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第四章 通りすがりのダーティーエルフ編
第79話 ─ 深い眠りにつくのは不敵に生きた時だけ ─その1…ある男の独白
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「だからそんな風に苦しむぐらいなら、他人なんか気にするなって言っただろ? 他人を気にして何の得があるんだよ」
突然入り口から声を掛けられた。
この声は……。
クエルボ達は驚いたように、入り口に顔を向ける。
そして俺達は、ゆっくりと。
「本当、俺の行く先々に現れて邪魔をしてくるよなあ、兄貴。“主人公”である俺様と敵対する悪行重ねてたら、ロクな死に方しないぜ」
振り向いた先には、やはりミトラが、俺と魂の繋がらぬ弟がそこに立っていた。
気が付けば外は黄昏の燈色に染まり、地上の木々は墨を流したように黒々と塗りつぶされている。
ミトラは相変わらず下卑た笑みを浮かべている。四、五人ほど女の取り巻きを連れながら。
彼女達も見た目は可愛らしい少女に見えるが、見た目通りの存在ではあるまい。
エヴァンも俺と同じものを感じているのか、緊張感を漂わせる。
クエルボが驚いたようにミトラに話す。
「ドミグラスさん。なぜこんな田舎へ……」
「俺のパートナーの方が表看板になっちまったからな。俺が裏方に回るしかねーんだよ。……というのは建前で、めぼしい奴がいないか時々あちこち回って、良い奴がいたらスカウトしてる」
「おお!」
ドミグラスとはミトラの偽名か? 一応、そういった事に頭を巡らせるだけの知恵はついたか。
クエルボ達はスカウトと聞いて色めき立った。この境遇から抜け出せるかもしれないチャンスが、突然やってきたように思えたのだろう。手下の男達も、隠しようもない喜びを顔に浮かべて、お互いに何かを喋り合っている。
だから取り巻きの女達の不穏な空気を見落としているのか。彼等を迎え入れることを歓迎しない空気を。そしてミトラの顔に浮かぶ、彼等を小馬鹿にし切ったような嘲笑を。
「ああそれと、今までの諸君らの働きに報いるために、今回は特別に報酬も用意してある」
「おお、有難うございます! 何という慈悲深い方だ。今までの苦労がその言葉だけで報われます」
来る! 俺とエヴァンは視線を合わせて頷き合う。
一方、クエルボ達は感極まったように涙を流してその場に蹲っている。
ヒトは、自分の苦しみ・悩み・苦労・努力といったものを他人が知ってくれ、あまつさえ認めて褒め称えられる事にとても弱い。
俺の時は、それはフェットだった。だが彼女は私心無く俺を認めてくれた。
だがこの場ではその相手は、他人を利用することしか考えないミトラだ。それを知る俺達から見たら、言葉の裏の隠しきれない悪意が溢れ出しているのが分る。コイツは必要も無く他人を褒めたりなどしない。必ず黒い裏の意図が隠されている。
「では後の詳しいことは彼女から話してもらうよ。……スーズ!」
ミトラに言われて、取り巻きの少女の一人が前に出る。幼い顔立ちの黒髪の少女だ。
ミトラにスーズと呼ばれた少女は、フンスと鼻息をつくと得意気な顔で話し出す。目を閉じて、右手の人差し指を上に立てて。
「はい、それではミト……ドミグラス様から賜っている、とっても素敵なご褒美と新しい御命令を述べさせて頂きますわ」
期待に満ちた目でミトラ達を見つめるクエルボとその手下。
俺とエヴァンは腰を落として、いつでも動けるように構える。
スーズと呼ばれた少女は得意満面の笑みで、クエルボ達に続きを話し始めた。
「ええと……確か……えー、この森の地下における二メートル四方立方体分の土中面積を、恒久的に貴方達に与える、とのことです!」
「は……?」
「新たな命令についてですが、当該地域における樹木への滋養分供給行動とのことですよ!」
「そ……それは、それは一体どういう事ですか!?」
「あら、ちょっと分かり辛かったかしら? お馬鹿な貴方達にも分かり易く言うとね」
俺とエヴァンはその場からお互い逆方向へ横っ飛びに離れ、クエルボの手下に飛び掛かると、手に持った拳銃を奪う。
不意を突かれた手下はアッサリと銃を手放した。
スーズは表情を凶悪なものに豹変させて、嘲笑とともに叫ぶ。
「アンタ達はもう必要ないの。用が済んだら、ちゃっちゃとおっ死ね貧乏人!!」
その言葉と同時に、ミトラの取り巻き少女はその華憐な見た目を捨て去り、人外の魔物の本性を現した。
*****
少女達は人型のシルエットを崩して襲いかかる。
ある者は背に翼を生やして天井に飛び上がり、ある者は下半身が蛇のようになりながら素早く地を這いまわる。
全身に毛が生えて獣のようになった者もいる。人狼ほど獣じみた外見ではない、女性らしさを多分に残した獣化。
俺達二人は迎撃態勢を取るが、彼女達は俺達を無視してクエルボの手下へ襲いかかった。
先に倒しやすい相手から片付けようという腹か。
ミトラはニヤニヤと笑いながら腕組みをして立っている。が、この場にいる男たちの何人がそれを分かるだろう。
入口に立っているから逆光状態だし、それに加えて夕闇が濃くなってきている。夜目の効くエルフの俺だから判別できているに過ぎない。
そう、夕闇だ。
早めに片を付けないと俺以外の誰も視界が効かなくなる。
ここに電気が通っていたとしても、誰も灯りをつける余裕など無いだろう。
彼等に死刑宣告をしたスーズと呼ばれた少女は、姿を変えずにミトラの側に立っていた。
だが、やがて髪を全て後ろに流してオールバックにすると頭の後ろでくくり、眼鏡をかける。その後どこかから取り出したマスケット銃を手に取った。どうやら背中に背負っていたようだ。
スーズはマスケット銃を構えると、ぼそりと呟く。まるで歌うかのように。
「私は魔弾の猟師。有象無象の区別なく私の魔弾は逃しはしないわ」
言い終わるとスーズはマスケット銃を発砲。
その弾はクエルボの手下を2~3人貫いたかと思うと、カーブを描いて再び別の手下たちを貫く。
役目を終えた弾はスーズの手元に戻り、彼女は弾を左手で掴み取った。
……魔弾、ね。
「エヴァン、いけるか?」
「まだ何とか」
「今の魔弾女をやれ。援護する」
「あいよ」
スーズに駆け出すエヴァン。
天井を漂っていた羽の生えた女が、手に持った銃でエヴァンを攻撃しようとする。
だが俺がその女に発砲すると、女はひらりと躱した。
弾を躱した女が不敵にニヤリと俺に笑った瞬間、俺が撃った弾がどこかに跳弾した音が響いて、空飛ぶ彼女の背中に当たった。
驚愕の表情を浮かべて墜落する女。
落下先に目がけて俺はさらに数発撃ちこむ。
脳天と心臓に狙い違わずぶち当たると、彼女は地面に叩きつけられそのまま動かなくなった。
「セセリ!!」
魔弾女のスーズが悲鳴をあげる。
俺はそんな彼女を気にする事無く、続けて周囲に弾を撃つ。
撃った弾は全て魔物女達に当たった。躱した者も、跳弾させて当てた。
その場に動くものが、早くもいなくなる。
そしてスーズに辿り着いたエヴァンが、彼女の腹を思い切り殴りつけた。
胃の中のモノを吐き出し、その場に蹲るスーズ。
以前なら女性の姿をした者への攻撃が鈍くなっていたエヴァンだが、こういった面でも成長著しい。
俺は蹲ったままのスーズを見下ろした後、入口に立ったミトラに向き直る。
「そちらが魔弾の猟師なら、こちらはエルフの猟師だ。飛び道具合戦なら負けねえぞ」
奴に向かって睨みつけると、俺はそう言い放った。
突然入り口から声を掛けられた。
この声は……。
クエルボ達は驚いたように、入り口に顔を向ける。
そして俺達は、ゆっくりと。
「本当、俺の行く先々に現れて邪魔をしてくるよなあ、兄貴。“主人公”である俺様と敵対する悪行重ねてたら、ロクな死に方しないぜ」
振り向いた先には、やはりミトラが、俺と魂の繋がらぬ弟がそこに立っていた。
気が付けば外は黄昏の燈色に染まり、地上の木々は墨を流したように黒々と塗りつぶされている。
ミトラは相変わらず下卑た笑みを浮かべている。四、五人ほど女の取り巻きを連れながら。
彼女達も見た目は可愛らしい少女に見えるが、見た目通りの存在ではあるまい。
エヴァンも俺と同じものを感じているのか、緊張感を漂わせる。
クエルボが驚いたようにミトラに話す。
「ドミグラスさん。なぜこんな田舎へ……」
「俺のパートナーの方が表看板になっちまったからな。俺が裏方に回るしかねーんだよ。……というのは建前で、めぼしい奴がいないか時々あちこち回って、良い奴がいたらスカウトしてる」
「おお!」
ドミグラスとはミトラの偽名か? 一応、そういった事に頭を巡らせるだけの知恵はついたか。
クエルボ達はスカウトと聞いて色めき立った。この境遇から抜け出せるかもしれないチャンスが、突然やってきたように思えたのだろう。手下の男達も、隠しようもない喜びを顔に浮かべて、お互いに何かを喋り合っている。
だから取り巻きの女達の不穏な空気を見落としているのか。彼等を迎え入れることを歓迎しない空気を。そしてミトラの顔に浮かぶ、彼等を小馬鹿にし切ったような嘲笑を。
「ああそれと、今までの諸君らの働きに報いるために、今回は特別に報酬も用意してある」
「おお、有難うございます! 何という慈悲深い方だ。今までの苦労がその言葉だけで報われます」
来る! 俺とエヴァンは視線を合わせて頷き合う。
一方、クエルボ達は感極まったように涙を流してその場に蹲っている。
ヒトは、自分の苦しみ・悩み・苦労・努力といったものを他人が知ってくれ、あまつさえ認めて褒め称えられる事にとても弱い。
俺の時は、それはフェットだった。だが彼女は私心無く俺を認めてくれた。
だがこの場ではその相手は、他人を利用することしか考えないミトラだ。それを知る俺達から見たら、言葉の裏の隠しきれない悪意が溢れ出しているのが分る。コイツは必要も無く他人を褒めたりなどしない。必ず黒い裏の意図が隠されている。
「では後の詳しいことは彼女から話してもらうよ。……スーズ!」
ミトラに言われて、取り巻きの少女の一人が前に出る。幼い顔立ちの黒髪の少女だ。
ミトラにスーズと呼ばれた少女は、フンスと鼻息をつくと得意気な顔で話し出す。目を閉じて、右手の人差し指を上に立てて。
「はい、それではミト……ドミグラス様から賜っている、とっても素敵なご褒美と新しい御命令を述べさせて頂きますわ」
期待に満ちた目でミトラ達を見つめるクエルボとその手下。
俺とエヴァンは腰を落として、いつでも動けるように構える。
スーズと呼ばれた少女は得意満面の笑みで、クエルボ達に続きを話し始めた。
「ええと……確か……えー、この森の地下における二メートル四方立方体分の土中面積を、恒久的に貴方達に与える、とのことです!」
「は……?」
「新たな命令についてですが、当該地域における樹木への滋養分供給行動とのことですよ!」
「そ……それは、それは一体どういう事ですか!?」
「あら、ちょっと分かり辛かったかしら? お馬鹿な貴方達にも分かり易く言うとね」
俺とエヴァンはその場からお互い逆方向へ横っ飛びに離れ、クエルボの手下に飛び掛かると、手に持った拳銃を奪う。
不意を突かれた手下はアッサリと銃を手放した。
スーズは表情を凶悪なものに豹変させて、嘲笑とともに叫ぶ。
「アンタ達はもう必要ないの。用が済んだら、ちゃっちゃとおっ死ね貧乏人!!」
その言葉と同時に、ミトラの取り巻き少女はその華憐な見た目を捨て去り、人外の魔物の本性を現した。
*****
少女達は人型のシルエットを崩して襲いかかる。
ある者は背に翼を生やして天井に飛び上がり、ある者は下半身が蛇のようになりながら素早く地を這いまわる。
全身に毛が生えて獣のようになった者もいる。人狼ほど獣じみた外見ではない、女性らしさを多分に残した獣化。
俺達二人は迎撃態勢を取るが、彼女達は俺達を無視してクエルボの手下へ襲いかかった。
先に倒しやすい相手から片付けようという腹か。
ミトラはニヤニヤと笑いながら腕組みをして立っている。が、この場にいる男たちの何人がそれを分かるだろう。
入口に立っているから逆光状態だし、それに加えて夕闇が濃くなってきている。夜目の効くエルフの俺だから判別できているに過ぎない。
そう、夕闇だ。
早めに片を付けないと俺以外の誰も視界が効かなくなる。
ここに電気が通っていたとしても、誰も灯りをつける余裕など無いだろう。
彼等に死刑宣告をしたスーズと呼ばれた少女は、姿を変えずにミトラの側に立っていた。
だが、やがて髪を全て後ろに流してオールバックにすると頭の後ろでくくり、眼鏡をかける。その後どこかから取り出したマスケット銃を手に取った。どうやら背中に背負っていたようだ。
スーズはマスケット銃を構えると、ぼそりと呟く。まるで歌うかのように。
「私は魔弾の猟師。有象無象の区別なく私の魔弾は逃しはしないわ」
言い終わるとスーズはマスケット銃を発砲。
その弾はクエルボの手下を2~3人貫いたかと思うと、カーブを描いて再び別の手下たちを貫く。
役目を終えた弾はスーズの手元に戻り、彼女は弾を左手で掴み取った。
……魔弾、ね。
「エヴァン、いけるか?」
「まだ何とか」
「今の魔弾女をやれ。援護する」
「あいよ」
スーズに駆け出すエヴァン。
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だが俺がその女に発砲すると、女はひらりと躱した。
弾を躱した女が不敵にニヤリと俺に笑った瞬間、俺が撃った弾がどこかに跳弾した音が響いて、空飛ぶ彼女の背中に当たった。
驚愕の表情を浮かべて墜落する女。
落下先に目がけて俺はさらに数発撃ちこむ。
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「セセリ!!」
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撃った弾は全て魔物女達に当たった。躱した者も、跳弾させて当てた。
その場に動くものが、早くもいなくなる。
そしてスーズに辿り着いたエヴァンが、彼女の腹を思い切り殴りつけた。
胃の中のモノを吐き出し、その場に蹲るスーズ。
以前なら女性の姿をした者への攻撃が鈍くなっていたエヴァンだが、こういった面でも成長著しい。
俺は蹲ったままのスーズを見下ろした後、入口に立ったミトラに向き直る。
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