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第二章 異世界編
第31話 “夜更けの月明かりの下に”その3…偽りのダークヒーロー編
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「──現場に到着したぞベイゼル。例の『死に損ない』も確認。
ああ!? アンノウンと呼べだぁ? どうでも良いだろ! そんなこと!!」
そう苛立たしげに叫ぶ、聞き覚えのある声。
領主グレンタインの影で話す男は、その間にも領主の胸に横一文字に銀閃を走らせる。
「こっちは時間が無いんだよ、一分一秒だって惜しいんだ! ベイゼル・ヘイデン、これはお前のたっての頼みだったからだ! んでついでにバルバの口添えもあったから、仕方無しになんとか強引に引き返したんだ!」
そう言いながら、影にいた男は領主を斬り刻み続ける。
「一昨日のアレで終わったと思ってたんだが、復活したってことは本格的に……馬鹿、聖水も白木の杭も、今は持ち合わせてねぇよ!」
斬り刻まれた領主の身体がドサドサと地面に落ちる。
男は右手の“ニホントウ”を、ブンとひと振り血を飛ばすと、鞘に納める。その際に示指を自ら傷つけた。
「いくら俺の武器がコイツ等と相性良いからって、普通、襲撃は朝か昼間だろ! 現地のココが何時だと思っていやがる!」
指先から流れる血を地面に振りまき図形を描いていく。
ミトラも見覚えのある図形。封印陣だ。
「とりあえず俺の血で封印カマしとくから、あとはお前等で……」
そこでようやくミトラと目が合った。
スマホを持つ左手の指に、ガチガチにテーピングを張っている。
魔剣をマロニーの拳銃で受けた時に、捻挫をしたか骨を折ったか。
「ベイゼル、後でまたかける!」
兄の行動は迅速だった。
振り返りながらスマホを懐に入れて、背後の壁の僅かな凹凸に足をかけてジャンプする。存在に気が付かなかったが、天井からぶら下がっていたロープに掴まる。
そのまま猿のようにスルスルと、あっという間に登って天井に吸い込まれていった。
ミトラの位置からは気が付かなかったが、領主が立っていた真上の天井には、垂直に穴が空いていた。
どうやら地上まで伸びているらしい。ロープはその地上から穴を通じて垂らされていたようだった。
慌ててミトラが穴の真下まで移動すると、すでに兄は穴の中程まで登っていた。
ミトラの今のジャンプ力なら、穴の壁を利用した三角飛びを行えば楽に追いつけるだろう。ただし……
──剣が穴に引っかかるな。
そう考えるが、魔剣から思考が伝わる。
“ふむ、少々面白い趣向を思いついたぞ”
魔剣の思考がミトラにそう滑り込む。
すると魔剣はドロリと溶けたかと思うと四つに分かれ、手足の末端にそれぞれ収まる。
一種のプロテクターの状態だ。
“思うさま暴れてみよ。剣の状態の我を振るうよりも体感が分かりやすいはずだ”
「はははっコイツは良いや!」
思わずそう口に出すと、その場に軽く屈んで足に力を込める。
一飛びで地下墓地の天井よりも高く飛び上がり、地上への立て坑に突入する。
そして立て坑の壁を蹴って、更に上に飛び上がった。
──よし、あと一回壁を蹴ったらヤツに手が届く!
ミトラがそう考えて壁に足をかけ、更に飛び上がろうとした時。
兄がくるりと身体の上下を入れ替えると、ロープから手を離してミトラと同じように壁を蹴り、落下しながら彼に突っ込んできた。
兄は器用に身体を曲げると、両膝をミトラにぶつけた。壁を蹴った直後の彼の顔に。
闇のオーラで身体が強化されていたので、首の骨は折れなかった。
だが、ミトラは兄の変則垂直両膝蹴りを喰らって、立て坑を真っ逆さまに落下。
そしてそのまま床に叩きつけられると、床にめり込んでしまった。
床に叩きつけられたミトラの目に、立て坑を登り切った兄の姿が見え、やがて微かにバイクが走り去る音が聞こえた。
“迂闊な男だな、貴様”
──うるせえ。
そんなミトラの耳に、グレンタインの声が聞こえる。
兄が封印陣を完成させる前に逃亡した事を思い出し、ミトラは慌てて跳ね起きた。
兄が封印陣を描くのに使った血を吸収する事で、かろうじて復活できたのだろう。
人の形は何とか保っているものの、幽鬼のようにフラフラと立ち尽くすグレンタイン。
「お……お……。待っておれ、ヘネシー……。此奴等を片付けてから、お前の望みを……。」
「爺さん、いい加減くたばんな!」
ミトラはグレンタインの膝を蹴りつけた。ボキリと膝が砕ける。
崩れ落ちようとするグレンタインの腹を左手で何度も殴りつける。
そして胸倉を掴むと、右手で心臓を思い切り貫いた。
「ま……まさかこれは、あの混沌の魔剣の力……」
「お前の魂も搾り尽くしてやるぜ」
「ヘネシーと……家族にかけた呪が解ける……貴様は……彼女の罪を……どうするつもりだ……」
「はあ!?」
「借金をさせたのも……夫を殺したのも……子供を見捨てて死なせたのも……ヘネシー自身だ……」
「そうかい、俺には関係ねえな!」
そう言いながらも、彼は先ほどのヘネシーの言葉を思い出していた。
“私の旦那が! 夫のアッサンブラージュが生きてたのよ!”
