ダーティーホワイトエルブズ ~魔物退治してた現代転移の苦労人エルフ、“主人公”への復讐を決意する~

きさまる

文字の大きさ
102 / 128
第四章 通りすがりのダーティーエルフ編

第101話 ─ 覚えているかい? 少年の日の事を ─…ある男の独白

しおりを挟む
※この話から名無しの主人公に視点が戻ります。


*****


──じゃあ後は任せたぜ、相棒。

 そう伝えて相棒マロニーは奥に引っこんだ。
 俺は暗い部屋の片隅に、息を潜めて身を隠す。
 もうすぐやって来るはずだ。


 真っ暗な部屋に明かりがともり、ソイツが入ってきた。
 俺の存在に気付かぬまま、ソイツは部屋に無造作に入ると、豪華な机に向かう。
 そして椅子に座ると、ノート型パソコンで何かの作業を始めた。
 画面に女性の裸の写真が多く表示されているのは、この際無視で良いだろう。

 ……最後にこの男を見た時よりも、随分と恰幅が良くなっている。
 そしてそれと同時に、周囲の気配へのアンテナの張り方も人間並に鈍ったか。

 ──ふぅん、コイツがやっぱりだったのか。だけど何というか、随分とテメエとは……覚悟というか、心構えみたいなのが弱いな、相棒。

 俺はそう語りかける相棒マロニーに答えず、物陰からそっとこの男の背後に忍び寄る。
 男は気付かない。物音を立てないようにしているとはいえ、ここまで近づいても気が付かないとは。
 俺は右手を振り上げる。男は気付かない。
 右手を勢いよく振り下ろす。男は最後まで俺に気付かぬまま、右の手刀を後頭部に受けて昏倒した。


*****


「やあ、お目覚めかい? 久し振りだな」

 男に水をぶっ掛けて起こすと、俺は開口一番にそう言った。
 気絶している間に、俺の手で椅子に縛り付けられた男は、怒りもあらわに怒鳴る。

「誰だ貴様! この儂を誰だか知っての事だろうな!?」

 ……やはり、か。
 この男の頭からは、俺の存在は消え去っているらしい。
 俺はわざとらし過ぎるほど慇懃無礼いんぎんぶれいに、男に答える。この男が、ノート型パソコンを眺めていた机に腰掛けながら。

「もちろん、貴方様がこの街の支配者であると、百も承知で行ったことでございますよ」

 芝居じみた仕草で肩をすくめ、俺は続けた。

「ああ、それと屋敷の周囲の警備は既に、機械も人も、全て無力化してあるのでご心配無く」

 男は……この街のボスは、それを聞いて顔色が変わる。顔がサッと青ざめ、先程までの余裕がなくなった。
 予想された事とはいえ、俺を忘れている事に寂しさを覚えながら、俺はポータブルディスクプレイヤーを取り出す。

 あのアイラとアマレットが切り刻まれた動画をボスに見せる。
 ある場面で一時停止すると、画面の一点をボスに示す。

「これ、アンタだよな?」

 一瞬ボスがひるんだが、すぐに傲岸な態度を取り戻す。
 不敵に笑って俺に言った。

「それがどうした。別に個人の自由だろう。儂を罪に問えるならやってみろ。お前のような、どこの馬の骨とも分からん奴が出来るならな」

「……らしいですよ、奥さん。こんな乱痴気騒ぎに嬉々として参加しておいて、あまつさえ開き直るなんて。見苦しいと思いませんか?」

「なに!?」

 部屋の隅には、ボスを襲う前に既に拘束していた妻が、同じように椅子に縛られて猿轡さるぐつわをかまされていた。
 まぁ、俺がやったんだけどな。

 妻は怒りに満ちた目で、夫の残虐な遊びをとがめていた。いや、夫が他の女と遊んでいた裏切りへの怒りが強いか。
 しかしまぁ、随分と口調を変えているな、この男。
 昔を知っているだけに違和感が半端無い。

「貴様、こんな真似をして何が目的だ!?」

 ボスがそう俺に問うてくる。
 まだ気が付かないか、寂しいものだ。
 俺はまた肩を竦めてボスに告げる。

「貴様……ね。さっきから随分とつれ無いじゃないか。それに、口調も昔と無理に変えてて似合わないぜ、

「何だと!!」

 そして妻の猿轡も外し、彼女にも俺は告白する。

「そういえば、アンタも俺を覚えて無かったよな? 

