とがびとびより、ロニーの物語

ヒトヤスミ

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光道真術学院【マラナカン】編

十九

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 授業は、生徒の質問にアンドレアが回答するという形で行われた。

 憧れの一桁騎士団に対する質問――と、いう訳ではなく。ほぼ、アンドレアのプライベートに対する質問に終始。
 何故なら、一桁騎士団に関する質問をしたいと思う男子生徒が挙手をしようものなら、近場の女生徒が睨みを効かせ手を下げさせた。

 入学してから日も浅く、コミュニケーションがいきわたっている筈もないのだが、若き娘の恐ろしさたるや。

 「おい、お前らそろそろ実のある質問とかしないのかよ……正直こんな機会は二度とないかもしれないんだぞ」

 同じような質問を繰り返す女子生徒達に、ロニーは苦言を呈す。

 授業開始直後には、なんて安穏な……しかも、日頃の立場と逆転した奴の困った顔が見れる。
    なんて楽しい一日なんだと、安閑の思いに浸っていたのだが……一時間、二時間。

    言葉の選択が違うだけで、内容が全く同じ質問の連続に、狼狽する。

 前列の生徒達の間に座り、授業の終わりまで待つこの時間が死ぬほど長い、五分進む間に二十回以上時計を眺める始末だ。

「君は何か質問ないの?」

 ロニーは隣に座る男の子(?)に尋ねた。

「……出来れば顕現の事を聞きたいんですけど、この雰囲気じゃ……」

 比較的、教壇中央に近い席で行われた、二人のやり取りは、同じ質問に鬱々とした気分に陥っていたアンドレアにも届く。

「質問が似たような事ばかりになってきたのでそろそろ授業内容を変えようか」

 今の時間を十二分に楽しんでいた女子生徒達から、うるさくない程度の音量で「えー」と不満の声が上がった。

「まぁそう言わないでくれ。いきなり決まったことだから準備不足は否めないけど、真似事でも学園の教師が出来るなんて思ってもみなかったんだ。だから、一度くらい先生っぽいことをやってみたいんだよ」

 言い終え微笑を浮べるアンドレアに女子生徒は「どうぞどうぞ」と、彼がやりたいという事は彼女らがやりたいという事のようだ。

 ダチョウイズム全開の中、形だけ迷った振りをしたアンドレアの口が開く。

「そうだなぁ、じゃ光道真術の基礎ともいえる顕現の話でもしようか」

 そう言ったアンドレアは男の子(?)にウィンクをかました。男の子(?)は頬を朱く染め上げ俯いた。
 あざとらしいとロニーがごちる……あと「え、両刀?」と、思わないでもなかったが、あまりその辺は考えないように努める。

 隣に座る男の子(?)に拳を突き出すロニー。
 その拳の意味が分からず首を傾げた男の子(?)に、仕草で拳と拳を合わせろと合図。恐る恐る男の子(?)はロニーの突き出した拳に自身の拳を合わせる。
 満足げなロニーに引き換えいまだ意味の分からない男の子(?)であった。

