ダーティーホワイトエルブズ ~魔物退治してた現代転移の苦労人エルフ、“主人公”への復讐を決意する~

きさまる

文字の大きさ
87 / 128
第四章 通りすがりのダーティーエルフ編

第86話 ─ 裏切り者のレクイエム ─…ある男の独白

しおりを挟む
 俺は地上に向かって落下し始めた。
 だが、左手に巻き付けていたもう一つのロープをクラガンに投げつける。先端に投擲ナイフをくくり付けて、対象に絡まり易くしてあるやつだ。
 ロープを手放して俺が落下し始めたのを見て、勝利を確信していたのか、クラガンはアッサリとロープに絡まる。
 俺が絡まったロープを強く引っ張ると、クラガンも身体が窓の外に投げ出された。
 それと同時に、俺の身体も再び自由落下を開始。

 ぐんぐんと迫る地上。
 身体に叩きつけられる風圧に気が遠くなりかかる。だが、意識を必死に繋ぎ止めながら紅乙女に、残っているありったけの気を込める。

──タイミングが重要だ。だが上手くいくか?

 だがすぐにその考えを振り払う。
 どうせ失敗したところで死ぬ時は一瞬だ。
 幸か不幸か、この教会本部の外見は近代的なビルだ。壁から突き出た障害物も無い。
 俺もどこにも引っ掛からないが、バフとクラガンの二人も何も引っ掛からずに地上に落ちていく。

 そして俺は地面に叩きつけられた二人を見ながら、彼等に向かって紅乙女を地上に振り下ろす。
 叩きつけられた大きな気がちょっとした爆発を起こした。
 爆風の勢いで俺の落下速度が殺される。
 この攻撃にあの二人が巻き込まれていると良いのだが。

 念のため五点着地を仕掛けるが、途中で止めた。それほど落下の勢いは弱まっていた。 

 急いで二人の姿を探す。
 気を叩きつけた爆心地。そしてその周辺を。
 
 果たして、中心部に二人の黒焦げの身体が見つかった。
 人としての形が残っているのは、二人がまだ成り立ての下位吸血鬼だったからだろうか。
 俺は二人の成れの果てを確認出来て、正直ほっとした。
 かなり連発出来るようになったとはいえ、ここまで大量に紅乙女の神気を使ったとあっては、さすがに体力の消耗が激しい。おまけに今の最後の攻撃で残る全ての気を出し尽くしたのだ。
 俺はその場にガックリと膝をつき、四つ這いでゼイゼイと荒く肩で呼吸を始めた。

 ガリッ。

 そんな時、俺の耳に届く音。
 愕然とした驚きと恐怖の混じった顔で、音のしたほうに目を向ける。どうか聞き間違いであってくれと、祈るような気持ちで。
 だが俺の祈りも虚しく、目の前には緩慢かんまんな動きながらも立ち上がろうとしているクラガンの姿。
 現実逃避などしていられない。応戦しなければ!
 そう理性は叫び続けるが、身体がいっこうに動かない。精も根も尽き果てた状態で、身体の自由がきかない。
 とりあえず俺は、鞘に戻した紅乙女をつえ代わりにすがるように立ち上がる。
 
「すまん紅乙女。こんな使い方をして」

「仕方が無いです。今回は特別サービスですよ」

 クラガンも全身からシュウシュウと煙をあげながら立ち上がっていた。クラガンはヨタヨタと少し歩くと何かを拾い上げる。
 バフの頭部だった。
 バフは薄っすらと目を開ける。ボロボロで虚ろな顔ながらも赤く輝く目は、意思が健在であることを明確に主張している。
 クラガンも俺を認めると黒焦げの頭部の一部を三日月に裂けさせ、凶暴な笑みを形作かたちづくる。三日月の中には巨大な犬歯。
 さて、どうしたものか──。

「ご主人様……この街に彼等のような吸血鬼や魔物が存在できるということは、ロングモーン殿の力もお借りできるのでは?」

 紅乙女がそう俺にささやいた。
 そうか! 以前ならこの街は、強力な結界に閉ざされて魔物の侵入阻止や結界内部での魔法使用の制限がかかっていた。
 だが魔物が存在できているという事は、その結界が存在しなくなっているという事だ。
 この地の地脈を利用出来るなら、いま俺が精根尽き果てた状態でも召喚が出来るかもしれない。

「そうか、その手が使えたか! ……ロングモーン!!」

“応!!”

「いけるな!?」

“愚問だな!!”

「放てるだけ目一杯の力を出してくれ! いけ! ロングモーン!!」

“任せるがいい!!”

 轟!!