天井の立て坑から、月明かりが差し込む。
「夫を殺して……茫然自失となって……気がつけば息子が……息をしなくなっていて……半狂乱の彼女を……落ち着かせる……ために……二人を……眷属に……して……死に損なわせた……」
「うるせえ、とっととくたばれ!」
ふっ……と彼を蔑んだ視線で見ながら、グレンタインは己の本質を成す“魂”を奪い尽くされ“絶命”した。
気がつけば、床に蹲り身じろぎひとつしないヘネシー。
そのそばには、大小ふたつの灰の塊。
ミトラは心の中で舌打ちする。
──ちっ、これじゃ遊ぶ事もしゃぶり尽くす事も出来やしねえ。
ヘネシーが身じろぎひとつせず、表情ひとつ変えず、呟いた。
「そんな……アッサンブラージュとモスカートと一緒に永遠に生きていけるって、“領主様”が…………なんて事してくれたのよ……」
彼女の目から涙が溢れてくる。
「私はこれから! 何にすがって! どうやって生きていけば良いのよ!!」
床に四つ這いになって這いつくばり、床を涙で濡らすヘネシー。
彼は溜め息をひとつ。
「そんな事、自分で考えろ」
グレンタインの力で保たれていた屋敷は、主人が消滅した事で廃墟に戻っていた。
屋敷跡から出てきたミトラは、剣の形に戻った魔剣をながめる。
切っ先にこびり付く彼女の血糊が、魔剣に吸収されて消滅した。
──ところで、借金とか旦那の眷属化がヤツの手の平の上だった……とかの御高説は何だったんだ?
“…………”
魔剣は何も思考を返さない。
彼は再び溜め息をついた。
町の自動車屋の残骸を探せば、オイルは見つかるだろう。
あとはオイルを入れるだけだし、自分一人でも何とかなるさ、と彼は考えた。
彼は屋敷の地下室で動かないヘネシーを思い浮かべる。
しかし、すぐに肩をすくめて歩き出した。
ああ!? アンノウンと呼べだぁ? どうでも良いだろ! そんなこと!!」
そう苛立たしげに叫ぶ、聞き覚えのある声。
領主グレンタインの影で話す男は、その間にも領主の胸に横一文字に銀閃を走らせる。
「こっちは時間が無いんだよ、一分一秒だって惜しいんだ! ベイゼル・ヘイデン、これはお前のたっての頼みだったからだ! んでついでにバルバの口添えもあったから、仕方無しになんとか強引に引き返したんだ!」
そう言いながら、影にいた男は領主を斬り刻み続ける。
「一昨日のアレで終わったと思ってたんだが、復活したってことは本格的に……馬鹿、聖水も白木の杭も、今は持ち合わせてねぇよ!」
斬り刻まれた領主の身体がドサドサと地面に落ちる。
男は右手の“ニホントウ”を、ブンとひと振り血を飛ばすと、鞘に納める。その際に示指を自ら傷つけた。
「いくら俺の武器がコイツ等と相性良いからって、普通、襲撃は朝か昼間だろ! 現地のココが何時だと思っていやがる!」
指先から流れる血を地面に振りまき図形を描いていく。
ミトラも見覚えのある図形。封印陣だ。
「とりあえず俺の血で封印カマしとくから、あとはお前等で……」
そこでようやくミトラと目が合った。
スマホを持つ左手の指に、ガチガチにテーピングを張っている。
魔剣をマロニーの拳銃で受けた時に、捻挫をしたか骨を折ったか。
「ベイゼル、後でまたかける!」
兄の行動は迅速だった。
振り返りながらスマホを懐に入れて、背後の壁の僅かな凹凸に足をかけてジャンプする。存在に気が付かなかったが、天井からぶら下がっていたロープに掴まる。
そのまま猿のようにスルスルと、あっという間に登って天井に吸い込まれていった。
ミトラの位置からは気が付かなかったが、領主が立っていた真上の天井には、垂直に穴が空いていた。
どうやら地上まで伸びているらしい。ロープはその地上から穴を通じて垂らされていたようだった。
慌ててミトラが穴の真下まで移動すると、すでに兄は穴の中程まで登っていた。
ミトラの今のジャンプ力なら、穴の壁を利用した三角飛びを行えば楽に追いつけるだろう。ただし……
──剣が穴に引っかかるな。
そう考えるが、魔剣から思考が伝わる。
“ふむ、少々面白い趣向を思いついたぞ”
魔剣の思考がミトラにそう滑り込む。
すると魔剣はドロリと溶けたかと思うと四つに分かれ、手足の末端にそれぞれ収まる。
一種のプロテクターの状態だ。
“思うさま暴れてみよ。剣の状態の我を振るうよりも体感が分かりやすいはずだ”
「はははっコイツは良いや!」
思わずそう口に出すと、その場に軽く屈んで足に力を込める。
一飛びで地下墓地の天井よりも高く飛び上がり、地上への立て坑に突入する。
そして立て坑の壁を蹴って、更に上に飛び上がった。
──よし、あと一回壁を蹴ったらヤツに手が届く!
