ダーティーホワイトエルブズ ~魔物退治してた現代転移の苦労人エルフ、“主人公”への復讐を決意する~

きさまる

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第四章 通りすがりのダーティーエルフ編

第85話 ─ 今ひとりふたり闇の獣になって ─…ある男の独白

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 今度は不意打ちではなく、逆に礼拝室の木製ベンチに隠れた。そのまま獣のように背を低くしながら移動する。
 その際に携行用香水入れアトマイザーに入れた、やや香りのキツい男性用香水をあちこちに振りかける。
 すると上から気配を感じたので、反射的に前転してその場から離れる。

 バフが剣を逆手に持って、俺のいた場所を突き刺した。
 俺は転がった先からも無理矢理方向転換して、さらに距離を取って離脱。
 方向転換した地点にもクラガンが更に追撃で上から攻撃仕掛けてきていた。

 間一髪。

 それでも俺は尚もベンチに身を隠し、移動しながらトレンチコートを脱いでいく。
 コートにたっぷりと香水を振りかけた後、隙を見て懺悔室にコートを放り込んだ。
 そして物陰に気配を殺しながら、息を潜めて待つ。

 かすかな物音が二つ、懺悔室に近づいていく。
 俺は物陰からそっと様子を伺う。
 そこには、まさに香水の香りに釣られたバフが懺悔室に攻撃を仕掛けようとし、クラガンが周囲を警戒している光景。

 バフが振り上げた剣を懺悔室に振り下ろす瞬間、俺はクラガンに向かって駆け出し神気を込めた紅乙女をクラガンに振り下ろした。
 当然ながらクラガンは手に持った退魔剣で紅乙女を咄嗟とっさに防御。
 だが紅乙女は剣を易々と断ち切り、更にクラガンの右手まで切断した。
 ッチ! これでクラガンを仕留めたかったがさすがに駄目だったか!!
 クラガンが驚愕しながらも足を振り上げ、俺に攻撃。今まで身に付けた技術は、経験は、奴等のその身にしっかりと残っているようだ。
 間一髪、俺はギリギリその蹴りを身体を捻って躱し、後方に跳ね飛ぶ。

 素晴らしい。
 もし俺が観客の立場だったら、敵ながら天晴れと褒め称えるところだ。

「何だこりゃ、傷が再生しねーぞ!」

 さすがのクラガンもこの情報は知らなかったか。紅乙女の傷は、魔物には不治の傷となる事を。
 魔物以外にはなるべく使わず、使っても退魔の能力は使わず、そして使う際には確実に相手の魔物を消して息の根を止めてきたからな。

 クラガンは観念したかのように天井を振り仰ぎ、やがて残った左手を悪鬼の形相で睨みつける。
 と、見る間に真っ黒な爪が伸びて左手は鋭利な刃物となった。

「そうか。そうだな。俺達はもう吸血鬼バンパイアになってるんだ。吸血鬼らしい戦い方が一番合ってるってことか」

「……そうだな。何人もの人間の血をすすって、俺達はもう後戻りが出来無いってのに。未練がましく人間の戦い方にこだわるとは情け無え」

 俺に聞かせる目的もあるのだろうが、その声音はほとんど自分達に言い聞かせているようだ。
 バフも右手に持っていた退魔剣を投げ捨てると、クラガンと同じように両手の爪を長く伸ばした。
 紅乙女から思考が伝わってくる。

“ご主人様、あいつ等の気配が更に凶悪に変わりました。覚悟を決めたようです”

 ああ、分かってるさ。
 吸血鬼となってあいつ等の気配が変わろうとも、俺にもハッキリと伝わってくる。
 あいつ等が人間である事から決別する、と腹を決めたのが。

──不味いな。

 俺はそう考える。
 バフやクラガンは、どちらかというと素手での格闘戦の方が得意だった。
 そして日中で吸血鬼としての能力が落ちているとはいえ、恵まれた体格とパワーに吸血鬼の身体能力が更に上乗せされる。
 リーチが短くなったといってもその身体能力を考えるに、紅乙女のリーチの差を補ってなお、釣りがくるだろう。

 俺は礼拝室からそっと抜け出そうとした。
 だがあいつ等は最初から俺を捕捉していたようで、爪を伸ばし終えると一直線に俺に近づいてきた。
 時間差で振り下ろされる、バフの右手、左手、クラガンの左手。

 バフの爪は何とか弾けたが、クラガンの左手の爪が浅く右手をかする。
 先程の退魔剣とは比べ物にならない爪の硬度に驚きながら、俺は大きくバックステップ。そしてすぐに退路である、階下に降りる階段へ首を向ける。
 だがその俺の思考を読んでいたのか、クラガンが階段前へすでに移動。そしてバフが俺を三階へと追い立てる。

──くそっ! 下位吸血鬼の段階で何という強さだ!

