ダーティーホワイトエルブズ ~魔物退治してた現代転移の苦労人エルフ、“主人公”への復讐を決意する~

きさまる

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第四章 通りすがりのダーティーエルフ編

第109話 「冬を恐れた女」…えんじょい☆ざ『異世界日本』編

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※第63話の続きになります。


*****


「だいぶ寒くなってきたので、そろそろセーターとストールだけだとキツくなってきました」

 ある日私達の部屋に来て、床に正座してそう私に告げたフェットチーネさん。
 私は卓袱台ちゃぶだいに湯呑みで番茶をすすっています。同じく正座で。
 年寄り臭い?
 うるさい、冷えてくるとこれが美味おいしいのよ!

 今日もブランちゃんは外出中です。ママの方が色々と忙しくなってきたんだとか。
 うん、今年は今のところ暖冬だというけれど、いつその予報が裏切られるか分からない。予報は予報なのだ。

「たぶん寒さは耐えられるとは思います。元の世界では北の寒村出身なので。でもキョウトの冬は底冷えすると聞いています。雪が降るよりも冷えるとか。予想出来ない寒さにおびえてます」

 うん、あながち間違いじゃない。東北出身の患者さんが同じ事を言っているのを聞いた事があるから。
 それに暖冬って言ったって、結局は毎年二月頃にはめちゃくちゃ寒い日がやってくるからね。
 だから、それにビビる気持ちは分からないでもない。
 ……でもね。

「こないだフェットチーネさん、給料日とちゃいました?」

「……はい」

「なんかその時、でっかいリラ熊ぬいぐるみ持ってませんでした?」

「……はい」

「すっっっっっごい嬉しそうな顔で、『抱き枕に最高やねん』って」

「……はい、言いました」

「まさかのしっかり者のイメージだったフェットチーネさんが、ファンシーグッズに夢中になって、あまつさえ可愛い系のぬいぐるみにどハマりするとは思わへんでしたけれども……」

「ぬいぐるみだけちゃいます。可愛い子犬や子猫、ちっちゃい子供も男女関係なく大好きです」

「あ~、それ以上はストップ。今のご時世じせい、女の人でもその発言は犯罪疑われますし」

「……はい」

 はあ、と私はため息ひとつ。
 そしてフェットチーネさんにさらたずねた。

「ちなみにそのぬいぐるみ、お値段は?」

「…………いちまんにせんはっぴゃくえん」

「……はぁ」

 更にため息を重ねる。
 いつものパターンとすっかり真逆だ。
 全然嬉しくないけど。

「毎月一個か二個、小さなファンシーグッズを買ったりする分にはなんも言いませんでした。実際、ドデカぬいぐるみの前までは何も言うてません」

「はい、ありがとうございます」

めてへんから! リラ熊にハマる前までは収支のバランスめっちゃ取れてたやないですか! 私達以上に!!」

「でも……でも……だって……」

「でもでもだってちゃいます!!」

「うう……。クラムさんキッツイ」

「全然キツない! 私がいっつもフェットチーネさんに言われている事です!」

「……私、元の世界では四人兄弟姉妹の一番上で、いつも妹弟の面倒を見てたんです。小さな弟を抱っこしてあげたり、一番下の妹の頬っぺたにスリスリしたり。あのぬいぐるみ見てると弟をつい思い出して……」

「フェットチーネさん、私の目を見ながら話しぃや? 目が泳いでんで!」

「すみません。でも弟妹の話は本当です」

「はぁ……。で、まるところ臨時収入が欲しいし、短期のバイトか何か探したい、と」

「イエスマム」

「一番稼ぎが良いのは風俗やけど……」

「わたし、男を喜ばせるような事たぶん何も知りませんけど」

「いや、そもそも紹介する私が罪悪感ハンパないんで却下です」

「すみません……」

「はぁ、せやったら明日の朝一あさいちでビッグママの所へ行きましょ。今の私にはそれ以外手ェ打てへんので」

「感謝します」

「今回だけやで! 次からはちゃんと先の事を考えてーや!!」


*****


「……で、あたしの所へ来たって訳かい」

「ごめんねママ」

「いやまあ構わないんだけどね。ええと確かフェットチーネって言ってたかね、あんた」

 一応、以前に面通ししてあるけれど、まだ一度しかここへ来れてないからね。
 ママがフェットチーネさんの名前を覚えきれてないみたい。

「フェットチーネ、フェットチーネ……パスタみたいな名前……前も思ってたけど、どっかで聞いた名前なんだけどねぇ」

 あれ? 違ったみたい。
 そういえばバローロさんも似たような事を言ってたっけ。
 ママもバローロさんも、フェットチーネさんとは、あの時が初対面のはずなんだけど。

「ええと……そのパスタの名前だから聞いた事があるのでは……?」

 フェットチーネさんがママにそう言ったけど、ママは即否定。

「違う。別の件で聞いたんだ。……うーん何だったかねえ」

 ママもバローロさんの時と同じように、うんうんとうなって頭を抱える。
 が、すぐに頭を上げて観念かんねんする。

「ま、いいさ。そのうち思い出すだろう。
 さて、そこのクラム……倉持から聞いたがアンタ、どうやら炎を操るチートを持ってるようじゃないか」

「ああ、のことですか?」

 ママの言葉に答えたフェットチーネさんが、右手のてのひらを表に向けてその上に青白い炎を出した。
 うん、やっぱり呪文も唱えてないし、何よりこの世界で、しかも魔素を使った様子も無く発生してる。
 ママもその炎を興味深げに見ている。

