1 / 2
1話目(new)
しおりを挟む
私、××××はクローネ・アントネというお嬢様として転生した。
クローネ。
私が生前プレイしていたゲーム【××××××××】のキャラ。
異世界の領家の元に生まれた主人公が、やたらと顔がいい男達と駆け落ちしたり、求婚されたりする、いわゆる王道の乙女ゲーム
の、悪役。
わかりやすく言えばシンデレラの姉ポジ。
男達との恋路を邪魔してくる姉のクローネ。そして愛される主人公。
だから主人公が幸せになればなるほど、クローネは悲惨な運命を辿っていた。
ここまで全て分かっている。その上で。
私はクローネに転生できたことに、膝を着いて神に感謝しよう。
一言、神に言えるとしたら。
「【推し】が真横で生きてる世界線、幸せすぎて心臓に悪いです」と言わせて欲しい。
*
「クローネ!!クローネはどこだ!!」
ああ、またですの。
何度目かも分からないお父様の怒号が、お屋敷に響いた。
これだからお酒は嫌い。人をこうも狂わせるから。
私は窓の縁に手をかけると、体を乗り出して中庭に降りた。
令嬢、とはいえ悪役だ。好感度が下がりきっているので誰かにはしたなく飛び降りる姿を見られても、幻滅も何もないだろう。
近くのバラ園から良い香りが漂っている。
いつもならこっそり匂いを嗅いで通り過ぎるけれど、今日はそんな暇もなかった。
お父様が疲れて眠ってしまえば、忘れてしまうでしょう。それまで隠れてやり過ごしましょう。
どうせ妹君のせいでしょうし。
いつもの隠れ場所へ向かおうとした矢先、廊下の奥からドタドタと馬車のような音がした。
私は咄嗟に薔薇の生垣の裏で身を屈めた。
「クローネ様!クローネ様!」
ああ、この声はメイドさんか。
息を潜めていると、どうやらメイドさんや執事さんが総出で私を探しているようだった。
「クッソ、あいつどこいった」
「ホントに。妹君はあんなにお淑やかで麗しいのに。まるで醜いネズミね」
「ハッハッハ、コラコラ。誰かに聞かれたら困るだろ」
「いいのよ。どうせお屋敷のみんながそう思ってるから」
みんな、みんな。変わっちゃった。
ゲームの時はあんなに優しかったのに。
腹を括っているけれど、陰口は心に刺さる。
まして、良くしていてくれた人からならなおさら。
下唇を噛んで、目に熱いものが込み上げてくるのを押し殺した。
「クローネ様。そのようなお顔をなさらないで下さい」
「え」
横をむくと、目線を同じ高さまで揃えた黒い服の男がいた。
執事長のジュドーーこの屋敷唯一の私の味方だ。
ゲームの中では本来は主人公のサポートキャラだ。そして何周目かで攻略ルートが出現する。
そして顔がいい。大事な事だからもう1回言うが顔がいい。早口で最後にもう一度、顔がいい。
私がこの屋敷に転生したと自覚してから、真っ先にしたことは、彼の好感度を下げないようにする努力だ。
彼の攻略は非常に難易度が高い。当然この世界線で攻略する気は無い。心臓が持たない。
しかしーー余りにも主人公が彼に激務を与えて乱雑に扱うと、ゲームの設定上、彼は死ぬ。【最大の敵である姉を道連れにして、密かに心惹かれる主人公のために死ぬ】。
そんな細かいところまで作り込まなくていい。ふざけるな製作者。何度私が泣かされたことか。
ああ、私が1番恐れているのは、自分の死なんかじゃ無い。
推しの死だ。(彼が助かるためなら喜んで、火の海でも氷の剣にでも飛び込む。)
身だしなみを整え、なるべくにこやかに、表には顔を出さず、問題を起こさないよう細心の注意を払う。
全てはジュドの負担を減らして、彼のバッドエンドを回避するために。
なのに何故、こういう強制イベントは避けられないのだろうか。
まだジュドの仕事を増やしてしまった。罪悪感が肺に籠る。
すぐ近くに彼の死が見えている私は、息を吸うのも苦しかった。
「ジュドぉぉぉごめ」
白い手袋が私の口を塞いだ。
「しー。とりあえず時計台まで逃げましょうか。立てますか、お嬢様?」
黒い髪からのぞく赤い目が、いたずらっぽく笑った。
「え、ええ。平気よ。」
「お手を」
そう言うと、片手で私の手を取って、もう片手で腰を抱き上げ立たせてくれた。
何この執事、イケメンか……?イケメンだった。
私、悪役令嬢。推しがいるから頑張れる。
クローネ。
私が生前プレイしていたゲーム【××××××××】のキャラ。
異世界の領家の元に生まれた主人公が、やたらと顔がいい男達と駆け落ちしたり、求婚されたりする、いわゆる王道の乙女ゲーム
の、悪役。
わかりやすく言えばシンデレラの姉ポジ。
男達との恋路を邪魔してくる姉のクローネ。そして愛される主人公。
だから主人公が幸せになればなるほど、クローネは悲惨な運命を辿っていた。
ここまで全て分かっている。その上で。
私はクローネに転生できたことに、膝を着いて神に感謝しよう。
一言、神に言えるとしたら。
「【推し】が真横で生きてる世界線、幸せすぎて心臓に悪いです」と言わせて欲しい。
*
「クローネ!!クローネはどこだ!!」
ああ、またですの。
何度目かも分からないお父様の怒号が、お屋敷に響いた。
これだからお酒は嫌い。人をこうも狂わせるから。
私は窓の縁に手をかけると、体を乗り出して中庭に降りた。
令嬢、とはいえ悪役だ。好感度が下がりきっているので誰かにはしたなく飛び降りる姿を見られても、幻滅も何もないだろう。
近くのバラ園から良い香りが漂っている。
いつもならこっそり匂いを嗅いで通り過ぎるけれど、今日はそんな暇もなかった。
お父様が疲れて眠ってしまえば、忘れてしまうでしょう。それまで隠れてやり過ごしましょう。
どうせ妹君のせいでしょうし。
いつもの隠れ場所へ向かおうとした矢先、廊下の奥からドタドタと馬車のような音がした。
私は咄嗟に薔薇の生垣の裏で身を屈めた。
「クローネ様!クローネ様!」
ああ、この声はメイドさんか。
息を潜めていると、どうやらメイドさんや執事さんが総出で私を探しているようだった。
「クッソ、あいつどこいった」
