ダーティーホワイトエルブズ ~魔物退治してた現代転移の苦労人エルフ、“主人公”への復讐を決意する~

きさまる

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最終章 汚くも真っ当な異世界人ども

第114話 “円舞曲で踊れ”…偽りのダークヒーロー編

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 風が強くなってきた。
 さすがのエルフの耳でも、この雨と風の中では音を拾うのが困難だ。

 右の背中に鈍い痛みを感じる。
 首を出来るだけ背中に向けると、どうも背中をさっきの攻撃で切り裂かれたらしい。
 ミトラは軽く右手を振った。肩を回した。
 とりあえずは問題無し。

 兄はどこに居るのか。探るのが面倒になったミトラは、その場で腰を落とす。
 そして遠距離攻撃用に「気」を溜め始めた。

【気功砲弾:キャスト時間三秒】

 どこからともなく兄の気刃が飛んでくる。
 おかげで射出点から兄の位置がおおよそつかめた。
 『そうだろう、この場面だとお前は攻撃するしかないからな』とミトラは嘲笑ちょうしょう
 気刃をけると、兄の居る方向へ飛び出した。

【気功砲弾のキャストが解除されました】

 あのまま攻撃が来なければ、この気功砲弾は気功衝撃波にランクアップしていたはずだ。
 そうなればこの辺り一帯が全て攻撃範囲になっていた。
 兄が何処どこに隠れていようが関係無くなる。避けようもない攻撃を食らう。
 だからこそ、兄はミトラの行動を止めるしかなかった。
 チートを使える有利、相手よりも圧倒的優位で戦うのは、いつも気持ち良いものだ。
 その突撃したミトラを、兄は刀を振りかぶって待ち構えていた。

──そうだろうな、テメエの行動パターンだとな!

 左肩にニホントウを乗せ、そこから勢いよく袈裟けさ斬りに振り下ろす。
 あの船の上での戦いの時のように、ミトラの突撃先に置いておくように。

 ガギッ!

 ミトラの手甲と兄の刀が噛み合わさる。
 船の上の時だったら、そのまま地面に叩きつけられていた筈だ。
 やはり片手だけだと攻撃力が大したことが無い。
 兄の刀を押しのけるように弾き返す。だが兄はその動作を利用して右の回し蹴りを仕掛けてきた。

 ボスッという音と共にミトラは自身の左脇で兄の蹴りをキャッチ。
 そして、その兄の足を抱えたまま身体を回転させる。
 二度ほど回すと、まるで砲丸投げでもするかのように兄の身体を放り投げた。

 すぐさま飛ばされた兄からロープが飛んで来る。
 はしになにか丸い重しのような物が取り付けられ、からみやすく細工してある。
 こちらの身体のどこかに絡みつかせるつもりだったのか。
 ミトラはフンと鼻息をひとつすると、身体をかわしてそのロープの先端を掴んだ。
 更に両手で掴む。思い切り引っ張った。

 ガクンと振動が伝わり兄が地面に叩きつけられる。
 更に引っ張る。兄は引きられる。
 更にもっと強く引っ張る。身体も再び回転させる。
 兄の身体も再び浮いた。兄は木の枝や幹に身体が当たりながら振り回される。

 ロープから手を離した。別の方向にスッ飛んでいく兄の身体。
 木の枝を叩き折りながら飛んでいく。しかし着地音が聞こえない。
 やや気になって兄が飛んで行った方向へ進む。
 その先には切り立ったがけがあった。
 ここへ落ちていったらしい。

 崖の下を見る。強風と共に叩きつける雨もかなり強くなっている。
 夜の闇につつまれ始めた今の状況では、崖下の兄の姿は確認できない。
 気が付くと、その先に集落が見える。体育館か公民館に明かりが灯っている。
 この天候だと台風か豪雨警報でも出ているのだろうか。
 山奥の町だか村だかとはいえ、人間は何人か避難しているはずだ。

 この集落の人間を皆殺しにして魂を食っておくか、とミトラは考え崖に背を向けた。


*****


 ごうごうとうなる強風。森のざわめき。叩きつける豪雨のおどし。
 小学校の体育館にポツポツと集まり始める人。
 今までは念のためという義務感からだったが、近年の台風の被害を考えるとむしろ積極的に避難する人が増えた。
 今回の台風は、近年まれに見る大型で強力な台風だとの予想なのもあり、小学校の体育館に避難する人々はいつもより多かった。
 
 体育館の床のかたわらに自分の手荷物を置いた人々は、ラジオやスマホの情報に意識を集中しながらじっとしていた。
 そこへ突然、体育館の入り口が開けられ一人の男が入って来る。
 人々は新たな避難者かと思いながら入口の男を見たが、様子がおかしい事に気が付く。

 その男はガイジンらしかった。
 薄汚れてはいるが、黒髪では無い事がはっきりと判る頭髪。
 びしょ濡れの衣服。
 右手には何か黒い棒のような物を握っている。

 少しうつむいていた男は、顔を上げた。
 その目に、危険な狂気に満ちた殺意が宿っているのに気が付いた人は悲鳴をあげる。
 そのガイジンの男は口角を上げてニンマリと笑う。

 避難民のうち、一人の老爺ろうやが前に出た。正確には、後ろに誰かを隠した。
 その老爺の陰から不安気にミトラをうかがうは、年端としはもいかぬ小さな少女。この男の孫なのだろう。
 この子供の恐怖に引きつる顔を見るのも悪くない。その時の表情を想像して表情がますます歪むミトラ。
 『まずは前に出ているジジイから血祭りだ』そう考えながら前に進む。
 その瞬間──。