 ちなみにこれはダップという下町独特のコミュニケーション方法であり、用途は多岐に及ぶ。今回のような場合は「やったぜ!」的な意味でのダップであった。

「……一概に顕現といっても伝わりにくいと思うので徐々に説明しようか。えーと、じゃぁロニー手伝ってよ」

「え?いやだよ、めんどくさい……」

 ばっさり切り捨てる。

「ロニーと俺はこの都から結構距離のある小さな村で生まれ育った、まぁ言うなれば幼馴染というか兄弟みたいな感じというのかな?なんだけど……」

 突然脈絡もなく関係のない話を始めたアンドレアに一抹の不安がロニーを横切る。ちなみに生徒(男女問わず)から「うそー!きもーい!」という、なんか凹むリアクション。

「ある日、こいつが村でも美人で有名な――」

「やるからっ!手伝いでも何でもしますから!アンドレア、いいえアンドレア様!頼んます、たのんますよー……」

 過去の過ち、所謂黒歴史というものをさらりと発表しようとしたアンドレアを、恨みがましく睨みつつ手を擦り合わせ頭を下げるロニー。

「始めからそうすればいいんだよ」という言葉にぐうの音も出ない。
 生徒のホンの極々僅かではあるが、ロニーの黒歴史が聞けなかった事に舌を打ち鳴らす。

 軽く打ち合わせた後、二人の寸劇が始まる。

⦅⦆⦅⦆⦅⦆

【教えてアンドレア先生!】

「先生!顕現って何ですか?」

「お、いきなり直球の質問だねー、エロニー君」

「(イラッ!)」

「その前にエロニー君、きみは光道真術というものを知っているかい?」

「知ってますよー、光道力を源とした真術で光道真術でしょ?当り前じゃないですかー」

「そのまんまだねぇエロニー君。だからきみは下半身でしかものを考えていないと馬鹿にされるんだ」

「(イラッ!)お、教えてくださいよ先生」

「光道力は大なり小なりこの世界に住む人間であれば持つという事は理解しているかね?」

「もちろんです」

「使われ方は多岐に及び、例えばこの黒板。このボックスを填め込みそこに光道力を入れてあげると……ほらこの通り、黒板に文字が浮かび上がった。このように現代の社会生活では欠かせない力なんだな光道力というのは」

「じゃ全ての人が光道真術を使えるんですか?」

「お、馬鹿なりにいい質問じゃないか!」

「(イラッ!)」

「残念ながら、それは無理なんだ……誰しもが、ほんの僅かな光道力を注入することは出来る。だが真術と呼ばれるものを使用することは出来ないんだ」

「何でですか?」

「現在では光道【真術】と呼ばれているのだけど、ほんの少し前までは光道【魔術】とよばれていたんだよ」

「だからどうしたんですか?関係ないじゃないですか」

「はっはっはっ、だから君はエロいんだよエロニー君……」

「(イラッ!……関係ないだろ!)」

「魔術――要は魔の術、禁忌の技法なんだよ。それを先人たちの研究に次ぐ研究、改良に改良を重ねた結果たどり着いたのが光道真術と呼ばれる現在の形なんだ。そして、その過程において、ある一定以上の光道力がないものがそれを使うことが出来ないようにされたんだ」

「???じゃ使えるんじゃないですか光道【魔】術なら…」

 短い時間で作った割には出来の良い寸劇に生徒たちはいつしか引き込まれていた、そしてエロニー君が言うように光道【魔】術なら使えるのか?という疑問に苛まれる。

「……それは、あまり言いたくはないんだが……使えない、とは言えないな」

 驚愕に事実に唖然とする教室内。

「あぁ、でも勘違いしないでくれよエロニー君」

「何がですか!使えるんじゃないですか、嘘つき!じゃ、こんな学校意味ないやい」

「浅い、浅いよー、エロニー君。何事も考えが浅いから君はそんな厳しめの天然パーマなんだよ」

「か、関係ないだろっ」

 あまりのイラつきに少しばかり設定を飛ばすエロニー君。

「ん?良いのか、言うぞ?」

「……」

「まず第一に光道【魔】術の術式を知るものなんていないということ。まぁ、王立真術研究所のどこかには保存用として残されているかもしれないが……それも一般人はおろか一桁騎士団【ナンバーズ】ですらおいそれと閲覧など出来ないだろうね」

