、キャンティさんに似てたぜ、フェット」
「ふふふ。将来の夢は、男を手玉に取る悪女ですのよん♪」
「「絶対に無理」」
その時、俺のツッコミとハモるように、後ろの建物の物陰から声が聞こえた。
出たな、出歯亀ストーカーめ。
「やっぱり尾行してたか、クラムチャウダー。とっとと出てこい」
「ありゃ~勘付いてましたか。旦那も人が悪いでゲスなぁ」
「人じゃなくてエルフだよ、俺は。それより何だよ、その言葉使いは?」
「いや何となく」
「相変わらずノリだけで生きてるヤツだ」
「人生楽しく生きないと損でゲスよ、旦那。ゲスススス!」
なんかツッコむ気力が無くなってきた。
コイツの口調はスルーだスルー。
「まぁいいや。折角だから、記念に三人で写ってる写真撮ってくれ。ほら、これ俺のスマホ」
「いや、何を言ってるんですかマロニーさん。この番外編が終わったら、綺麗サッパリココでの事は忘れて本編に戻らないと駄目じゃないですか。当然写真も無しですよ。本編での時系列ガン無視で集まってるんだから、矛盾が発生するでしょ」
「!? そ、そうかしまった! うおおお! アイラじゃないけど本編に戻りたくなくなってきたあああああ!!」
思わず地面にガックリと崩れ落ちて、四つ這いになる俺。
その俺の頭を、フェットと紅乙女の二人が「よしよし」と言いながらポンポンと優しく撫でてくれる。シクシク。
「あらら、そこまで落ち込まなくても。仕方ないですねえ、インスタの24時間で消えるヤツに上げときますよ」
「そ、そうか、その手があったか!」
「あ、クラムさん私にも後でインスタのID教えてください」
「了解りょーかい。はいそれじゃみんなこっち向いてくださいね~。はいチーズ!」
パシャ!
「そういえば、元旦の決意をするのにこんな色気のない所で良かったんですか? まあ私もココは割としっくり来る場所ですけど」
写メしてくれた後で、クラムチャウダーが俺にそう聞いてきた。
ちなみにココは初日の出が拝める山の上の展望台だ。
俺はそれに軽く頭を掻いて答える。
「アメリカの教会も、日本の神社もお寺も、なんかいまいちピンとこないからなぁ」
そう俺が言うとフェットも同意した。
「あ、それ私もそう思います。……というか、そもそも異世界組の私達にこの世界の神さまがご利益くれるのかしら?」
「それだ」
「いや個人に特定して恵みを与えるなんて、器用な事は出来ませんよ。少なくとも私達は」
俺とフェットのやり取りに、そう割り込む紅乙女。
「そうか、お前も一部を切り取った存在とはいえ、元神様だもんな」
「「え? そうなの!?」」
「あれ、言って無かったか?」
「奈良県吉野の山々に宿し存在で、昔は人々に神様として祀られていました。今は紅乙女と名付けて頂き、御主人様にお使えする光栄に浴させて頂いております」
改めて二人にお辞儀をする紅乙女。
二人は呆けたように紅乙女を眺める。
お、なんかこの二人のこんな姿を見るのは珍しいな。
なんかしてやったりな嬉しさがあるぜ。
そして昇ってくる朝日。
俺とフェットは太陽に向かって祈る。
俺は右手と左手を胸の前で組んで。
フェットは右手と左手の掌を胸の前で合わせて。
こういう所に、お互いに飛ばされた先の風習の違いが出てるな、面白いモンだ。
俺とフェットは太陽に向かってこれからの目標を口に出し合う。
お願いではない、これは誓いだ。
「どうかシ──マロニーが、この人が無事に戻って来れますように。それまで私は生活基盤を安定させます」
「誓おう。必ずミトラを討ち果たし、必ず君の元へ、フェットの元へ帰ってくると。そして帰ったなら、改めてこちらの世界で君と結婚式をあげよう、フェット」
そう誓った俺のセリフを聞いて、クラムチャウダーが渋い顔で物申してきた。
「え~? マロニーさんのそのセリフ、ちょっとマズいんじゃないでしょうか。それ、死亡フラグですよ(汗)」
「いや、そりゃ作り話のお約束だろ? 現実にはこうやって具体的に口に出した方が、イメージがはっきりして良いんだぜ?」
「……マロニーさんが相手にしているミトラさんは、その“作り話の主人公のような”敵なんじゃないんですか?」
いつになく真面目な顔で、そう俺に告げるクラムチャウダー。
俺は思わずハッとなった。
「そうか、そうだな。こういう所から万難を排していくべきだな。すまない、ありがとうクラムチャウダー」
そして改めて俺は太陽に向かい叫んだ。
「そうだな、考えるのは全て終わってからだ。ミトラ、俺は決してお前などに負けない! 必ず勝つ!!」
「私も、本編に描写されてない陰の時間で貴方の勝利を祈ってます。頑張ってね!」
「ああ!」
「はい、それじゃ皆さん息抜きはここまでです。年末年始の番外編の事は、綺麗サッパリ記憶から消してまた頑張ってください! 本編に戻るまでが番外編ですよ!」
「学校の遠足かよ、クラムチャウダー。バナナはおやつに入るのか?」
「私の独断で入れません! もちろんウイスキーなんて持っての他です!!」
「ちぇっ。……ああそうだ、本編に戻りたくないってグズってる、二日酔いのアイラを何とか宥めなきゃな。はぁ、気が重いぜ」
「頑張ってね、あなた!」
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