 今まで紅乙女でも、何度か吸血鬼をほふった事がある。しかも下位ではなく上位の、“普通の”吸血鬼だ。
 だが連中の爪もこいつ等二人の爪ほど硬くは無かった。
 断ち折った“堕落”した退魔剣とほぼ同じか、むしろやや弱いぐらいだった。
 元は爪なのだから、それも当然だと刷り込まれていた。
 だからこの二人の爪の硬さに、強さに、面食らった。

──いや、ものは考えようか。

 思い込みが壊されたが、まだ俺は生きている。
 ならば生き残って今後に生かせば良いだけだ。

 クラガンがおもむろにふところから何かの笛を出して口に咥える。
 甲高い耳障りな音が聞こえる。しかしこの音だと人間にはききとれまい。いわゆる超音波、犬笛とかいうやつだ。
 すると三階のほうで何か多数の気配が湧きおこり始めた。
 三階で待ち構えていた魔物を起こしたか。
 俺は二人に背を向けて、一目散に三階に駆け上がった。

 一段飛ばしで階段を駆け上り、踊り場で折り返して更に上に──昇ると見せかけ、振り返りざまに背後に迫っていた気配に紅乙女で斬りつける。
 迫ってきていたのはバフだった。
 バフは俺の振り返りに反射的に爪を交差させて防御の構え。だがこれは殺傷目的の攻撃じゃない。
 紅乙女を受け止めたバフに向かって、続けざまに肩口からの体当たり。
 たまらずバフは階段から転げ落ちて言った。
 と、それと同時に二階から一気にジャンプしてきたらしいクラガンが、手摺を乗り越えて飛び掛かってくる。
 だがクラガンの気配もこちらは察知済みだ。
 バフを突き落とした勢いを上手く変えて身体を回転、その勢いを殺さずに利用してクラガンに紅乙女を叩きつけた。

 弾き飛ばされてそのまま壁に叩きつけられ、階下へ落下するクラガン。
 俺は二人の様子を確認することなく三階へ駆け上がる。
 どうせ大したダメージにはなっていない。

 三階に辿り着くと、俺はすかさず紅乙女を腰だめに構える。
 紅乙女に込めた神気を限界まで圧縮。この階全てを薙ぎ払える最小限度の気で終わらせないと。
 ここでまだ倒れる訳にはいかないのだから。
 紅乙女を横なぎに振るう。

 一閃。

 長大な刃と化した神気が三階全てを薙ぎ払う。
 これでこの階に潜んでいた魔物全てを始末できたはず。
 と思っていたが、幾体いくたいか扉から這い出てきたり、出た途端に飛び上がったりした魔物が居た。
 そいつ等にもそれぞれ気の刃を放つ。
 三階は全て制圧した。


 俺はバフとクラガンがやって来る前に四階へと駆け足で移動。
 確か教会の職員が詰める階だったはずだ。
 念のために、人が残っていないか気配で探る。誰もいないようだ。
 三階の魔物は、職員が避難した後で招き入れたのだろうか。
 
「よし」

 誰に聞かせるでもなく、そう俺は独り言ちると、部屋の隅の方を物色する。
 目当ての物を見つけると、窓に向かって紅乙女を振るいガラスを砕く。
 全面ガラス張りなので、目的の大きさの穴が労せずして空けられた。
 もうあの二人がやって来るまで僅かな時間しか無いが、準備が間に合うか。


*****


 息を潜めて、ただひたすらに待つ。
 気配を消したところでこの場所だとあまり意味が無い気もするが、慎重になって悪いことはないだろう。
 職員詰め所の部屋の物音も、ここだと拾いにくい。
 だが、必ずあいつ等はここへ顔を出すはずだ。いや、あからさま過ぎて罠を疑われるか?
 だがこちらの時間の無さは向こうもよく分かってるはずだ。

 来る。必ず来る。ここに顔を必ず出す。

 紅乙女に神気を込めて何時でも攻撃できるようにしながら待ち構える。
 だがここは思った以上に体力が奪われる場所だ。だからこそ、身を潜めることができるのだが。
 ここに佇んでから時間はどれぐらい経っただろう。
 三十分は経った気はするし、案外三十秒ぐらいしか経っていない気もする。

 そんなこんなで集中しながら待っていたその時、俺の前方に動きが見えた。
 破った窓からロープを垂らし、そのロープを腰に巻き付け教会の壁面に垂直に立って待ち構えていた俺は、窓から何かが覗いた瞬間に反射的に紅乙女を振るった。
 撃ち出された神気の刃は、狙い違わず窓から首を出したバフの首を切断。首の落下に僅かに遅れて、その身体が後を追うように地面に落ちていく。

 だが続けて俺自身の身体がガクンと落ちる。
 見ると窓辺にクラガンが、俺の身体に繋がっているロープを左手に持ちニヤリと笑って立っていた。
 俺はもう一発紅乙女から神気の刃を撃つが、クラガンは余裕に満ちた表情でなんなく回避。
 そしてクラガンは笑みを崩すことなく、そのままロープから左手を離す。


 俺は地上に向かって落下し始めた──。
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