「でも万一なにかで……」

「しつこいな君も……第二に、担保なき力の行使なんてものはどこかに歪が起きてしまうものなんだよ」

「と、言うと?」

 生徒達が一斉に息をのみ、次の言葉を待つ。

「……代償が必要という事さ。自身の身体の一部、それでも足りなければ命……そしてまだ足りなければ術は発動しないだろう、それを君は使えると言えるのかね?」

「い、言えません」

「だろう、なので現時点では光道力が足りないものは光道真術が使えないという事なのさ、わかったかい?」

「はい……」

 生徒達から肩の力が抜ける。安心したような怖いような複雑な感情と戦っていることだろう。

「おっと、話が少し脱線してしまったようだ。元に戻そう、えーと【顕現】の事だったかな」

「はい、教えてください」

「光道真術というのは様々な術式がある、例えば自身の手の平から火を出すとか、見たことあるかな?」

「はい、近所の兄ちゃんが王国騎士団に勤めているので見せてもらいました」

「君は何を見ていたのだい?」

「え?火が出るところをですが……」

「かー、だから君は嘘つきエロニーと陰口を叩かれるんだ」

「え?(……陰口?)」

「術式を使う前には必ず【顕現】をしなければならない、つまり顕現を知らないという君はその時点で光道真術を見たことがないという事なのだ―!」

 崩れ落ちるエロニー君、その眼には涙があふれている。

「す、すいません、だって見たことがあるって言うとみんな喜んでくれるから……」

 エロニー君の肩を叩き慰めるアンドレア先生。

「勃ちなさいエロニー、失敬……立ちなさいエロニー、間違いは誰にでもあるさ、今度、皆に謝りに行こうじゃないか!」

「は、はい先生」

「「……」」

「厳密に言うと光道真術で作り出した炎と現実の炎は違うんだけど今回はそれは置いてくとして……例えば君の掌の上に炎が現れたらどうなると思う?」

「カッコイイと思います!」

「まごう事なき中二病だねぇエロニー君は。そういう見た目の事を言っているんじゃないんだよ。君が、燃え盛る炎の近くに行ったらどうなるか考えてごらん」

「んー、熱っ!てなります」

「そう熱いんだよ、当たり前だけどね。では、どうすればいい?」

「水の術式に変えます」

「そうだね、そうすればいいよ君は。それで勝手に死ねばいいさ!仮の話として、君は王国騎士団で今現在C級救済害の対応中、相手は炎に弱いとわかっている、なのに君は熱いからという理由で水の術式を選ぶんだ……末代までの笑いものだな」

「じゃ、どうすればいいって言うんですか!」

「答えは簡単、炎が熱く感じ無くなればいいのさ!」

「えーーー、なんかずるーい、その答え」

「ずるくとも何ともないさ、それが顕現なのだから!」

「え!」

「実際に見たほうが早いかな……」

「顕現!」

 そうアンドレア先生が口にした瞬間、彼の背後に現れたのは騎士の形を成す影、その影が彼を包み込んだ――黒く染まった闇の中から白銀の兵士が現れる。

「どうだい、これが顕現というものだよエロニー君!」

「すごいや先生!僕にもできるかな?」

「今すぐには出来なくともマラナカンで真面目に授業を受ければきっと君もなれるはずだ、君たちはその素質があるので集められたのだから」

「でも先生、それ鎧だから結局熱いんじゃ?」

「……これが普通の鎧に思える君を心の底から馬鹿だと蔑視するよ……なんだ、先ほど私がこの鎧を急いでつけたとでも思ったのかい?第一どこにあったんだよ、しかも素材は鉄かい?はぁ、馬鹿すぎるな君は……これは光道力を具現化した鎧なのさ……それが顕現というものなんだ」

「なるほど、わかったよ先生!ありがとう」

 そう言い終えるとアンドレア先生が元の姿の戻っていた。

「「以上、教えてアンドレア先生!でしたー」」

 二人は教壇の前で一礼する。

 静まり返る教室、頭を下げている教師(仮)が二人……すると、【パチ】という音が鳴らされる。その音に連鎖するように拍手の音は広がっていく、万雷の拍手に応え手を挙げ応える。

 右に一礼、左に一礼、正面に一礼、そしてまた音を大きくする拍手……

「(……ナニコレ?)」

 ロニーは両の手を挙げながら、そう思ったのであった……
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