ミトラがそう考えて壁に足をかけ、更に飛び上がろうとした時。
兄がくるりと身体の上下を入れ替えると、ロープから手を離してミトラと同じように壁を蹴り、落下しながら彼に突っ込んできた。
兄は器用に身体を曲げると、両膝をミトラにぶつけた。壁を蹴った直後の彼の顔に。
闇のオーラで身体が強化されていたので、首の骨は折れなかった。
だが、ミトラは兄の変則垂直両膝蹴りを喰らって、立て坑を真っ逆さまに落下。
そしてそのまま床に叩きつけられると、床にめり込んでしまった。
床に叩きつけられたミトラの目に、立て坑を登り切った兄の姿が見え、やがて微かにバイクが走り去る音が聞こえた。
“迂闊な男だな、貴様”
──うるせえ。
そんなミトラの耳に、グレンタインの声が聞こえる。
兄が封印陣を完成させる前に逃亡した事を思い出し、ミトラは慌てて跳ね起きた。
兄が封印陣を描くのに使った血を吸収する事で、かろうじて復活できたのだろう。
人の形は何とか保っているものの、幽鬼のようにフラフラと立ち尽くすグレンタイン。
「お……お……。待っておれ、ヘネシー……。此奴等を片付けてから、お前の望みを……。」
「爺さん、いい加減くたばんな!」
ミトラはグレンタインの膝を蹴りつけた。ボキリと膝が砕ける。
崩れ落ちようとするグレンタインの腹を左手で何度も殴りつける。
そして胸倉を掴むと、右手で心臓を思い切り貫いた。
「ま……まさかこれは、あの混沌の魔剣の力……」
「お前の魂も搾り尽くしてやるぜ」
「ヘネシーと……家族にかけた呪が解ける……貴様は……彼女の罪を……どうするつもりだ……」
「はあ!?」
「借金をさせたのも……夫を殺したのも……子供を見捨てて死なせたのも……ヘネシー自身だ……」
「そうかい、俺には関係ねえな!」
そう言いながらも、彼は先ほどのヘネシーの言葉を思い出していた。
“私の旦那が! 夫のアッサンブラージュが生きてたのよ!”
天井の立て坑から、月明かりが差し込む。
「夫を殺して……茫然自失となって……気がつけば息子が……息をしなくなっていて……半狂乱の彼女を……落ち着かせる……ために……二人を……眷属に……して……死に損なわせた……」
「うるせえ、とっととくたばれ!」
ふっ……と彼を蔑んだ視線で見ながら、グレンタインは己の本質を成す“魂”を奪い尽くされ“絶命”した。
気がつけば、床に蹲り身じろぎひとつしないヘネシー。
そのそばには、大小ふたつの灰の塊。
ミトラは心の中で舌打ちする。
──ちっ、これじゃ遊ぶ事もしゃぶり尽くす事も出来やしねえ。
ヘネシーが身じろぎひとつせず、表情ひとつ変えず、呟いた。
「そんな……アッサンブラージュとモスカートと一緒に永遠に生きていけるって、“領主様”が…………なんて事してくれたのよ……」
彼女の目から涙が溢れてくる。
「私はこれから! 何にすがって! どうやって生きていけば良いのよ!!」
床に四つ這いになって這いつくばり、床を涙で濡らすヘネシー。
彼は溜め息をひとつ。
「そんな事、自分で考えろ」
グレンタインの力で保たれていた屋敷は、主人が消滅した事で廃墟に戻っていた。
屋敷跡から出てきたミトラは、剣の形に戻った魔剣をながめる。
切っ先にこびり付く彼女の血糊が、魔剣に吸収されて消滅した。
──ところで、借金とか旦那の眷属化がヤツの手の平の上だった……とかの御高説は何だったんだ?
“…………”
魔剣は何も思考を返さない。
彼は再び溜め息をついた。
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