ダーティーホワイトエルブズ ~魔物退治してた現代転移の苦労人エルフ、“主人公”への復讐を決意する~

きさまる

文字の大きさ
115 / 128
最終章 汚くも真っ当な異世界人ども

第113話 “さまよい欺かれて”…偽りのダークヒーロー編

しおりを挟む
 それは、二人がキョウト南東部のウジカサトリ山中で再会する一週間ほど前。
 ワカヤマのシオノミサキより東の小さな町の砂浜に、一人の男が打ちあげられた。
 海水浴シーズンの終わった九月の夕暮れに、そんな砂浜を気にする地元の人が居る訳も無く、その男の存在に気付く者も居なかった。

 次の日、一軒の家の家族が惨殺された。
 男物の衣類が持ち去られていたが、金も取られていたため警察は押し込み強盗の線で捜査を始めた。
 だが、海にうちあげられた男の存在がわかろう筈もなく、近い将来に捜査は暗礁に乗り上げることになる。


*****


 男は奪った衣服に着替えると、血にまみれた服を山の奥深くに捨てた。
 記憶はぼんやりとしていたが、頭の中に響く声と何となくの感覚に任せてヨシノの山中を彷徨さまよい始めた。
 その手に真っ黒い、唸り声をあげる剣を持ったまま。

 幾度いくども道路を横切り、山の斜面を登り、川さえ渡り、男はひたすら北上した。
 何故かは全く分からない。疑問すら沸かなかった。
 右手の黒い剣から、惨殺した家族の魂がエネルギーとなって流れ込んでいるのを感じていた。
 山中の小動物も剣で殺すだけで自らの力になった。人間のそれと比べたら、微々たるものだったが。
 不思議と、最初の打ちあげられた町以来、人里・街中に出ることは無かった。

 やがて何日も山の中を彷徨い歩いているうちに小さなほこらがひっそりと建っているのを見つけた。
 その祠のかたわらに異様な風体の獣が居た。
 遠目から見るとタヌキのようにも見えるが、近づくとその顔は猿で手足は虎、そして尻尾が蛇になっていた。
 いわゆるぬえと呼ばれる妖怪なのだが、その男にはそんな知識は無い。
 精々、ゲームに出てきそうなヤツだ、ぐらいにしか思わなかった。

 実際、その鵺の大きさは狼か猪ほどの大きさでしかなかった。
 黒い剣からもたらされる魂のエネルギーは尽きかかっていたので、良い供給源が見つかったと男はほくそ笑む。
 男が飛び掛かると鵺も素早く左右に移動しながら襲ってきた。
 
“左に振り下ろしてすぐに後ろに横にげ”

 頭に響いてくる指示の通りに剣を振るう。黒い剣の一撃で、鵺の頭部を叩き割った。
 久しぶりに味わう大物の魂に、男は身体に力がみなぎるのが分り、思わず顔を天に向けた。
 黒い剣……魔剣からもたらされる黒い闇のエネルギーが、全身に行き渡るのを感じる。

 そのとき、男は懐かしい気配に気がついた。
 この感じは……。
 しばらく脳内に流れる記憶を検索。そしてようやく気配の主に思い至る。
 同時に思い出すは自分自身のこと。
 男は──ミトラは思わず哄笑こうしょうをあげた。やはり俺は“主人公”だ、と。
 俺の、俺様のプライドを傷つけたあの糞野郎に、こんなところで会えるとはな!
 そして哄笑と共に、その懐かしくも鬱陶うっとうしい気配に声をかける。

「はははは! よお兄貴、コソコソ隠れてないで出て来いよ! そこに居るんだろ!?」


*****


「やっぱり生きてやがったか、ミトラ。くだらねえ野郎のくせに悪運ばかり強いカス男が」

 兄がそうミトラに返した。ミトラの感情を逆撫さかなでするように。
 気に入らねえな糞が。そうミトラの胸に湧き上がる感情。
 ポツポツと降ってきた雨にも関わらずただよってくる甘い匂い。兄からだ。
 兄が気取って香水の匂いをさせているのも、ミトラの気にさわる。

──気取りやがって! オマエは怒りと悔しさで顔を真っ赤にしながら俺をにらんでるだけで良いんだよ、ガキの頃みたいに!

 早速ミトラは、苛立いらだちで思考がショートしかける。
 だがすぐに気持ちを落ち着かせる。もうこの前の船の上みたいに、ヘマはしない。
 そう考えながらミトラは周囲を見渡し、魔剣をプロテクターにして手足に装着する。
 いざとなれば木を薙ぎ倒すだけだが、剣の状態では振り回した時に、周囲の木々に引っ掛かるかも知れないと判断したからだ。
 魔剣から思考が伝わる。

“ふん、ようやく少しだけ知恵が付いたか”

 ミトラはまたイラつき魔剣に返す。

──うるせえ! ゴチャゴチャと指図ばっかしやがって! 黙って俺に使われていろ!!

