とがびとびより、ロニーの物語

ヒトヤスミ

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光道真術学院【マラナカン】編

十七

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「皆さん、おはようございます。では本日も授業を開始いたします、宜しくお願いします」
 昨日とは打って変わりロニーの態度がしおらしく、且つ真面目になっているのを訝しむ生徒一同。
 それもそのはず――昨日の授業終了後、定められている報告書の提出に行った際の出来事。
 自身の話が生徒達に受けた事で調子に乗ったロニーは、マクシミリアンに、その旨をほんの少し、そう、ほんの少しだけ、いや少々、と云うか大々、言うなれば嘘も交えつつ、極限に膨らませて雄弁に語った。
 彼が一週間でやらねばならない事を完璧にスケジューリングしていた彼女は、その内容に激怒し、彼はこってり、いや強いて言うならギトギトに絞られたのであった。
 そして、本日も朝からネチネチねちねちと嫌味を言われたロニーのテンションはかなり低い。
 そのかわりと言っては何だが講義に対する姿勢は大真面目であった。そのように取り組むしかない、という事は生徒達には良かったと言えるのかもしれないが……。
 ロニーはゆっくりと、昨日とは違う授業用のボックスを黒板にはめ込んだ。
 浮かび上がってきたのは《一桁騎士団【ナンバーズ】について》という文字。映し出されたお題に教室の空気が一変する。
「はぁ……分かりやすいな、君らは」
 しょうがない事だと分かってはいるのだが……自身もこの学院の卒業生であり、大げさに言うのであれば、この大陸に住むものならば誰しもが、一度は憧れる英雄的存在なのだから。
 早く続きを――生徒達からの無言の催促に、少しだけ年相応の可愛げを感じながらロニーは、今一度ボックスに親指をあてる。
 前の文字が消え、新たな文字が浮かび上がる黒板――≪凄い人たちの集団――以上!≫

 生徒達が一斉に【スッテーン】と前のめりにずっこける。

「君たち、若いくせに意外と古風なリアクションするのね……」

 空気の読めないふざけた展開に、嵐のような罵詈雑言が生徒の口から溢れる。
 そこそこコンプレックスであった髪質の事、足の長さを始めとした身体的特徴、はたまた【エロニー】という幼稚かつキャッチ―な言葉の攻撃が四方八方から飛ぶ――意外と凹む。
 新入生の肩から、力を抜くために作られた一文で、勿論ロニーが絡んでいることではない。
 今年の担当者のセンスであって、いわれなき非難を受ける身にもなってもらいたいものである。
 ロニーは急ぎ次の項目に進めた。生徒達の表情には真剣さが戻る、その様子はまるでパブロフの犬。

『↓黒板の内容↓』

《一桁騎士団【ナンバーズ】について》

・総隊長ゲルト、参謀ジョゼを頂点とし、壱から玖という呼称の部隊その総称である
・一つの部隊は隊長・副隊長を含め五名で構成される。
・壱、弐、四、伍、玖は戦闘に特化、参は救護、六は防衛、七は研究、八は諜報を主とする
・顕現名を持つもの以外が選ばれた事はない
・一年に一度の一桁騎士団適正精査【クオリティジャッジ】によりその年の一桁騎士団の入退団が行われ、且つ隊長・副隊長の選別が行われる


「せんせー、ちょっと聞きたいんだけど?」
 アリスが声と手をあげた。ロニーが向けた冷ややかな視線を全く意にした様子はない。否応なしに会話に巻き込まれる。
「クオリティジャッジって誰でも受けられの?」
「副隊長以上の推薦書が必要」
「えー、そんなのずっこいじゃん!自分を脅かす人なんか推薦しないでしょ」
「(ずっこい?)……そんな、しょーもない心配はしなくても大丈夫」
「なんで?」
「そんな奴らじゃねえんだよ。むしろ嬉々として推薦書を書くだろうな、それくらいの気持ちがない奴は、その舞台にすら立たせてくれないんだよ」
 ロニーと生徒達、それぞれの一桁騎士団に対してのイメージがかみ合っていない。
 知る者と知らぬ者。
 本来であれば知る側がそれを考慮せねばならぬのだが、代役であり本来の役目【教師】ではないロニーに、そこまでの理解はない。
 故に生徒は首を傾げ、いまいち腑に落ちないのであった。
 根本的には別に難しい話でもなんでもない。一桁騎士団になるような者はすべからず皆、向上心とプライドの塊で自身を負かす可能性を持つ者の出現に、ある意味において狂喜するような軽めの変態という事だけなのだから。
 いまいち要領を得ない回答は、一先ず置いておくことに決めたアリスは違う角度の質問を提示する。