 体育館の二階部分の窓ガラスが割られ、もう一人の何者かが飛び込んできた。


 その乱入者は右手に日本刀を持ち、左腕を刀身の峰にあてがいミトラに向かって刃を叩きつけてきた。
 顔にり傷をいくつも付けて、服もあちこちが破けている。
 元は金髪だったのだろう濡れた頭髪に木の葉や黒い木屑きくずを絡ませた、薄汚れた濡れた男。
 それはまさしく、マロニーを自称するミトラの兄。

 さすがに不意を打たれたミトラが上をあおいだ瞬間に、マロニーの紅乙女の一撃が左の肩口に当たった。
 闇のオーラのガードを突き破ることは出来なかったが、衝撃は肉体に届いたはずだ。
 着地したマロニーは、紅乙女を消しながらすかさず右の回し蹴り。
 そのまま身体を更に一回転させて左腕のロープをミトラに飛ばす。
 その蹴りにより距離が離れていたミトラの身体に絡むロープ。

 すぐに右手で手元の絡んだロープを持ち、しっかりと踏ん張る。
 そこから更に身体の回転を加える。
 先ほどの山中でのお返しとばかりに、ロープの先のミトラを振り回す。
 そして振り回しながら、左腕に絡ませたロープをほどいて手を離した。

 遠心力で飛ばされるミトラ。
 その行先は体育館の入り口。
 振り回された勢いは、ロープに絡まったミトラの身体を外の豪雨の中にまで運んだ。

 兄は、マロニーは老爺と少女を一瞬だけ見ると、すぐに後を追いかけ外に飛び出す。
 だがすぐに方向を変えると、近くの軽トラックに近寄る。
 その右手にはいつの間に入手したのか、その車のカギが握られていた。

 ドアを開け、エンジンをかけるとすぐにバックさせる。立ち上がったミトラに軽トラックをぶつける。
 跳ね飛ばされるミトラ。
 マロニーはミトラに絡みつかせていたロープの端を後部の荷台の遮蔽しゃへい板に括り付ける。
 軽トラックに乗り込み急発進させるマロニー
 左手が無いながらも、シフトレバーは動かせないわけではない。

 ミトラはそのまま引き摺られて体育館から離されていった。


*****


 引き摺られてはいたが、その防御力にモノを言わせてダメージは殆ど受けないミトラ。
 しかし《スキル》を使って姿勢を立て直そうとする。
 だが、バックミラーで様子を見ているのか、そのたびごとに車を左右に振られてスキルを使えない。
 豪雨で道路が水浸みずびたしになり、それで足が滑るのも影響している。
 上手く立て直せない苛立いらだちが、兄への憎しみへ転嫁てんかするミトラ。

──糞が! 本当にムカつく野郎だ!!

 軽トラックはミトラを引き摺りながら、道路の水たまりの水を跳ね上げながら突き進む。
 やがて自動車はトンネルの中へ入った。
 さすがに水がまだ入り込んでいないのか、トンネルの奥の道は乾いている。

 マロニーがトラックをまた右に振った。
 トンネルの壁に激突するミトラ。だがそれにより身体が結果的に立ち上がらせる事ができた。
 ようやく水上スキーのような体勢で身体を起立させると、《スキル》を更に使用して軽トラックを駆け足で追いかける。
 生身の人間のダッシュが自動車のスピードを越える、普通ならあり得ない光景。
 やがてミトラは追い付くと、ジャンプして軽トラックの荷台に飛び乗る。
 軽トラックはトンネルを抜けた。

 再び軽トラックとミトラに豪雨が降りかかる。
 すぐに軽トラックはトンネルを抜けた先の三差路を左に曲がる。急激に。
 咄嗟とっさに振り落とされないように、ミトラは荷台を掴む。
 魔剣をプロテクターに変え、また手足に鉤爪を生やす。
 それを荷台に食い込ませた。

 今度は右に高速で曲がる。食い込ませた爪でびくともしなかった。
 自動車は更に右に曲がる。進行方向から見て、左方向に高速道路への入場料金所が見える。
 だが、今走っている道路はその料金所に続く道ではない。
 更に山の上に続く道を駆けあがる軽トラック。

 ヘアピンカーブを抜けたところでミトラは攻撃を仕掛ける。
 運転席後ろのガラス越しに兄の首を狙った。
 それを察知さっちしていたのか、マロニーはすぐにドアを開けて飛び降りる。
 地面をゴロゴロと転がるとすぐに体を起こす。
 立ち上がった先は、高速道路が眼下に走り吸い込まれているトンネルの上。
 強風と豪雨が襲いかかる中を、自動車が高速でトンネルの中へ通り過ぎている。

 マロニーは飛び降りた軽トラックを見た。路肩に乗り上げ止まった自動車から、ゆらりとミトラが立ち上がる。
 それを視認したマロニーは、高速道路に向かって駆け出した。
 トンネル入り口の上まで来る。
 躊躇ためらいも無くジャンプした。

 慌てて追いかけたミトラは見た。
 下を通っていたコンテナトラックの上に飛び降りたマロニーを。
 そしてそのマロニーを乗せたコンテナトラックが、そのままトンネルの中へ吸い込まれ消えて行ったのを。
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