「一応先に聞いておくが、コレでだんを取るのは無理なのかい?」

 そうママが疑問をフェットチーネさんにぶつける。
 フェットチーネさんもその疑問に答えた。

「ええ。この炎は極短時間しか発生しませんから。基本はほぼ一瞬出るだけですね。その代わりと言っては何ですが、目視出来る範囲で何処どこにでも発生させる事が出来るみたいです」

 そう言いながらフェットチーネさんは、手の炎を消すと、すぐに私の目の前に青白い火の玉を発生させた。
 すぐに消してくれたけど、かなり熱かったですよ、フェットチーネさん。

「一応、百メートル以上先にも出せますが、精度が相当に落ちます。普段は二十メートル以内で使うのが無難ですかね」

 それを聞いて、思わず私も口をはさんでしまった。
 ヲタクのこじらせた欲望の暴走をめたらアカンでェ!

「せやったらさ、バトル系の少年マンガみたく炎を絡めた必殺技みたいなの開発しません? こう……大蛇焼おろちやきー!! みたいな」

「ああ、なるほど。火の玉を地面に這わせて『食らえ!』とか叫んだり、火を身体の周りにまとわせて垂直にジャンプして、上からの攻撃を迎撃したり」

「フェットチーネさんの炎は青いから、『月を見たら思い出せや!』とかが合うんちゃいます?」

 そんな私達の、最近やってるいつもの会話。
 それを見てママが、なげかわしい、といった様子でフェットチーネさんに言った。

「フェットチーネとやら。あんたはマトモだと思っていたのに、随分とクラムのヲタク趣味に影響されてるじゃないかえ」

 それを聞いたフェットチーネさんの反応は劇的だった。
 まるで雷に打たれたように一瞬身体を硬直させた後、床にガックリと崩れ落ちるフェットチーネさん。
 床に四つ這いになる、黒髪ショートカットの知的美人魔法師。わぁお。

「そ、そんな……。氷のように冷徹なクールキャラで、いつも冷たく見下げた視線で『フッ』とか言ってるイメージの私が……ポンコツキャラになった!?」

 うずくまりながらそうつぶやくフェットチーネさん。
 いや、そんなイメージ最初から無かったですやん。いややわあ。
 あとファンシーぬいぐるみに、どハマりした時点でポンコツキャラになってるから手遅れです。南無~~~。

 そう思いながら、フェットチーネさんに手を合わせる私。
 そんな私を見て、ママが私の脳天にズビシっとチョップを喰らわせた。

「何を人ごとみたいな顔をしてるんだいクラム! 柔道整復師と鍼灸師の国家試験に落ちたら、タダじゃおかないよ!!」

「すすすすみません!」


*****


「……まぁ仕事は無いわけじゃない。もしかしたら危険も出るかもしれないけど。でも慎重にやれば基本は安全だけどね」

 ママは私達を見ながらそう言った。
 それはもう仕方が無い。
 裏社会のママからもらう仕事なのだ。危険な要素があって当たり前、無い方が不思議ってなものだ。

「頼みたいのは他でも無い、ウチの組織のある男をそれとなく監視して欲しいのさ。
 安全第一、監視がバレない事を最優先。まだ向こうに気取けどられたくは無いからね」

「期限は?」

「とりあえずは一ヶ月。状況次第では延長や短縮が起こりるけどね」

 そしてもう一度フェットチーネさんを見ながら、ママは続ける。

「バローロをしちまった格闘の実力とその炎のチートで、最低限度の身の守りは出来るだろうがね。とにかく第一は、向こうにバレない事、あんた達の顔が向こうに割れない事だ」

「「分かりました」」

 そしてママは、深いため息をつきながら私達に話す。
 
「ふう、全くあの男は……。結局なんの役にも立ちゃしないクセに、トラブルばかりを作り出しやがって。あたし達に隠し事がバレて無いとでも思っているのかね?」

 その後疲れたように、私達へ意外な、ある意味納得の監視対象を告げた。

「まぁある意味この時の為に、お前さんにミトラを付けたんだ、クラム。お前さん相手になら、幾分ミトラも油断するだろうさ」

「えっ? 監視の相手って、ミトラさんなんですか!?」

「ああ。あんな性格でも役に立つなら我慢も出来るが、役に立たないなら我慢する理由なんざ有りゃしないからね」

 その時私とママは、真っ青な顔で小刻みに震えながら、硬直しているフェットチーネさんに気がついた。
 フェットチーネさんは目を大きく開いて、震える唇でようやく言葉を絞り出す。


「ミト……ラ……?」
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