ダーティーホワイトエルブズ ~魔物退治してた現代転移の苦労人エルフ、“主人公”への復讐を決意する~

きさまる

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第四章 通りすがりのダーティーエルフ編

第103話 “洋上の死闘”その1…偽りのダークヒーロー編

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 ※第90話の続きになります。


*****


 月光に照らされ、静かに立ち尽くしていた兄は、ミトラの言葉に動じた様子も見せずにいた。
 ミトラを静かに見つめながら、兄は言う。

「誰がお前の兄貴だよ。俺はマロニーだ」

 向こうは少し俯いているので、顔が影になって兄の表情が分かりにくい。
 だがすぐに顔を上げると、兄はミトラと目を合わせた。
 ミトラの記憶には無い、冷たい殺意に満ちた瞳。
 兄は感情を感じさせない、抑揚の無い喋り方で話す。

「随分と機嫌が良さそうじゃねえか、ミトラ。お前の大切な女のシャーロットを俺に殺された割にはよ」

 だがそんな兄の言葉に、「シャーロット?」と訝しげな表情で眉をひそめるミトラ。
 兄の言葉に本気で心当たりが浮かばなかった。
 なぜならミトラにとって用済みになった女は、覚える価値のない存在だから。

「シャーロット……シャーロット……ああ、腹のガキを理由に、いきなり復縁を迫ってきたバカ女か」

 その言葉に今度は兄が眉をひそめる。
 そして軽蔑と呆れを混ぜた表情で、合点がいったように話す。
 
「俺にシャーロット嬢ちゃんを殺されて、少しは大事なモノを奪われる気持ちを理解したかと思ったが。……嬢ちゃんもお前にとってはその程度か」

 この言葉の後、兄ははっきりと見下みくだした表情で続けて話した。
 ミトラが、その日本での前世も合わせて、最も不快に感じる最も嫌いな表情。

「……クズはどこまで行ってもクズだな」

 ミトラは激昂げきこうした。
 無能な、少なくともミトラが無能と断じているこの男には、見下されるいわれは無かった。
 少なくともミトラ自身の思考では。

「誰がクズだ! テメーこそゴミクズ野郎のクセしやがって! だいたい魔法の使えないゴミ野郎が、生意気に兄貴づらして見下してんじゃねえ!!」

 だが兄は全く態度を変えずに続ける。

「俺はもうお前の兄貴じゃねえって言ってんだろ。マロニーだ。それに、お前が俺を兄貴呼ばわりする資格なんざェんじゃねえのか?」

「何を訳の分からねえ事を……」

 兄は、抑揚のない調子で淡々と述べ続ける。
 だからこそ、次の内容を言われた時は一瞬聞き流しそうになった。
 ミトラ自身が、まさか兄の口から告げられるとは、予想だにしていなかった事実を。

「“転生者”、なんだってなお前。この世界の「ニホンジン」だったって」

「なん……だと……」

「お前がバフを通じて寄越よこしたビデオディスクの中で、馬鹿笑いしながら自分で言ってたじゃねえか。自分でやった事も覚えてねえのかお前」

──あの動画にそんな事を入れていたのか俺は!?

 そうミトラは過去の行いに歯噛みしたが、続けて言われた兄の言葉に今度こそ驚愕した。
 自分が主人公だと公言はしていたが、それがこの能力チート故だとは誰にも言っていない筈だ。

中身が縁も所縁ゆかりもない赤の他人に肉親呼ばわりされる覚えはェ。……ふん、こんなやつに“”とはな」

「な……なぜその事を……」

 隠していたチートを暴かれた衝撃で、思考が一瞬停止するミトラ。予想外の出来事が起こると思考停止する悪癖は、直ってはいない。
 そしてその隙を見逃す兄ではなかった。



 ミトラの言葉には応じず、兄はリボルバー拳銃を三連射する事で答えた。
 思考停止からすぐに覚めたミトラは、ギリギリ魔剣でその銃弾を弾く。

──いつものコイツの初手だな。代わり映えもせずワンパターンめ。

 銃弾を弾きながらそう思考するミトラ。
 そのまま次に来るであろう、兄の刺突攻撃に備えて向き直る。
 だが、そこには誰も居なかった。

“右だ、たわけ”

 兄があの街の儀式で呼び出した、意志持つ魔剣からそう思考がミトラの脳裏に滑り込む。
 慌ててミトラは、訳も分からず魔剣を右に走らせる。
 魔剣を振りながら右手方向を見ると、そこには兄が既に、横薙ぎの一閃を繰り出す構えをとっていた。

 兄はミトラの振った魔剣を、更に体勢を低くする事でかわす。前に進む動作で。
 更に密着したことで、お互い刀剣を振るう余裕が無くなった。
 だが兄は刀を構えたまま、躱した動作の勢いで右肩からミトラに体当たり。
 そうしてよろけたミトラを確認もせず、体当たりと同時に構えた刀を振り抜く。

 きらめく一閃。

 しかし確実にミトラを両断するかに思えた、兄の振るった紅乙女の軌道が、ガキンと金属音を響かせ防がれた。
 ミトラの魔剣が、人が振るったとは思えぬ有り得ない動きをして、紅乙女の軌道を塞いだのだ。ミトラ自身の手から離れたようにも思えたが、見間違いだろうか?
 魔剣は身を震わせて、耳障みみざわりな唸りを周囲に響かせた。まるで嘲笑のように。

“ご主人様、あの街で刃を合わせた時も感じましたが、この剣の力は超絶ヤバいです!!”