「ホントに。妹君はあんなにお淑やかで麗しいのに。まるで醜いネズミね」
「ハッハッハ、コラコラ。誰かに聞かれたら困るだろ」
「いいのよ。どうせお屋敷のみんながそう思ってるから」
みんな、みんな。変わっちゃった。
ゲームの時はあんなに優しかったのに。
腹を括っているけれど、陰口は心に刺さる。
まして、良くしていてくれた人からならなおさら。
下唇を噛んで、目に熱いものが込み上げてくるのを押し殺した。
「クローネ様。そのようなお顔をなさらないで下さい」
「え」
横をむくと、目線を同じ高さまで揃えた黒い服の男がいた。
執事長のジュドーーこの屋敷唯一の私の味方だ。
ゲームの中では本来は主人公のサポートキャラだ。そして何周目かで攻略ルートが出現する。
そして顔がいい。大事な事だからもう1回言うが顔がいい。早口で最後にもう一度、顔がいい。
私がこの屋敷に転生したと自覚してから、真っ先にしたことは、彼の好感度を下げないようにする努力だ。
彼の攻略は非常に難易度が高い。当然この世界線で攻略する気は無い。心臓が持たない。
しかしーー余りにも主人公が彼に激務を与えて乱雑に扱うと、ゲームの設定上、彼は死ぬ。【最大の敵である姉を道連れにして、密かに心惹かれる主人公のために死ぬ】。
そんな細かいところまで作り込まなくていい。ふざけるな製作者。何度私が泣かされたことか。
ああ、私が1番恐れているのは、自分の死なんかじゃ無い。
推しの死だ。(彼が助かるためなら喜んで、火の海でも氷の剣にでも飛び込む。)
身だしなみを整え、なるべくにこやかに、表には顔を出さず、問題を起こさないよう細心の注意を払う。
全てはジュドの負担を減らして、彼のバッドエンドを回避するために。
なのに何故、こういう強制イベントは避けられないのだろうか。
まだジュドの仕事を増やしてしまった。罪悪感が肺に籠る。
すぐ近くに彼の死が見えている私は、息を吸うのも苦しかった。
「ジュドぉぉぉごめ」
白い手袋が私の口を塞いだ。
「しー。とりあえず時計台まで逃げましょうか。立てますか、お嬢様?」
黒い髪からのぞく赤い目が、いたずらっぽく笑った。
「え、ええ。平気よ。」
「お手を」
そう言うと、片手で私の手を取って、もう片手で腰を抱き上げ立たせてくれた。
何この執事、イケメンか……?イケメンだった。
私、悪役令嬢。推しがいるから頑張れる。
0
あなたにおすすめの小説
初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました
山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。
だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。
なろうにも投稿しています。
別れ話をしましょうか。
ふまさ
恋愛
大好きな婚約者であるアールとのデート。けれど、デージーは楽しめない。そんな心の余裕などない。今日、アールから別れを告げられることを、知っていたから。
お芝居を見て、昼食もすませた。でも、アールはまだ別れ話を口にしない。
──あなたは優しい。だからきっと、言えないのですね。わたしを哀しませてしまうから。わたしがあなたを愛していることを、知っているから。
でも。その優しさが、いまは辛い。
だからいっそ、わたしから告げてしまおう。
「お別れしましょう、アール様」
デージーの声は、少しだけ、震えていた。
この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。
番を辞めますさようなら
京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら…
愛されなかった番。後悔ざまぁ。すれ違いエンド。ゆるゆる設定。
※沢山のお気に入り&いいねをありがとうございます。感謝感謝♡
悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。
ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」
ぱんっ。
愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。
甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。
──え?
打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。
あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」
結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は……
短いお話です。
新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。
4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
私の夫は妹の元婚約者
彼方
恋愛
私の夫ミラーは、かつて妹マリッサの婚約者だった。
そんなミラーとの日々は穏やかで、幸せなもののはずだった。
けれどマリッサは、どこか意味ありげな態度で私に言葉を投げかけてくる。
「ミラーさんには、もっと活発な女性の方が合うんじゃない?」
挑発ともとれるその言動に、心がざわつく。けれど私も負けていられない。
最近、彼女が婚約者以外の男性と一緒にいたことをそっと伝えると、マリッサは少しだけ表情を揺らした。
それでもお互い、最後には笑顔を見せ合った。
まるで何もなかったかのように。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる