ダーティーホワイトエルブズ ~魔物退治してた現代転移の苦労人エルフ、“主人公”への復讐を決意する~

きさまる

文字の大きさ
81 / 128
第四章 通りすがりのダーティーエルフ編

第80話 ─ 深い眠りにつくのは不敵に生きた時だけ ─その2…ある男の独白

しおりを挟む
「なに調子に乗ってやがんだテメエ。魔法の使えないカスの分際でよ。そんな程度で勝ったつもりか」

 ミトラは腕組みを解こうとはせず、小馬鹿にした顔でそう言う。
 俺はそんな弟の態度など一切気にせず、躊躇ちゅうちょなくミトラに拳銃を向けると発砲。
 
 ガギン!

 そんな感触と共にトリガーが引けなくなった。動作不良ジャム!?
 エヴァンもミトラに向けて拳銃を向けたが、奴も動作不良を起こしたらしく、訝し気に拳銃を覗き込んでいる。
 俺は拳銃を捨てるとすぐさま墜落した羽根女の元へ向かい、コイツが手に持っていた銃を奪い取った。エヴァンも、クエルボの手下の死体から拳銃を剥ぎ取る。

 入口から一歩も動かず、腕組みも解かず、ニヤつく表情を変えていないミトラに向かって再び発砲。
 だが、二人とも拳銃が動作不良ジャムを起こすのも、再び繰り返される。
 なんだコレは!?

「“主人公”様に向けて撃たれた拳銃が、奇跡的にジャムって撃てなくなり、九死に一生を得る。なかなかドラマチックだねえ」

 ミトラがのんびりとした調子で言い放つ。“主人公属性”の仕業しわざだというのか!?
 チ、三度目の正直だ!
 エヴァンと俺が、三たび銃を持ち換えてミトラに発砲しても、結果は同じだった。動作不良を起こして、地面を転がる拳銃が増えただけ。
 ミトラが僅かに首をかしげ、嘲笑混じりに、おどけて俺達二人に言った。

「ところでよ、お前ら俺ばかりにかかり切りで良いのか? セセリ達があれしきの事で倒せたと思ってるなら、あなどられたモンだ」

 その言葉に振り向くと、撃ち抜いたはずの魔物女どもが、幽鬼のように立ち上がっているのが見える。
 彼女達の目には赤い光が宿り、口元から覗くは大きな犬歯。
 起き上がった彼女たちは、まだ息があるクエルボの手下に殺到した。男達から断末魔の悲鳴があがると、彼女たちが血を啜る音が周囲に鳴り響く。
 その光景の奥には、クエルボとアプルトン、モルガンの三人が固まって怯えている。
 ミトラは勝ち誇ったように叫んだ。

「俺のオンナになっている吸血鬼バンパイアは、タリアだけじゃねえのさ! 吸血鬼の能力を得て、不死者になった彼女達の本領が発揮されるのは、これからだぜ!」

 口元を血にまみれさせた彼女達がこちらに向き直る。
 ミトラは俺達に背を向けると右手を上げ、手を小さく振りながら言い捨てる。

「後はおめーらだけで余裕だな。任せたぜ、セセリ! ほら行くぞスーズ。おめーはまだ不死者になってねえからな」

「お任せください、ミトラ様。夜は不死者の時間。たっぷりと恐ろしさを思い知らせてやりましょう」

 そう言った彼女たちの言葉を聞きながら、倉庫から出ていくミトラ。
 くそっ今なら、後ろから襲いかかれるのに! だがそんな事をしたら、俺もこの魔物女達に後ろから襲われるだろう。

 体力が大幅に削られるから紅乙女の使用を控えていたが、そんな事を言ってる余裕がなくなってきたか。
 俺はエヴァンに叫んで指示を出す。

「エヴァン、奥の三人を連れてここから脱出しろ! 殿しんがりは俺が持つ!!」

 それを聞いた瞬間、エヴァンが奥に駆け出す。
 魔物女達はエヴァンに襲いかかろうとしたが、別のクエルボの手下が持っていた拳銃を手にした俺が、銃を撃って牽制けんせい
 彼女達はさっきの俺の攻撃を思い出したのか、俺を先に始末した方が良いと判断したようだ。

 一斉に襲いかかる魔物女の群れ。
 俺はエヴァンとその幼なじみ達が、裏口から退避したのを確認。
 そして叫んだ。

「いくぞ紅乙女!」

「はいご主人様!」

 振り上げた手の中に紅乙女の刀身が現れる。
 俺は、後先考えずにありったけ気を込めて神気を増幅させる。コイツ等四人をまとめて始末するんだ。取りこぼしは許されないぞ。

 そして俺は紅乙女を振るう。前方の地面に向けて。
 今まで見た中で、最もまばゆい輝きを伴う神気の爆発が、俺を中心とした放射状に一気に広がる。
 同時に、身体の奥底から体力が削られていく感覚。足から力が抜けて、まともに立つことが難しい。
 待て、まだだ。もう少しだけってくれ俺の足!

