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光道真術学院【マラナカン】編

三十五

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 ロニーとマクシミリアンは学院を出て工業区をひた走る。
「しかし、ひどい惨状だな、比較的ダメージが少ないだろう工業区もこの感じだと……」
 見渡す王都の現状、遠い場所では交戦中か光道真術の光が数か所で散る。ふとマクシミリアンが肩を掴んでロニーを留める。
「どうした?」
「真直ぐは無理ね、道が塞がれているわ……こっち、少し遠回りになるけど」
 光道真術で赤く光る眼を大きく開けマクシミリアンは道程を変更した。
「なんかおかしいのよね……」
「何が?あたま?」
 パンっと響く音と頭を抱えるロニー。
「次ふざけたら金玉蹴り上げるから」
「……はい」
 救済害より身近に身の危険を感じる。
「静かすぎない?A級救済害ってもっと暴れまわるものじゃないの?」

「災害にもよるよ、ランクが上がるほど凶暴になる場合もあるけど……狡猾さが増す場合もある」
 ロニーが辺りを見渡す、確かに彼女の言う通り静かすぎる。
「これは後者のタイプかもしれないな……」
「考えてもしょうがない、いくわよ」
 マクシミリアンの指示で再び動き出した。

≪≫≪≫≪≫

「了解しました、救済害の居場所を補足次第、出来るだけ保管庫より引き離します」
 連絡用の無線機を切り、再び移動を開始するイルシオニスタ。
 彼女はすでに工業区に到着していた。しかし、未だに救済害の居場所を特定できてはいない。
「(A級救済害が二体……それに加え知能型、厄介極まりない。まずは捕捉、次に引き離し、最後に応援が来るまで一人で持ちこたえる……やるしかないです」
 決意を新たに彼女は前を向く。

≪≫≪≫≪≫

 ロニーとマクシミリアン、二人は順調に保管庫に近づいていた。
「どうだミリー、救済害の居場所はつかめたか?」
 首を振る。
「……いえ、そんな気配も感じないわ」
「(ミリーでも居場所を掴めないのか……)」
「まぁ、進むしかないんだし。さっさと行くわよ」
 現状をのみ込み、出来る限り二人は気配を絶ち慎重に歩を進め、ゆっくり目の前の角を曲がる。

≪≫≪≫≪≫

 イルシオニスタも保管庫に近づいていた。あと二つほど角を曲がれば保管庫に着く。
 自身の気配を消し慎重に進む。未だ救済害の位置は把握できず少々の焦りが汗となり頬を伝う。
 曲がり角の前で、一度後ろを振り返り、異変がないことを確認、おもむろに曲がり角から身体を出す。

「きゃっ!」
「すいません」

 マクシミリアンとイルシオニスタの正面衝突。互いに気配を極限まで消した者同士であり、対人間の意識はなかった。後ろに居たロニーは慌てて身構え、前に、そこには懐かしい顔。
「……イルシオニスタ」
「……っ」
 久しぶりの再会は何とも間の抜けた展開で事を成した。
「よお、久しぶりだな」
「……」
 再開の挨拶は空を切る。
「元気だったか?」
「……」
 通常の挨拶も空を切る。
「飯食ったか?」
「……」
 冗談は勿論、空を切る。
「おい、ミリー。俺、今凄い無視されてる」
「……そうね、されてるわね」
 見ればわかることをわざわざ告げんでも良いとマクシミリアンは肩を竦める。
「ごめんなさい。えーと、イルシオニスタさんね、私は【光道真術学院・マラナカン】で教師をしているマクシミリアン、宜しくね」
「はい、存じ上げております。【一桁騎士団・ナンバーズ】四番隊副隊長イルシオニスタ・アルバセテです。これより先は保管庫まで警護いたします。」
「そう。ありがと」
「では、行きましょう。保管庫まですぐですので」
「そうね」
 二人は軽く自己紹介を済ませると足早に保管庫に向かった。

「(……えーーーー!)」
 一人置いてけぼりなロニーが心で叫ぶ。

≪≫≪≫≪≫

 何のことはなく無事に保管庫にたどり着いた三人。応援の騎士団はまだ到着していないようだが、なんとなく拍子抜けの様相を呈す。
「先に中の確認をしちゃいましょう」
 マクシミリアンはそう言うと、組合長から渡されたキーを扉にはめ開錠の番号を押し光道力を注ぐ。
 「ピー」と音が鳴り、扉は開錠され、三人は保管庫の中に足を踏み入れる。
 保管庫の中は暗く前が見えない、事前に組合長から聞いていた電飾のスイッチを付けようとロニーが踏み出した瞬間、後方の扉が大きな音を立て彼らの退路を塞ぐかのように閉じる。
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