“ふふん、そこまで大口を叩くなら、どこまでやれるか見ておいてやる”

 ミトラは足を肩幅に広げて手を胸の前でクロス。
 そしてプロテクターの手甲を変形させて鉤爪かぎづめを伸ばした。
 魔剣から流れてくるエネルギーでの驚異的な回復力とで、どこかの漫画かハリウッド映画のヒーローみたいだな、とミトラはちらりと考えて笑う。

 だが兄はすぐにやぶの中に飛び込んだ。
 ガサガサと派手な音を立てながら、たちまち山の斜面を登ってミトラから身を隠す兄。
 すぐにその音が消えた。

──逃がすかよ雑魚が!

 音が消えた辺りで耳を澄ませて兄の気配を探る。
 完全に物音を遮断しながら移動することなどあり得ない。
 特にこんな森の中では。
 例え雨が降っていようとも、その雨音で気配がき消されてしまうほどの強さではまだ無い。

 その時、ミトラの元へ甘い香りが漂ってきた。
 先ほど嗅いだばかりの匂い。兄がさせていた香水の匂い。

──へ、馬鹿が。柄にも無く気取って、慣れねえモン付けてるから墓穴を掘るんだ!!

 その匂いを辿たどっていくと、とある太い樹木の陰から服のすそのようなものが見えた。
 色合いから、さっき兄が来ていたコートに間違いないだろう。
 さて、どう攻撃するべきか。
 遠距離から例の飛び道具攻撃でも浴びせるか。
 いや、向こうも刀から何かを飛ばせることが出来た。
 タンカーの時のように、溜めている途中に攻撃されるのがオチか。

 さっきから木の陰のコートは少しも動かない。
 ミトラの気配に気が付いた様子は無い。
 ミトラは上を見上げた。木の葉を叩く雨音が強くなっている気がする。
 ニタリと口角を上げた。

──小賢しいマネしやがってくれたが、この雨が俺の動く気配を消してくれる。世界は俺の味方なんだぜ!

 ミトラは身を屈めて近づく。一歩一歩、慎重に。
 襲いかかった時の兄の表情を思い浮かべながら。

 あと少し。
 もう飛び掛かるか?
 いや、もっと近くから確実にだ。
 もう良いかな?
 いや、楽しみはもう少し待とう。
 もうそろそろ良いんじゃねえかな?
 そうだな、もう良いだろう。

 ミトラは一気に跳ねる。兄が隠れている樹の左側に。
 着地した足を踏ん張り、左腕を振り上げ飛び掛かる。
 そのまま流れるように、一気に左腕を振り下ろす。

 風切る音と共に空振り。

 愕然がくぜんとしながらミトラは、兄が隠れている場所を見て確認。
 そこには香水がたっぷりと振りかけられたコートが、樹の幹にナイフで貼り付けられているだけ。
 地面に散らばる、消毒液の匂いをさせた脱脂綿にミトラは気が付いただろうか?
 兄が、顔に振りかけた香水をぬぐった脱脂綿に。
 だがそれはおそらく無理だったろう。
 何故なら、ミトラが左手を振り下ろした時と同時に、樹上から何かが落ちてくる音が聞こえたからだ。

──上から攻撃!? 忍者のモノマネかよ小細工を!!

 ミトラは上を振り仰ぎながら、同時に右腕を上から落ちてくるモノにブチかまして殴りつけた。
 寸分たがわず上から落ちてきたモノのど真ん中にブチ当たる右拳の鉤爪。

 ゴツッ!!

 右腕に伝わる硬い感触。
 見るとそれは太い木の枝。人間の胴体はあろうかというぐらいの。
 その木の枝の陰から、今度こそ兄の姿。刀を逆手に持って、まっすぐミトラに落ちてくる。

──ヤベエ!?

 なかば反射的に、必死に体の動きを硬直させるミトラ。
 だが右手の鉤爪に刺さった大きな木の枝の重さに振り回されて身体が流れ……。
 予想以上にミトラの体勢が崩れる。
 二人の身体が交錯こうさく

 ミトラの右の背中に何かが当たって流れる感触。
 崩れた体勢ながら咄嗟とっさに兄へ蹴りを繰り出すミトラ。
 地面に突き立つ刀を手放し、回避行動を取る兄。
 しかしそれが間に合わずに蹴りは兄の右肩に当たり、身体を吹き飛ばす。
 だが崩れた姿勢からでは、致命傷を与える程の威力は込められない。

──くそっ、どこかの漫画みたいな戦法取りやがって!

 地面に突き立った刀もいつの間にか消えている。
 一体どんな手品を使ったのか。
 

 兄は空中で体勢を整えると地面に転がり、素早くどこかに姿を消していた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

処理中です...