 紅乙女の思考が、兄の脳裏に飛んでくる。
 そんな事は呼び出した自分がよく分かってるさ、との思考を兄は胸の内に一瞬よぎらせる。
 自らの攻撃を防いだ魔剣を弾く勢いで、兄は左に移動。
 ミトラが再び自分を見失っているのを気配で感じ取ると、そのまま相手の背後に回り込む。
 そして再び右の肩口からの体当たり。その後、流れるような動作で逆袈裟に斬りつける。

 ミトラは兄のその体当たりに、無様に前方に倒れてしまった。だが、それ故に兄の逆袈裟を空振りさせる事が出来た。

 倒れた隙に、ミトラは《スキル》をソードマスターとガンマスターから少林寺拳法マスターに付け替える。
 エヴァンとの戦い以来、ミトラは“主人公属性”以外には10ポイントしか使わないようにしていた。普段は剣匠ソードマスター銃匠ガンマスターに5ずつ割り振っている。
 無意識のうちに10ポイント以上使う事に恐怖していた、ともいえる。

 倒れた後は転がりながら、魔剣を手足のプロテクターに変化させる。相手が密着して近接戦インファイトを挑むならば、こちらの方が合わせ易い。
 そして、バン! と甲板に両手を叩きつけるや、大きく後退して兄から距離を取る。
 だが兄は、今度は距離を詰めずに刀を振り下ろして、気の刃を撃ってきていた。

──いつか南米で、手下の魔物女達を全滅させたのはコレか!!

 一瞬でそれを理解させるほど、その青白い気の刃は剣呑けんのんな退魔の気を凝縮させていた。
 慌てて両手をクロスさせ、前面に闇のオーラを集める。
 間一髪、防御が間に合う。パァンという音と共に、相手の気刃が弾けた。
 その瞬間、すぐに背後から衝撃。
 またも背後に回り込んでいた兄が、今度こそ袈裟斬りにミトラを攻撃したのだ。

「くそがっ! テメーさっきから後ろからばっかで卑怯モンが!!」

 思わずそうミトラは叫ぶが、そんな甘えた言葉に気を留めるような相手の気配は無く、更に兄は追撃を加えてくる。
 今度は密着からの接近戦を挑んでこなかった。

 日本刀を持つ事によるリーチを活かした攻撃。
 ミドルレンジでミトラを攻撃範囲に入らせない。ミトラは魔剣を手甲足甲にしたのでリーチが短くなって、攻撃が届かない。
 最初こそ、反射で相手の切っ先を弾けていたが、すぐにミトラの動きの隙間を狙われるようになる。
 前腕、上腕、やがて体幹に兄の切っ先がかすめ始める。
 しかも最初はかすり傷程度だったのが、徐々に傷が深くなっている。
 気のせいか、全く同じ箇所を斬りつけられてるようにも思える。

──く……そ……がああぁぁ! スピードはこっちが上なのに……! そうだ、スピードでの撹乱なら俺のが有利じゃねえか!

 そうミトラが思いつき、身体を動かそうとした瞬間。

 ガッ!!

 額に激しい衝撃を感じて頭部が弾かれ、後ろに吹き飛ばされた。
 動き始めを狙われて攻撃されたらしい。
 闇のオーラの防御力が無ければ、確実に脳天を貫かれていた筈だ。そう感じさせるだけの衝撃力だった。

 弾かれ飛ばされたミトラは、身体を捻って着地し兄を見る。そこには刺突した体勢のまま、ミトラを睨む兄の姿。

「一体どうなってやがんだミトラ、お前の今の身体はよ?」

 さすがに驚きを隠せない兄。

「主人公が特別製なのはどの物語でも一緒だろうが!」

 構えを正眼に戻した兄にミトラがそう叫んだのと、ミトラの姿が兄の目前から消えたのが同時だった。
 それは魔剣の能力を活かした、高速移動による消失。
 距離が離れたら、行動の頭を抑えられる事も無い。ミトラは勝利を確信した。

 兄の周囲を高速で飛び回りながら、様子を伺うミトラ。
 兄は正眼の構えをとったまま、身じろぎひとつしない。

──コイツは俺の動きを全く掴めていない。馬鹿が、これから身の程ってヤツを思い知らせてやるぜ!

 ミトラがそう考え、兄を背後から、先程のお返しとばかりに攻撃しようと足を踏みしめた瞬間。
 兄は後ろへ向き直りながら「ニホントウ」紅乙女を振りかぶる。
 そしてそのまま流れるような動作で、何も無い空間に紅乙女を勢い良く振り下ろした。

 そう、その振り下ろした先は正にミトラが突撃している場所。
 まるで、ミトラの移動先に置いておくように振り下ろしたのだ。
 高速で突進するミトラは避ける事も叶わず、兄の振り下ろした先へ突っ込んだ。

 ズドッ!!

 兄の「ニホントウ」紅乙女に、地面に打ち据えられるミトラ。
 魔剣から思考が、ミトラの脳裏に差し込まれる。

“完全に貴様の行動パターンが読まれているな。情けない奴め”

 糞が! と脳内で悪態を吐きながらミトラは歯噛みする。
 二人の距離が詰まった以上、また兄のラッシュが始まるだろう。
 刹那の瞬間にミトラはどうしたらいいのか思考を回転させる──。



 月は、無慈悲な夜の女王は、静かに甲板の上の戦いを月光で照らし続ける。
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