「貴方、いったい誰よ! 私達の息子はミトラだけよ!!」

 俺は深くため息をつく。
 俺の苦悩と苦闘の果てが、この扱いか。
 あれだけ母の機嫌を取り、家事をこなし、ミトラの世話も一手に引き受け。
 父親の都合に振り回され、都合の良い使い走りとしか扱われず。
 自分の面倒を押し付ける存在としてしか、彼等から見てもらえず。
 そして

「儂は人間「あんたが耳隠しの魔法かけてるぐらい、俺が知らないとでも?」

「な、なぜそれを……」

「俺も同じ魔法かけてんだよ。んでビッグママにも確認取った。彼女、かなり昔にあんた等二人が居た事を覚えていたよ」

「儂は……」

「『儂』より『私』の方が合ってると思うけどな、父さん。昔みたいに。
 この街丸ごと生贄に捧げて呼び出す力で、一体何をしようとしてたんだかな。母さんまで犠牲にしてさ」

「な……お前そこまで! い、いやそんな事は貴様には関係無い! いいからさっさと儂の縄を解いて──」

 ズドン!!

 ボスの──俺の父親の太腿に穴が空き、血が滲み出す。うめく父親。
 俺は、銃口から硝煙ただようマロニーの拳銃をチラつかせて、父親を黙らせる。

「誰に向かってモノ言ってんだ? 俺を知らないってんなら、俺達は赤の他人だ。俺がてめえに敬意を示す必要もねェだろう」

 母親の方を見る。
 今の銃撃で、母はすっかり恐怖に怯えてしまっていた。
 俺は銃口を父親に向けながら、続けて話す。

「ま、この魔法陣で力つけてテメエが何しようとしてたかは、正直興味がねェ。もう魔法陣は、俺が召喚主として書き換えたからな」

「な……儂の魔法陣を、『嵐をもたらす者』を貴様!!」

 もう一発、反対の足に銃を撃ち込む。
 父親は……この街のボスはうめき声しか出さなくなった。

「『魂を喰らう原初の混沌』、『嵐を齎らす者』か。せいぜいミトラ抹殺に有効利用させてもらうさ」

 そう言ったあと俺は、小さく「ロングモーン、頼む」と呟く。
 バチリと突然この部屋の中に紫電が走り、この街のボスを襲う。
 ボスは気絶した。要はロングモーンにスタンガン代わりになって貰ったのだ。


 母は一連の光景を見て、すっかり血の気が引いてしまっていた。
 ブルブルと身体を震わせ、首も左右に振っている。
 俺が母に向き直ると、母は言い訳じみた命乞いを始めた。

「あ……ああ貴方が誰だか思い出したわ。私の息子……み、ミトラの兄弟だったわよね!? お兄ちゃんのミトラが面倒見ていた……」

 本当に覚えていないのか、この女も。
 召使いのようにお前の世話をした俺を。
 不機嫌な時に感情のサンドバッグにして、延々となじり続けた相手のこの俺を。
 実質的にお前を食わせ続けたこの俺を!

「本当に思い出したのなら、俺の名前を言ってみろよ、母さん」

「も、勿論よ、貴方は自慢の息子だったわ、タンドリー」

「誰だよその名前」

「ひ……! ご、ごめんなさいケバブだったわね」

「違うな」

「あ、あ……。ぴ、ピラフだったかしら? パエリア? ボンゴーレ?」

「全部違う」

「マッシュ……マッシュ・ルーム? カルボナーラ! モンブラン!? カルヴァドス! ポトフ!! ナムル!! マティーニ!! アラビアータ!!!! キリタンポ……」

 バチッ!!

 母が……いや、この街のボスの、形だけの妻が気絶した。
 ロングモーンが俺に告げる。

“もうこれ以上、貴殿の心を自ら傷つけるな。すまぬが儂の判断でやらせて貰ったぞ”

「……ありがとうロングモーン」

“気にするな”

──大丈夫だ。俺様も今のオメエの気持ちが分かるぜ相棒。

「ははは。あんたも有り難う。救われるよ、相棒マロニー

 
 俺は親からも見捨てられた汚れた男ダーティーエルフ
 ならば、関わりの無い他人の彼等を、生贄に捧げる事など何とも思わない。

 さて、あとはもう一人。


*****


「あ……アンタはマロニー? なぜアンタが私の家なんかに居てるの!?」

 トスッ!

 俺はシャーロットの言葉が終わらぬうちに、ナイフを投げる。
 ナイフは狙い違わずシャーロットの胸に吸い込まれて突き立った。

「ひ……!」

「そのナイフは今、お前の心臓近くの大動脈弓を傷つけた。下手にナイフを抜いたり、逃げようと走ったりしたら、血管が破れて出血多量で死ぬぞ」

「た、助けて……」

──ははは、良い顔だな。この顔見れただけで俺様は満足だ。

 そう相棒マロニーが伝えてくる。
 この顔をカリラやアマローネ、マルゴに見せてやりたかったな。
 そう思いながら俺はシャーロットにも、ロングモーンの雷をスタンガン代わりに浴びせて気絶させた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...