 ロングモーンのその言葉と同時に、耳をつんざく凄まじい音が轟き目の前に立ち上る雷柱。
 クラガンとバフは一瞬でそのまばゆき輝きのいかずちの柱に飲み込まれた。


*****


 雷が収まった後には、もはや半分ほどの大きさの炭のかたまりになってしまったクラガンの姿。
 バフは今ので完全に吹き飛んでしまったようだ。
 俺は震える足で、ゆっくりとクラガンに歩み寄った。

「……よう……クラガン」

「……おう」

 クラガンは動かない。もうクラガンは動けない。
 輝きの鈍った赤い目を俺に向けながら、クラガンは答える。
 陽の光はいつしかピークを過ぎ、夕暮れの気配が周囲に漂い始めている。

 俺はクラガンを見つめる。
 好敵手であり、友人であり、情報源であり、こちらの手の内を読んでくる強敵であった男を。

「バフは……今の最後のヤツで……完全に消し飛んだみたいだぜ……クラガン」

「そうか……最後にこうして挨拶できるだけ……俺はマシだな」

「バフとも……最後にこうして話をしたかったが……寂しいな」

「だから最初に言ったろ……先に渡しておかないと……終わった後だとうまく情報が……渡せるか分からんってな」

「ああ……助かるよ」

 クラガンと話していると、さっきの雷を気にした連中が何人か様子を見に来た。
 連中は俺を見ると、不安気な様子で話しかけてくる。

「こちらで突然に落雷があったのだが、大丈夫か?」

「……ああ」

 俺は連中の一人に声をかけた。
 クラガンとの約束を果たさねば。

「……そこのあんた。悪いが……どこかでバーボンを買ってきてくれないか? ……できれば七面鳥ターキーを」

「まあ、構わんが。なぜだ?」

「友人へのプレゼントを……買い忘れていたんでね」

「ふむ? まぁ構わんが」

 俺に声をかけてきてくれた男はバーボンを探しに行った。
 わざわざ買いに行ってくれた男を見送っていると、クラガンが再び口を開く。

「この期に及んで……まだ約束を守るか……律儀な野郎だ……」

「美味いバーボンが飲めなかったなんて、地獄に落ちても恨まれそうだからな」

「……抜かしやがるぜ……」

 立つのが億劫おっくうになった俺は、ついに大きな溜め息と共に地面に座り込んで胡坐をかいた。
 紅乙女を元の空間に戻そうとしたが、紅乙女はそれを拒否。仕方がないので、傍の地面に置いた。

「……最初に渡した紙の下の方に、変な数字やアルファベットがあっただろ」

 クラガンが俺にまた話しかけてくる。
 首を動かすのも面倒に感じた俺は、視線だけをクラガンに向けた。

「あれは……封印区画の開封IDだ。……俺達が使った剣も……そこから取ってきたのさ」

「なん……だと……」

 やはり噂は本当だったのか。
 限られた者しか立ち入る事が出来ない区画があるという話は。
 そこには“堕落”した退魔剣以外にも、曰く付きの呪物や封印された闇の禁書が収蔵されているという……。

「お前の弟は……もう訳が分からん。明らかに普通の人間……エルフか……なのに、大したヤツじゃないのに、妙なカリスマ的なのがある。それに俺達だって……何度か消してやろうと……試した事がある……」

 そうか、こいつ等もミトラを消そうとはしていたのか。当然だな、バフもクラガンもやられっぱなしでいる人間じゃなかった。
 それでも結果はご覧の通り。
 ミトラが善人なら……少なくとも

 いや、今さら考えても詮無いことだ。
 クラガンは表情もなく、虚ろな目で俺に話し続ける。

「もしかしたら……ああ、意識が……遠くなってきやがった。……もしかしたら……もしかしたら、お前の弟はでは倒せないかもしれん……」

 そこまで言うとクラガンは目を閉じて、フッと邪気なく笑った。

「……どうやらここまでだな。……バフの考えはどうだったかは……今さら分からんが……俺は……俺にとっては……悪くない戦いだったと思うぜ」

 クラガンの身体が崩れ始めた。
 下位吸血鬼レッサーバンパイアといえども、アンデッドのことわりからは逃れられないのか。
 灰は灰に、塵は塵に、土は土に。生ける死者は動かぬ死者に。死者は土に還るべし。

「……思ったよりも……色々と……話せたな……。吸血鬼のしぶとさも……悪い事ばかりじゃ……無い……か……。
 あばよ……幸運をグッドラック……」

「ありがとうクラガン……」



 俺はそのままその場に座り込んでいた。かつてを見つめながら。
 やがてさっきのウイスキーを買いに行ってくれた男が戻ってくる。小さなパイント瓶しか無かったと、申し訳なさそうにウイスキーを渡してくれた。
 
 俺はウイスキーを受け取ると、ひと口だけ飲む。
 後は全て、クラガンだった灰の塊に振りかけた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

処理中です...