「ぶっちゃけ私……いや、私達が一桁騎士団に入団出来る確率ってどれくらいなの?」
「言うねぇ……」
 マラナカンに通っている大半の生徒は一桁騎士団入隊を夢見ているが、それを口に出すものは余程の馬鹿かうぬぼれているかどちらかだった。
 自身に接する態度は別として、アリスという人間は、周りの空気を読み行動していると感じていたロニーは少しばかり驚く。
「一応よ、一応。なれるなれないは別として……つーか生徒の夢を茶化す先生ってどうなのよ?ねぇ、ミスティ――」
 アリスの唐突な振りに、教室中の視線を背負ったミスティは、恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら返答する羽目に。
「私は…別に…でも、一桁…騎士団…入れるの…であれば…」
 これもまた意外にも、アリスに肯定的な発言がなされた。
 教室中の生徒が、その質問には興味津々という表情でロニーをみやっていたので、答えざるを得ない状況になってしまった。
「……悪いけど、俺は教師ではなく臨時講師だからパーセントとかの数字ではわからないよ……まぁ、でも、強いて言うなら限りなく0%といったところかな……」
 想像以上に辛らつな返答、教室の雰囲気は濁る。
「君達の事を良く知らないから如何とも言い難いけど……基本的に一桁騎士団に選ばれる奴はすべからく化け物だね……。教科書のどこかにも一応の記載はあったと思うけど――何千人に一人とかいう確率だったはず……知らんけど。まぁ可能性は0じゃないんだから、なりたい奴は頑張れよ」
 希望に満ち溢れている若者にとっては、血も涙もやる気も無い回答に聞こえるが、ロニーのいう事は間違いでは無い。
 同学年に一人でも一桁騎士団に入隊出来る者が現れる、たったそれだけで、その学年全体の評価が急沸するほど特別な出来事なのだ。
 極々、稀にではあるが一学年に複数人の入隊が出る時もある……その時は~世代と特別な呼称が付くのが通例であった。
 因みにロニーは奇跡と言われた世代、一桁騎士団【ナンバーズ】五名輩出の通称【白金世代】の一人である……。
 が、現在その世代は、ロニーの一件や、入団そのものを断ったマクシミリアン等が居るため一部では【問題児世代・アンチアクイース】と侮蔑の呼称で呼ばれていたりもする。
「あの……入隊時拝命する顕現名というのは?」
 教室の前に座る気弱そうな男の子(?)が遠慮がちに挙手をして質問を投げかける。
「あれ、知らないの?」
「は、はい……」
 割とポピュラーに知れ渡っている事なのでロニーは多少驚いたが、少年が地方出身者ならばそういう事もあるのかもしれないなと、自身の傲慢さを反省する。
「光道真術にとって重要な【顕現】というのはまた後で出てくるから置いておくとして、簡単に言うと顕現名とは能力の名前だよ。例えば一桁騎士団の中でもエース部隊と呼ばれる壱番隊の隊長は天上人【スカイハイ】んで副隊長は非常識【アンチセンス】という具合に」
「……顕現名は一桁騎士団【ナンバーズ】のみなのですか?」
 男の子(?)は尚も説明を求める。
「厳密に言うとそうではない、実際この学院【マラナカン】の中にも顕現名を持つ人もいるし――代表的なのは、昨日来たマクシミリアンの夕闇の魔女【ユウヤミノマジョ】。あとは勿論、学院長にもあるよ、知識の源泉【オールワールド】というかなりやっかいなのがね……」
 新入生にとって興味をそそられる話なので、皆一様に耳を澄ませている。
「顕現というのは【騎士団・キングダムアーミー】ならば誰でもできる、光道真術の基礎だからね。その中でも極一部、特別な能力が発現する奴がいるんだ、その能力の名前が顕現名と言われている。だからその能力を発動させることが出来れば一桁騎士団でなくても顕現名はつくってこと……この大陸に百人もいないけどな……顕現名もちは」
 更にこの話を掘り下げたかったのであろう男の子(?)が口を開きかけたが――ロニーの口の方が一呼吸早かった。
「この辺はさ、みんな色々と聞きたいこともあるだろうけど、こればっかり掘り下げるわけにはいかないんだよ。(進めないと怒られるし……)だから詳しくは本格的な授業が始まってから本当の教師に聞いてください」
 「えー」と男の子(?)以外の生徒も口々に不満の声を上げたのだが、ロニーはそれに応えない。
 話が脱線する事により、自身が放課後どれだけ怒られるか……想像もしたくないのだ。

 自重したこともあり、終業の鈴が鳴り終えるまでに本日やらなければならない事は無事に終える事が出来たのであった。
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