 目を焼き付かせるような輝きに飲み込まれた魔物女四人が、驚愕と憎悪の表情を浮かべながら消滅していく。
 消え去る直前、彼女達の口元が動いて何かを叫んでいた気がした。
 それは助けを求める声か、呪詛か、後悔か。

 神気の光が消えた後には、魔物女はおろか倉庫までもが綺麗さっぱり消滅していた。
 かなり離れた場所に退避していたエヴァンと周りの三人は、呆然と消滅した倉庫跡を眺める。

 だが俺には、彼等の様子を心配する余裕など無い。
 紅乙女を元の空間に戻すと、力が入らず膝が笑い始めた足を誤魔化し振り返り、ミトラに向かって駆け出した。

“さすがです、ご主人様。普段から、地道に真面目に気を練り込んでいるからこその、この威力です”

 紅乙女がそう俺に思考を滑り込ませる。
 だが俺は、それに返答の思考を浮かべる余裕すら無い。
 爆発音に驚いたミトラがこちらへ振り向いた時には、俺はもうヤツの目の前まで近寄っていた。

 そばにいたスーズが、懐にナイフを装着しているのは確認済みだ。
 俺は、彼女に体当たりをすると同時にナイフを奪う。ナイフを手に取ると、そのまま彼女を地面に突き飛ばした。

「な……!? テメエ、あいつ等をどうやって!!」

 まさかの俺の肉迫に、驚愕の表情が消せないミトラ。
 だが知ったことか。
 俺は胸元にナイフを構えて、ミトラに身体ごと思い切りぶつかっていった。
 ヤツの身体に食い込むナイフ。そのナイフが心臓に届いた感触。
 最後の力で、刺したナイフを捻って抉る。
 その時点で俺は、体力の限界に達したようで、その場にへたり込んでしまった。
 霞む視界に、ミトラの左胸心臓部にナイフがしっかり突き立っているのを確認。

「やった!」

 いつの間にか近くまで来ていたエヴァンが叫ぶ。
 胸元のナイフを、信じられないといった表情で見つめるミトラ。 起き上がったスーズも悲鳴を上げてミトラに駆け寄る。

「ミトラ様!? ちくしょう、昨日中東で“精霊”の炎を使い切った後じゃなければ、お前達など……!」

 だがそのスーズの肩に置かれる手があった。
 俺もスーズも、その場に居た全員がその手の主を見る。

「ふう……し、死ぬかと思ったぜ。だ……大丈夫だスーズ。心臓はとりあえず逸れてる。けど流石にヤベえな……。歩くとえらい事になりそうだ」

 馬鹿な!? 足元が覚束おぼつかなかったとはいえ、心臓を外す事などあるものか!!

「悪い、スーズ頼むわ。……へへへ、少年漫画ではよくある事だよな。主人公が致命傷を受けたと思ったら、次のページや次の話になると、実は見間違いでズレたところに傷を受けてましたってな」

 一体何を言っているのか理解出来ない。だが、何というズルい“能力チート”なのか。
 俺はもう一歩も動けない。
 今ミトラとこの魔弾女スーズに襲いかかられたら、万事は休する。

 スーズは、服をビリビリと破かせながら身体を変化へんげさせた。人間の男よりも、一回りも二回りも大きな体格の黒豹に。
 豹の一族キャットピープル! 話に聞いたことがある。人知を超えた力を持つ豹が人間に化けて、人間と交わる物語だ。
 だがミトラは、スーズが変化した黒豹の背に倒れるようにうつ伏せに掴まる。
 
 黒豹スーズは俺に歯を剥き出し、凶暴な威嚇の表情と唸り声を出すと、サッとミトラを背に乗せたまま何処かへ走り去った。


*****


 誰る者もいない、夜更けの月明かり。
 夢見たつわもの共が野望ゆめの跡。
 森と呼ぶには心許こころもとない藪の中。
 夢破れた男と女がうずくまる。

「撃てよエヴァン」

 銃を片手に立ち尽くすエヴァンに、クエルボはそう告げる。
 アプルトンとモルガンは、ノロノロと声を発した男を見た。感情のこもらない、死んだ魚の目で。
 ようやく身体を起こすだけの体力が回復した俺は、フラフラと立ちながらエヴァンの後ろで様子を見守るのみ。

「撃つ事なんて出来ねえよ、クエルボ

「この町での鉄則を忘れたのか。裏切り者は絶対に許すな」

「死んで逃げるなんて最低だぜ兄貴」

「お前はもうこの町の人間じゃねえ。俺達とは無関係の男だ。兄貴とか知らねえよ」

「兄貴……また一から出直して……」

 言いかけたエヴァンが黙る。ミトラが来る前に彼が話した事を思い出したのだろう。
 アプルトンとモルガンも、口を何度も開けては何も言い出せずに黙り込む。
 やがてクエルボが溜め息をついてエヴァンに話す。俺が聞いた中では一番優しげな声だった。

「もう俺達に囚われるな、エヴァン。俺達は、俺は、人としてやってはいけない事をした。だから、罰を受けたのさ。だから……」

 そう、だから俺は次のクエルボの行動に反応出来なかった。何も。
 クエルボは、素早く懐からリボルバー拳銃を取り出し、エヴァンに向ける。殺気を込めて。

 対するエヴァンの行動は、反射的だったろう。咄嗟にエヴァンは、クエルボの胸に銃弾を撃ち込んでいた。

 撃ってから自分の行為に気がついたエヴァンが慌ててクエルボに駆け寄る。
 アプルトンとモルガンも。

「兄貴! ああ、俺ッチは何て事を!!」

「これで良い……。俺はもう……疲れた……」

 クエルボが手に持つリボルバーには、もう弾は入っていなかった。
 クエルボが満足そうに薄く笑ったと見えたのは、俺達の傲慢だろうか。

「兄貴! 兄貴! おれ……俺、いつかこの町を良くする為に何かやるよ、絶対!! だから今まで、ココに来れなくてごめんよ兄貴……」

 そう言ってクエルボに縋り付くエヴァン。
 だが、俺が辿ったかもしれない可能性だった男、クエルボは既に事切れていた。


 俺はエヴァンにかける言葉が見つからず、夜空を見上げて月を見る。
 夜空に鎮座する無慈悲な夜の女王は、何も俺に啓示を与えず、月光を降り注がせるだけ──。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...